39話『綺麗な桜、散ればゴミ』
綺麗だと人々の声を浴びていた桜は今では道路を汚すものとなっていた。
教室から見える桜の木もすっかり緑の小さな葉を飾っていた。
僕は椅子に座り、屍の上にカバンを置いた。
「何してんの」
「なぁ、喧嘩、ってしたことあるか?」
「まぁ、あるといえばあるけど。先輩とプレイ志向の違い? 冗談だよ。どうせ妹だろ」
「さすが俺の親友……どうしたらいいんだ……なぁ、教えてくれよ、仲直りの仕方をさぁ」
「土下座したら?」
スライディング土下座とか、ジャンピング土下座とか。高校生なら誰しも喜びそうだし。謝罪の意図が伝わるかは不明だが少なくとも茉莉相手には逆効果だと思う。
「したよ」
「したのか。反応は?」
「頭を蹴られた」
「頭丈夫だな。さすがサッカー部。そういえば全校大会はどうだった?」
「負けたよ」
「あー。元気出せって副部長」
「おう……ってそんなことはどーでもいいんだよ!」
どうでもいいのか……。
僕が櫻木と喧嘩して、仲直りした経緯を少し思い返す。けれどすぐに必要のないものだとやめた。僕らは喧嘩しても離れることはないし。
「僕も卯月も一日寝たらほとぼり冷める性格だから。とりあえず丸一日、一度も言葉を交わさないとか」
「……わかった、やってみる」
生気のない顔でそういって自分の席へ戻っていった。僕は風太に同情しない、茉莉に同情する。飼い犬に牙を剥かれるように、かわいがり過ぎは逆効果。
それから入れ替わるように風太はいなくなり、茉莉が教室に顔を出した。僕は目が合ったことを確認すると、茉莉は表情を強張らせ、努めて存在を隠そうとしていた。ここにそんな怖い先輩は存在しないと思うけど。
「風太なら気を紛らわせるためにどっか行ってるんじゃないか?」
僕の横に立つと背もたれに手をかけて少し安心したような顔をした。
「別に探してない、です」
「じゃなんでここに?」
「……ここが一番兄から遠いような気がして……」
確かに茉莉が入学してからというもの風太はお昼になるとほぼ毎日教室からいなくなる。そして茉莉のいる一年の教室へと向かうのだ。
ある意味一番遠いかもしれないけれど。
「まぁ、とりあえず座ったら?」
櫻木の次は一年の女の子。僕はどういう風に見られているのだろう。何とも思われていないことを僕は薄々感づいている。
対面側の席を引いて座るように促すと辺りを一周見てから少しぎこちなく座った。
「ここの席の人不登校だから。で、それは?」
「これは……、……兄の」
片手に提げられていた弁当箱が入っていると思しき巾着袋。
「その兄はどこへ行ったんだろうな」
「朝、喧嘩して、もっていかなかったんです……弁当」
「届けてあげたら喜ぶだろうなぁ」
「なら……届けたくありません……でも、あの。お願い、訊いてくれませんか」
「まぁ、良いよ。お兄ちゃんの喜び顔なんて見たくもないけど」
僕は弁当箱を手に入れた。どうやら「なんでもします(性的はダメ)」らしい。
別に僕が頼み事する機会なんてないだろうけど。
僕は歩いた。下駄箱で靴を確認して、図書室を回り、トイレを回り、購買を回り、講堂を回り。結局行きついた屋上。屋上は普段施錠されて一般生徒の出入りは固く禁じられている。お得意の裏技で開けたのだろう。
「弁当忘れるとか小学生じゃあるまい」
「それ、俺の弁当……どうして……――っ」
驚きの表情をして、大体察しはついている様子。そりゃ届ける人物など一人しかいない。
「別に怒ってる感じじゃなかったけどな。迷惑そうではあったけど」
「……そうか……ありがとうって、伝えておいてくれ」
「そのくらい自分で伝えたら? 僕がそんな言葉を告げてもいいの?」
「――っ……でも、お前なら……きっと幸せに……」
「やめてくれよ」
「どういう意味だよ!」
「食い付くなって。それに僕が『ありがとう』って言うのがおかしい。別に抱きしめたりしなければいいだけだろ」
してないとは思いたいけれど。きっと我が子かわいいで頬ずりとかするのだろう。
風太は特に何も言わず、がばっと弁当を取り出し掻き込んだ。あとのことは知らないが顔色はよくなっていた。




