異世界人に出会う【3】
目が覚めるともう朝だった。
軽く体を伸ばして水道の水で頭を洗いタオルで体を拭いた後、顔と歯を磨いて黒のカラコンをして服を着る。
ちゃんと服は乾いていてよかったと安心しながら、髪を一つ縛りにし軽い朝食を作って食べていると誰かが侵入してきた気配を感じた。
銃を持ってドアの横に立つ。
バンっと大きな音を立てて誰かが入ってきた。
1番最初に入ってきた人に銃口を向けると、その人はハッとして私に剣を向ける。
「ここで何をしている?何者だ?」
なんてイケボな声だろう。
ギロっと私を睨む背の高い綺麗な青?水色?の髪をしたイケメンさん。
青と水色どちらもあるような感じと言えばいいだろうか?
人を寄せ付けない雰囲気で動物で例えるなら一匹狼でしょうか?
その男性は私の顔を見て一瞬目を見開くが、すぐ先ほどと同じように睨んでくる。
そんなリアは目が惹きつけられる彼の髪を見て、晴天の青空や透き通った海の色どちらとも言える綺麗な髪だなっと一瞬思うが、睨まれているので睨み返す。
「あなたこそ誰ですか?」
質問を質問で返すリアに男は気に食わなかったのか眉間に皺がよる。
「俺たちは依頼された冒険者なんだ。まず2人とも武器を下ろして話さないかい?」
廊下側にいる男が話しかけてきた。
チラッと目線を向けるとパンプキンオレンジ色の頭をした背の高い爽やかイケメンさん。
犬系男子と言えば想像できるだろうか?
そしてその隣には自分より背の高い明るめのピンクアッシュのエロい格好をしている美人お姉さん。
少し気の強そうなお姉さんだ。
「驚かせてごめんね。俺たちは冒険者なんだ。依頼でここに調査に来たんだけど誰もいない村って聞いてたのに君がいたからね。話を聞いてもいいかな?」
もう一度説明してくれる爽やかイケメン君が首を傾げて笑顔で話しかけて来た。
「話しても何も分からないですよ?私も昨日の夜この村にきたので何も知りませんし」
「それを判断するのは俺たちだ」
最初に入ってきた男が言う。
リアと最初に入ってきた男はまだお互いに武器を持って警戒する。
「手荒なマネはしたくないのよ。お願いだから話だけ聞かせてもらえないかしら?」
今度は美人お姉さんが話しかけてきたがそれに応える義理はない。
「君が素直に答えてくれたら何もしないし、その顔のアザも治してあげられるんだけど?」
爽やかイケメ…長いから犬くんでいいか。
犬くんが左頬を指しながら言う。
「アザ?」
「すごいドス黒い色してるよ。痛くないの?」
まだ左頬を指している犬くん。
何かアザになるようなことあったかと考えて思い出す。
あの2人に殴られたことをーーー
「治してあげるし攻撃もしないからソレ降ろしてくれないかな?」
「…まずそちらから武器をしまって、離れていただけますか?」
「お前から武器を置け」
その一言で少しイラッとした。
この人以外の2人は警戒はしているものの、攻撃しようと思ってはいないことが分かったが、この男だけは攻撃性を感じる。
だから先に置けばいいものを私から置けと?
