第五話 インキャ、超絶美少女とデートにいく
「影山君! おはよう!」
教室に入ると、結愛は手を振りながら近づいてくる。
俺はそんな結愛を無視して教室の雰囲気を確認する。
「昨日のイケメンの動画見た?」
「うんうん、めっちゃかっこよかった~」
「今日の放課後あそばね?」
「じゃあさ! 帰りに女子たちとカラオケいくべ!」
そんな会話が聞こえてきて一安心する。
宇佐はまだ落とし前をつけようとは思っていないようだ。
だが、“まだ“なんだよな。
宇佐はまだ教室に来ていない。だから、まだ時間はあるはずだ。
崖っぷちでも諦めたくはない。小学生の時のようなことは2度とごめんだからな。
「ねぇー!! 聞いてるのー! かげやまくーん!!」
「きいてないね」
「聞いてよぉー! ねぇー!」
いつものように抱き着いてくる結愛を適当にあしらっていると、野球部所属の出雲が爽やかな笑顔で俺たちの前に現れた。
「影山、結愛さん。おはよう!」
「おはよう! 出雲」
「出雲くんおはよ~。ねぇ、聞いてよ~。影山君が挨拶返してくれないの!」
「それはいけないなぁー影山! それより、おまえ、lone見たか?」
「いや見てない」
「今すぐ見てくれ」
俺は今すぐにでも解決策を考えたかった。でも、出雲の頼みだ。見ないわけにはいかない。
それに、急用のようだしな。
俺はloneを開いた。
『月曜の放課後、一緒に遊ぼうぜ! 陰台駅西口で集合な』
インキャは基本的にSNSの類は見ない。なぜなら、連絡が来ないから。
見なかったことについては謝る。
だが、二日前のloneを今見る必要があるか!?
いや、ない。
真剣そうな眼差しで言うから、大変なことだと思えば......
出雲...... 俺はお前がこんなに馬鹿だったなんて思わなかった、悲しくなるよ......
まぁ、行くけどさ。
スマホを覗こうとしてくる結愛をブロックしながら、俺は『ok』 と返事をした。
◇
「はぁーーーー」
陰台駅西口改札で俺は大きなため息をついた。
その様子を怪訝そうに通り過ぎる人たちは見ている。
このところ不幸続きだ。このままいけば、悪夢の再来だ。
結愛も俺を弄ぼうと必死だし、出雲も様子が変だ。それに、宇佐の件もある。
『どう落とし前つけるんだ、ごら?』
そう言った宇佐の言葉は今も脳裏に焼き付いている。
今日はたまたま、陽キャ学校大好き宇佐が風邪で休みだったからよかったが、明日からの地獄の日々を思うと憂鬱だ。
「はぁー...... どうしたものか......」
俺は再びため息をつくと、背後に嫌な気配を感じた。
「かげやまくーん!!」
どうやら俺は身近な女子の気配を察知できるようになったらしい。
結愛は後ろから抱き着いていた。
「離れろ! そのふくらみを押し付けるのをやめろ!!」
「えぇー!! いいじゃん!!」
「よくない! 離れろ!」
「えぇー! わかったよー!」
結愛は頬を膨らませている。
ああ、危なかった。今回の攻撃はかなり過激だった。
柔軟剤のいい匂いと、柔らかい感触、それに絡まった足。
数多くの男を弄んできただけあって、強烈な攻撃だった。
やはり、この女できる。
やるな、結愛。
だがな。今日の俺は一味違う。
なぜなら、出雲と“遊び“の約束があるからな! インキャ引きこもりは常に一人だと思うなよ!!
「わかったならいい。それより、俺用事あるから行くわ!」
ふっ。勝ったな。持つべきは友ってな。
ピロロロローン
丁度良く出雲からloneも来たようだ。
俺はloneを開いた。
『わりぃ、部活の練習でいけねーわ!』
あいつ...... 今度会ったらゲーオタで一番くじを買わせてやる。
「どうしたの、影山君!?」
「いや、何でもない。 それじゃ!」
「まって......」
結愛は俺の前に出ると、いつにもなく真剣な表情をしていた。
「な、なんだよ」
「私とデートしてくれないかな......?」
結愛は上目遣いで答えていた。
俺はいつにもない真剣な表情の結愛に見惚れた。
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