清算一つ
「カミラ、さっきの残りで、この子達の服は買えるか?」
「それは大丈夫。洗い替えぐらいはなんとかなる」
「カミラの分は?」
「私は問題ない。あの袋に入っていたもので事足りる」
「わかった。じゃあ、衣料品店へ行こう。今着ている奴隷の服をやめて普通の服にする。カミラ、服を買うときの付き添いは頼めるか」
「ああ、任せろ」
俺たちは馬車に乗り街へ向かった。
カミラの誘導で街中を馬車で進む。
「ここに停めてくれ」
カミラが言った。
「私がこの街に来たとき世話になっている衣料品店だ。ここなら大丈夫だろう」
カミラは馬車を降りると、女の子達を降ろす。
「じゃあ、ここで待ってるから適当に探してやってくれ。あと、風呂や朝の洗顔で使うタオルを必要数頼む」
そう言って、俺は馬車の荷台に横になった。
「ガルフは面倒くさがりだ。さあ行こう」
カミラは店に入っていった。
「おい、ガルフ。ガルフ」
聞いたことのない声に起こされる。
「誰だ?」
「俺だよ俺、マノスだ」
ガルフの客か?ろくなもんじゃなさそうだ。。
「マノス、どうした?」
一応話を合わせる。
「五体満足な子供を連れてるなんざ珍しいじゃないか。いい実入りになりそうな仕事でもあったのか?」
「いいや、あの子達は普通に買った子達だ」
「ってことは、安く買い叩いたって訳か……。いくらだ?」
「いくら?」
「ああ、あの子を買うならいくらだって聞いてるんだ。いつもなら銀貨五枚だが、あれなら十枚出してもいい。手、足……ぐふふ、首込みで五ヶ所か。でも首をやると悲鳴が聞けないから、手足でやめておくか」
ガルムの客はこういう手合いだったのか……。
「いくら積まれても売れない。俺は心を入れ換えたんだ」
マノスという男は驚く……そして、笑い始めた。
「何言ってる。商品に手を出して楽しんだあと俺たちに払い下げて儲けていたのはお前じゃないか。何を今さら真っ当ぶってるんだ?」
「底辺だから上がるしかないだろう?」
「気でも狂ったんじゃないのか?お前、元締めが聞いたら部隊引き連れて殺しに来るぞ。あの人も新しい女を探していた。さっきの大女なんていいかもな。折角だお前の気が狂ったことを俺が元締めに言っておく。さてどうなるかなあ。残りをくれるかなあ……」
マノスという男はゲヘヘと笑いながら、去っていった。
俺はレーダーをイメージし、周囲の人を表示する。
よし、できた。
そして、俺と俺の身内に殺意や敵対心を持つ者を赤表示にした。
マノスという男だろう、赤く表示された。
それを俺の視界の隅に半透明で常駐させる。
目を瞑っても、表示していることも表示されていた。
店からその様子を見ていたのだろう、
「マノスが来たのかい?」
「ああ、そういう名前だった。元締めに報告するそうだ」
「えっ、皆殺しの?」
「そういう通り名なんだな」
ふむ……。
「カミラは、あいつらの買い物をしたらベッドと寝具を買っておいてくれないか。」
俺は懐から財布を出すと、カミラに渡した。
「ガルフはどうするんだ?」
「前の俺がしていたことを、一つ清算してくる」
「私も……」
「カミラが来たら、誰があいつらを守る?」
「しかし……」
「馬車を置いていくから、ベッドと寝具、毛布を多めにな。それを買い終わったら美味いものを腹一杯食べさせてやってくれ」
馬車を繋ぐと俺は赤い光点を目指し走り始めた。
体が軽い。別の体みたいだ。
前の俺ならちょっと走ればハアハア言って走れなくなっていたはずなのに……。
この体の身体能力の高さを感じた。
赤い光点が止まるのを確認するとその家が見渡せる場所へ飛びあがる。
マノスの光点が別の白い光点らの前で止まる。
しばらくするとその周囲に三十ほどの赤い光点が広がった。
俺の話をしたらしい。
殺すか痛めつけるかで纏まったのだろう。
俺はそれを確認すると眠りの魔法をマノスが居る家全体に使った。
寝てしまったのか、光点が白に変わる。
さて、中はどうなってるのかね。
扉を開け中に入ると、汚い。ここも汚宅だった。
一階には誰もおらず、そのまま二階へ上がる。
二階の扉を開けると、マノスが寝ていた。
凄いごっつい体をした男も寝ている。これが元締めかな?
