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声の正体は【1】

着実にギルドに向かっている。

普段誰も通らない道を通ると言って森の中を歩いていた。


昔はよく使われていた道らしいが、整備された道ができてから殆どの人達はそちらの道を使うようになったとか。


確かに枝や石がゴロゴロ転がっており、道も狭いし魔獣に襲われるリスクも高い。

だが、こちらの方が早く着く。

整備された道は遠回りになるらしい。


森の中を進んでいくと3人がピタッと立ち止まり、私はなぜ止まるのかと不思議に思っていると


「ねぇ、この気配…」


「そこら辺にいる低級魔獣の気配とは違うな…」


「………」


フィリアとルベルの額にはうっすらと汗が滲んでいて、ヴォルクは眉間に皺を寄せている。


「おい、なんで止まるんだよ?」


どうやらA男も不思議に思ったみたいだ。


「お前この気配感じないのか?」


「なんだよ気配って……って、え?はっ?なんだよこの気配?」


A男はルベルに言われて気づいた。

私にはさっぱり分からない。


A男は「早く進めよ!こんな所で立ち止まって馬鹿じゃねぇか?」と騒いで逃げようとするが縛られている上に、ルベルが縄を握っているから逃げられない。


A男の後ろに同じ縄で縛られていた私はグイッと引っ張られて倒れそうになったがルベルが体を支えてくれたおかげで助かった。


「うるさい。少し黙っていろ」


うるさいA男にイラついたヴォルクはギロッとA男を睨みつける。

ヴォルクに睨まれたら殆どの人が恐怖するだろう。

睨まれたA男は素直に黙ってしまった。

まぁ、私には効かないけど…。


「フィリア、魔獣の位置は分かるか?」


「……ダメね。ここら一帯、低級の魔物も居ないわ」


「そうか…」


2人は難しい顔で何かを考えている。


「位置も見つけられないほど力をつけた魔物か魔獣って事だよな…」


『………』


2人にルベルが聞くと、反応は無し。

何も言わないと言うことは肯定していると認めているのだろう。

そんな3人を見ていると不意に


ーーーー痛いのじゃ


「?」


どこからか声が聞こえた。


ーーーー人間どもめ、どうやって余を探し出したのじゃ


「??」


ーーーー余が人間どもにやられるとは…


「???」


キョロキョロと辺りを見るが何も居ない。


ーーーー今度奴らを見つけたら殺してやるのじゃ


「声が聞こえる…」


どこに魔獣がいるのか、探すよりギルドに報告した方がいいとか、あれこれ話し合ってる3人がピタッと会話を止めた後私の方に振り向く。


「声?」


「私には聞こえなかったわ」


「……?」


3人には声が聞こえないらしい。

ちなみにA男はブツブツと何かを言いながら震えている。


ーーーー奴らの気配は魔獣の気配もしておったぞ


ーーーーけど、周りに魔獣はいなかったし、奴らは人間じゃった…


声が聞こえるたびにキョロキョロする私に3人は不思議そうな顔をする。

ヴォルクはどちらかと言うと怪訝な顔をしているが。


ーーーーあの瓶の中身が1番魔獣の気配が強かった


「あっちの方から声が聞こえる」


私の目線はこの先の道がない森の中。


「俺たちには聞こえない。嘘を言って逃げるつもりか?」


「この枷と縄で逃げられるならもう逃げてるよ。嘘は言ってない」


ジッと見つめ合う私とヴォルク。


ーーーーこの感覚はなんなのじゃ


「また…」


ヴォルクから視線を逸らし、声が聞こえる方に顔を向ける。


ーーーー痺れてはいるが他に何か別な…体が熱いのじゃ


「信じるか信じないかはヴォルクに任せる。だけど、私は声のする方に行ってみたい」


もう一度ヴォルクの顔を見て私は言った。


「…分かった」


ヴォルクはこれ程までの強力な気配を放っておく方がまずいと思った。

リアの聞こえてる声の正体は分からないが、そこに行けば何かわかるかもしれないとーーー。

ギルドに報告しに行っている間に何かあっては遅いと決断した。


そして私の言う方向に進み出す。

声が聞こえる方に慎重に向かって行き、近付くほどに気配もより一層強くなりヴォルク達の顔が強張っていくのが分かった。




そして声の正体を見つける。

そこだけ木々がなく日が差し込んでいる場所に声の正体がいた。


私達は隠れてソッと確認するとヴォルク達は目を見開いた。

驚きでフィリアとルベルは声を出さないように口を手で押さえる。


3人が我慢していたのにA男は「ひぃぃぃぃっ!」と声を出してしまった。


ーーー!!


