ダンジョンマスター
「さて、先を目指すか……」
俺は透明になったタワーシールドを持ち、先を目指す。
ボス部屋の奥に行くとちいさな扉ががひとつ。
「これで終わりかね」
「階段がないということは、最深部なんだろうな」
標示させてみたが、ここに降りてきた階段しかなかった
「ここは?」
「聞いていた話が正しいなら、ダンジョンマスターの部屋」
「中には何が?」
「そこまでは知らない。ダンジョンマスターの部屋に行き着くのが稀」
「ふむ、まあ行くしかないか」
扉を明け、中に入ると。
「いやーおめでとう。エレメンタルドラゴンをあんなに簡単に倒すとは思わなかったよ」
甲高い女性の声が聞こえる。
声のほうを見ると目の前には大きなオウムが居た。
「ただ、エレメンタルドラゴンを倒した後にヤッちゃうのはどうかと思うけどね。階層中その女の声が響いてたんだよ。気持ちよかった? 気持良かったんでしょ? もう満足そうな顔してたからねぇ。その後抱き付いたままお兄さんを全然離さない。凄いねえお姉さん」
話しを聞きながらカミラは真っ赤になり、フルフルと拳を震わせていた。
「いやー、お兄さんもお兄さんだよ。確かにダンジョン内で盛り上がってヤッちゃう冒険者は居たけども、小屋まで作ってヤるのは初めて見たよ。絶倫だねぇお姉さんの腰が立たなくなってたじゃない。お兄さん凄いね」
なぜ、わざわざ俺を怒らせようとする?
「褒めてもらって嬉しいよ。
ただ、俺の妻をバカにするのはやめてもらえないか」
できるだけ心を落ち着けて言った。
「勝てるの?」
俺を煽るように嘴の端が上がる。オウムが笑っていた。
「さあ? お前がどのくらいの強さなのかはわからない。ただな、俺の妻をバカにされてそのままで居るつもりもない」
こっちも口角を上げ笑い返す。
「お兄さんはパワー系だよね。でも僕は体が小さいからパワーは無理。魔力勝負でいい? お互いの自分の出せる最大の魔力をお互いに向けて流せば、勝った方に魔力が逆流するからすぐに勝敗がつく。 片方は死ぬか再起不能になっちゃうけどいいかな?」
オウムが俺に勝てる力があるのならわざわざ煽って怒らせる必要はない。
煽る理由がある。
「ああ、それでいい」
オウムは羽根を差し出した。
俺はオウムの羽を掴む。
「お姉さん、合図をお願い」
「えっ、私?」
「そう、お兄さんが死ぬ瞬間を作るのはお姉さん」
再びオウムが笑った。
「カミラ、安心しろ。多分負けない。
こいつは俺とカミラがここに来るまでの過程を見ていたはずだ。それで俺に勝つ余裕があるのなら、さっさと勝負をして勝てばいいだけのこと、ココでわざわざ煽って怒らすのは、こらせていつもの力を出させないため。だから遠慮せず合図をしてくれ」
俺も再び笑った。
そして心を落ち着け、すぐにでも最大の魔力が使えるようにしておく。
俺も知らなかったが、体が白く輝いた。
それを見たカミラが頷き、
「わかった、よーい!」
と、合図を出そうとした瞬間、
「ゴメンゴメンゴメンゴメン……」
何度も頭を下げ始めるオウム。
そして、オウムは
「今のままじゃ勝てない。
このままやっては僕が消えてしまう。ちょっとだけだけど、お兄さんの方が魔力が強いんだ」
羽根を俺の手から外そうと暴れながら言った。
「おい、オウム。勝負を仕掛けたのはお前からだ。だから俺が『勝負しない』と言わない限りやってもらうのが筋じゃないか?俺は死なないのは確定している。だがお前は『死にそうだからやめたい』。なら、俺がやめることに利点は?」
困った顔をするオウム。
「じゃあ、どうすればいいのさ!」
おっと、口調が変わった。こっちが本性か。
「そうだな、俺の奴隷になれ。そうすれば、お前との勝負をやめてやろう」
「あたいを奴隷に?」
「ああ、その体に紋章をつける。どうする? 死ぬか奴隷になるか」
浮かぶはずのないオウムの顔に汗が浮かんだように見えた。
そして、諦めたように、
「ああ分かったよ、奴隷になればいいんだろ! ダンジョンマスターが奴隷になるなんて聞いたことが無い、最低だ!」
と言い放った。
