新たなる旅路へ
◇
「うーん……」
眩しい、暑い。
「あ、起きた……!」
「アルドくん、おはよ」
見知った天井がゴトゴトと揺れている。ここは、馬車の客室の中だとわかる。
丈夫な布の天井が太陽の日差しを和らげている。
かなりおひさまが高く昇っていた。
「……あれ? みんな、おはよう……」
あくびをしながら、ゆっくりと上半身を起こす。
横にはエルリアとメリアが座っていた。
干したフルーツを二人で食べながら、僕の顔を覗き込む。
「目が覚めました?」
「もうお昼、アル、寝すぎー」
メリアとエルリアが顔を見合わせてくすくすと笑う。
「えっ、昼!? そんなに寝てた? って……そうだ!」
思い出した!
朝方、魔女アルテアの眷属、マリオネッタが襲撃してきた。それで僕はなんとかあの眷属を倒した。けれど罠にはまって……。夢の世界のような、何処かふわふわした場所に連れて行かれたんだ。
それはおそらく魂だけの遊離、夢の中に心だけが連れて行かれたみたいに。
そこで天秤の魔女、アルテアと話をしたんだ。
「そうだ、僕は……魔女、アルテアに会ったんだ」
「夢の中で、ですね」
「何度か名前、呼んでたものね」
エルリアが腕を伸ばし、僕の頭をくしゃっと撫でた。寝癖がついているみたいだ。
「……寝言を言っていたの? でも、何を話したっけ?」
夢のことはあまり覚えていない。
けれど不思議と、怖かったイメージはない。
でも少し思い出してきた。
アルテアの印象は……優しい、魔女だった。
僕とエルリアに呪いをかけた魔女。エルリアを半竜人にした張本人。きっと金杯の魔女メイヴみたいに、恐ろしい悪い魔女だとばかり思っていた。
けれど、アルテアは悪い魔女には思えなかった。
無邪気な、いや……善悪といった価値観を超越した存在だった。
いろいろな事を考えて、僕らの思いも依らない事を、千年近くもやってきたんじゃないだろうか。
夢の中でアルテアが真実を僕に語りかけてきたのか、あるいは騙しているのか……。
それはわからないけれど。
「でも……」
心のなかに暖かい感触が残っていた。
ホワホワして、暖かい日だまりに居たような……。優しい夢を見ていたみたいな、そんな暖かな感触が。
「よっぽどいい夢、見てたんじゃない?」
御者席からロリシュが振り返った。
外は明るくて眩しくて、ロリシュの髪が光を捉えて輝いている。
「ロリシュ、ごめんねずっと運転しててくれたの?」
「うん。そうだ、でも夢霧の魔女、ミスティアさんが、魔導機関をパワーアップしてくれたんだよ! 不思議な霧の魔法を充填して」
「えっ!?」
気がつくと馬車は、何処かの街道を軽快な速度で進んでいた。
今までの二倍も三倍も速い。
『メゲェ……!』
ダッダッダッ、と馬車の後ろから黒山羊のペーター君が、かなり本気で走って追いかけてきた。
「そろそろ乗る?」
『……メェ(うん)』
エルリアが声をかけると、ペーターくんは背後の入り口からジャンプして飛び込んできた。「うわっ!」
ドンッ、と僕に体当たり。
そのままの勢いで、僕はロリシュのいる御者席まで吹き飛ばされた。
顔に心地の良い風が吹き付けた。
何処までも続く草原、綿雲、青い空。
太陽は高い位置にあり、燦々とした光が降り注いでいる。
「いらっしゃい、アルド。運転する?」
「う、うん。ここは?」
エルフのロリシュはボロボロの地図を取り出して、広げてみせてくれた。
「えぇと。ディルスチームアの街から北東へ50キロメル、夢霧の魔女さんのフォンシーの村から二十キロメル東方……かな」
「もうそんなに!?」
馬車の速度はまるで風のようだった。
魔導機関の音も軽やかで、シュンシュンと湯沸かしのヤカンのような音が聴こえてくる。
振り返ると、森も大きな街も見えなかった。
「……ミスティアさんや、イフリアさんに、お別れの挨拶、しなかった」
「大丈夫だよ、アルド。ボクらがちゃーんとお礼したからさ」
ロリシュが明るく笑う。
僕が寝ている間、いろいろなことがあったみたいだ。
でも、もう戻れない。
此処から先へ、進むしか無い。
「そっか。じゃぁ……行こう!」
「次の目的地は?」
「次の街へ、そして大陸の果てをめざそう!」
「そこに魔女のアルテアがいるの?」
「いるかも……。そして、会って直に話がしたいんだ」
「エルちゃんの呪いを解くんじゃなかった?」
「うん。でも話せばきっと、なんとかなる気がするから」
「ふーん? そっかアルドがそう言うなら、いいよ」
「ありがと、ロリシュ」
僕の中には確信めいたものがあった。
天秤の魔女アルテアに会いに行く。
そこにはきっと、僕とエルリアの秘密が隠されている。
そして、全てを解決できる方法がある。そんな気がした。
夢の中でアルテアが語ってくれた事の大半は覚えていない。
けれど……何か、本当に大切なことを、何かもっと大切な秘密を隠している気がする。
「アルドくんの自信の根拠は謎ですけれど、お付き合いしますわ」
「しばらくはまた、旅がつづくね」
メリアとエルリアが僕の両肩の後ろから顔を覗かせる。
「よーし、行こうっ!」
僕はロリシュから馬車の手綱を受け取ると、前を見てアクセルペダルを踏み込んだ。
<章 完結>
【あとがき】
魔女は恐ろしいだけの存在ではありませんでした。
いろいろな想い、願いを持っていました。
エルリアの呪いを解くための旅はいつしか、
メリアとロリシュとペーター君とともに、いろいろな経験をし、絆を深め、「幸せとは何か」を見つけるための旅、諸国漫遊へとかわってゆきます。
旅は自由気ままに、これからも続きそうです。
この大陸の果てを目指して――。
応援、ありがとうございましたっ★




