第七話 インキャ、嫌な奴に出会う
「白兎くん、あーん!!」
「いやだね」
「なんでー!! 駅前では惚気てくれたじゃーん!」
「あれは...... 一時の気の迷いってやつだ!」
結愛はデートで喫茶店に入ると、俺の隣に座りパフェをあーんしようとしている。
そんな誰もが羨むことをやられてるけど、俺は違った。
なんでかって。いつ裏切りが発生するかわからないからな。
女心と秋の空っていうだろ。つまり、油断はできないってことさ。
「えー、本当はして欲しいくせに! 私、白兎くんのためならなんでもするのになぁー!」
正直に言おう。俺はその言葉にはドキッとした。
だって、なんでもだぞ。あんなことやこんなことができるんだ。ゲームやアニメで散々見てきた展開が。
だが、そこに食い付いたら『影山君! 冗談だよ......』というに違いない。
俺だって女子には嫌われたくないさ。やりたくて、インキャ生活しているわけではない。
折角女子とお近づきになれたのに、それを無駄にするやつがいたら、そいつは真性のアホだ。もしくは、俺と同じようにひねくれたインキャ野郎だね。
そんなひねくれた思考をしていると、俺の目の前に宇佐とはまた違ったベクトルの陽キャが現れていた。
そいつは酷く匂う香水をし、髪は金髪だった。所謂ヤンキーに近い恰好をしていた。
そして、俺はそいつのことを知っていた。
「あ、影山じゃん! 久しぶりーいまなにしてんの?」
そう、嫌な奴第一号だ。
幼稚園の時は『好き、好き!』と言っていたくせに、久しぶりに出会った俺を弄んだ女だ。
小中と、なるべくこいつの顔は見ないようにしてきた。絡まれるのは嫌だからな。
だから、突然目の前に現れて話しかけられると、言葉が出てこない。
「大崎か......」
俺は小声で言うと
「声、ちっさ! うけるー。それより、隣にいるのって彼女?」
「こいつはその...... ただの友達だ」
「だよねー! 影山に彼女なんてできなさそうだもん」
大崎はは腹を抱えて笑っていた。
俺はその行動を見てハラワタが煮えくりかえっていた。
小学の時から大崎はずっとこんな感じだ。
「お母さん綺麗だから、影山もかっこいいんだねー。嘘だけど!(笑)」とか「うわ、ゲームの話してる時の影山きもっ」とか。
とにかく、こいつは猿山のボスで、誰も逆らうことが出来なかった。
だが今は違う。もう高校生だ。
身長も、体重も、俺の方がずっと育っていた。
「うるせえ!!」
「え、なに急に!こわいんですけどー。精神不安定すぎ!」
大崎は再度笑い出した。
相変わらずこいつは人を弄ることにより笑いを取るようだ。取り巻きも笑っていた。
あー、終わった。折角、うまくいきそうだったんだ。
だが、またこいつに壊されるんだ。
結愛も嫌な奴第2号のように、情けない姿を見れば俺を嫌いになるだろう。
結局こうなるんだ。
あー、やっぱり女と関わるのは止めるべきだった。
今後は絶対に鉄則を破らない。何があってもだ。
そう思っていた時だ。
「大崎さんと言いましたっけ? もう黙って見てられません! 私の白兎君にちょっかい出さないでくれませんか?」
結愛は立ち上がると大崎を睨みつけていた。
「え?なに?影山、この女にいくらお金積んだの?」
「ふざけないでください!!」
結愛は大崎の頬を叩いていた。
「ちょ! なにすんだよ!! 可愛いからって調子のってんじゃねーぞ!!」
大崎は結愛の胸ぐらをつかんでいた。
何をやってるんだろう。過去に捕らわれたまま、なにもできないなんて。
結愛は俺のためにこんなにも頑張ってくれているというのに。
行動しなきゃな。俺のためにも。
もうどうにでもなれだ。1分後には天国にいるかもな。
「大崎、はなせっ! おい、結愛いくぞ!」
俺はいつの間にか結愛の手を取ると、カウンターに向かっていた。
「ちょっ! 影山!? 折角だからlone交換しようよ!!」
「うるせえ! 俺に2度とかまうな!!」
「え...... ご、ごめん......」
俺たちは小さな声で呟く大崎をおいて、店の外に出た。
「あ、ありがとうな。さっきは助かった......」
「いいんだよー! 私もむかついたし! それに......」
「それに?」
「かっこよかったよ!!」
そう言うと結愛は俺に抱き着いていた。
「ちょっ! それとこれとは別だ。離せ!」
「ふふっ! いやだもんねー!」
女の子特有の甘い匂いが俺の鼻を刺激する。
そんな甘い匂いに俺は身をゆだねた。
まぁ、こんな日があってもいいだろうってね。
そして、俺のトラウマは結愛によって少し癒えた。
そんな気がした。
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