声の正体は私たちの存在に気づき威嚇する。


「ちっ」


叫んだA男にイラついたヴォルクは目線は声の正体を見つめながら舌打ちをした。

私は声の正体を見ても、あれがなんなのか分からない。

ただ大きすぎる動物だとしか思わなかった。

変わっているとすれば尻尾が3本あるってことくらいだ。


ヴォルクは剣を鞘から抜き、バレてしまった私たちは木陰から出た。

本当はルベルも剣を抜いてヴォルクに加勢したいが、A男が逃げようとするから縄を離せず、逃げないように取り押さえるので手一杯だった。


ーーーまた余を追ってきたのか!懲りない人間どもめ!


ソレが叫ぶとブワッと風が吹く。


「くっ」


「凄い殺気と威圧だわ」


「ひぃぃぃ!」


「くそ!逃げるな!」


ーーー今度こそ噛み殺してやるのじゃ!


ソレは口を大きく開けて、攻撃してこようとする。

が、一歩足を前に出した所でガクッと倒れる。


ーーーこんな時に!体が思うように動かなくなるとは…


攻撃が来ると思っていたヴォルク達は口が開いたまま動くことができなかった。

まさかソレが倒れると思っていなかったからだ。


「フィリア…あの子、体が痺れて動けないらしいの。治せる?」


私はそんなのお構いなしにフィリアに問いかけた。


「なっ!お前何考えてるんだよ!馬鹿なのか?アイツを治すとか!」


私はフィリアに言ったのだが、A男が反応した。

だがリアはA男を無視してフィリアをジッと見つめる。


ーーー余がいつ治してくれと頼んだのじゃ!


私の声が聞こえていたソレも声を張り上げる。


「私はあなたを追ってる人間じゃないもの」


ーーーお主…余の声が聞こえるのか?


ソレは、まさか声が聞こえてるとは思わなかったという顔をしている。


「?聞こえるけど?」


ーーー聞こえてても問題ない。しかし余を治すとはどういうことじゃ?余にしたら人間は皆一緒じゃ!人間の助けなどいらぬ!


「動けないのに?」


ーーー人間に助けられるくらいなら死んだ方がマシじゃ!


「……」


どうしたものかと黙っていると


「おい、誰と話してるんだ?」


ヴォルクが聞いてきた。


「誰とって…あのワンちゃんと?」


ーーー余は犬じゃないのじゃ!…っ!


犬と言われたソレは噛み殺してやろうと起きあがろうとするが、痺れが相当きついのか唸っている。


「い、犬?」


「天狐を犬?」


ルベルとフィリアがポカーンとした顔で呟く。


「天狐?天狐ってことは狐よね?」


ーーー余を犬だの狐だの…今すぐ噛み殺してやりたいのじゃ!


