第二話 インキャ、美少女の手作り弁当を食べる
「影山! こっそりと逃げようとしない!」
こっそりと逃げようとした俺を宇佐は見逃していなかった。俺は囚人の様に食堂に連行されていた。
あーだりぃ。脱獄計画は失敗か。
俺は諦めて、席に座ると結愛は弁当を俺に差し出している。
「影山君! 私、お弁当作ってきたの! 食べない?」
結愛のその言葉に、俺の頭の中ではサイレンが鳴り響いていた。
『警告! 警告! 小悪魔である女が平穏な生活を脅かす発言をしている。直ちに、避難してください』ってね。
「嫌だね」
「そんなー食べてよぉー! 折角食べてくれる機会ができたのにぃー!」
まさか。結愛はここ数日、弁当を二つ作っていたのか?
いやいや。そんなわけないって。
毎日好きな男子に作るのも手間なのに。一体全体、どこのどいつが好きでもない奴の弁当を毎日作るってのさ。
きっとこれも罠だね。
騙されないぞ。勝つまでは。
「い や だ ね」
「はぁー、影山! 私が味見してあげるから、食べてあげなよ。可哀想な結愛ちゃん......」
宇佐はため息をついていた。
くそっ。俺が悪いってのかよ。
はいはい。分かりましたよ。悪者である俺は食べますよ。
「ま、まぁ、毒見してくれるなら、食べてやらんでもない」
「ほんと? やったーー!!」
結愛は手のひらを合わせて喜んでいた。
「でも、影山君はなんでそこまでひねくれちゃったのかな?」
青島の言葉に『うるさい、俺の何が分かる、イケメンが、爆発しろ』と心の中で唱えた。
だが、男である青島にそれをいうわけにはいかないしね。
「ひねくれていることの何が悪い......」
俺のその言葉に青島と宇佐は苦笑いしている。
「それでー? 結愛ちゃんは影山のどこを気に入ったの?」
宇佐が聞いている。
「それはねー! 街で男の人に絡まれているときに、助けてくれたの! それから、気になって影山君のことをストーカーすることにしたんだ! そしたら、もっと好きになっちゃって...... 」
結愛は頬を赤く染め、俯いていた。
えっ。今すごいことを口にしたよな、この女。
いやまて。もしそうだとしたらアニメショップでエロい漫画をみていたことや、一番くじのフィギュアの足をにやけながら眺めていたことも見られていたということだ。
いやいや。もし仮に、ストーカーしていたらそんな奴の事気になるわけがない。
本当のことのように話すことにより、惑わせる作戦だな。
事実、混乱したしな。やはり、この女、できるな。
一瞬でも気を抜いたらやられる。
「別にお前のことを助けたわけじゃない...... 犬が! 目を潤ませた犬が! 俺に助けを求めていたんだ」
「そんなわけないでしょー! 影山君は私を助けに来てくれたんだよねー?」
結愛は自分の弁当のおかずを俺の口に向けていた。
あー、こんなに分かりやすい罠はないだろうな。超絶美少女である結愛が間接キスを気にせずに『あーん』をしてくるんだ。
きっと、俺が食べるそぶりを見せたらこう言うだろう。
『影山君! きもーい! え、なに? まさか、信じてたの!? うわ、うける~』
クソっ。俺の事を舐めていやがる。
だが、そんな分かりやすい罠にハマるほど俺は素人ではないぞ。
「結愛の唾液付きの食べ物なんて食べるわけないだろ」
「えー、食べたいくせにー!」
結愛は頬を膨らませていた。
あざとい女だ。これまでに一体何人の男が弄ばれ、犠牲になったんだろ。
あー、神よ。せめて犠牲になった勇者たちに平穏を......
「はぁー。私には影山のどこがいいのか、さっぱりわからないわ! てか、きもいレベルだよ」
「僕にもよくわからないなあ。結愛ちゃんはモテるんだし、もっといい男がいるよ。イケメンで、性格がいい男がね」
こいつら! 結愛のストーカー発言の時は、気にしていいなかったのに。俺の唾液発言はだめらしい。
くそっ。不平等だ。やっぱ顔なんだなー。顔、顔なんだよ。
まぁ、でも、宇佐はまだ可愛げのある暴言だから許そう。女だけどね。
だが、男である青島が失礼なことを言ってくるとは思わなかった。
これだからフェミ、イケメン野郎は嫌いなんだ。どうせ青島は結愛の尻を追いかけているに違いない。
いいさ、くれてやる。そっちの方が安心して学校生活を送れるからな。
「なんでそんな酷いこと言うの! 影山君のこと悪く言わないで!」
「ご、ごめんね!」
「僕も悪かったよ! 結愛ちゃんの気持ちも考えないで......」
正直に言おう。少しドキッとしてしまった。
なんだ? 俺は結愛に恋をしたのか?
いやいや、こいつの外見に惑わされてはいけない。
油断させて、尻辺りに噛みつく気だ。
よくSNSとかで肉食動物と草食動物が仲良く接している映像ある。
一見、見る者を幸せにする映像だ。だが、俺は知っている。その後に、尻に噛みつくんだ。
あー、我慢した甲斐があるってね。
「影山君...... 俯いてるけど、平気?? 私が、抱きしめて癒してあげる!」
結愛はまた突飛なことを言い、俯いていた俺に抱き着いてきた。
その行動に宇佐も青島も呆れて、肩をすくめていた。
「離れろ!! この肉食動物め!」
あー。柔軟剤の匂いが鼻を刺激する。
今度は匂いで嵌めようとしてきたか......
それに、俺が触ることによって『あー、影山君が...... 私を汚した! うえーん』とか言って俺の学校生活を破壊する気だな。
やるな、伏見結愛。こいつとは長い戦いになりそうだ。
俺はそう思いながら、結愛に言葉で抵抗した。
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