ヴォルクside【2】
「やっと野宿から解放されて、お風呂に入ってベッドで寝れると思ったのに…また不味い食事をしながら野宿なんて嫌よ!せめて美味しいご飯食べてお風呂に入ってから向かえばよかったのに!」
と道中プンプン怒っていたフィリアだが、そんなもの俺は知らん。
森に入る前に近くの村の宿で一泊する。
ここまでで5日かかった。
朝イチで出発すれば早くに目的の村に着くだろう。
馬達はここに預けて歩いて行く予定だ。
それまでゆっくり休むとしよう。
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そして今その村の前まで来た。
村の前でも分かる静けさ。
俺達は村の中を歩いているとふといい匂いがしていることに気づいた。
匂いを辿るとそこには一軒家が立っている。
「村の人間は誰もいないんじゃなかったか?」
「私もそう聞いてたわ」
「美味そうな匂いだなぁ〜」
俺とフィリアが怪訝そうにしている中、1人だけ人差し指を口に当て、今にでも涎が垂れてきそうな顔をする馬鹿ルベル。
緊張感のない奴めと俺はルベルの頭に拳骨を食らわす。
「いってぇ〜な!何すんだよヴォルク!」
頭を抑え涙目で騒ぐラベル。
「うるさい。黙れ」
俺の態度にルベルは、なんだよもぉ〜と拗ねるが放っておく。
「フィリア…中を確認するぞ」
「えぇ」
中を確認する為に玄関の扉を静かに開ける。
ルベルは置いてくなよ〜と追いかけてくる。
俺がギロっと睨むと口に手を当て静かにこっちへくる。
バレて逃げられたらどうするんだこの馬鹿は!と今度は顔を殴りたい気持ちを抑え中の様子を伺う。
そんな様子を見ていたフィリアはため息を吐いたあと気を引き締める。
足音を立てずに家の中に入る俺達。
いい匂いが漂う家の中、一番手前にある扉の前まで辿り着く。
一度フィリアとルベルに顔を向け2人がウンと頷いたあと勢いよく扉を開ける。
「ここで何をしている?何者だ?」
そして隣に人の気配がして咄嗟に向きを変える。
何か黒いものを持って俺に向けている。
これは何だ?
と思いながら俺はギロっと女を睨みつけ顔を見た瞬間驚いた。
女の左頬には大きなドス黒いアザがあったからだ。
殴られたのかアザが酷い。
そして問題は髪の色だ。
この世界で銀白色の髪を持つ者はあの一族だけ…
この女は一体何者だ?
時が止まったように固まる俺に女はあなたこそ誰かと無表情で聞いてきた。
感情が読み取れないヤツだと思った。
暫く睨み合いをしていたが女はため息をついた後、黒い武器?を閉まって椅子に座ると何かをし始めた。
それは初めて見るもので、攻撃されるかと構えたが女は口から煙を出し、攻撃ではないことを理解して2人は女の前に立つ。
あいつらもあの煙が出ているものが気になるのか目線が離れない。
あれはなんなんだ?
女の名前はリアと言うらしい。
話を聞けば聞くほど俺は怪しいと思った。
ライトやサーチはフィリアでも使える。
だがサーチには村を見つけるようなことができたか?
サーチは魔物を探知することしか出来ないはずだ。
俺は怪しさから連れて行けばいいと言ったが2人がそうしなかった。
女は腕を組みながら何かを考えている。
ルベルが質問を続け話を聞き出したが、女は国の名前も知らないと言う。
自分がいた国の名前がわからない奴なんているのか?
それに王子を怒らせて追放だと?
王族にそんなことすれば極刑だ。
よく追放で済んだ物だ。
怒らせた王子と宰相の名を聞き出したルベル。
ロレンツにデニスか…ネレス王国の王子と宰相で間違い無いだろう。
2人もその名に聞き覚えがあると顔に出していたから、ネレス王国だと教える。
フィリアは何か毒を吐いていたが気にしない。
その通りだからな。
フィリアが最初から詳しく話してほしいと言う。
しかし信じてもらえないだとか悩んでるだとか、そんな事は関係ない。
俺がそれでも吐いてもらうと言ったら、女はまた先ほど口から煙が出た物を取り出した。
タバコと言うらしいが初めて見る。
どこで手に入れたのかも話さない。
だが、少ししたら何か物騒な事を言ったが話し始めた。
女の話した内容は信じ難いことばかりだった。
召喚・聖女・異世界・鑑定・通販召喚
聖女はこの世界には伝説だと言われている本が売られているから知っている。
その本にも別な世界から来た少女だと書かれている。
まぁ、いろいろはぶかれ夢見る子供のために作られた本だが…
だが、詳細を残す為に記載された日記がある。
作られた本は日記を元に作られた話だ。
日記は大事に保管されているはずだ。
盗めるわけがない。
いつかまた同じように異世界の人間が現れるかもしれないことを考慮し各国国王だけに日記の詳細を知る事が許され帝王から話を聞かされ日記も読める。
だが召喚方法など記録はどこを探しても見つからないはずだ。
日記ですら召喚方法は書かれていなかった。
突然召喚されたとしか記載がなかった。
ネレス王国はどうやって調べたのか…。
異世界から召喚されたまではわかった。
鑑定も使える人間は数少ないがいる。
しかし最後の通販召喚というスキルは聞いたことがない。
そしてスキルが全部秘匿?