いつまで経ってもお互い譲らない2人に犬くんと美人お姉さんはため息をつく。
「このままじゃ何も進まないけど、2人ともずっとそうしてるつもり?」
「そっちが置かないからです」
「お前がだろう」
面倒くさくなった私はため息をついて銃をホルスターにしまい先ほど座っていた椅子に座って足を組みながらタバコに火をつける。
タバコを吸うと少しはイライラがおさまるから。
その様子を見て犬くんと美人お姉さんが私の反対側に来る。
ジッとタバコを見つめながら話しかけてくる。
「…話聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
私の返答を聞くと2人は席に着く。
もう1人の彼は扉の横の壁にもたれ腕を組む。
「名前は?」
「リアです」
「昨日の夜来たって言ってたけど村の人は見た?」
「見てないです」
「何故この家に?」
「村全体に誰もいなく休める場所が必要だったので、家の中が綺麗だったこの家を勝手ながら使わせてもらいました」
「家の中が綺麗だったから?他の家は荒らされてたとか?」
「いえ、荒らされてはいなかったですよ。ただ食事中だったのか腐っていて匂いが酷かったので」
「ふ〜ん…この村は小さな村だから地図にも載ってない。それなのに1人でここまで来たと?」
「まぁ、そうですね…?」
「どうやって村を見つけたの?暗くて森の中を歩くのも大変だったでしょ?」
「ライトとサーチスキルを使いました」
私の返答を聞き顎に手を当て何かを考えてる犬君。
他の2人も難しい顔をしている。
「見たことない服を着て1人で森の中を歩いて辿り着いたと言うだけで怪しいだろ。早く連れて行けばいい」
壁にもたれかかってる男が言う。
「怪しいけど子供1人で一気に村全体の人間を消せるはずないじゃない」
「そうそう、もう少し話を聞こうよ」
リアはタバコを消しながら会話を聞き、まだ尋問されそうな雰囲気にどこまで話せばいいかと腕を組んで考える。
子供発言には突っ込みたいところだが…今はそれどころじゃない。
異世界召喚された別の世界の人間ですって話して信じられるか…
うん、私なら信じられない。
頭のおかしい奴だと引いてしまう。
そしてこの人たちを信じていいものか…
「ねぇ、もう少し質問してもいいかな?」
どうしたものかと悩んでいたら犬君に遮られる。
「ええ、どうぞ」
「じゃ、続きを始めるよ。君はどこから来たのかな?」
ふむ、初っ端から答えにくい質問である。
「…国の名前は知らないですけど、そこの王子から追放されました?」
「うん、なんで疑問系?」
「理由はないですね」
「ん〜まぁ話を進めるよ。なんで国の名前を知らないの?そこに住んでたんじゃないの?追放された理由は?」
これまた答えにくい質問と一気に次々と質問してくる犬君に、リアは苦笑する。
「初めての国で急だったので…その国に住んでたわけではないですね。追放の理由は私が俺様王子と片眼鏡野郎の宰相にムカついて怒らせたからでしょうか?」
変に誤魔化しても矛盾する点が出そうなのでもう正直に話す。
この世界のこと何一つ知らないから誤魔化すのもキツいですし。
「君さ、話を聞けば聞くほど謎だらけだね?ムカついて怒らせた話は面白そうだけど」
犬君はどうしたものかと苦笑する。
「最初から話しても信じてもらえないと思うので…ですが質問には嘘偽りなく答えますよ」
「その王子と宰相の名前はわかる?」
「確か…王子がロレンツ、宰相がデニスでしたね」
リアは首を傾げながら答える。
「ロレンツとデニスか…」
「ネレス王国だな」
「あぁ〜あの見た目だけはいいと言われている馬鹿王子といけ好かない野郎ね」
名前を繰り返したルベルの後に、今まで黙って聞いていた男と美人お姉様。
美人お姉様の言葉に頷くリア。
「ねぇ、リアって言ってたかしら?最初から詳しく話してくれない?」
「……」
「話せない理由でもあるのかしら?」
「信じてもらえない確率の方が高いのとあなたたちを信頼していないので、悩んでますね」
「それでも吐いてもらうぞ」
たまに会話に入ってくるこの男は一体なんなんだとイラつく。
また一本タバコに手を伸ばし火をつける。
大きく吸い込みフゥーっと煙を吐く。
「あのさ…さっきから気になってたんだけどソレ何かな?」
