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魔女の領域、フォンシーの村


 霧の中をしばらく進むと、村の輪郭らしきシルエットがぼんやり見えてきた。森の木々が途切れ、広場のようになっている場所を中心に、トンガリ屋根の家々がポツリポツリと見え隠れする。


「きっと、あれがフォンシーの村だね」

「なんだか懐かしい感じ」

 御者席の隣に座るロリシュが、小鳥のさえずりに耳を傾ける。小さな村は森と霧に隠れるようにひっそりと佇んでいた。


「ロリシュの故郷もこんな感じなの?」

「うん、でも木はもーっと大きくて、太くてさ。木の枝の上に家があるんだけど」

「へぇ! すごいね流石はエルフの村って感じ。いつか行ってみたいなぁ」

「うんうん、遊びに来てよ。大歓迎」

 ロリシュと会話を交わしながら魔法の馬車を減速させる。


 森の中を曲がりくねる一本道は、木の柵で囲まれた村の中心へと続いていた。

 村へ入る入口は二本の樹木だった。(こずえ)の間にロープが渡され、中央辺りに木の看板がぶら下げられている。

『夢と霧の村、フォンシー』

 木製の手作り看板は、かなり古いものだ。腐りかけているのか、キノコが看板から生えている。


 魔法の馬車で二本の樹木の間を潜り抜ける。

 村を囲っている柵も簡単な作りだった。背丈ほどの長さの木の枝を組み合わせ、ロープで結んだだけ。これじゃぁ家畜だって隙間を通って出入りできるだろう。


「こんな囲いで、大丈夫なのかな。魔物が入ってきそうだけど」

 周囲には不思議と魔物の気配は無い。けれど、外敵の侵入に対して無防備に等しい。見ていて心配になるほどに。


「でも不思議な気配がする。なんていうか、村の内側は空気が違うというか」

 野生のエルフの勘だろうか。ロリシュは尖った耳をちょっと動かして、何か気配の違いを感じているようだ。


「おそらく、一種の結界が幾重にも張り巡らされているのだと思います。魔物や侵入者を拒む力を感じますから」

 客車に座っていたメリアが静かに呟いた。


「蚊を寄せ付けない魔法、みたいな?」

「それよりもずっと複雑で、強くて、広範囲の魔法です」


 夢霧の魔女、という二つ名を冠する魔女が支配する村なのだから、それも納得だ。きっと何か不思議な魔法で防御しているのだろうと想像がつく。


 でも、僕らの馬車はすんなりと村内に入ることができた。

 村の中へ馬車をすすめる。舗装されていない土が踏み固められただけの道は、広場のような場所につづいていた。

「ここが村の中心部だよ、たぶん」

 見回すと十数軒程度の小さな家々が、間隔を開けて立っていた。茅葺きのとんがり屋根の家々は、向きもバラバラで、広大な敷地に好き勝手、自由気ままに建てた小屋のようにも見える。