怒りでプルプルと震えながら呟く天狐。


「あれは犬じゃなく狐なのね。でも狐ってイヌ科よね?」


「…リア、あれは幻獣よ」


「幻獣?」


幻獣と言われてもピンとこない。

あちらの世界でも幻獣って言葉はあるが、神話の中の空想の生き物だ。


「まさか天狐を見られるとは思っていなかったわ」


「どう言う意味?」


「天狐はさっきも言ったけど幻獣よ。天狐の他にもフェンリルやドラゴンもそう呼ばれているの。彼らは人間の前に現れることがないから…」


「ドラゴンは運が良ければ飛んでる姿を見れるが、天狐やフェンリルは人間が簡単に入れない山奥に身を潜めて人里には降りてこない」


「それなのに、こんな人里の森の中に天狐がいるんですもの…」


今も信じられないとフィリアは天狐を見つめる。


「おい、そんな事より天狐を治せとはどう言う意味だ?天狐と人間は共存できない。治すと襲われるぞ」


私たちの会話はヴォルクにとってどうでも良かった。

それよりリアが言っていた治療の方が気になっていた。


天狐を治せば一瞬で襲い掛かってきて、俺たちは死ぬ。

なら、動けない今天狐を倒した方が賢明だ…と考えているヴォルク。


「体が動かないし、その原因が人間にあるみたいだから」


「それだけの理由だけか?」


「……」


その他にも理由はありますが黙っておこう。


「人間は殺しても幻獣は殺さないと?」


確かに人間は沢山殺してきた。

やりたくてやっていたわけではないが、殺した事に変わりはない。

それにーーー


「人間は醜いもの。だけど動物は裏切ったりしない」


ーーーお前達、余の意見を無視して話を進めるでない!余は人間に助けられるくらいなら死んだ方がいいと言ってる…ん?そこにいる男のマント……余を襲ってきた奴らと同じマントなのじゃ!


「え?」


ーーー違うか?いや、似ておる…よく嗅いでみたら匂いも奴らと同じじゃ


天狐はマジマジとA男を見て鼻をクンクンさせる。

A男は天狐に見られ、殺されると思ったのか尻餅をつき後ろに下がってきて私の足にぶつかる。


「それは本当?」


ーーー間違いない!やはり余を襲ってきた奴らの仲間じゃったか!


私の問いかけにもう一度クンクンと匂いを嗅いだ後、確信したのか叫んだ。


「待って。A男はそうかもしれないけど、私達は違うわ」


ーーー嘘をつくな!その男と一緒に行動しているではないか!


「よく見て、縛られてるでしょ?」


ーーーむ?確かに縛られておるな。お前も縛られておると言うことはやはり仲間という事ではないか!


「私も縛られてるけど、仲間ではないわ」


ーーー信じられるのじゃ!


A男だけが縛られていれば良かったのに、私も縛られているから仲間だと思われてしまった。


「リア…俺たち状況が分からないんだけど…」


今まで見ていたが天狐の声が聞こえないヴォルク達は理解できていない。

ルベルが困った顔をして聞いてきた。


「天狐を襲った奴らがA男と同じマントを着ていたらしいの。だから私たちまで仲間だと思われているわ。私は一緒に縛られてるから尚更仲間だと思われてしまって…A男と仲間なんて侵害だわ」


「その話が本当なら消えた村人についても何か分からないか?」


ルベルがヴォルクの顔を見る。


「…天狐、俺達に詳しく話してくれないか?」


ーーー何故余が人間などに説明しなければならぬのじゃ?言うことを聞かねばならぬのじゃ?


天狐の声が聞こえないヴォルク達に私は通訳する。

そして天狐に現状を説明する。

天狐と村人を襲った犯人はA男と同じだと言う確証を得たくて話をしたいと説明すると


ーーー例え話そうとしても、余の今の体ではお前達と話せぬから無理じゃな


「フィリア治せるか?」


「取り敢えずヒールを使ってみるわ」


小娘が通訳すると、余が話せないと分かって簡単に治そうとする。

やはり人間は矛盾する生き物だなと天狐は思った。

そして天狐は私に治そうとするヴォルク達を止めるよう伝えろと言われたが、伝えなかった。

その間にもフィリアの詠唱は続き、詠唱が終わる。


ーーーお前が伝えなかったから人間の力を借りてしまったではないか


「治ったの?」


ーーー痺れは取れたのじゃ。だが体の中から蝕まれるような感じは消えぬ。


天狐の言葉をフィリアに伝えた。


「原因が分からないと対処できないわ。鑑定が使えれば原因が分かるけど、私は鑑定ができないから…」


フィリアはチラッとヴォルクの顔を見る。

この中で鑑定が使えるのはリアだけだからである。

が、今のリアは枷を嵌められ縛られているからスキルが使えない。


「…縄はそのままで枷を外せ」


ヴォルクは少し考えた後、フィリアに告げる。

すぐ枷だけ外され、鑑定をする。

ここでの『魔物』と『魔獣』の違い。

魔物はその名の通り魔の物。

獣の姿だったり、植物の姿だったりとさまざまです。

魔物は知能が低く、人の言葉を話す事が出来ない。

魔獣(変異種)は知性があり、会話も可能って設定にしています!

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