清算二つ
俺がガルムになって一か月ぐらい経ったころ、常駐しているレーダーに赤い光点が見え始めた。
「んー、敵意がちらつくんだよなぁ。まだ一個だけなんだけどね。偵察って所かな?」
独り言を言っていると、
「敵意?」
カミラが俺の言葉を聞いたようだ。
「ああ、俺とカミラとあの子たちに敵意がある者は感じるようにしてあるんだけど」
要は赤い光点表示である。
「何だ、その便利な魔法は」
「俺が作った。まあ、気をつけておいてくれ」
恨まれることは相当やっていると思う。
そういや、商人への納品もブッチしていたなぁ。
まあ、そこら辺なんだろう。
「で、どうする?」
カミラが聞く。
「まあ、もうちっと人が増えてアジトがわかったら、潰しに行くかなあ。あっ、手を出してきたら即だね」
「根こそぎ?」
カミラが覗き込むように俺に聞く。
「根こそぎ。例の元締めをやった時のようについでに資金もいただこうかと……」
「さすが悪党」
カミラがニヤリと笑って言った。
「今更だろうに……。今のところ悪名しかない。だったら、ありがたく使わせていただきます」
暫く通常の生活が続く。
ただ、光点が着々と増えていった。
「お前ら外に出る時は一人で出るな」
「ガルムさん何でだ?」
デボラが聞いてくる。
「んー、俺のせいでもあるんだが……襲われたら困るから。カミラから戦闘について学んでいるとはいえ、大人を相手するのは難しいだろ?」
皆の場所はモニタリングしているから何かあれば助けには行けるんだが……。
「ガルムさんのせいって何ですか?」
アンナマリーが聞いてきた。
「カミラはさる商人に納品する奴隷だったのは知っているか?」
「知ってますぅ」
マルレーンが返事した。
「そのカミラがここに居るってことは、商人にカミラを納めてないってことになる。そりゃ、カミラみたいな美人さんを期待して待っていた商人が商品が届かないってわかったらどう思う?」
「「「「怒る」」」」
彼女たちは声を揃えて言った。
「そう、正解。だから、俺を襲いに来るだろう」
「でも、ガルムさんならなんとかできるでしょ?」
「一人だけならな。でも、おまえら込みでは難しいかもなあ」
「僕らは足手まとい?」
ユーリアが聞く。
「多分相手はユーリアより弱いと思うよ。でもな、弱いからってユーリアに勝てない訳じゃないだろ? 数で来たり、罠を使ったり、毒を使ったり、魔法を使ったり、いろいろ方法はあると思うんだ。俺の場合はどの程度なのか知らないが、黒プラチナなるランクだから、罠でも食い破れそうだからねぇ。俺と比較するなら、足手まといになるのかな」
「ガルム様は規格外です」
アンナマリーが非難するように言った。
「俺もそう思う」
まあ、そんなふうに一人での行動を控えさせていた。
ただ、赤い光点も増加の一途をたどり、五十近くなっていた。
俺のためにどんだけ増やしているのやら。
見た感じアジトの場所は街はずれの倉庫。
ある日の夕方。二人で行動していたデボラとユーリアを赤い光点は十人以上の規模で襲い、動きの素早いユーリアだけが逃げられたような状況だった。
それをレーダーで確認した俺は、近くに居たカミラに、
「カミラ、多分デボラが捕まった。俺はデボラを助けに行ってくる。もう少ししたらユーリアが帰ってきて、『デボラが捕まった』と言うだろう。『俺が行ったから安心しろ』と言っておいてくれ」
と伝えた。
既に魔法の事は話していたので、
「魔法で感知したのか」
と、納得の様子。
「そういう事だ。また、変な噂が立ちそうだな」
元締めの事務所が爆発した時には「天罰が下った」などという噂が立った。
建物の上を飛び、街はずれの倉庫街に向かう。
アジト的な場所もわかっているので問題は無い。
デボラが暴れたのか、デボラをとらえた者たちがアジトに到着する前に捕捉することができた。
魔法でレーザーサイトを着けたSTG44をイメージし、屋根の上から構える。
トリガーを引くと、音もなく魔力の弾が飛び出し、一人ずつ狩っていく。
