第十一話 インキャ、ヨウキャ美少女とお茶する
「ねえねえ、宇佐」
「なに?」
「あたしら、カラオケ行ってきていい?」
「あ、おーけー!」
「ごめんね! ちょっと飽きちゃって」
「ううん。全然いいよ。また明日あそぼ~」
「りょーかーい! じゃあ、また明日ね!」
「またあした~」
凛と奈菜は1万円を払うことになった後、俺をからかうことに飽きたらしい。
二人は宇佐にそう言うと、俺たちの前から去っていた。
なので、俺は宇佐と二人っきりだ。
そんな俺たちを傍から見ればどう見えるのだろうか。
俺はその答えを知っている。
その答えは男女別だ。
女性陣の意見は『え、なに? あのいびつな二人組...... 女の子は可愛いのに、男の子インキャ臭い。女の子かわいそー』で、男性陣の意見は『おいおいおい! ヨウキャ女子にインキャ男子が絡まれてるじゃないか! 助けたい。でも、助けられない。ごめんな、青年』だろうな。
俺がそんなどうでもいいことを考えていると、宇佐は俺に対して初の任務を課していた。
「影山、ちょっとお茶でも飲まない?」
そう。初の任務とは『私のために飲み物を買ってきなさい』だ。
そして、俺はその任務が課されることを予め知っていた。
なぜなら、人は生き物だからな。ふっ。簡単だぜ。
「わかってるさ。ちょっと待っててくれ」
「え? ちょっと! え? どういうこと?」
俺は宇佐をベンチに残すと、飲み物を買うために自動販売機に向かった。
自動販売機には色々な飲み物が販売されている。ホットやクール。スポドリ、炭酸、甘い飲み物、お茶。
そんな色々な種類の飲み物が販売されている自販機の前で、俺は突っ立っていた。
なぜなら、俺は宇佐が何を飲みたいかという、肝心なことを聞くのを忘れていたからだ。
やってしまった。ここで、選択を間違えれば、パシリとして失格だ。
ミスは許されない。
そんな状況だからか、額からは汗が滴り落ちている。
くそっ。どうすればいいのさ。
落ち着け、俺。落ち着くんだ。
宇佐は確か『お茶しない?』と言っていたはずだ。
そして、日本でお茶と言えば緑茶だ。
この論理にかけるしかないだろう。
俺は緑茶のボタンを押し、宇佐の待つベンチへと戻った。
「買ってきたぞ。緑茶でいいんだよな?」
俺は悩みに悩んだお緑茶を宇佐へと差し出す。
すると、宇佐は笑っていた。
「か、影山。ぷぷぷっ ハハハハハハ!」
何が面白いんだろうね、こいつは。
いや、分かったぞ。宇佐は面白くて笑っているのではないな。
おそらく宇佐は、緑茶じゃなくてコーヒーか紅茶を欲していたんだろう。
なぜなら、ちょっとお茶を飲まない=店でお茶する=コーヒーor紅茶となるからだ。
やってしまった。俺はパシリとして失格で、宇佐にパシリ期間延長を命令されるだろう。
最悪だ。
「コーヒーか、紅茶だったということだよな...... すまん」
すると、今度は爆笑していた。
「ち、違うわよ! 『お店でゆっくりしない』って言ったの!」
俺は宇佐のその言葉を聞いた時、愕然とした。
俺は今まで女の感情や表情を気にしながら生活していた。
なぜなら、平穏な人生を歩むための必須スキルだからだ。
それなのに、『飲み物買ってこい』という簡単な任務でさえ達成できなかったのだ。
どうやら俺はまだまだ修行が足りないらしい。
それと、やるな、宇佐。
「あー、そういう事だったのか、すまん」
「いいけど、影山って変人だよね ぷぷっ」
どうやら初回だから宇佐は許してくれるようだ。
あー、なんて優しいのだろう。大崎や小学の時、俺をからかった女子に爪の垢を煎じて飲ませたいね。
「そ、そうか」
「うん。それと、ありがとうね」
宇佐は笑うことを止めると、微笑みながら言っていた。
なんだろうこれは、ちょっとドキッとする。
だが、忘れてはいけない。俺は今こいつのパシリだということを。
つまり、『次もお願いします』ってことだ。
「いいんだ。俺が購入するのは、当然だからな」
「そっか」
「おう」
俺がそう言うと、宇佐は俺の顔をじっと見つめていた。
そしてその行為が10秒ほど経って、俺が恥ずかしくなってきた時に、宇佐は口を開いた。
「ねえ」
「なんだ?」
「影山って意外と優しいんだね。なんか結愛ちゃんが好きな理由が分かった気がする」
宇佐は微笑みながらそう言っていた。
そして、俺はその言葉に何も返すことができなかった。
だって、場の雰囲気がナルシスト的、ひねくれたことを言うのを邪魔するからな。
だから俺は黙っていることにした。
すると宇佐はニコリと微笑むと、口を開いた。
「さて! もう7時だし、そろそろ帰ろう!」
「そうだな」
「うん。またあしたね!」
「おう」
宇佐はバス乗り場に、俺は駅へと向かった。