他にも男が寝ていた。
部屋を漁ると書類と金。
書類を見ると、そこには俺が悪いことをした履歴のようなものがあった。
あー、俺悪い事してる。貴族の娘をカミラと同じ物好きな商人に売ってしまってる。
エルフもかぁ……ドワーフまで……。
あーこれは親子でかぁ……。
俺って最低だったんだなぁ。
こりゃ、相当憎まれてるわ……。
異次元な空間をイメージするとそこに黒い渦ができた。
その中に書類と金を入れておく。見たことのない白い貨幣もあったが、あれが白金貨なのだろう。
やってることは泥棒だな。
今更か。
もう捜すものは無いか?
重要物を表示させると、何もない床の辺りが光った。
そこを引っぺがすと、書類の束。
鷲の蝋印がされた手紙がいくつも出てくる。
これも異次元行き。
部屋の奥に扉があり、其の先に進むと生臭い臭い。
男か女かもわからないような死体が転がっていた。
他に部屋は無い。
俺は建物を出ると中に酸素と水素の混合物、比率は一対ニでイメージして充満させ点火する。
「ドウン」
入り口の扉が……窓が……全て吹き飛んだ。
家の中に居た赤い光点がすべて消える。
さすが水素。完全燃焼だねぇ。
ちょっとやり過ぎたかな?周りに他の人が居なくて良かった。
さて、皆は何してるかな?寝具を買ってるところだろうか、飯を食ってるところだろうか?
俺は、皆が居る場所へ走るのだった。
俺は店を見つけ出した。
軒先に馬車が繋がれていた。ちゃんとベッドと敷き掛け布団が四つ載っていた。
間違いないだろう。
中に入ると、カミラと少女たちはシェラスコ料理のような肉を食っていた。
「おう、食ってるか?腹一杯食えよ」
俺が現れると、少女たちはコクリと頷く。
「それで、どうなったんだ?」
カミラが聞いてきた。
泡が浮いた何かが入ったジョッキを右手に持っている。
酒かな?
「それよりも、何か飲み物。酒がいいんだが何がある?」
「エールかワインだ」
「じゃあエールで」
「給仕、エールを一杯追加だ」
給仕のおばちゃんが「はーい」と声を返す。
「で?」
「マノスとマノスが話してた相手は死んだ。そのうち噂になる。それでいいだろ?」
「わかった、これ以上聞かない」
カミラはエールを煽った。
「ハイハイ、お待たせ。えっ……ガルム」
俺を見つけたおばちゃんは木のジョッキに入ったエールを俺の前にドンと置くと、不機嫌そうに顔を顰めて帰って行く。
「嫌われてるな」
カミラが苦笑いしながら言う。
「仕方ないな、俺は色々やらかしているようだ」
俺はエールを煽った。
うっ、ぬるい。
「こんなぬるいのよく飲めるな」
「エールはこういうものだ」
カミラが文句を言う。
「俺が知っているエールはこういうのだ」
俺とカミラのジョッキの中にあるエールが冷えるイメージをした。
持っている木のジョッキの表面が結露する。
再びエールを煽った。
「んーキンキンに冷えてる。あー炭酸系はこうじゃないとな!カミラも飲んでみろ」
俺がそう言うとカミラもエールを煽る。
「何だこれは、冷やすだけで別者じゃないか。パチパチが喉にしみる」
「だろう。エールはこうじゃないと」
俺とカミラは肉を肴に飲むのだった。
作品を読んでいただきありがとうございました。