サブレッサーなどいらない。
周りの男が死んでいくのを見て唖然とするデボラ。
周囲の赤い光点がなくなったのを確認すると、俺は屋根から飛び降り、デボラの汚れを払い抱きしめた。
「待たせたな。デボラたちが襲われていたのはわかったんだが、少し遅れた」
「ガルムさん、俺、死ぬかと思った。犯されると思った。あいつら、俺の体を見てニヤってしたんだ」
恐怖に震えるデボラ。
体にはあざができていた。
俺は魔法でデボラを治癒しておく。
「お前、一人で帰れるか?」
と聞くと、
「ガルムさんはどうするの?」
俺を見上げながらデボラが聞いた。
「俺は、デボラをこんな目に合わせたやつらを強襲して処分するつもり」
俺がすることがわかったのだろう。
「だったら……私も」
とデボラが聞いてきた。
「子供が人を殺してどうする? こんなのは汚れた大人の俺がする仕事だよ」
俺はデボラの頭をガシガシと撫でると、
「デボラ早くいけ!」
と、命令した。
本当は命令ってあんまりしたくないんだけどなぁ。
デボラは何度も振り返りながら走っていった。
ここから二百メートルほど進んだ倉庫が男たちのアジト。
再び屋根を渡り、上からアジトをのぞき込む。一階が倉庫、二階が事務所になっていた。
冒険者風の男たちが集まっている。
倉庫の張りに身を潜めた。
俺のSTG44は給弾の必要はなく俺の魔力が尽きるまで弾が出るようだ。
危なくて使えなかったフルオートにイメージを変え、天井から魔力の弾を振りまく。
次々と倒れる男たち。
次々と消える光点。
意味も分からず死んだ者も多かっただろう。
異変を感じて事務所からも人が現れた。
そいつらにも弾を浴びせると、赤い光点はすべて消えていた。
事務所に入って「重要書類」や「貴金属」「金」などのキーワードでレーダーに表示させて、いろいろ漁る。
ヒヒジジイはナムスクの非合法組織に依頼したらしい。
「はやく」「早急に」などのあと、「ガルムを殺せ」的な手紙が多く。ヒヒジジイは相当お怒りのようだ。
非合法組織にしても、最近鳴りを潜めた『皆殺し』の元締めの縄張りを手に入れようと考えていたらしい。
「やっぱり、元から絶たないとなぁ」
そんな独り言を言うと、店に帰るのだった。
「たっだいまー」
軽い口調で店に入ると、ジト目の皆さん。
「ん?」
「私は足手まとい?」
カミラが聞いてくる。
「いいや、カミラが居てくれるから、無理ができる」
「私たちは?」
彼女たちも聞いてくる。
「デボラには言ったけど、足手まといだな。魔物を狩るのならいいだろう、人を殺すのはダメだ。俺がどうしてもお前らを守れなくなって、カミラもダメで殺されそうになった時に生き死にで戦って欲しい。今さら言うのも変だろうが、今は甘えて楽しめ。今の俺が本当のガルムじゃない事はアンナマリーから聞いて知っているだろ?」
コクリと彼女たちは頷く。
「俺の居たところじゃ。お前らぐらいは知識を得て友人と楽しむ時期だ。俺に教わり、カミラに教わり、友人を得て独り立ちすればいい。って……奴隷商人が何を語っているのやら……。さて、俺はカミラの納入先だったヒヒジジイの所へ行ってくる」
カミラと彼女たちは驚いていた。
「今からだって?」
カミラが聞いてきた。
「ああ、今からならギリギリ門は開いている。馬に乗れば二・三日でナムスクに着くだろう? まだ非合法組織がこの街に来た者たちの結末を知る前に街に行きたい。つまり、こちら街からの繋ぎがなくなり、気付く前にヒヒジジイと非合法組織を潰したくてね。じゃあカミラ、あとは任せたぞ」
カミラの返事は聞こえなかったが俺は店を出た。
カミラなら、何とかしてくれるだろう。
俺は馬車から馬を外し、馬に乗ると門へ向かった。
「ガルム、こんな時間から外か? 魔物に食われるなよ」
門番が俺に言った。
門番としては、死んでもいいと思っているのかニヤニヤしている。
俺は街道沿いに馬で駆けた。
途中でバテる馬。
そう言えば馬って長時間走る事ができなかったんだっけ?