必要な時に必要なスキルだけでてくる?
隠蔽スキルはある。
俺やルベル達も隠蔽で変えている…が、隠蔽を使ってもスキルを全部隠すことは出来ないし、する奴もいない。
わざわざ全部隠して魔力なしと見なされ奴隷のような生活をする奴はいない。
だとすると、そのままの意味で秘匿スキルが存在していると言うのか?
この女他にも色々ありそうだな。
この村の話を聞いてから面倒ごとが増えていることにヴォルクはため息をつく。
ひとまず話を聞き終えた後、ルベルとフィリアがバッと俺のところに来る。
「ちょ、どういうこと?俺全然理解できなかったんだけど?」
「私だってそうよ!そんなことありえるの?鑑定とか私もまだ使えないわよ!」
「いや、その前に異世界って何?スキル全部秘匿って何?そんな事あるのか?」
うるさい2人に顔が険しくなってしまう。
それにこの間に女が逃げたらどうする!
「うるさい。黙れ」
俺はチラッと女の行動を確認する。
女は台所に行って突っ立っている。
「いやいや、黙ってられないでしょ?何召喚って?異世界?本当にそんなことあり得る?」
「聖女とか別な世界ってことは理解できたわけではないけど理解できたわ!だけど実際そんな本の世界の話が現実になる?」
鬱陶しいと思いながらため息をついて俺は話し出す。
無論女が逃げないように見張りながらだが…
「聖女の本の話はお前らも知っているだろう?」
俺の問いかけに2人は上下に頭を動かす。
「異世界から召喚された少女の話は本当の話だ」
2人は、え?っと目を見開いて驚いた顔をする。
「実際にその少女が書いていた日記も残っている。一般的に売られている本は日記を元に作られた夢物語だ」
2人は俺の言葉に嘘だろっと言う顔をしている。
「え、ちょっと待って…余計わからなくなってきた」
「なんでヴォルクがそんなこと知ってるのよ?」
ルベルは頭を抱え、フィリアは俺を見る。
「日記を読んだことがある。保管庫でな」
それでか!と納得する2人。
「でも保管庫はまだ入れないはずだろ?」
ルベルが、なんでだよ!と問い詰めてくる。
「数年前に忍び込んだからな」
それダメなやつだろ!
と、キャンキャン騒ぐルベルは放っておくことにし、フィリアと話を進めることにした。
「まだ信じられないけど…ひとまず話を先に進めましょう。あの子どうする?」
フィリアが俺に聞いてくる中、俺を無視するなよ!と言っていたが反応しない俺たちを見て静かに話を聞くことにしたらしい。
「俺も信じられないがな。確信が得られるまで女は1人にできない」
俺の言葉に2人は一度頷くといい匂いがした。
「なんだか嗅いだ事ない匂いがする」
「えぇ、いい匂いね。なんだか落ち着くわ」
2人は鼻をクンクンしながら匂いの元である女の近くに行く。
何やら3人で話しているが、話が長い上に暇になってしまい、この家の主が読んでいたであろう本を座って読み始めた。
途中ゲッソリした顔で戻ってきてテーブルに顔を伏せる。
何かを決めたらしい2人はそれを手に戻ってくる。
手にしたものにチラッと目線を向け見てみたが、初めて見るものだった。
女は俺の方に顔を向け聞いてきたからフィリアと同じ物にした。
横でルベルがなんか言ってるがこいつは甘党だから俺には無理だ。
いい匂いが部屋の中に広がり女が戻ってくる。
どうぞと目の前にカップを置き、2人が飲み始める。
甘い、うまいと叫ぶルベルに美味しいと顔が綻ぶフィリアを見て、どうやら毒は入っていなさそうだと確認した俺も一口飲んでみる。
飲んだことがない味だが美味い。
もう少し甘さがなければ好みの味だ。
俺たちが飲んだのを見て女は正論を言ってきたが、匂いに釣られてしまったことは黙っておこう。
女も一口飲み今後の話をしてきた。
話出すルベルとフィリア。
「ーーーーーそれでいいだろ、ヴォルク?」
俺に聞いてきたルベルに同意した。
このまま1人で行動されても困るしな。
それなら自分達がギルドに行くまで見張っていたほうがいい。
俺の同意をもらった後2人は女が食べていた皿を見ていたら、女は食べるかと聞いてきて俺も思わず頷いてしまった。
正直頷いた自分に驚いたが表情には出ていないはずだ。
その後、飯を作ると立ち上がった女の行動に驚いた。
収納空間を使っていたからだ。
収納空間は鑑定より難しいスキルだ。
今もポカーンとするルベルに、頭に手を当てるフィリア、俺も驚いて動けないままだった。