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いろいろ片付け

 俺はカミラって女と一緒に馬車に乗っていた。


「今の季節は?」

「春だ。今は四月」


 暦は前の世界に近いのかな。


 俺が御者をしているのだが、馬がよく言うことを聞く。

 さっき助けたからかね? 


「ここがゲルの街だ。お前の奴隷売買権の証書があっただろ、それを提出して税を払えば町に入ることができる」


 その通りにすると、ゲルの街に入ることができた。

 ただ、奴隷売買許可証を見せたときの門番の顔が忘れられない。

 ガルムは結構悪いことをしているようだ。

 女のいう通りに馬車を走らせる。

 すると裏通りに入り、下水が流れるような汚らしい場所の崩れそうな店に着いた。


「ここだ」


 女は馬車を降りると店の中へ入った。

 俺も続いて中へ入る。


「臭いな」


 俺は、事務所を通ると、匂いがする奥へ向かった。

 土間には四人の少女が転がって寝ていた。

 やせこけた少女たち。

 生きてはいるのだろう。


 俺に気づくと、


「ガルム様が帰ってきた」


 と言って、体を起こす。

 どの少女たちの体にも何らかの欠損があり、俺に怯えているのが目にとれた。


「なんだこれは?」


 俺は顔をしかめる。


「今まで洗ってもらったこともないような奴隷ばかりだ。戦争で手や足がない者、生まれてから目が見えない者を買い、そんな娘や女を弱い者をいたぶるのが趣味の男に売るんだ。そして、その子は死ぬまで遊ばれて捨てられる」

「自分の事だが、虫唾が走るな」


 さて……助けるんだったな。


 俺は、転がる女たちに魔法をかける。今回は欠損部の回復。足ならその少女の足。腕から手もその少女の手、目ならその少女の目が再生するように、そしてちゃんと神経がつながるようにイメージした。