そんな気がしてきた、普通の馬だしなぁ。
既に歩く程度の足取りになっていた。
俺が走ったほうが早かったか。
チラチラ俺を見る馬。
フンフンと首元辺りを鼻先で指す。
ん? 俺が紋章を書けば、能力上がるのかね?
馬を止めて降りると、馬の首元に紋章を書く。
光る馬。
ミリミリと音がすると、体が大きくなる。
なんで、足が増える?
八本足の世紀末覇者が乗りそうな黒い馬がそこに居た。
前の世界じゃスレイプニルだよな。
「ご主人様」
女性の声が聞こえた。
キョロキョロと見回すが誰も居ない。
「お前、さっきの馬?」
「そうです、馬です。あなたが紋章を書いたせいで、こんなになってしまいました」
「お前、そう導いたじゃないか。しかし、お前は話せるんだ」
「あなたが紋章をつけたので、あなたと繋がりができたからでしょう。あまり遠くなると話すのは無理だと思います。それで、責任取ってくださいね」
「責任って?」
「こんな体にした責任です。私は女。あなたは獣姦に興味は?」
潤んだ目で馬が俺を見てきた。
「ナイナイナイ! 全然ないぞ」
大きく首を振って否定する。
「あら残念。こんな綺麗な体なのに興味がないなんて……しかしいつか……」
「いつかも無いからな! あっ、こんな事をしている場合じゃないんだ。今から走れるか?」
「はい! では背に乗ってください」
馬がひざを折り低くなる。
「じゃあ、お邪魔してと……」
「あん、あなた様が背に乗るなんて。あなたの股間が私の背に……」
馬の鼻息が荒い。
「そういうのいいから……あっ名前要る?」
「いただけるのですか? ぜひとも」
「だったら『フローラ』ってのはどうだ?」
「フローラ……。はい、私はフローラです」
「じゃあ、早速、ナムスクへ行こうか」
フローラが走りは以前の走りとは違った。
「なぜ空を飛ぶ?」
「一直線のほうが早いでしょう?」
「まあ、そりゃそうなんだが……飛べるんだな。早いし」
「任せてください。あなた様のお陰で格段に能力が向上しています。蹄の下に魔力で足場を作れば飛べるのです。見直しました? ねっ、ねっ、見直しました? だったら、ね」
フローラは振り向く。
「しないからな」
「もう、ケチなんですからぁ」
ケチって次元じゃないと思うんだが……。
フローラの能力のお陰か、高い外壁に囲まれた街が見えてきた。これがナムスクなんだろう。
普通の馬だった時間も込みだから、実質時速百キロ以上の速さだ。
街の中にも数十個の光点。こいつは固まっている。ナムスクの非合法組織のアジトなのだろう。
一応俺に敵意はあるらしい。
レーダーにヒヒジジイを表示させると、その町の中央にポツンとあった赤い光点の周りに青い光点が表示された。
非合法の組織とは別の場所に居るようだ。
というか、ヒヒジジイで考えてレーダーに表示されるのは便利だ。
さて、どっちからやるかね?
