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45話『知恵をつけた〇』

 夕食が終わり、僕は部屋に沸かしたお湯を持って行った。目的を母親に聞かれたが僕はうまく答えられず「足湯だよ」と答えた。僕は自ら地獄の釜に足を入れる気分。


「何してんの? 人のパソコンで」


 僕のパスワードがばれるとは。これだから誕生日はやめようと思っていたのに。


 取り外されたハードディスクがカップ麺のそばに。それは、僕のパソコンはもはや僕のことを覚えていないらしいことを告げていた。


「ごめん、ちょっと改造かも?」


「別にいいけど、直せるんだよね?」


「大丈夫ダイジョブ」


 不安要素のぬぐえない発言に僕は憤りを忘れて呆れる。もうどうでもいいや、わかっていたことだ。自由にさせてはいけない。けれどおとなしくしていてくれるならそれに越したことはない。


 僕は指示されたカップ麺にお湯を注ぎ、きっかり三分計る。


「あと二分、で、何してんの?」


「見る? 今絵かいてんの」


 後ろから覗くと二十インチを超える大型の液タブに絵があった。前回見た時よりだいぶ上達している。デッサンとか絵画とかとういう上等なものとは違い、親しみやすい漫画とかそういう二次元絵に近い絵柄。


 リュックがデカくて重い音を奏でたのはこいつが原因か。


「へぇ、上手」


「えっへへ、照れること言ってくれるじゃんキスしちゃうぞ~」


 僕は妙に酒臭い愛実の顔を押しのけた。


 三分が立ち、カップ麺を啜り「おいしー」といちいち感動を上げる愛実。その間に僕は風呂でも済まそうかと部屋を出る。


 風呂場に愛実を連れて行くのは一苦労だ。ドアがあるとはいえ親を横切らなくてはいけない。


 けれどやってみると意外とバレないものだった。


「一緒に入らないの?」


「だから、そういうことしたらすぐさま引き取ってもらうって言ってるでしょ」


「別に変なことしないよ? あーれ? もしかしてそういう事考えちゃってるの? いけないなぁ、お風呂は疲れを癒す場だぞ?」


「それに僕はもうお風呂済ませたから」


「ちえ、つれないなぁ。でも飛び入り参加は歓迎だからね?」


「しないっての」


 日曜日も同じように過ぎた。そろそろ捜索願とかでそうだけど、一応安否のメールは親に送っているらしい。


 そして月曜日。


 櫻木はさっきから何か言いたそうに僕の顔を睨んでくる。


「ねぇ、旭の部屋、女の人いたよね?」


「は?」


 僕は思わず裏声になる。


「それ、たぶん、僕だよー……」


「嘘だよね? それとも目覚めたの?」


「目覚めてないよ……えっとですね、あれは……」


 僕は簡潔に愛実のことを伝えた。


「家出少女を匿っていると、ふむふむ、つまりは犯罪?」


「いや、親戚だから、それにたぶん犯罪じゃないでしょ?」


「いつまでなの? 両親だって心配してるんじゃないの?」


「まぁ、一週間くらいで、親には一応連絡はしてるらしい」


 また櫻木は言いたそうに眼を向ける。けれど躊躇っているらしい。顔を少し染めて。僕は言われそうな言葉を考えてちょっと妙な気持ちになる。


「その、変なこととか、してない、よね?」


「変なこととは?」


「変なことは変なこと! 言わないとわからない?」


「……いや、言わなくていい」


「で、どうなの」


「してないよ」


「そう、ならよかった」


 櫻木は「ふっ」と安堵の息を吐いて小さな手で火照った顔を冷まそうと必死だった。僕は苦虫を噛み潰したような気持になった。


 けれど事実。今のところ一度もしていない。嫌いだと最初から拒絶出来ていたならよかった、簡単な事だったのかもしれない。



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