「奴隷が嫌なら、魔力を通して殺してやるが?」
「死ぬのも嫌だ。だから奴隷になる」
どっちだよ。
俺は俺の持ちうる魔力をオウムに流し込み、紋章を書き、中に鍵を作った。
「きっつぅ。ほとんど魔力が残ってない。吐きそう」
そう言うと、
「大丈夫か?」
カミラが心配して俺を見る。
汗が浮き、顔色も良くないのだろう。
「四人の欠損を治した時よりはましかな。意識が飛んでいない。」
「そうだけど……」
それでも心配してくれるカミラ。
「俺は大丈夫」
俺はそう言うとカミラの頭を撫でた。
「わかった」
と言ってカミラは少し安心したようだった。
そしてオウムを見ると、
「さて、オウム。お前はこのバラの紋章をつけた者を傷つけてはいけない。わかったな」
と、言っておく。
「そっ、それだけ?」
チラチラと俺を見ながらオウムが言った。
「基本はそれだけだが、あとはダンジョンマスターができることを教えて欲しいかな」
そう言うと、オウムが喋り始めた。
俺を嫌っている割には喋るオウムだな。
「ダンジョンマスターはダンジョンを司るもの。だから、ダンジョンの階層数、入口の数、出てくる魔物、ドロップ、宝箱、環境、全てを操作できる」
何でも有りか。
「ダンジョンマスターがダンジョンを出ることは?」
「できる」
オウムはコクリと頷いた。
「エレメンタルドラゴンを殺した者は今までに居るのか?」
「けっ」
と唾を吐くような動きをして、
「居ない。あんたが初めて。あんたみたいなのが来るとは思っていなかった」
ダンジョンマスターは悔しそうに言った。
「エレメンタルドラゴンは復活する?」
「明日の朝には再配置で復活する。あのままここでイチャイチャして明日の朝まで居れば寝ている間に攻撃されて死んでたのにね」
ふむ、約二日で復活する訳か……。
「しかしオウム、お前、酷いことを言うやつだな」
「アンタなんか嫌い」
「嫌いで結構だが、せめて名前ぐらいはつけるか」
「えっ、名前? 私に名前?」
思ったのと違うのか、オウムは『名前』という言葉にソワソワし始めた。
「名前がどうした?」
「えっ、いや、まあ……つけてくれるというなら、貰ってやってもいいけど……」
上から目線の発言をするオウム。
しかし、気になって仕方ないのかチラチラと俺を見ている。
名前が欲しくてたまらないらしい。
気付いたカミラが、
「こんな言うことを聞かないのに『名前』を与えるの?」
と俺に聞いてきた。
「名前を与えないほうがいい?」
俺がカミラに聞くと割り込むように、
「名前をおくれよ!
名前欲しいんだ。
このダンジョンのダンジョンマスターになってからずっと、名前を貰っていない。
誰がそうしたのか、アタイが意識を持った時には今のアタイだった。
そして、名前もないままずっとこのダンジョンの管理。
面白くないんだ。
でもやっと、面白い奴が来たと思った。
なのにアタイより強いなんて!」
なんて日だ!
とは続かなかった。
「何でお前がオウムになっているのかは知らないが、『ロロ』ってのでどうだ?」
「ロロ……」
と呟いたあと、
「アタイはアンタの下でいい。名前を付けてもらうのが夢だったから」
期せずして、ダンジョンマスターの夢をかなえてしまったのか。
急に協力的になるロロ。
まあ、言うことを聞いてくれるのはいい事だ。
「ちなみに、この階層は何階?」
「二十五階よ。大体の冒険者は無理してニ十階あたりで死ぬの。そういうふうにバランスを取ってるから。ラスボス設定のエレメンタルドラゴンを一人で倒せるお兄さんが異常なの。あれ倒せる人って普通居ないから」
「んー、うちの娘の一人が言うには、俺には精霊が付いているらしくてな。都合よく苦手な属性の攻撃に変更してくれたのが理由らしい」
あの時は俺のイメージを消してまで、それぞれの頭に合った武器を変更してくれたからなぁ。
感謝です。
「まあ、私の負けなのは仕方ないから。奴隷でもなんでもいいから使ってちょうだい」
不貞腐れた雰囲気の中に少しだけ嬉しそうなのロロの声が聞こえるのだった。
小説を読んでいただきありがとうございました。