非合法組織のアジトからかな……。
俺は、アジトと思われる場所へ向かった。
フローラから降り、アジトの中へ潜り込む。
ここも、倉庫を改装しているようで、一階に人が集まり、二階事務所に幹部っぽいのが居た。
「酸欠させるか……」
この世界では酸欠による死亡を確認できる者はいないと考えた。
一人一人の周囲から酸素を抜き取り窒素に置換する。
すると、一瞬苦しんだ瞬間、組織の者は力なく倒れる。
実際、酸素がない状況で呼吸をしてしまうと一瞬にして意識が飛ぶと聞いたことがある。
「穴があったら酸欠と思え!」と先輩によく言われたなぁ。
まあ、今回は関係ないが……。
そして、赤い光点はヒヒジジイのものしかなくなってしまった。
事務所を漁ると今回は金しか見つからなかった。
まあ、金はいただいておくと言う事で……。
そしてヒヒジジイの家へ向かう。
おっとぉ、家というよりもちょっとした城だな。
広いバルコニーのある部屋がヒヒジジイの部屋らしかった。
そのバルコニーにフローラは音もなく降りる。
そして俺もフローラから降りた。
そこはヒヒジジイの趣味部屋だったようだ。
そこには若い女性が居て、見たこともないような拘束具や並ぶ。
そういう趣味だから、カミラが求められたのか。
「ふう、元から絶つということで」
ヒヒジジイの周りの酸素を抜く。
そして、ヒヒジジイの光は消えた。
急に苦しみ始めるヒヒジジイを見て若い女性は驚いていた。
オロオロする女性が俺を見つける。
俺が誰なのか知っていたのだろう。
恨めしそうな目で俺は睨まれた。
ガルムが何かした女性なのかもしれない。
「さすがにこの家を漁るわけにはいかないか……」
俺はフローラに乗り、その場を離れるのだった。
俺はナムスクで宿をとる。
あの子が気になったからだ。
次の日になると、ヒヒジジイの家へ向かう。
ヒヒジジイの名はグランドというらしかった。
「すみません、納入する奴隷の件で話があって来たのですが」
俺はヒヒジジイの家の裏口に居た。
そこは台所の近くらしい。
「ガルム、グランドさんは昨夜亡くなられた」
家を取り仕切るムンダという男が現れる。
「えっ、そうなんですか? 本来納入する予定よりもかなり遅れてしまったので、謝りに来たのですが」
「奴隷を求めていたグランドさんが亡くなられたんだ、もう必要ないだろう。あの人も特殊な趣味を持っていたからなぁ。手を出さないのに虐める。まあ、もうできないとも言っていたが。それでも若い女が良かったのかね……」
「そういえば、以前ここに納入した女が居ませんでしたか?」
俺は聞いてみた。
「フルの事か? あいつと色々している時にグランドさんは亡くなられたんだ。外傷もなく、好きなことをして亡くなったんだ。思い残すこともないだろう」
「そのフルなんですが、邪魔であれば私が引き取りますが?」
「いいのか? フルが原因でないのはわかっているんだが、主人が死んだときに居た女をそのまま置いておく訳にもいかなくてな。商売の信用の関係でフルとしていたことはあまり表に出したくない。後継ぎであるグロントさんもグランドさんがしていたことを心底嫌っていてな、フルを何とか処分しろと言ってきかないんだ」
主人に頭が上がらなかった後継ぎって奴か……。
抑えるものがなくなって、自分のやりたいようにやり始めたわけね。
「お前に買ってもらえるなら助かる。ただ、所有者変更しようにも魔法書士が居ないがな」
「最近、魔力が上がりまして、魔法書士の真似事もできるようになりました。ですから、所有者変更をして連れて帰ります」
「そうか、早速フルを連れてくる」
しばらくすると、ムンダに連れられフルが現れる。
