表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/41

エルリアルド、魂の座

 食事を終えると、ユメトくんが席をたち片付けを始めた。

「手伝うよ」

「お客様にそんな」

「いーからいいから」

 ロリシュが流し場でユメトくんと並んで、片付けを手伝い始めた。


 壁際とテーブルの中央には、香油ランプが灯されている。磨りガラスの向こうは、何時しか夕闇に沈んでいた。


 やがてミスティアさんは僕とエルリアに視線を向けた。

「二人には辛い話になるかもしれない。それでも聞く覚悟はある?」


「あります」

「平気です」

 僕らは静かに頷いた。エルリアにかけられた呪いの秘密、あるいはエルリアルドの力について、何かわかるなら構わない。

 メリアは僕らの横にならんで座り、神妙な面持ちで静かに耳を傾ける。


「断っておくけど、これは妹ちゃん……エルリアの夢に入り込んだミィが、触れて、感じたことを基にした仮定の話だよ」

「はい」

 念押しする夢霧の魔女ミスティアさんに、エルリアが頷く。


「端的に言おう。君たちの魂は一つだ」


「魂が」

「ひとつ?」


「いや、その言い方は正しくないか……。人間の肉体は、経験や学習で得た記憶、考える心、育まれる精神、全身に分かちがたく繋がる霊魂。そういった内なる構造、目には見えない『存在を形づくるもの』が、玉ねぎの皮のように折り重なっている」

 ミスティアさんの説明は解り易く、なんとなく理解できた。


「アルドとエルリア、君たちは肉体はもちろん、『存在を形づくるもの』も別。けれど、さらに深く、根幹となる領域……。すなわち『魂』と呼ばれるものが同根だ」


「同根?」

「同じってことですか」

「そう。ミィの固有魔法、『夢見の霧』で夢をみたのはエルリア、君だ。そしてアルド。君は夢を見ていないね?」


 視線が僕に向けられる。青く深い光を潜ませた瞳は、魔女特有の力を感じずにはいられない。


「さっき見たのは……学舎の夢でした。ここはエルリアの夢だって、直感でわかりました」

「うん、アルも夢にいた」

 エルリアが肯定する。


「それが論拠のひとつ。他人の夢に同居する、紛れ込む。そんなこと普通はありえない。ミィの魔法で過去百年(・・・・)、少なくとも、そういった存在に出会ったことがない」

 言葉には力があった。仮定といいつつ確信を持っているかのように。


「百年!?」

 台所から聞き耳を(そばだ)立てていたのか、ロリシュが声をあげる。魔女の年齢に驚いたのだ。

「……コホン。魔力の源たる『魔素(マナ)』を体内に膨大に宿し、強い魔力を発揮される『領域支配(エリア)(クラス)』の魔女様ともなれば、殆どの場合、考えられないほどの長寿となりますわ」

 メリアがさらりと補足する。でも僕の関心はそこにはなかった。


「たとえ恋人、親子、兄妹であろうとも。身体を重ね、愛し合おうとも、魂が一つになることはない。だけど君たちの魂は深い部分で繋がっている。魂の座(・・・)は、一つと考えていい」


「魂が」

「ひとつ」

 僕らは思わず顔を見合わせた。


 想いを重ねる。それがエルリアルドの発動条件だ。血を分けた兄妹で、魂が近いからこそ可能な、力を引き出せるのだと考えていた。


「原因ははっきりしている。魔女の呪いだろう。だが、片方が死ねばもう片方も死ぬ……というわけではなさそうだ。それぞれ独立した個別の命と精神を確立しているから」


「天秤の魔女……アルテア」

「おっと、あまり軽々しくその御名(みな)を口にしないでほしいな。……神話級(・・・)の魔女は規格外に強大だ。いつどこで聞いているかもわからない。……おそらく、魔法で(ことわり)を曲げたのだろう。普通なら考えられない。一つの魂を派生させ、二つに分けたと考えるしかない。その目的は謎だよ。ミィには計り知れない」

 少し疲れたように肩をすくめる。


 そこに丁度、お茶が運ばれてきた。温かいハーブティーだろうか。とても甘くて優しい香りがする。

 ミスティアさんの話は驚くべき内容だったけれど、どこか頭の片隅で理解していたというか、なんとなく直感で「魂がひとつ」と感じていた部分もあった。

 辛いというよりは、内心すこし嬉しかった。エルリアとは考えていたよりもずっと、誰よりも近しいのだと分かったのだから。

 お茶を口に含み一息つく。


「竜化の呪い……。エルちゃんは呪いを解けば、元の身体に戻れるんですか?」

 メリアが僕の聞きたかった事を先に尋ねてくれた。

 

「正直、ミィにはわからない。その呪い……いや、竜人化の魔法はとてつもなく強力で複雑だ。何の為に、何故にそれが必要だったのか、ミィには皆目見当がつかない。魂が根幹で一つだという仮定が、鍵だと思うが…………」


 何かを言い淀む。ミスティアさんはここまできて言うべきか言わざるべきか、迷っているように思えた。


「教えてください。なにか、分かったことを、何でもいいんです! 僕は、僕らは、エルリアの呪いを解くことを目的に旅をしているんです!」


「それは……お薦めしない」

 ミスティアさんはそう言うと僕を見据えた。


「どうしてですか!?」

「呪いを解けば、おそらく……アルド。君が消えるからだ」


「……な」


 僕が……消える?


