8話『夏へ』
「おはよう……」
朝が来て、六時ごろから昇り始めた朝日はすでにいつもと変わらずに照らしていた。
遮光カーテンの隙間から射した斜光が櫻木の滑らかな肌に宿る。
長いまつげが微震して綺麗な瞳を縁取る。寝起きの瞳が柔らかく微笑んで僕を見据える。
「おはよ。コーヒーでも飲む?」
「朝からなんていらないよ。それより、えらいね。ちゃんと勉強してたんだぁ」
今日は朝食を僕の家で食べた。櫻木はできた子で洗い物の手伝いをしようとしたら母は「いいのいいの」と、意味ありげにほほ笑んで僕を見た。さっぱり意図が分からない。この年になるとそういうことが多々あるのだ。年だ。ババァだ。口には出さないで心の中で愚痴る。
それから登校中単語帳を開いたり、軽く問題を出し合ったりしていた。
そのおかげもあり手ごたえはあった。
「テスト、どうだった? 俺は二徹で叩き込んだぜ」
「残業おつかれ。まぁ、とりあえず赤点は回避できたんじゃないかな」
「そっかー、七十点台は押さえないと親になんていわれるか」
こうしてとりあえず長き一週間にわたるテストは終わり、土日を挟んで週明けにテストが返された。全教科平均して五十三点。僕は夏休みを勝ち取った。
ちなみに風太は余裕で最低限の七十点を超え、最高得点が九十八だったそうだ。櫻木は言うまでもなく全教科九十点台で学年七位だった。上位勢こわい。