冒険者
「リア、今から冒険者ギルドに行くぞ」
朝食を食べ天使2人は友人と遊びに出かけるとのことで、静かにギルマスの家でのんびり天狐と過ごしているとルベルが現れ、そう告げられた。
「冒険者ギルドに?」
なぜ急に冒険者ギルドに行くのか不思議に思い首を傾げる。
「あぁ。ヴォルクから伝達が届いてあと数刻で到着するらしい」
「そうなんだ?分かったわ」
冒険者ギルドのギルマスの部屋でくつろいで数時間。
ヴォルク達は、ルベルが予想してた期間より3日ほど遅れて到着した。
「リア〜〜〜!何か…何か美味しいもの作って〜〜〜〜」
【ぐぇっ】
ギルマスの部屋に入るなり、フィリアが泣きながら私に抱きついてきた。
それと同時にリアの膝の上で寝ていた天狐は押しつぶされ変な声を出す。
「はい…?」
泣きながら抱きつかれたことに少し驚いたものの、開口一番が食べ物のおねだり?と思ったリア。
「リア、お願い〜〜!リアの作った美味しいご飯が食べたいの〜〜〜」
抱きしめている腕をより一層強め、おいおいと泣くフィリア。
【そんなことより早く退けるのじゃ!】
苦しそうに訴える天狐。
「…取り敢えず離してくれないと動けません」
フィリアは黙って離れると、ズビズビと鼻を啜る。
そんな姿を見たヴォルクからため息が聞こえた。
「…どうすれば?」
ここは冒険者ギルド。
厨房はあるが、料理人がいる。
勝手に使うこともできず困り果てるリア。
「フィリアもう少し我慢しろ」
ヴォルクは呆れながらフィリアに言う。
「我慢…?我慢ですって?もう十分我慢したわよ!話なんて後でいいじゃない!今は話より美味しいご飯が食べたいのよ!」
フィリアからただならぬオーラが出ている。
【小娘…よくも余を押し潰してくれたのぉ〜】
こちらも腹を立てて殺気を出している。
「お、おい!」
「ここでやめてくれ!」
顔を青ざめ慌てて止めに入るルベルとギルマス。
「うるさい!黙ってて!」
【うるさいのじゃ!黙っておれ!】
2人…いや、1人と1匹に睨まれ、大人しく距離を取るルベルとギルマス。
「私はお腹が空いたの!美味しいご飯が食べたいの!」
【そんなことより余に謝るのが先じゃ!】
今にでも暴れ出しそうな雰囲気の1人と1匹。
そんな1人と1匹にズボッと口の中に何かを詰め込むリア。
「取り敢えず今はこれで我慢してください。天狐も落ち着いて」
口の中に入れられたものをモグモグと口を動かすフィリアと天狐。
「美味しい〜!」
【美味いのじゃ〜】
「落ち着きましたか?まだあるので今はこれで我慢してください」
テーブルの上には沢山のパンやお菓子が積み重なっている。
一目散にテーブルへと向かいフィリアと天狐は我先にと食べ始め、口に詰めては次に手を伸ばし取られまいとお互い睨み合っている。
「仲良く食べてね」
その姿に呆れながらも声を掛けると、横からまたため息が聞こえた。
そちらを見るとヴォルクも呆れていた。
ルベルとギルマスはほっと胸を撫で下ろしている。
フィリアと天狐を放っておき、4人で話し合いが始まる。
結果的に私は処罰はないものの、条件があるとのこと。
1つ、監視がつくこと。
その監視役がヴォルク達とギルマスであること。
2つ、人を殺すことを禁じる。
3つ、この世界で信頼できる仲間や友を見つけること。
4つ、喜怒哀楽を見せること。
5つ、それがクリアできたら必ず第二帝国、ベルジールに来ること。
「2つ目までは理解しますが、それ以降の条件の意味がわからないのですが?」
何故そんな条件を出されたのか、と眉をしかめる。
「…達成したら条件を出した本人に聞いてくれ」
「はあ…」
納得はできないがヴォルクを見る限り話さないと分かり、生返事をしてしまった。
「話は終わりだ」
「じゃあ、次はリアの登録だな」
「あぁ」
本人を置いてどんどん進めていくヴォルクとギルマス。
「てか、お前らいい加減にしろよ!」
2人が進める中、ルベルが怒鳴った。
そう、話の間フィリアと天狐は言い争いながら食べていたのだ。
それが今も続いている。
「ちょっと、それ私が食べようとしたのよ!」
【ふん!さっき余が食べたかったもの食べたではないか!それから早く余に謝るのじゃ!】
こんな感じの会話がずっと続いていたのである。
話が終わったことで、ずっと言いたかったことをようやく言えたルベル。
だが、それも虚しくまだ続いている。
「リア、これ書いてくれ」
ヴォルクとギルマスは完全スルー。
一枚の紙をギルマスは渡してきた。
「?」
素直に受け取り内容を見る。
「冒険者ギルドの登録申請書だ」
「私冒険者になるつもりは…」
「強制だ。俺たちと行動するんだからな」
「ってことだ。書いてくれ」
「……」
ペンを渡されもう一度用紙を見る。
【名前】
【レベル】
【スキル】
【出身地】
【身元引受人】
と書かれていた。
受け取ったのはいいけど私こちらの世界の文字書けるのかしら?
取り敢えず日本語で書いてみると、こちらの世界の文字なんてわからないのに書けていく。
レベルは1…と
スキルはライト、サーチまで書き続けて手を止める。
「どうした?」
手を止めた私に気づいたヴォルクが声をかけてきた。
「スキルの欄に鑑定と通販召喚を書いた方がいいのかと思って」
「あぁ…全部書かなくても大丈夫だ。どうせカードに全部書かれる。後でフィリアに隠蔽スキルを使って隠すから」
「分かった。あと出身地はどうすれば?」
あちらの世界のことを書くわけにもいかない。
「出身地は書かなくてもいい。代わりに代理人が必要だけどな」
「代理人がいないんだけど…?」
ヴォルクは用紙を取って書き始める。
「俺たちと行動するから俺が代理人だ」
「はあ…」
説明がない分理解に苦しみ、また生返事で答えるリア。
「ギルマス後を頼む」
書き終わった用紙をギルマスに渡すヴォルク。
「あぁ、じゃ次にここに血を少し垂らしてくれ」
ギルマスはカードと針を渡してきた。
「??」
カードと針?と交互に見つめていると
「カードに血を垂らせば名前からスキルまで自分の情報が反映される」
と説明してくれた。
へぇ〜と思い、カード血を垂らす。
「これで完了だ。あとはこっちで処理できるものはしておく」
「あぁ」
流れに流れて冒険者になりました。