模様替え
事務所の中身を整理して、買ってきた物を並べる。
食器棚を置き、洗った食器を並べる。
壁にフックをつけてフライパンと包丁、お玉にフライ返し、そんで泡だて器を吊り下げる。
あー、換気扇が無い。
これじゃあ、中に煙が籠るな。
レンジフードをイメージしてコンロの上に作る。
あとは、魔法の風で内部の煙を抜けばいいか。
「昼飯作んないとな。さて、カミラの嫌う卵の威力を見せてやろう」
ボールに卵を割り、塩で味を調整して卵液を作り、熱したフライパンに入れる。
「独り暮らしの長かった俺のオムレツテクニックを見せてやる」
ちゃっちゃとやってトントンして、皿の上に置く。
「うし、出来上がりだ」
オムレツの入った皿にパンを置き、軽く刻んだキャベツっぽいのとトマトっぽいのを置いた。
彼女たちはすでに椅子に座り、フォークとナイフを持ってテーブルで待っていた。
「なぜに、カミラまで」
「美味そうな臭いがした」
フォークを咥えながらカミラが言った。
「はいはい……」
俺が皿を皆の前に置くと一斉に俺を見る。
「えっ、俺の号令待ち?」
「そりゃそうだろう。私も込みでガルムの奴隷だぞ?」
「そんなの気にしなくていいから食べな」
それが号令になったのか、みんなが食べ始めた。
キャベツとトマトはちゃんととキャベツとトマトだった。
「ふわふわだあ」
「俺、こんなの食べたことがない」
「私はぁ美味しいの知ってたぁ」
「僕も食べたことがなかった。卵って美味しいんだ」
彼女たちのは好評のようだ。
「ガルム、済まなかった。卵は美味い」
カミラが謝ってきた。
「美味かったら、問題なしだ」
俺は笑って返した。
「それにしても、ガルムは料理が上手なんだな。
こちらの男は、料理人以外料理はしない。
珍しい」
「んー、独り暮らしが長いとこんなもんだ、もう少し香辛料や調味料があればもっと美味いものができる」
「カミラは?」
「私? 私は物心ついたときには戦っていた。戦士は料理なんてしない。水と干し肉さえあれば、暫くは戦えたしな。宿に泊まれば食事も出るだろう? だから、料理はあまりしたことがない」
そうしないと生きていけない世界か……。
「さて、家事系は俺がした方が良さそうだ。主夫するかね」
「主夫とは?」
「俺が家事全般をするってこと。魔法も使えるしな」
「それでは私の立場が無い……」
「家事を女性がするものだとは思っていないし、俺に一般常識を教えるのと、この子たちを守るって仕事があるだろう?」
「そういうことなら任された。ガルムは私を守ってくれるのか?」
ちょっと恥ずかしそうに聞いてきた。
「それはお任せを」
頭を下げたあと、顔を上げ俺はニヤリと笑う。
そう言えば……。
「女性にこんなことを聞くのは失礼なんだが、カミラは何歳だ?」
「私を女性としてみてくれていたんだな」
「美人さんだと言っただろう?」
再び恥ずかしそうな顔をして。
「私は十八歳だ」
「カミラ、両親は?」
「私が成人し、離れてからは会っていない。もう五年になるだろうか……。傭兵としていろいろな場所を回り、冒険者になって今に至る」
成人してから五年と言ったから、成人は十二か十三歳ってところか
「俺は何歳なんだろう……」
ふと言葉に出てしまった。
「ガルム、ギルドカードに書いてある。見てみればいい」
「そう言えば、カミラが回収した後は。まじまじとは見ていなかったな」
俺は黒いカードを取り出し、書いてある内容を見る。
「二十三……ん? 二十三歳!」
あまりの若さに大きな声を上げてしまう。
「もっと年上かと思っていたぞ?」
カミラもきょとんとしていた。
「向こうの世界じゃ倍ぐらいの歳だったんだが」
「だから変に落ち着いているのか」
「んー、そうかもしれない……でも、嫌か?」
「私は落ち着いているガルムがいい」
嬉しいことを言ってくれる。
食事を食べ終わり、食器を洗っているとアンナマリーが隣に立ち、
「私たちも手伝う」
と言って洗い始めた。
テーブルを拭くマルレーン。
洗った皿をを拭くユーリア。
一番背が高いデボラが皿を元の場所に置く。
全てが終わったあと、
「ありがとな」
俺は彼女たちの頭を撫でるのだった。
外に出て、剣を振るカミラ。
「どうした、剣なんか振って」
俺は聞いた。、
「剣は私の仕事道具だからな。鈍った体を動かしていた。前のお前のせいでそういうのはできなかったし、収入の無いお前のフォローもしなきゃならないしな」
「そういえば、奴隷商人らしいことなんてしてないな。最近なら元締めの件で見つけて取り込んだ金ぐらいか……」
「お前はそれでいいんじゃないのか? 私もそれがいいし」
「奴隷商人ってどうすればいいのやら……。奴隷商人らしい事をしたほうがいいのかね?」
「収入があるのはいい事だが、今のところでは四人を住まわせるのが精いっぱいだろう? それにあの子たちを売るのか?」
「思い入れもあるし、無理だろうなぁ」
俺は四人の娘たちを見た。
「今は奴隷商人よりも孤児院って感じになってる。俺としてはそのほうが気分的にやりやすいけどな」
「ガルム、だったら孤児院をやればいいんじゃないのか? 収入は任せろ、わたしが依頼を受けて稼ぐ」
「まあ、それでもいいんだけどな。それでは俺と一緒に居られないだろう?」
「そっそれは……そうだが」
不意打ちに赤くなるカミラ。
「孤児院をするにしろ俺の悪名じゃあ無理だろう。代表を『大剣の』カミラにして孤児院を運営するほうがいいだろうな。職業訓練をして独り立ちさせるって感じかな? 別に剣じゃなくてもいい、魔法でも料理でも職人でもなんでもいいんだ。最終的には働く場所も提供し、そこで働いてもらう。そこまでできたらすごいだろうなあ」
「できるのか?」
「目指した方が面白くないか? まあ、最終的な夢だろうな」
「その夢に付き合ってもいいか?」
カミラが聞いた答えに
「付き合ってくれるのか?」
と質問で返してしまう。
「当然、私はあなたの奴隷だもの」
即答されてしまった。
「本当は奴隷とかそう言うのは嫌なんだけどなぁ」
俺はそう言いながら頭を掻いていた。
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