薄布一枚の半裸、後ろ手で縛り上げられている。
俺に気付いたのだろう、フルが俺を睨み付けてきた。
「気が強い女でな」
苦笑いのムンダ。
「それがいいって奴も居るからなぁ。それでいくらですか?」
「どうせグロントさんも処分しろと言っていた女だ。陰で始末されていた者。お前が引き取るなら再び表に出ることは無いだろう? どうせ、色々やって、別の奴に回すんだろ?」
悪い顔でニヤリと笑ってムンダが言った。
「まあ、そんなところですね」
俺も引きつりながらニヤリと笑う。
あー、やっぱひどい奴だねガルムは……。
「まあ、タダでお前が引き取っても文句は無いだろう」
「タダで?」
「ああ、タダでいい。しかし、掘り出し物があれば頼むぞ」
ああ、こいつもお客様だったんだ。
「考えておきますね。それじゃ、手続きを始めます」
俺はプルの腕を掴むと、無理やり紋章のカギを外す。
「放して! 放してよ! 何であんたなんかにまた買われるのよ!」
フルが暴れる。
「とりあえず、所有者をグランドさんから外しました。これで家の外に出られます。それじゃ貰っていきますね」
「おう、よろしくな」
ムンダの声を聞きながら、俺は暴れるフルを担ぐと、勝手口から外に出るのだった。
裏通りに出ると、俺はフルを肩から降ろす。
縛りを解くと、
「俺のせいで迷惑をかけたようだ。今更だが紋章は外した。どこへなりと行けばいい」
フルに言った。
「何言ってんのよ。行くところなんてないわよ。貴族とはいえ借金だらけのお父様から私を買い取ったんでしょ? 忘れたの! 帰ったってただの邪魔ものでしかない。それにあなたがこんな体にしたんじゃない! わたしの体を弄って色々感じるようにして! あんなジジイのところに売りつけて! どうせ、こんな格好じゃどこにも行けないし……」
フルは現実を理解して不安になったのか声の勢いがなくなった。
「だったら、まずは服を買いに行くか。確かにそれじゃどこにも行けないしな」
俺はフローラを呼ぶ。
「あら、新しい女?」
「奴隷を買い戻したんだ。あいつらと一緒」
「どうするの?」
「さあ? なるようにする」
俺とフローラとフルは市のような場所を歩く。
半裸の女を連れる男けっこう目立つ。
フルは俺に付いてくるって事は服を買う気はあるようだ。
適当な衣料品店を見つけると、フローラを繋ぎ中に入った。
「いらっしゃいませ」
「悪いんだが、この女に合うような服を見繕ってくれないか? こんなヒラヒラした服じゃなくていい。旅に出られるようなしっかりとした服だな。あと靴も……。あとは大きめのカバン、袋、リュックのような物でもいい。その辺の物を見繕ってくれると助かる」
俺は店員に指示を出した。
フルは店員に連れられ奥に行く。
俺は、衣料品店の入り口に座り待つことにした。
「暇そうね」
フローラが頭を下げ声をかけてくる。
「お前もだろ?」
「まあ、そうだけど」
「あなた、こんな事いつまで続けるの?」
「仕方ないだろ? 俺がやらかしたことだ」
「中身は違うじゃない!」
「他に話して、すぐ理解してもらえると思うか?」
フローラは少し間を開け、
「無理でしょうね。あっ、そろそろ終わったみたいよ」
それを聞いて俺が振り向くと、ドスっと音がしてフルが抱き着いてきた。
「えっ、何か持ってた、大丈夫?」
フローラが聞いてきた。
目を瞑り無言のフル。
ああ、尖ったものが皮膚に当たってる。
フルをはがすと、手にはハサミ。
フルは唖然としていた。
「殺す気だった? 悪い、因果なもんでな、なかなか死ねない体になっていたようだ」
俺は服に空いた穴に指を突っ込み苦笑いをする。
「さあ、金を払いに行くか。あと、これは店の物だし返しておくぞ」
