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5話『向こう窓の幼なじみは夜に』

 玄関ドアを開け、「ただいま」と声を出し、帰宅を知らせた。その声に気が付いた母が先に風呂に入る様に促した。それに従い秋谷は風呂場へと向かう。洗面所で自分の顔を睨む。相も変わらずぱっとしない顔だと頷く。


 手早く体を洗い、部屋着に着替えて廊下に出るとちょうど帰宅した父を目が合う。労りを込めて「お帰り」とぼそりいう。


ご飯ができるまでの暫しの時間を自室で過ごすことにした。櫻木を除く他者に侵されることのない空間だ。完全なプライバシー保護に長けている。


 遮光カーテンを手で払うと対面の部屋に光がともっていた。その部屋こそが櫻木の部屋である。小学生位の頃はお互いスマホなどなく、よくこうして窓を開け網戸越しに言葉を交わしたものだった。けれどスマホを手に入れた中学時代からぱたりと無くなった。時々カーテンを開け、お互いの顔がちらっと見える程度。


 しばし見つめていたがついに櫻木が顔を出すことなく、秋谷は諦めカーテンを閉じ、ベッドへと寝ころんだ。背中に確りと感じる木の堅剛。将来はもっと寝心地のいいベッドで暮らしたい。これでは逆に疲れるばかり。


そう思っていると下から食事ができたことを知らせる親の声が聞こえ飛び起きた。


 聞こえているか知らないがとりあえず生返事を返した。階段を下りながら鼻を利かせる。どうやら今日は唐揚げであることを知る。たっぷりとマヨネーズをかけて食べるのが好きだ。塩コショウもいい、レモンもいい、一層の事すべて混ぜようか。


 つい最近買い替えたばかりの炊飯器の炊き加減は絶妙。唐揚げとご飯。最高だ。パリットする皮、もにゅっと肉厚は噛むたびに肉汁が溢れ出し口腔を灼く。けれど構わない。一向にかまわない。なりふり構わず食べてしまう魔性が唐揚げにはある。そして二十分とたてば腹九分をこえ、一歩踏みしめるたびに壮絶な吐き気が襲った。


 ――夕ご飯は食べた?


 ――食べたよ。唐揚げだった。


 ――うちはハンバーグだったよー


 ――それもいいな。肉は好物だ。


 ――唐揚げとどっちがいい?


 ――五分五分。コンマ1位で唐揚げが優勢かもな。


 メールでのやり取り。秋谷は寝るまでの間、勉強するでもなくベッドに転がり、スマホをいじっていた。


 ――ちゃんと勉強してる?


 ――してるしてる。絶賛数学の復習中。


 ――すごく返信早いけど?


 ――そういう櫻木だって。


 ――私は休憩中。秋谷とは違うんですー


 ――マジか、えらいな。


 秋谷はスマホ片手にカーテンを手の甲で払う。対面の窓にこちらを窺う櫻木と目が合った。そして櫻木は微笑み手を振って来た。


 ――ちゃんと勉強しなさい。留年するよ?


 ――ま、ぼちぼちね。


 それから勉強再開まで休憩時間の相手をした。



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