ゆっくりまったり
【小娘!今日のおやつはなんじゃ?】
ギルマスの家にお世話になって1週間。
想像と違った家でびっくりしたのを忘れない。
家って言うより邸だ。
メイドや料理人もいるとかギルマスの仕事ってそんなに儲かるのだろうか。
そして今、台所に立つ私に天狐がキラキラした目で聞いてきた。
「小娘じゃなくてリアって呼んで」
【気が向いたらな!で、おやつはなんじゃ?】
「名前で呼んでくれないからおやつはなし」
リアの言葉に、漫画だったらガーンと漫符が符号されるだろうと思う程ショックな顔をしている。
【な、名前で呼べばおやつくれるのか?】
「小娘なんて呼ばれて誰が喜ぶとでも?」
【ぐっ…余は幻獣じゃぞ】
「幻獣とか関係ないから。呼ぶの呼ばないの?」
【…分かったのじゃ。これからちゃんと名で呼ぶからおやつ欲しいのじゃ】
ため息をついた後おやつ欲しさに負けてしまった。
こやつの作る物がどれも美味しいから仕方ないのじゃ!
「今呼んでみようか」
【は?】
しゃがんで天狐の顔を見つめる。
それとは正反対に、なんと言ったのか理解できていないアホヅラ天狐。
「これから呼ぶって言って、おい とかで済ませられたら嫌だし」
【(何故分かったのじゃ!)】
「それならまだ小娘の方がマシだけど…呼んでみようか?」
少しだけ口の広角が上がるが目が笑ってない。
天狐は一歩後ろに下がる。
「どうしたの?後ろに下がって?」
口の広角を上げたまま首を傾げる。
「さぁ、呼んでみて?」
【…り…あ】
「ん?なんて?」
【なぁぁぁぁぁ!リア!呼んだのじゃ!約束通りおやつ食べるからの〜!】
ヤケクソになって名前を呼び、言い終わると走り去っていった。
その姿を見て、数年ぶりに顔の表情が和らいだ。
それも一瞬の事で誰も知らない。
元の無表情に戻り天狐と天使2人の為に美味しいお菓子を作ろうと準備を始める。
『美味しい〜!!』
【美味いのじゃ〜!!】
天使2人と獣が1匹。
「これはなんて言うお菓子なんですか?」
「クレープって言うの」
『クレープ!』
昨日ギルマスがチーゴとナーバという果物を持ち帰ってきた。
試しに食べてみるとイチゴとバナナだった。
これは言葉が似てるだけで見た目と味は同じだった。
クレープは好きなものを自分で包む楽しさもある。
天狐の分は私が包んだ。
甘い系以外にもおかず系クレープに出来る様にツナやウインナー、レタスなども用意した。
生クリームは何故か在庫にあった。
米はないのに生クリームはある…解せぬ。
夕食が食べられなくなるのはいけないから生地も小さくして楽しめるように少し工夫をして良かったと思った。
「おっ!今日のおやつは何だ?」
ギルマスに呼ばれたルベルが戻ってきた。
ルベルはギルマスに呼ばれない限りずっと近くにいる。
見張りのためだろうけど…
「くれーぷだって!おいしいよ!」
可愛い小さな天使アンジュが答える。
「くれーぷ?ただ具材が置いてあるだけのように見えるけど?」
「ぅんとね、こうやってこの上に好きな具材を乗せるんだよ!」
小さな天使が一生懸命教える姿にキュンとするリア。
「へぇ〜自分で包んで食べるのか」
「楽しいし美味しいよ!」
満面のスマイル頂きました。
「アンジュ手がベトベトよ!一回拭いてから食べようね」
一生懸命作った手は確かにベトベトだった。
一応服を汚さないように、前掛けとナフキンはしているが。
「リア、俺も食べていい?」
「もちろん」
ルベルに一般的な組み合わせを教える。
【リア、次はアレが食べてみたいのじゃ!】
「どれ?」
「アレじゃ、アレ!」
さっきはあんなに名前を呼ぶのを恥ずかしがってたくせに…おやつの力ね。
天狐の皿の上は綺麗に無くなっており次のものを前肢で伸ばして急かす。
「これ?」
【そうじゃ!その匂いが1番旨そうなのじゃ!】
天狐が指したのはツナだった。
【む?葉っぱはいらぬぞ?】
生地の上にレタスを置くと要らないと言われた。
「これがあった方が美味しいのよ」
【リアが言うなら間違いないか。早く作るのじゃ!】
「はい、どうぞ」
天狐の前に置くとカプッと食べる。
【!これをもっと作るのじゃ!】
そう言うと思ってもう作ってますよ。
【甘いのも美味かったが、これはさっぱりして食べやすいの】
甘いもの食べると塩っぱいのも欲しくなるもんね。
「甘い方が美味いだろ」
天狐の言葉にルベルが反応する。
あなたは甘党だからですよ。
「そう言えば、一週間経つけどヴォルク達はどのくらいで戻ってくるの?」
今更なことを聞く。
どこに行ったのか分からないけど、すぐ帰ってくるだろうと思って何気なく聞いた。
「ん〜あと3週間くらいかな」
「え、そんなに?」
指を舐めながら答えたルベルに驚いた。
「あぁ、一度母国に戻ってから第二帝国に向かうはずだからな」
「第二帝国??」
「そう言えばこっちのことは何も知らないんだよな」
そう言ってルベルは少し教えてくれる。
この世界には大きく分けて5つの国がある。
東がリアが召喚されたネレス国。
西がベルジール第二帝国。
ここは数十年前に戦争で前王が死んで新しい王が立ち国の名前も変わったそうだ。
南が今私たちがいるラスティア王国。
北がモの国。
この国は獣人族の国だそうだ。
獣人族は人間を避けていたがベルジール第二帝国が出来てから国王が交流を深め2,3年前に西と北に行き来できるようになったとか。
それでも、まだまだ人間と獣人族の中は微妙だという。
そしてこの四国の中央にあるのがクレイン第一帝国。
この世界で1番偉いのはクレイン第一帝国の帝王様だと言う。
もちろん他の領土にも国はあり、国王もいる。
だが、首都に比べれば小さい国だ。
そして国によって気候が違って、東西と第一帝国は気候に違いはないが、北のモの国は冬並みに寒い日が続き雪が降る。
南のラスティア国は夏みたいに暑く雪は降らない。
確かにこの国はすごく暑い。
天使達に冷たくて美味しいアイスを作ってあげたいけど、この世界に冷蔵、冷凍庫という物がない。
だから食材など腐るのが早い。
水と氷スキルを持っている人が倉庫を冷やし、毎日そこに必要な分だけ買い物するんだとか。
それができるなら、冷蔵庫作れると思うのは私だけだろうか?
ステータスを確認すると水も氷スキルも使えるらしいが、現在枷がある上にヴォルク達が戻るまでスキルを使うのを禁止されている。
話を戻して、南北は作物や水に困るので南は雨を、南は晴れのスキルで定期的に天候を変えている。
このスキルは取得するのが困難みたいで片手で数える人数しかいないとか。
「こっちの世界にも雪が降るのね」
「モの国だけだけどな」
【モの国は寒すぎるし食べ物に困るから長居したことないのぉ〜】
まだクレープを食べている天狐が話に入ってきた。
「行ったことあるの?」
【一通り5つの国に行ったことあるのじゃ】
へぇ〜と思いながら天狐のおやつをせっせと作る。
おやつを食べた後は天使2人と遊び、今日も平和に過ごした一日だった。