「えっ!?」

「そんな……!」

 ロリシュとメリアが驚き困惑の色を浮かべる。


 大きくため息を吐き、しまったという表情を浮かべるミスティアさん。突然の言葉に、返す言葉がなかった。


「……しかたない。ここから先は、推測の推論の、ミィのまったくの想像かもしれない。だけど、夢はその人間の記憶と経験に、魂の深いところから照らされる光で生まれる影だ。夢は時に真実の一端を教えてくれる」


「もったいぶらないでよ!」

 ロリシュが思わず身を乗り出すのを、メリアが押し止める。


「アルドとエルリアは、何か得体の知れない、強い魔法の(まゆ)になっている」

「……!」

 ミスティアさんは、エルリアルドの事を半ば言い当てた。

 誰も、エルリアルドの力、退魔の力の事は打ち明けていない。ここまでの旅の経緯と、呪いを解きたいという目的を明かしただけなのに。


「魔法の正体はわからないけれど、エルリアの夢でミィの魔法を破壊し、弾き出した力だ。確かに感じた。仕込んだのが天秤の……魔女ならば合点がゆく」

「エルリアルド……」

「ほぅ? そう呼ぶのね。認識しているのなら話は早い。エルリア、君は竜化により、魔法の器として耐えうるように肉体を強化、保護されているのかもしれない。他の魔法を破壊するような強力な力と、天秤(・・)のようにバランスをとるために」


 それは合点がいく気がした。エルリアの身体の変化、そしてエルリアルドの力は、互いに表裏一体。バランスがとれているのだとしたら。僕は力を引き出すための器……?


「それとアルド君が消えるって事と、どういう関係が?」

 上ずった声でメリアが訊いた。


「オリジナルの魂から、強大な魔法を生むために魂を分割、あるいは複写した。(ことわり)の歪曲という矛盾による強大な魔力の生成……。それとバランスを取るためにアルドが存在するとしたら? エルリアの肉体を竜化したように。つまり呪いを解く、あるいは破壊した瞬間、分離した魂の片割れ(・・・・・)、つまりアルド。君は消えることになる可能性が高い」


 刺すような、抉られるような痛み。

 息をするのも忘れ拳を握りしめていた。


 僕は――


「そんなの嫌! アルが消えるなんて!」

 エルリアがぎゅっと僕の手を握る。とても温かくて、自分の指先が冷たくなっていることに気がつく。


「天秤の魔女を目指しているのなら、旅を止めるべき。ミィの想像だけど、それが旅の終わり、魔女にとっては収穫のとき」

 

 みんな静まり返っていた。誰も何も言えなかった。


 でも、それでも。

 心に決めたことがある。

 

「……それでも、僕は、エルリアの呪いを解く」


「ダメです、危険です! ミィスティア様の言葉は、想像だけじゃありません。真実をついている可能性が高いんです」


「たとえ僕が消えても、それでエルリアが普通の女の子に、みんなと同じになれるなら良いんだ、だって――」

 いきなり横っ面を叩かれた。平手? いや、グーで。

「アルのバカ! ばか!」

「痛ッ……って、えぇ?」

 エルリアだった。右ストレートで僕をぶん殴ったのだ。

「私は、これが私、みんなと同じ! 羽や尻尾なんて、あっても別にいい……! アルドが消えるくらいなら……このままでいい。一緒にいてくれたら、私……」

「エル……」

(アル)のばかぁ!」

 起き上がろうとしたところに、もう一発。

「んばっ!?」

 二発も殴られた、(エル)に。


「そうだよ、アルド! 決まったわけじゃないじゃん」

「何か方法があるはずです。ほら……焦熱の魔女、イフリアさまも『力を奪う』って」


「君たち、姉さんに、イフリアに会ったのかい!?」

 ミスティアさんが驚いたように声をあげた。


「え、えぇ」

「なるほど、目をつけられたってことは、本物だね。天秤の魔女の力……こりゃ、参ったなぁ」


<つづく>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] な、なんと……! こんな壮大な秘密があったとは……! 聞いてるだけでドキドキします。 しかし、これから先ふたりは一体どうするのか…… 続きを正座してお待ちしております!
[良い点] な、何と! 今話で特大の秘密が暴露されました。 ロリ魔女が姉妹だったなんて!! それにしても、姉である焦熱の魔女イフリアと、妹の夢霧の魔女ミスティアは似ていなかったですよね!? てっきり若…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