第九話 インキャ、ヨウキャ女子に屈する
「影山! ちょっと待って!」
話も終わり、帰ろうとしていた時だ。
宇佐は恥ずかしそうに俺に声をかけていた。
「なんだ? まだ何か用か?」
「明日、二人でご飯食べれないかな? 人目がないところで」
あー、なるほど。そういう事か。
俺がインキャだから周りにはばれたくない。
だけど、タダ飯は食いたいということだな。
良いだろう。1週間で俺の小遣いを使い尽くすといい。くそっ。これだからヨウキャは......
「わかりましたよ、分かってるって! 心配すんなよ! ちゃんとするから」
「え? う、うん?」
そうさ、俺は約束を守る義理堅い男だ。
出雲との約束も破ったことはないし、女から命令されたことも破ったこともない。
『大丈夫だ。安心してくれ。約束は守るから』と言いかけた時だ。
屋上の扉が勢いよく開かれていた。
「あー! 宇佐! やっぱここにいた!」
「え、てか、なんで影山がいるの? なにこの状況うける!」
宇佐が所属しているヨウキャグループの女子二人が扉を勢いよく開いていた。
「凛に奈菜! どうかした?」
「この後、服見に行くっていったじゃん!」
「そうだよ~。全く、しっかりしてよ~。ねえねえ、それより、これどういう状況?」
同じクラスの凛と奈菜はニヤニヤしながら宇佐に聞いている。そして、宇佐は黙り込んでいる。
分かりますとも、ここでパシリに使っているとバレたら色々と面倒だからな。
仕方ない、俺が適当な理由で宇佐を救うしかないか。
こいつらにバレてからかわれたりするのは嫌だからな。
「そ、それはだな。俺から説明し――」
「それはね! 影山ってさ~インキャじゃん。なんかーイメチェンしたいらしくて、相談にのってたの! 私優しくない?」
「あー、そういうことね!」
「私、てっきり影山と宇佐がいい感じかと思ったよ」
「いや、私は影山に言い寄られてるのかと思ったよ!」
「ないない! ねー影山? 1週間そうだよね?」
宇佐は意味深長な言葉を言ってきた。
『え? なんのことですか? 1週間? 知りませんねぇ?』と言いたいところだが、事態をややこしくしたくはないのでただ頷いた。
「え、じゃあ、影山も誘って見に行けばいいんじゃね?」
「何それ笑うんだけど! まぁ、一応同じクラスだしね~。いいと思う」
なんだよ、一応同じクラスだしって。
こいつらが俺をどう見てるか、今はっきりしたな。
「そ、そうだね! その方が楽だしね! よし、そうしよう!」
冗談だよな。俺がヨウキャ代表みたいな凛と奈菜と一緒に遊ぶだって?
『影山これ似合う~。ぷぷっ』『影山! 普段どんな服着てるの? え? 出雲が選んだもの? なにそれ、うけるんだけど』
こんな様に弄られるのは間違いない。
そんな状況にただ黙って陥るほど俺の脳は馬鹿じゃなかったらしい。脳は今すぐ逃げるように命じていた。
「そのことだけど、すまんな! 宇佐。 頼んでおいてあれだけど、今日は予定があることを忘れていた!」
すると宇佐は俺の事を睨みつけていた。その視線は『破ったらどうなるか、分かってるんでしょうね』と言いたげだった。
あー、どうやら俺は逃げられないらしい。今すぐに帰宅してゲームやアニメで現実逃避したい。
でも、それは許されないようだ。
「い、いや! やっぱ行く! 予定はいつでもいいし!」
「影山うけるんだけど!」
「挙動不審じゃね! どうしたの影山?」
凛と奈菜は俺を見て笑っていた。
あー、だから行きたくなかったんだ。
女性不信の俺は普通の男が傷つかないような言葉でも傷つくからな。
「まぁ! 影山が挙動不審なのは今に始まったことじゃないじゃん?」
「それな! まぁ、じゃあ、いこっか」
こうして、俺は連行されるようにファッションビルに連れていかれた。
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