犬くんと美人お姉さんがマジマジと見てくる。
「タバコですか?」
『たばこ??』
2人の様子からしてこの世界にタバコがないことが分かった。
これは説明がめんどくさい。
「たばこって何かしら?」
「煙が出てるけどどう言う仕組み?」
2人はズイッと顔をタバコに近づける。
「あまり近づくと危ないですよ」
火がついてるタバコに近づくのは危険だ。
火傷してしまいますからね。
近づく2人からタバコを離す。
「見るならこっちをどうぞ」
私は火がついてるタバコを口に咥えて、新しいタバコを一本取り出して渡す。
「強く握ると折れてしまうので気をつけてくださいね」
タバコは折れやすい。
そんな勿体無いことは勘弁だ。
犬くんがタバコを受け取り、美人お姉さんもズイッと犬くんに近づいてタバコを見る。
そしてクンクンと匂いを嗅いでみたり、すごく興味深そうに眺めている。
「これは何でできてるのかしら?」
美人お姉さんが私を見て聞いてきた。
「葉っぱですよ」
『葉っぱ???』
2人は驚いた顔をする。
「くれぐれも食べないでくださいね?食べると嘔吐や下痢、麻痺といった症状が現れるので」
「これは何処で手に入れたの?」
犬くんが真剣な顔をして聞いてきた。
何処で…そりゃ向こうの世界で、だ。
通販召喚にもあったけど…
しかし、なんと答えればいいか…
「まず話してみてくれないかな?信じるかは聞かないと分からないし」
犬くんが少し困った顔をする。
「…信じてくれなかった場合どうします?」
「それは聞いてみないと分からないな」
ニコリと犬くんは笑う。
「信じられず何かするようなら殺してもいいですか?」
「君意外と物騒だね」
犬くんはヒクリと顔を引き攣らせる。
「それくらい信じてもらえる自信がないからですよ」
犬くんはチラッと扉付近に立っている男を見た後、私をジッとみて、分かったと一言呟いたので経緯を説明することにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーーって感じですね」
話し終え、一気にしゃべったから喉が渇いたリアはカップに手を伸ばすが中身が入っていない事に気づく。
3人も飲むかと話しかけようと顔を上げるが、3人で何やら話し合ってる為声をかけられなかった。
気にせずみんなの分も入れる事にして飲み物を用意する。
1人だけ飲むのは気がひけるからね。
やかんらしき物に水を入れ魔石に手を触れ、沸騰するのを待ちながらリアは考えた。
台所の上に置いた紅茶パック、お茶パック、コーヒーパック&スティックを睨む。
紅茶?無難にお茶?コーヒー?
種類が多い上に好みが分からない分、頭を悩ませる。
ん〜と唸りながら、パッと顔を上げる。
悩むことを諦め3人には紅茶を自分には食後と言っても途中だが、コーヒーを淹れる事にした。
「なんだか嗅いだ事ない匂いがする」
「えぇ、いい匂いね。なんだか落ち着くわね」
確かにコーヒーっていい匂いですよね。
パックだから少しずつお湯を足しながら紅茶の準備をしていると
美人お姉様と犬君が鼻をクンクンさせながら近づく。
「これはなんだ??」
「コーヒーです。このドリップパックの中にお湯を注ぎながら数秒蒸らして飲みます」
リアはドリップパックを持ち上げ説明しながらカップの中のコーヒーを見せる。
「黒いぞ?このなんとかパックも見たことがない」
「そうね、こんな色の飲み物は見た事ないわ」
「これ飲めるの?」
2人は興味深そうにカップのコーヒーを見つめる。
「皆さんには紅茶を淹れようと思いましたけど飲んでみますか?」
「気になるけどちょっと怖いわね」
「どんな味?」
口に入れた事ないものは怖いですもんね。
「このままだと飲み慣れない人は苦いかもしれませんね。こっちのスティックタイプだと甘くて美味しいですよ」
日本で普通に売られてるお湯を入れるだけで簡単にカフェラテやカフェオレが飲める例のアレ。
2人はスティックを手に持ちマジマジと見る。
「これはどう言う仕組みになってるのかな?」
「文字も見たことないし読めないわ。リア説明してもらえる?」
「いいですよ。これはーーー」
一つ一つ台所に置いてある物全部説明を求められグッタリする。
それなりに時間もかかった。
