姉妹魔女の仲直り
夜が明けた。
太陽がのぼるにつれ、霧もすこしずつ晴れてきた。
朝露に濡れるキャベツが朝日を浴びてきらきらと光っている。畑のあぜ道で、僕らは今朝食の最中だ。焼け残ったミスティアさんの家から椅子とテーブルを引っ張り出し、テーブルクロスをかけ、椅子を並べての青空朝食だ。
「なんだか家が焼けたってのに、マイペースだね」
「流石というか、なんというか」
ロリシュの言うとおり、ミスティアさんは意外と平然としている。
僕らも一緒に少し早い朝食をいただくことにした。
ペーター君は潰してしまったキャベツをたらふく食べさせてもらい、今はぐぅぐぅと眠っている。
「さて、どうしたものか。偉大なる伝説級の魔女……『天秤の魔女』アルテア様が、ミィを狙って刺客を放ってきた。兄妹の秘密を覗き見たことが、逆鱗に触れたようだね」
「そんな呑気なこと言っている場合ですか、ミスティアさま! 殺されかけたんですよ!?」
ユメトくんは流石にそんな気楽にもなれないらしく、ツッこみをいれる。確かに、その気持ちはわかる。
「なるようにしかならないさ。これはとても光栄であり、恐ろしくもあり」
「そんなぁ……お家も燃えちゃったのに」
「空き家なら他にもある。アルドたちが寝泊まりした空き家がある。あそこは日当たりも丁度いい」
「また使い魔とか、眷属が襲ってきたらどうするんですか」
「……そうだね。どうしょうか」
のれんに腕押し、バターにナイフ。飄々とした様子で、ミスティアさんはお茶をすすり、ライ麦のパンをかじる。
僕もチーズをかじる。熱で程よく溶け、食べやすい。
エルリアもメリアもロリシュもテーブルを囲みながら、魔女と弟子(?)の話を聞いてるしかない様子だ。
実のところ、途方に暮れているのは僕らも同じだった。
ここに来た本来の目的は、魔法の馬車のパワーアップ。
夢霧の魔女さまの霧で魔法回転石駆動機関の性能が向上すると聞いたからだ。
「なんだか、とんでもないことになっちゃったね」
「迷惑かけちゃったかも?」
僕とエルリアは困惑ぎみに視線を交わす。
「でも、避けて通れない道ですわ」
「そだね、どのみちアルテアとは接触しなきゃいけないんだしさ」
メリアとロリシュの言うとおりだ。
遅かれ早かれ、天秤の魔女アルテアとは対峙しなくちゃいけない。
エルリアの呪いの秘密を聞き出し、解いてもらう。
僕がどうにかなる可能性もあるけれど、何はともあれ聞いてみなくちゃわからない。
「くぉら貴様! 野良エルフの分際で、偉大なる伝説の魔女さまを呼び捨てにするな!」
キーキーと『傀儡の使徒』マリオネッタが叫ぶ。
ミスティアさんが魔法をかけたロープでぐるぐる巻きにされ、身動きできないように椅子に縛り付けられている。
「なによ、アルテア様ーって呼べばいいわけ?」
「たわけ! 足りんわ! 脳みそまで野蛮人か! 偉大なる伝説の魔女さ……」
「うるさいな食事中なんだけど」
「ひぃ」
ロリシュがテーブルの上にあったブドウ酒の瓶を握り、殴りつける真似をすると口を閉じた。
「あの……ミスティアさま」
「なに?」
ユメトくんがあらたまって、魔女に向き直った。
「お姉さまと仲直りされてはいかがですか? 保護というか、協力というか、お力を借りることができれば、偉大なる伝説の魔女アルテア様とはいえ、簡単に手を出しては来ないのではないでしょうか」
「……そうかねぇ。彼女が本気になればミィたち領域級の魔女なんて、赤子も同然だよ」
「でも、それでも……ミスティア様になにかあったらボク」
「ユメト。そう心配しないで」
それでもミスティアさんは気が進まない様子だった。
確かに小さな使い魔一匹であの戦闘力。桁違いの強さと実力があることは間違いない。
「あの。仲直りって、ミスティア様は、焦熱の魔女イフリアさまと喧嘩されているのですか?」
メリアが恐る恐る尋ねた。
「喧嘩というかね。何年か前にミィのほうから関係を断ったんだよ。腹が立ってね」
「どういうことですか?」
「姉のイフリアは、ミィの夢霧の魔法を、魔法のカラクリに詰め込んで、違う使い方をしはじめたんだ。本来、霧は狭い所に押し込めるものじゃない。自由で、ふわふわと、囚われてはならないものなんだ」
僕らは顔を見合わせた。
魔法回転石駆動機関のことだ。
閉じ込めて火の力で、機関を動かす。その力を利用している。
「それは……ボクも知ってます。でも、イフリアさまのお力だって強大です。とても強いんです。皆を困らせていた人食い沼の主、『泥濘の魔女』を倒して沼を干上がらせて平定! 西の村を飢えさせた『枯木の魔女』もボコボコにして薪にして……」
ユメトくんが瞳を輝かせ熱く語る。
「そうなんだ、すごい強いんだね……!」
「ファンなのね」
エルリアが微笑む。
「ははは……。たしかに姉は要領がよくて商売上手だけど、喧嘩上等。やるときはトコトンやるからね」
ミスティアさんもこれには愉快そうに肩を揺らした。
「身の安全が守れるなら、頼んでみましょうよ」
「ミィが勝手に関係を絶ったわけだからね。いまさら言いにくい」
「あの、だったら」
と、メリアが手をあげた。
僕とエルリアに視線を向けて。考えていることは同じだった。
「僕らが、頼んでみましょうか」
「対価がどうとか言われそうだけどね」
ロリシュが苦笑する。確かにそんな気はするけれど。
「そんなこと、君らに頼めるのかい?」
「なんとかやってみます。考えはありますから」
魔女姉妹の仲直り。その仲介をしてあげれば、馬車のパワーアップのお願いもきっと聞いてくれそうな気がする。
僕らの夢を覗き見して、自業自得という気もするけれど、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかっただろうし。
焦熱の魔女イフリアさんはエルリアルドの力が欲しい。
だから話は聞いてくれるはず。
天秤の魔女、アルテアと繋がるカギ――使い魔がここにいる。これを引き渡せば……。
「よし、そうと決まれば一度、イフリアさんのところに戻ろう」
「この捕虜をつれて」
「まてまてまて!? オレ様をどうするつもりだコラァ!?」
と、その時だった。
「話は聞かせてもらったぜ!」
「か、カルビアータさん!?」
「よっ! アルド」
軽いノリで、剣士カルビアータさんが姿を現した。戦士ムチリアさんと、魔女リスカートさんのげんなりした様子が森の木々と下草を掻き分けて姿を現した。
カッコつけてはいるけれど、クモの巣まみれで服は泥だらけ。頭に小枝が刺さっている。
かなり道に迷って森をさ迷い歩いて来たらしい。
「あぁ、結界を張り直すのを忘れていた。君たちから、姉ぇさんの魔力の匂いがしたからね」
ミスティアさんが静かに三人をみつめる。その視線はリスカートさんに注がれていた。
「あら……気がつかれていましたね……『流石は我が妹じゃのぅ。そうとも、この者はワシの目、ワシの手足……。わざわざ来んでもよいぞ、アルド』」
「イフリアさん!?」
魔女のリスカートさんの口から聞こえたのは、あの見た目は子供の、焦熱の魔女イフリアさんの声だった。
<つづく>