 少女たちの欠損部が修復されていく。

 良かった良かったと思い、

「よし治ったな」

 そう言った瞬間俺の意識が飛び視界が真っ黒になった。



「イテテテテ、頭いてえ」


 結構な頭痛がする。

 後で聞いたら、魔力枯渇の症状らしかった。

 欠損部位の修復って魔力を使うのらしい。

 ふと目を開けると、女が居た。


「何やってる?」

「いやな、急に倒れただろ。だから起きるまで膝枕をな……」


 俺を見下ろしながら女が言った。

 女性だからか、こんなに筋肉があってもちゃんと柔らかい。


 寝心地がいいな。


「もう俺には要はないだろ。剣も事務所で見かけた。持って出て行っていいぞ」


 俺は見上げながら女に言う。


「お前、この世界のことがわかるのか?」

「知らない。でも何とかするさ。こいつらも食わさなきゃいかんし」


 知らない間に集まっていた少女たち。垢で汚れた部分と綺麗な部分があるのは修復された部分なのだろう。


「どうかしたか? 手足は動くか? 目は見えるか?」


 少女たちはコクリと頷いた。


「良かった。悪かったな。俺がお前たちを放置したようだ。安心しろ、何とか食わせてやる。風呂にも入らないといけないな、可愛い顔が台無しだ」


 俺が笑いながら少女たちの頭を撫でると、少女たちのすすり泣く声が聞こえた。


 今更ながら思う……ガルムは悪い奴だったんだな。


「わっ、私がお前を助けてやろう」

「いやいや、これ以上迷惑をかけられない。君は名の売れた冒険者なんだろ? こんなところで燻ぶらせるわけにもいかない」

「私が助けたいのだ」

「なんで?」

「なっ、なんとなくでいいだろ? それに、本当にお前の中身がガルムでないのかを確認しなければならない。このままこの子たちを襲っても困る」

 赤い顔をして、ちょっとモジモジしながら女は言った。


「この世界の常識を知らないから、君が助けてくれるなら大助かりだが……」

「なら、私に助けられればいい」


 俺は少し考えていた。

 すると、女は不安な顔をする。


「わかった、よろしく頼むよ」


 俺が手を出すと、女は手を握り返した。

 鼻の頭を掻く女。


「それと、私はカミラだ。『君』はやめてくれ」

「ああ、わかった。俺は知っての通り『ガルム』で頼む」


 俺の協力者ができた瞬間だった。



「さて、この子たちを洗わないと……。石鹸ってあるのか?」

「石鹸? なんだそれは」

「水にさらし擦ると泡が出るもの」

「あれは高いぞ。貴族が使うものだ銀貨一枚もする」

「ふむ……高いなら後で作ろ」

「何か言ったか?」

「いいや何も」

「それじゃあ、それを買ってきてくれ」


 俺は、懐から財布を出し、金貨を三枚渡した。


「多すぎる」

「いろいろ頼むこともある。それにカミラも要るものがあれば買えばいい」

「なら、預かっておくだけだぞ」

「それでいい」


 渋々受け取るカミラだった。


 とはいえ、金貨三枚がどのくらいの価値なのか俺は知らないんだがね。


 カミラが店の外へ出ていこうとしたとき、


「馬車を使ってもいいぞ!」

 と声をかけておいた。


 蹄の音がしたので、馬車に乗っていったのだろう。


「さて、掃除をするので離れてほしい。事務所で待っていてくれないか?」

 少女たちはお互いに手助けしながら、ぞろぞろと事務所へ向かった。


 汚れは水で洗い流して土間を硬化させ白くする。イメージは大理石の床。

 すると、真っ白な床に生まれ変わった。

 柱の汚れを除去。

 すると今立てたような新しい柱になる。

 んー殺風景だね。


「ごめん、今度はあっちの部屋に行ってくれるか?」


 俺は土間だった部屋を指差す。

 綺麗になった部屋を見て少女たちは「えっ」という顔をしていたが、再びぞろぞろと土間だった部屋へ行った。


 俺は事務所の汚れの除去をイメージし部屋全体に魔法をかける。

 うんピカピカだね。

 帳簿らしきものもあったが、白紙だったので捨てた。


 ああ、二階もあるんだな。これは後にするか。


 俺は店の前に出る。


「きったねえなあ」


 と一言。

 そして、洗車機をイメージして魔法をかけ家を洗い、乾燥させるのだった。

 店の周囲の付帯物がいくつか飛んだが気にしない。


「ん、きれいきれい」


 パンパンと手を叩き、店の中に入ろうとしたとき丁度カミラが戻ってきた。


「何これ?」

「『何これ? 』もなにも店をきれいにしただけだが」

「新築みたいじゃないか」


 店を見上げるカミラ。


「家は綺麗なほうがいいだろ?」

「まあ、それはそうだ」


 カミラは懐から、


「これが石鹸だ、市で買ってきた」


 と言って小さな弁当箱ほどの大きさの固形物を差し出した。


「ん、ありがとう。もう一つお願いがあるんだが……」

「なんだ? お願いとは」

「あの子たちを風呂に入れてやってくれないか? さすがにあの年齢の子たちを洗うのは気が引ける」


 フフフ……カミラが笑う。


「今更だが、ガルムであってガルムではないのだな」

 俺は苦笑いするしかなかった。

 再び店の中に入ると少女たちは待っていた。


「そういえば、なぜ君たちは逃げない? 俺がやってきたことを考えれば、体も治ったのだから逃げても問題ないだろうに」


 ふと、言葉が出た。


「ガルム、この子たちは帰るところなどないのだ。欠損があると言う事は一人前の仕事ができない。だから、食い扶持を減らすために売りに出される。一人食い扶持が減れば、家族が生きる確率が上がるんだ。欠損部位が治って家へ帰ったとしても逃げ帰ったと勘違いされ、家には入れてもらえない。ここに連れ戻されるだろう。そう言う契約で親は金をもらっているのだからな」


