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やっぱりお勉強

 フルが近寄ってきた。

 結構深刻な顔。


「ん? どうした?」

「私には無い」

「無い? 何が」

「紋章。みんな付いてる」

「今更俺の奴隷になんてならなくていいだろう?」

「今のあなたならいい」

「性格変わるかもしれないぞ?」

「そうなったらその時。だから、私にも紋章付けて。みんなのバラはみんなとの繋がり。あなたとの繫がりでもある。いくら体が繋がっても、心が繋がっている証拠が欲しい」

「んー、わかんねぇ。そんなもんかねぇ」


 おれは頭を掻く。


「そんなものよ」


 説得を諦めた俺を見てフルが嬉しそうにするのだった。

 いつも通りの流れでフルにも紋章をつける。


「そういや、フルって何歳?」

「にっ、二十歳」


 恥ずかしそうにフルが言った。


「ん? ニ十歳っていかんの?」

「行き遅れ……」

「ああ、焦る時期。だから俺?」

「正直それもあるけど……ただ、あなたを見てたらいいなって思ったの。あなたがみんなを大切にしてる。みんなもあなたが好き。あの子たちは土間に転がされていた子達でしょ。ガルムは暴力的であの子たちを物にしか見ていなくて、食事もまともに与えられなくて、あの子たちの目は死んでいた。何をされても人形のように受けるしかなかった。でも、あなたがガルムになって子達が笑っていた。楽しんでいた。それを見て『私も中に入れるかな? 』なんて思ったの。それに、やさしい所も……。普通、二回も刺されたら怒るでしょ? でも、あなたは苦笑いするだけ」

「苦笑いするしかないだろうに」

「命の危険があったんだから、本当は怒ると思う。でも、私を気遣って苦笑いしているのを見てたらダメだった」

「それで今に至るか……」

「そう、だから今は幸せ」


 あまり気にしてなかったことで喜ばれるとはな……。


「そりゃ良かった。俺も皆には幸せでいて欲しい」



 ふと思い出す。


「ああ、読み書き計算できるか?」

「私は一応貴族だったから、その程度の事はできる。けど、計算は苦手」


 能力上がってるからできるようになってるとは思うが、まあ、苦手な物は仕方ない。


「計算は苦手かぁ。それなら読み書きだけでもあの四人に教えてもらえないか?」

「そのくらいなら問題ないわよ?」

「うし、先生確保」


 俺はガッツポーズをしてしまった。


「どうして教えるの?」


 フルが不思議そうに聞いてきた。


「ん? 彼女たちは環境のせいか文盲だ。でも、文字を知れば自分で学べるだろ? そりゃ体験しなきゃいけない事もある。しかし、その回避方法を事前に調べることもできる。書くことができれば、遠くの人に手紙を出したり、自分の生き様を日記にしたりできる。計算ができれば売買で騙されることが無い。まあ、『基本的な生活が安心してできるかな』ってところだ。でも、彼女たちの可能性ももっと広がると思う。ああ、ちゃんと給料は出すぞ?」

「いいわよ、私はここの居候。お金は要らないわ」

「いいや、何か欲しいものがあるかもしれない。給料は出すよ」

「だって、あなたと居れば必要な物は買ってくれるでしょ? あれ? 私を放り出すつもり? 私は離れるつもりはないけど」


 少し俺に強くなったフル。

 まあ、俺が皆に弱いってところもある。


「まあ、俺も今更離すつもりはないがね。それじゃ先生の件は頼んだ」

「わかったわ」



 市をウロウロしていた時に見つけたもの。

 石板と蝋石。

 字を学び、計算をするのに便利だと思ったので買っておいた。

 あっ、余った部屋があったな。

 片面の壁を潰し、そこに魔法で大きな石板を作った。

 先生であるフル用だ。

 彼女たちの座る簡単な机と椅子をドワーフの家具職人から購入する。

 先生用の机も購入。


「こんな感じ」って図に書いたら、すぐに作ってくれた。


 すげえな、このドワーフ。

 名を聞くと、マルトと言う名だそうな。

 彼女たちの机の上に石板と蝋石を置く。

 フル用の先生机にも置いておく。

 指し棒は俺のお手製だ。

 何かの魔物の細い髭が結構プラスティックっぽかったので、それに木の柄をつけて作った。


「うし、教室完成」



「みんな、ちゅーもーく」


 昼食の時に俺は声をかけた。


「どうしたの?」


 カミラが聞いてくる。


「その前に、読み書き計算ができる奴?」


 フルが恐る恐る手を上げる。


「フルだけかぁ」

「読みは?」


 カミラとユーリア、マルレーンが手を上げる。


「書きは?」


 カミラだけか。


「計算は?」


 だれも手が上がらない。


「みんな、勉強しよう。読み書き計算ができるようにな」

「俺、勉強しなくてもいい。剣が強くなれば大丈夫」


 デボラが言った。


「デボラ、お前、冒険者になって依頼票が読めなければ依頼も受けられないぞ? パーティーのメンバー全員が字が読めなかったらどうする?」

「ギルドの人に読んでもらう」


 デボラが言った。


「でもな、ギルド職員が書いてあることの意味を理解できないと、ちゃんと内容が伝わらなくなる。自分が依頼をこなして戻ってきたと思っても、違っていたなんてことがあったら困るだろ?」