「静かだね、誰も居ないのかな?」

『メェ』

 エルリアとペーター君が荷台からぴょんと飛び降りた。

 時刻はおそらく午後の四時をまわった頃だ。空は立ち込める霧のせいか薄曇りで、黄色っぽい太陽が西に大きく傾いている。

 馬車を停め、全員が広場に降り立った。

 公共の水場もあり、綺麗な湧き水が流れている。


「お宿もお店も、無さそう」

「ボクら警戒されているとか?」 

 エルリアもロリシュも困惑する。村は人の気配がまるでなかった。

 歩いている人はもちろん、家畜さえもいない。

 けれど家々は手入れが行き届き、無人という感じでもない。庭先では野菜が育っていたり、鉢植えの花が咲いていたりする。

 エルリアもロリシュも、メリアも少々困り顔で僕に視線を向ける。

「うーん。魔女さんに会いに来たのになぁ」

 困った。

 魔女の家とか看板でもあればいいのに。宿もお店も無いにしても、魔女が棲む家は必ずあるはずだ。

「もうすこし村のなかを歩いてみようか」

「そうだね、散策してみよ」

 ロリシュが弓矢を担ぐ。


「アルド君……!」

 メリアが緊張した面持ちで小さく叫んだ。

「っ!?」

「わ!?」

 霧が一気に濃くなり、視界を奪う。まるで煙に巻かれたように一寸先も見えない。メリアの様子から、これは魔法の霧に違いない。

「みんな、落ち着いて! 大丈夫、離れないで」

 腰の短剣に手を伸ばす。でも視界を奪われた状態じゃ剣なんて役に立たない。冷静に、次に起こる事を見定めるしかない。手を柄から離す。

 霧がまるでミルクのように濃密さを増す。するとやがて目の前で白い人の形を成した。

 それに伴って、周囲の視界が次第に開けてゆく。霧が急速にその白い人形に集まっているのだ。白い人影は、白いドレスを着た女の人へと姿を変えていた。

「わ! 出た!?」


「……ようこそ、フォンシーの村へ」

 真っ青な瞳に、白い肌。全身が白い小柄な女の子みたいだった。小顔だけど瞳は大きくて青い。小さな唇は薄く感情を読み取れない。身に着けているドレスも、限りなくシンプルな、肌着のようなものだ。髪も白く、綺麗なマッシュルームカットで耳のラインで切り揃えられている。

 なんというか、一見するとまるでキノコだ。

 地面から生えた白いキノコを思わせる。


「魔女、ミスティア様でございますね」

「……そう」

 白いキノコのような魔女は、メリアの問いかけに小さくうなづいた。ほっそりとした身体つきだけど、すごい魔力を秘めた魔女なのだろう。


「領域にお招きいただき、心より感謝を申し上げます」

「……ふむ」

「私は見習いの暮らしの魔女、メリアと申します。ここより遥か西、ナルリスタのアルテンハイアットから来ました。私たちはみな旅の途中です。夢霧の魔女様のお噂を聞きつけ、ミスティアさまにお目通りしたく、参った次第です」

 魔女の作法に則り、メリアが丁寧に口上を述べる。白い魔女は無表情のまま、黙って耳を傾けていた。


「……君らには資格が与えられた。歓迎するよ」

 まるで子供のような声。

 焦熱の魔女イフリアといい、姿と年齢は違うはずだ。落ち着きと、醸し出される風格が、見た目との違和感を生じさせる。


「あ、ありがとうございます」

 僕らもメリアに従って頭を下げる。でも資格とは何だろう。察するに通行手形のようなものだろうか。


「……ところで、君たちと同じく森に入った、黒き馬車の一行は仲間かな?」

「あ……」

 思わず顔を見合わせる。

 焦熱の魔女イフリアの命により、僕らを追いかけ、追跡している三人組だ。

「違います、知り合いかもしれないけれど……全然。仲間ではありません」


「……そうか。彼らはここにはたどり着けない。()の魔女……イフリアの気配を漂わせていたから。あの暑苦しい魔力は、ミィとは反りが合わない」

 今度の魔女は自分をミィと呼ぶらしい。そういうところは子供っぽいのだろうか。


「あの」

 メリアに目配せをして、目的を告げようと口を開きかけたときだった。


「……とまぁ、堅苦しい挨拶はこのぐらいにして」

 ミスティアが表情を明るくし、ぱんっと手をうち鳴らした。

 すたた、と駆け寄ってきて僕とエルリアの顔を下からのぞきこむ。切り揃えた前髪の下で丸く青い瞳を輝かせ、

「……君たち、兄妹なの?」

「あ、はい。僕はアルドで、妹のエルリアです」

「……いいなぁ、いいなぁ。この、妹ちゃんの羽と尻尾は何かの魔法かな? とても特別な、濃くて深い魔法みたいだけど……」

「わかるんですか?」

「……魔女だからね。そっちのエルフの子は、西のヨレルヒルの森の匂いがする。好きな匂い。森の子だ。そして魔女見習いのメリア。君はちょっと変わった香りがする……へぇ? 何か、心に秘めているものがある?」

「ボクの故郷だ」

「まっ……そんな」


「……あぁ、気に入った。楽しそう!」

 なんだかよく分からないけれど、僕らは気に入られたみたいだ。


「実は僕ら、魔女さまにお願いがあって」


「……オーケー。ならルールは簡単。君たちの夢を見せて。夢霧の中でミィを楽しませて。それが願いの対価」


「願いの……」

「対価」


「そ」

 まるで踊るようにくるりと回ると、ワンピースのような白いドレスの裾も花弁のように広がった。

 ミスティアは悪戯っぽい笑みをこぼすと、ふたたび周囲に霧が立ち込めた。


<つづく>

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― 新着の感想 ―
[良い点] イフリアさんも良かったですが、ミィちゃんもまた別方向で好きですー! ロリ魔女良いですね!!w
[良い点] ちょっと方向性は違うものの、再びロリ魔女が登場するとは。(笑) 『同類相哀れむ』ではないですが、隣の領域を護っている焦熱の魔女イフリアとは反りが合わないようで……。 魔女を滅ぼすエルリアル…
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