 カミラには心当たりがあるのだろう。


「ここはそういう世界なのか……」

「そう、そういう世界だから、お前のような奴隷商人が生活できる」


 奴隷が普通に居る世界なのだ。


「そういえば風呂に入ると言っていたが、風呂など無いぞ? どうやって?」

「ああ、土間の部屋をきれいにしたから、そこで洗ってもらえれば……。ちょっと待って、風呂を作って沸かすから」

「えっ、風呂を作る?」


 カミラの驚く声を聞きながら、俺は十人ほどが入れる浴場をイメージした。

 すると地面が盛り上がり、大きな湯舟ができる。


 さすがに水道はないか、洗うためのお湯を溜める小さめの湯船も作る。風呂桶は……洗面台にあった洗面器でいいだろう。


 早速、大小の湯船に湯を張る。

 俺の思う適温で魔力を使ってお湯を出すと、意外と簡単に湯が張れた。

 事務所から直接見えないようにするため壁を作る。


 あー換気扇ないや。

 事務所と土間の間に仕切りなどないので、どんどん湯気が入ってきた。

 外に出て、土間から高い煙突を一本作る。


 ん、煙突効果で上へ抜ける。少々はマシだろう。


「悪いな、タオルはこれしかない」


 カミラにタオルを渡す。

 大きめのタオル一枚と小さめのタオル二枚を探し出すのが精いっぱい。

 一応、魔法で水洗いと乾燥はしておいた。


「ガルム、お前はすごいな。湯屋並みの風呂をあっという間に作り上げた」

「できるからしたまで。さて、ゆっくり風呂に入れてやってくれ。あと、この箱に服を入れておいてくれないか? あとで洗っておく」


 漁ってはみたのだが少女の服の洗い替えなどない。


「わかった……が、覗くなよ」

「いくらカミラが美人さんでも覗いたりしないよ」


 芸人だったら「覗け」ってところなんだろうが、これは違うのだろうな。

 まあ、俺も覗きの趣味は無い。



 別の意味で先に二階でも覗いておくか。


 俺は二階への階段を上がる。

 薄暗い部屋が二つ見えてきた。


 近くにあった部屋に入ると、何かの匂いが籠る。

 十畳ぐらいは有るだろうか


 あー、カミラがどうのこうのされたのがここなのか。


 そういう器具が転がっている。


 一応片付けるか。

 でも、スペースがないんだよな。

 邪魔なものを隅に片付けるのでは意味がない。


 異次元なポケットをイメージして魔法を使うとそこに黒い渦。

 そこに器具を放り込む。

 後で捨てよう。


 ん、取り出せるかな? 


「鞭」


 すると渦が出現し、中から鞭が現れた。


 こりゃ便利だ。


 一応、部屋の内部洗浄。


 ん、匂いがなくなった。


 これで、あの子達のベッドぐらいは置けるか。


 隣に行くと

 半分ぐらいの部屋。


 うわっ、きったねぇ


 ベッドの上にはと食いカス。そして酒が入った徳利のような物が転がっている。

 

 汚宅だな。


 ゴミを片付け、ベッドを掃除。そのあと布団乾燥を行った。

 ふかふかの布団。


 これでカミラが寝られる。


 事務所に長椅子があったな、俺はそれで寝るかね。



 片付けが終わり一階に降りると、汚れた服が入った箱がおいてあった。

「はあ、これも汚い。匂いもすごい」

 水球を浮かし、その中に洗濯物を放り込むと、水球の中に水流を作り、汚れた服を洗った。

 これまた汚いな、水が真っ黒だ。


 何度か水を入れ換えきれいになるまで洗濯すると、服から水分を抜き温風で乾かす。


 ん、これもフカフカ。ありゃ、でかいのがある。カミラのか? 


 俺は服を畳み、箱の中に入れ直しておく。

 そして、風呂の脱衣所へ箱を戻しておいた。


 ちょっと疲れたな。


 事務所の長椅子に寝転がり天井を見ていると。


「きもちよかったねえ」

「私、お風呂って初めて」

「ガルムさん変わった。今のガルムさんならいいな」

「私も目が見えるようになった。ガルムさんのお陰だってカミラさんが言ってたね」


 ちょうど、机の影で俺の体が見えなかったのか、俺を気にせず、楽しげに話す。


「そんなに変わったか?」


 俺が体を起こすと、少女たちは驚いた顔をしたが、


「うん、一回りするぐらい」


 と一人の女の子が言った。


 一回りしたら、もとに戻りそうだがなあ……。

 嬉しそうだから言わないでおくか。


 よくみると、少女たちの髪が濡れていた。

 タオルが少なかったか……。


「お前ら、ちょっと来い」


 手招きすると、来たのはさっき俺に「一回り」発言した女の子だけだった。


 俺って人望ないねえ……。


 来た女の子に、ドライヤーをイメージして温風をかけ、手櫛で頭を乾かす。


「あっ気持ちいい」


 暫く集中していると、ばつが悪そうに並ぶ他の三人が居た。


「お前はもう乾いたな。次は?」


 結局残りの三人の髪も乾かした。


「よし、お前らも美人さんだ」


 そんなことを言っていると、一人の影が現れる。カミラだ。


「気持ち良さそうだな」

「うん、気持ちよかったよ。暖かい風がウォーンと出て、髪が乾いてサラサラになるの」


 一人の女の子が言った。


「私もいいか?」


 カミラはそう言いながら俺の前に座る。


「ああいいぞ」


 俺はカミラの髪を乾かす。


「これはいいな。毎日でもしてほしい」

「ああ、手伝ってくれる間は遠慮しないで言ってくれ。髪を乾かすぐらいはやらせてもらう」


 俺が言うと、カミラは嬉しそうだった。


作品を読んでいただきありがとうございました。

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