俺は立ちあがり、ハサミを取り上げると店の中へ入った。
唖然としたままのフル。
俺がフルの服が入ったワンショルダーリュックのような物を受け取って戻っても、フルはその場に立ち尽くしていた。
馬に聞くのもなんだが、
「どうしたほうがいいと思う?」
フローラに聞いてみた。
「馬である私に聞かれてもわからないけど、あなたのお店に戻るのが一番じゃない?」
「そうだな、俺が説明しても納得できない部分もあるだろう」
「じゃあ、早速」
フローラが膝を折り背を低くする。
俺はフルの手を握ると、体を引き寄せ横抱きにして抱え、馬に乗るのだった。
フローラが俺たち二人の重量をものともせず空を飛ぶ。
体の力を抜いた人ってのは、なかなか抱えづらい。
何度も落としそうになりながら、昼過ぎには店に帰ってきた。
無駄かもしれないが、目立たないように店の裏に降りてから正面に回った。
「あっ、大きな馬だ。すっごーい」
巨馬になったフローラを見つけアンナマリーが驚いていた。陰になっているのか俺には気づかない。
「あっ、この紋章って、私たちと同じだ」
フローラから目敏く俺が使う紋章を見つけるアンナマリー。
「あっ、お帰り。カミラさん心配してたよ?」
さらにアンナマリーが俺を見つける。
「おう、戻ったぞ」
「じゃあ、カミラを呼んできてくれないか」
俺がそう言うと、アンナマリーは店の中へ入っていった。
話を聞いたカミラが走り出てくる。
「お帰り」
の声に
「ただいま」
と返した。
「ヒヒジジイは死んだよ」
カミラは何か考えると、
「そう……ありがと」
と言ったあと俺に抱き付いてきた。
「ありがとうは無いだろ? もとはといえばガルムがやった事だ。清算してきたってのが正しくないか?」
カミラの頭を撫でながら言った。
「でも、安心して寝られる」
「そういうことにしておくか……。それで、これを預かってもらえないか?」
俺は、フルの着替えが入ったワンショルダーリュックをカミラに渡した。
カミラは中身を確認する。
女性の着替えだと確認したようだ。
「どういうこと? その女性は?」
フルのことが気になるのか聞いてきた。
「俺の被害者だ」
「ああ、そういうことか」
俺の一言で納得するカミラ。
「ヒヒジジイのところに居た。趣味の相手を強要されていた。ハサミで俺を刺してきたよ。ほら」
再び服にできた穴を見せる。
「ハサミが刺さらないって、どういうことだ?」
「俺に言われてもなあ。刺さった方が良かったのかね」
「それは……わかっているだろう!」
赤くなったり怒ったり大変だ。
「とにかく、この女性の面倒を見ればいいんだな」
「ああ、頼む」
フルが店に連れられていくのを確認すると、俺はフローラを馬小屋へ繋いで、ブラシで体を撫でた。
「あーん、ご主人様のブラッシングは最高ですぅ。イッていまいそうですぅ」
俺は軽くフローラを叩き、
「勝手にイけ!」
と言って飼い葉と水を置くと馬小屋を離れた。
店に入る。
意外と綺麗だな。
「「「「おっかえりー」」」」
元気そうな彼女たちの声。
「ただいま。おっきれいに掃除できてる」
「ご飯作ったあとは、僕らで掃除したんだ」
ユーリアが胸を張って言った。
「おう、ありがとう。元気そうでよかった」
「でも、私たちは元気だったんだけどねぇ」
彼女たちは顔を見合わせた。
「カミラさんが元気なかったんですぅ」
「でも、アンナマリーが『ガルムさんが帰った』って言ったら何も言わずに走っていったぞ」
「僕見たんだ、カミラさんの嬉しそうな顔」
ニヤニヤする彼女たち。
「そりゃ良かった」
俺は鼻を掻きながら俺は二階へと上がるのだった。
小説を読んでいただきありがとうございます。