「ガルムさん。字が書けないとどうなる?」

「字が書けなければ宿屋にも泊れない。宿帳ってのがあって、そこに自分の名前を書くんだ。代筆してくれるところもあるかもしれないが、それでも間違って名前を書かれてもわからない」

「計算は?」

「これはお前が騙されないため。銀貨を払ってお釣りがわからなければ、店の人が払ったお金を受け取るしかない。店の人が正直者ならいいが、俺のように悪い奴だったらお釣りを少なくするかもしれないだろ?」

「ガルムさんはそんなことはしないが、確かに言う通りだと思う。俺は多分騙される」

「だから、勉強しなきゃな。少しづつでもいいから、読み書き計算はできるようにしような」

「わかった」


 デボラは納得してくれたようだ。


「カミラもな」

「えっ、私もか?」

「当然だろう? 計算できんのなら、教わっておけ」

「うっ、うん」


 カミラの席を追加だな。



 朝は勉強、昼からはカミラによる訓練。

 彼女たちはメキメキ、カミラはぼちぼち、成果を出していくのだった。



 ある日、


「この子の持ち主はあんたか?」


 そう言ってアンナマリーを連れ白髪の年寄りが現れた。


「ああ、アンナマリーの主人は俺だが?」

「売ってくれんか?」

「藪から棒に何だ?」

「この子は儂が買おうとした物のお釣りが誤魔化されていることを即座に気付き、指摘したのじゃ。この子なら儂の商売の跡を継げる。奴隷ではなくまっさらな人間として儂が買い取る。悪名名高いこんな奴隷商人の家に住むこともあるまい」


 はあ、俺の悪名は相変わらずか。


「一応奴隷だから売る事もあるが、それはアンナマリーが『あんたの所へ行きたい』と言ったらだな」

「私はあなたのところへは行きません。それはあなたがガルム様の事を理解していないから。あなたは奴隷が字を読み書きできて計算ができるのを見たことがありますか?」


 おっ、アンナマリーの毅然とした態度。


「そうじゃ、そんな奴隷など見たことが無いから、買おうと思ったのじゃ」

「ガルム様は目が見えない私を治してくれました。字が読めない、字が書けない、計算さえできない私にいろいろ教えてくれました。あなたを助けられたのはその結果です」

「しかし、この男の評判は悪い。わざと体の悪い子や手や足の無い子を安く引き取り、悪い奴等に性行為目的で売り払うというではないか!」

「だから、あなたは何も見えていません。私のどこに怪我がありますか? 悪い奴等に売るなら、私たちに教育を施す必要もないでしょう? おじいさん、私はまだこの家で暮らします。まだガルム様やカミラさん、フルさんに教わることがありますから」


 そう言うと、ツカツカと店の中に入っていった。


「そういうことらしい、今回の話はなかったことにしてくれ」


 そう言って、扉を閉めた。



「アンナマリーみたいな話もそのうち出てくるわよ? あの子たち能力高いから」

 カミラが台所のテーブルに座りニヤニヤしながら言った。

「行く行かないは俺が決めることじゃない。あいつらが決めればいい」

「要は今更、ガルムから売ろうとはしないってことね」


 カミラは笑っていた。


「ああ、そういうこと。あいつらの人生、好きなようにすればいい。俺の下に居る必要もないだろうしな」

「奴隷商人失格ね」


 フルが現れた。

「奴隷商人ねぇ……そういやそんな職業だったな」

「一度奴隷市場に行ってみる?」


 カミラが聞いてきた。


「興味はあるが、まだまだ無理だろうな」

「なぜ?」

「この店じゃ、もう人が入れないだろ? 住まわせようにも場所がない。この辺は俺の店の周りは人が住んでいないようだ。金を稼いで隣の家でも買うかね」


 奴隷を買おうにも住まう場所がない。このままでは奴隷商人としては活動できないな。


「だったら、私とダンジョンに入らない?」

「ダンジョンか……それでもいいな。まだまだ俺はこの世界を知らない。やっぱりファンタジーと言えばダンジョンだしな。ちなみにあいつらは冒険者としてはどうなんだ?」

「そうね、この街のギルドではトップレベルのパーティーになれるんじゃないかしら」


 顎に手を当て考えながらカミラが言った。


「でも、まずは簡単な仕事からね」


 安全優先のカミラである。



 俺はフルを見る。

 すると、ぽっと頬を染めた。


「フルは留守番だな」


 わかっているのだろう、


「仕方ないわね、私は戦闘に向かないから」


 と言って不貞腐れていた。


「家に誰かいると安心するんだよ。それに彼女たちは毎日帰ってくるようにするから、しばらくは俺の代わりをして欲しい」

「カミラとガルフ、二人で……羨ましい」

「そうだな、でも遊びじゃないぞ? まあ、留守番の駄賃でプリン作ってやる。帰ったらかわいがるし……我慢我慢」

「うー。我慢する」


 フルの頭を撫でるとくすぐったそうにした。



 さあ、ダンジョン攻略だ。



小説を読んでいただきありがとうございました

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