第四話 インキャ、ヨウキャ美少女に付きまとわれる
休日のインキャの朝は遅い。なぜなら、何の予定もないから。
だが、今日は違う。
ここ数日女と関わるということでビクビクしながら生活していた俺は、ストレスが溜まっていた。
だから、行きつけのアニメショップ『ゲーオタ』で、以前から欲しかったゲームを買う予定だ。
ゲーオタは危険な生命体が少ない。そんなゲーオタは俺にとって数少ない憩いの場だ。
ああ、自分の部屋を除いてね。
部屋を数に入れると、ダントツ1番になってしまうからな。
まぁ、そんな感じで俺はルンルン気分でゲーオタに入ったんだ。
入ったんだが、俺は一瞬にして来たことを後悔した。
八坂宇佐がゲーオタにいた。それも、俺が買おうとしているゲームの前に。
なんだ? これは夢か? なぜファッション大好き陽キャ野郎がこんなところにいる。
一番あり得そうな理由は彼氏の付き添いだ。だが、陽キャの彼氏がこんな店に来るとは思えない。
ま、まあ。理由はどうであれ、見つかったら面倒だ。
ばれないように早くこの店を出るべきだな。あのゲームが欲しかったが、別な店舗で買えばいいさ。
俺はばれないようにこっそりと宇佐の後ろを通ろうとした。
だが
「あ...... 影山......」
「影山? どなたでしょうか? 人違いでは? では」
俺は宇佐と目が合ってしまった。
それに、宇佐は俺に話しかけている。
これはからかわれる展開だ。絶対に避けなければならない。
頭の中でサイレンが鳴り響いている。すぐさま撤退しなきゃな。
俺はばれないように俯いて逃げることにした。
「いや、どう見ても影山でしょ!? な、なんであんたが!!」
だが、逃げ出そうとした俺の手を宇佐は掴んでいた。
うーん。どうやら今年の俺は呪われているらしい。中学1年生から一度も破ったことのない『女と関わると不幸になるので、関わるのをやめる』という鉄則を何度も破ることになるとは。
「お、俺はただ興味本位で入っただけだが? お、お前こそなんでいるんだよ?」
『影山、マジインキャだね。うけるっ。ねー? 皆にばらされたくないよね?』
なんてことを言われないための完璧な作戦だ。
わざと噛みながら言うことにより、初々しさを演出する。加えて、宇佐がこの店にいるという事実を突きつける。
あー完璧だ。ふっ。結愛とは違い、宇佐。お前は弱い。
俺を弄ぶことなどできないのさ。勝負あったな。
そう思ったんだ。
だが
「ちょっとあんた来なさい!」
宇佐は予想に反して、俺を拉致していた。
『え、私は彼氏の~とか、友達の~とか』そういう事を言うと思っていたんだけどな。
そんな完璧な作戦だったはずなのに、なんでこうなった。
やるな、宇佐。
「影山! あんた、なんであそこに!」
俺は裏通りに連行されると、開口一番さっきと同じ質問をしてきた。
さてはこの女。俺がゲーオタにいたことを利用して弄んだりする気だな。
その手にはのらないぞ!
「宇佐こそ、なんでいたんだろうなぁー?」
ふっ。宇佐もまたゲーオタにいたんだ。この勝負もらったな。
「そ、それは......」
「それは?」
「なんというか...... その......」
「その?」
「わ、私は!! オ タ ク なのっ! 悪いっ!?」
陽キャで何言われても平気そうな宇佐だったが、意外にも目を潤ませていた。
あーでたぞ。これは女の必殺技だ。何か都合が悪いときに発動させる奥義だ。
男はそうされると何もできなくなる。
だが、俺は違う。俺は女に嫌われることを気にしていないからな。
ちょっとギャップ萌えしたとかそんなことを思ったりもしたさ。
だかな。その手にはのらないぞ!!
「別に悪くはねえよ。でも、陽キャである宇佐がゲーオタにいるとは皆思わないだろな。だから、とりひ――」
「う、うるさいわねっ!! どうせ陽キャっぽい私は陽キャでしかいられないわよ!! ばらしたいなら、ばらしなさいよ!!」
そう言って、宇佐は目を潤ませながら俺を押していた。
それは覚えている。
「いってぇ......」
「ちょっ! 影山!」
「え?」
「『え?』じゃないって! 早く放してって!」
俺は宇佐のふくらみを触っていた。
「す、すまん! まさかこうなるとは......」
「わ、私...... 触られたこともないのに!!」
「は?」
「だから、私! 触られたことないの!」
「えっ! まさか......」
「そうよ!! 影山っ! あ、あんた責任とりなさいよ!?」
俺はその瞬間悟った。俺の敗北であることを。
宇佐が石に躓いて転ぶことを考慮してなかった俺の負けだ。
宇佐は『お前どう落とし前つけるんじゃ、ごら』って言ってるってことだ。
終わった。俺の高校生活は確実に終わった。
これから先、女の胸を触ったってレッテルを張られながら生きるんだ。
周囲の女からは『きもっ』『インキャオタク』『影山君、宇佐さんの胸触ったらしいよ』なんてことを言われるのさ。
はぁー。どうしようか......
そんなことも世間は考えさせてはくれなかった。
「お姉さん! 大丈夫ですか! おい君! 離れろ!」
通りかかったフェミ野郎が俺にそういっていた。
『インキャ男子は女性と触れ合えば犯罪なのかっ!? 違うだろ! フェミ野郎』
そんなことを言いたいが、状況は悪い。
よしっ、逃げよう。
俺は『か、影山! 責任とりなさいよね!』と脅してる女を無視して、ダッシュで家に帰った。
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