13話『夜空の星が如く』
それから十分ほどして開幕の数発の花火が濃紺の空を鮮やかに照らすのを皮切りに約一時間打ち上げられる。赤や青といったありきたりな色から弾ける金色などが途切れることなく空を覆い、僕らを瞬き照らす。響き渡る轟音は体の内側に響き少し不思議な感覚だ。
「わぁ、綺麗だね」
ふふと笑う櫻木の顔は花火の色を映し出す。「君の方がきれいだよ」とか隣のカップルはバカに言っているのだろうが、そんな恥ずかしげもないことを言える精神が今ではうらやましい。
「……綺麗……だよね」
僕にそんなことを言う精神は備えられていなかった。いつの時代だよ、そもそも。
帰りの電車内、僕は全身に櫻木の熱を感じていた。満員電車で押し込まれ、僕らは必然的に体を合わせることに。胸の前に出された櫻木の細い腕がかろうじてその柔らかさを感じさせないようにしている。けれど代わりにというわけではないが僕の胸が触られている……。
薄いシャツ越しに感じる柔らかい手の温度。今時つり革を掴んでいないと『痴漢』といわれてしまう、サラリーマンを倣って僕の両手はつり革を必死に掴んでいた。
「ご、ごめんね、大丈夫? 今足ふんじゃったよね」
「いいよ、満員電車だし、仕方ない」
五分ほどで最寄り駅に到着して、人ごみをかき分けるように車外に飛び出した。
目をつむってもわかる帰り道はやけに静かに感じた。普段騒がしい虫の声も今では風が吹くのと変わらないくらいのものだ。静かな夜の住宅街に葉擦れの音と変わらぬ櫻木の声が響いた。
「ねぇ、旭、そういえば私に告白、したよね」