いまだにあれこれ騒いでる2人。
「飲みたいもの決まったら教えてください」
と声をかけ冷え切った自分のコーヒーを持って戻る。
いつの間にかもう1人の男は椅子に座って本を読んでる。
私も座ってテーブルに顔を伏せる。
数分…いや、数十分だろうか…やっと決めたのか
『これにする!!』
と、私の前にスティックを持ってくる2人。
犬君はココアオレで美人お姉様がカフェラテ。
やっとか、と2人からスティックを貰う。
「了解です。………あなたは?」
リアは気に食わないが1人だけ出さないのも失礼だと思い男に聞く。
「……フィリアと同じ物でいい」
少し間を置いてから本から視線も逸らせず答える。
「了解です」
「おい!なんで俺のじゃないんだよ!」
犬君は自分が選んだ物じゃなかったのが気に食わなかったのか近くまで行き吠えた。
「……お前は甘党だからだ」
「いいじゃん甘いの!美味しいじゃん!」
犬君がキャンキャン吠えながら男に絡む。
まぁ犬君が一方的に話して、男は聞き流してるだけだが。
そんな2人を放って置きスティックを開けカップに入れてお湯を注ぐ。
いい匂いが部屋の中に広がる。
「どうぞ」
カップを全員分テーブルに置く。
一度匂いを嗅いだ後、恐る恐る口の中に入れる犬くんと美人お姉さん。
「うめぇ!甘ぇ!うんめぇ!」
「そうね、とても美味しいわ」
そんな2人を見た後あの男も一口飲んだが表情が読めない。
「自分で言うのもなんですが…よく見ず知らずの出した物飲めますね」
警戒はしているのは変わらないのに、よく飲んだなと驚きを通り越して尊敬します。
「君が異世界から来たことは信じられたからかな?たばこに引き続き、この飲み物や台所の上にある物全部見たことないからね」
信じてくれたのは嬉しいが、それでいいのかと思ってしまう。
「それで私はどうしたらいいですか?」
「そうねぇ…まだまだ聞きたいことはあるんだけど…」
「暫く俺たちと行動してくれる?君が異世界から来たのは信じたけど疑いは晴れてないからね。村人が消えた調査もしないといけないし。だからと言って君を1人にするわけにもいかない。それでいいだろ、ヴォルク?」
「…あぁ」
既に一緒に行動することが決まっていたかのようにルベルはスラスラ話す。
取り敢えず信じてもらえたようだ。
それにあの馬鹿王子たちを知っているみたいだし、情報が欲しい。
暫く行動を一緒にしてもいいだろう。
そして、リアはふと思った。
「皆さんの名前を聞いても?」
そう、名前をまだ聞いていなかった。
鑑定で見れば分かるのだろうけど、プライベートを覗き見するみたいでいい気がしないから聞くことにした。
「自己紹介がまだだったわね。私はフィリアよ」
「俺はルベル」
「……」
「こいつはヴォルクな!皆呼び捨てでいいぜ!敬語も必要ない」
話さないヴォルクの代わりにルベルが教えてくれる。
「了解。暫くの間よろしくお願いします」
「はいよぉ」
ぐぅぅぅ〜〜〜〜
ルベルが話してると同時にお腹の鳴る音が聞こえてきた。
「あ、ヤベ腹鳴った」
どうやらお腹の音の犯人はルベルだったらしい。
「これってリアが作ったの?」
ルベルが名前を呼んでくれた事に少なからず嬉しく思うリア。
そして私が作った朝食を指差している。
「ええ」
「私も気になってた!美味しそうよね」
2人はダラーと涎が垂れそうな顔で見る。
「食べたいなら作りますよ?」
『いいの(か)?』
2人は目をキラキラさせる。
こんなので良ければいくらでも作ります。
だって、ごまだれをかけたサラダにフレンチトースト、コンソメスープと簡単な物だもの。
「ヴォルクも食べますか?」
「……」
コクンと頷くヴォルク。
「少し待っててくださいね」
台所に行き収納空間に手を突っ込む。
『収納空間!?』
「ビックリした」
いきなり大きな声を出す二人に驚く。
ポカーンとする2人と驚いた顔をしているヴォルク。
「え?何?皆も使えるでしょ?」
「いやいやいや!何言ってるの!?」
「収納空間なんて使えるのは一握りよ!?私ですら使えず収納バックなのにっ!」
「へ、へぇ〜?」
2人の迫力に吃ってしまう。
「ちょっと待って…色々と驚きすぎて追いつけないわ」
フィリアは額に手を当てる。
「鑑定も使えて、更には収納空間?」
「……」