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事故

 俺は三交代勤務の工場内で働いていた。

 妻もおらず分譲マンションを買っての一人暮らし。気楽なもんである。


 ある日、計器室で、


 俺もあと十五年で退職かぁ……。


 などと考えているとDCSのアラームが鳴り反応器の急激な圧力上昇が始まる。

 何が原因なのかわからない。


「除害塔へ生成物を抜くぞ」


 反応器内部の圧力が反応器の耐圧を超えるまでに生成物を除害塔に抜く必要があると考えた。

 DCSで遠隔操作のバルブを開け除害塔へ生成物を抜いていく。しかしそれでも追いつかず内部圧力が上昇する。


「手動バルブを操作する。圧力が下がりだしたら言ってくれ」


 処置のため急いで高所の手動バルブを開けた。


「圧力が低下を始めました」


 同僚から無線が入る。


 まだ再スタートのための処置はあるが、とりあえず一息つけるな……。


 そう思って柵にもたれた時、歩廊の柵の根元が腐っていたのか柵が外れ、支えがなくなった俺はそのまま落下するのだった。


 ああ、労災かあ……皆に迷惑かけるなぁ……。


 目の前が暗くなると、ビリヤード台で球同士が当たり弾け飛ぶような、

「キン」

 という音が聞こえた。




 いたたた、めっちゃ痛い。

 見ると腹に矢が三本刺さっている。

 すっげー血が流れてる。


 しかし何で矢? 


 傍には矢が刺さって暴れている馬が居た。


 えっ、馬? 


 よく見ると俺の背後には荷馬車。そして、檻があり。

 奴隷が着るような粗末な布でできた服を着た女が居た。

 体は引締まり、腹筋も割れている。

 しかし、胸も大きくメリハリがある。

 黒髪のアマゾネスのような女。


 俺は高所からの墜落で死んだんじゃなかったのか? 


「ギギ……ギグガ」

 犬歯がありシワシワな緑色の顔……ピ〇コロ? 

 ボロボロのズボンと簡単な服。


 何かで見たことがある……。ファンタジーな小説でよく出てくるゴブリンだ。


 ゴブリンは剣を持ち俺を威嚇しているところを見ると敵であることだけはわかった。


 さて、腹に刺さった三本の矢。大量の出血。何とかしないと死ぬ。

 やばいやばいやばい…………。

 ファンタジーな小説では魔法はイメージだろ? 


 すがるように、急いでイメージしようとはするが、イメージなかなかまとまらない。


「こんな時こそ、作業前の一呼吸かね」


 どうやったって死ぬときは死ぬのだ。そして俺は転落ですでに一度死んでいる。


 軽く深呼吸してすると、少し落ち着いた。

 ちゃんと治癒をイメージしてみる。

 矢に付いた汚れを除去、そして周囲の殺菌。止血して細胞分裂を加速する。


 ほら、治れ!


 すると傷が盛り上がり矢を押し出した。

 流れていた血も止まる。


 ふう、良かった。魔法はイメージで正しかったようだ。

 とりあえず、今は死なないだろう。


「なっ、何をする! 私を襲う気か!」


 前の世界の知識で知るゴブリンは女を犯す。そのせいかゴブリンは女のほうに食いつきが良いようだ。


 さて、魔法がイメージなら、知っている武器イメージで攻撃魔法になるのかね? 

 俺は突撃銃をイメージする。

 昔やったSEG〇のゲームで旧ドイツ軍から鹵獲したSTG(シュトゥルムゲヴェーア)44をイメージした。

 当然撃ったことも触ったこともない銃ではあるが、構えをとると音も反動もなく何かが飛び出した。

 あっ、危ない。

 フルオートをイメージしてしまった。

 俺の技術じゃ女に当たる。

 イメージでセミオートに切り変えSTG44にレーザーサイトをつけた。

 着かないはずだが着くようだ。

 ちゃんとレーザーが出てる。

 近くに居たゴブリンにレーザー光を当て弾道を確認したのち弾を打ち込んだ。

 一度トリガーを引くと、確実に一匹が倒れる。

 矢を打つ者もいたが、それも倒した。

 弾道曲線など気にしなくていいようだ。


 何匹倒しただろうか? 

 俺の周りには檻の中に居る女と暴れる馬しか居なくなった。


 さて、まずは馬だな。女はケガをしていない。

 治癒をイメージして馬に魔法をかけた。


 おっ、治る。


 俺の時と同じイメージでよかったようだ。

 何が起こったのかわからず、馬はフンフンと自分の傷があった場所を嗅いでいた。

 次は女か。


「大丈夫か?」


 俺は声をかけたが、女は反応しない。


「お前になど聞く口は持たない」

「何でだ?」

「お前は私を貶め、奴隷にして売りに出すのだろ? 強い女を好む年寄りに売ると言っていたではないか!」

「いやいやいやいや、俺は君と会うの初めてだし」

「初めてのはずがあるまい。ずっと商人の奴隷にすると言って私を辱めてきたではないか」

「えっ? 全然わからない」

「何を言っている。私のほうがお前の言っていることがわからない、この数か月、私とともにいたはずの男が、なぜ私と初対面なのだ?」


 言っている意味が分からない。

 ふと見た檻の柵に映ったはずの俺は金髪だった。


 俺、髪染めたっけ? 

 いや、この十年染めてないよな。まあ、たまに染めても白髪染め程度だろう。

 色も抜いたことはない。


 顔を近づけると柵に縦長になった俺の顔が映った。


 おう、青い目? 俺の目は黒いはず。カラコンなんてしたことないぞ? 

 服が作業着じゃないよな?


 ヘルメットも無線も皮手袋もない。

 服は青い粗末なシャツに厚手のズボン。


「悪い、君にとって俺は何者?」

「いまさら何を言わす! お前は奴隷商人だろう! 今からナムスクへ私を売りに行くと言っていだではないか! 『白金貨三枚の大仕事だ』と言っていたぞ」


 俺は奴隷商人らしい。

 その男の体に魂が入ったのか……だったら辻褄が合う。


「ちなみに俺の名は?」

「ガルム。地獄の番犬の名前だ。お前にふさわしい」


 めっちゃ嫌われてるな。


「君の名は?」

「私はカミラ。大剣のカミラだ!」


 二つ名を持つ冒険者ってところかだから「強い女」って事なのか。


「じゃあ、檻を開けるから出てもらえる? 開放するのでどこへなりと行ってください」


 俺はぺこりと頭を下げた。

 驚いてぽかんとする女。


「えっ、何を言っている。私を売らなくていいのか?」

「そうだなあ、君を売ることをできないと思う」

「なぜ?」

「ん? 美人さんだから。そんなにきれいなストレートヘアーで顔も整ってて、アスリートのような筋肉してるのに胸もあって尻もある。俺には売れません」

「びっ美人? 辱めの間そんなことお前から一言も言われたことがないぞ?」


 褒められ慣れていないのか、真っ赤になる女だった。

 調教どうのと言っていたから、まあ美人なんて言わないだろうなぁ。


「信用できないかもしれないが一応説明しておくぞ。この体はガルムという男の体ではあるけど、魂はガルムとは違う。さっきの戦闘でガルムの魂は天に召されたらしい。その体に俺が入ったってわけだ。だから別人」

「別人? 確かに矢が三本お前に刺さってから何かが違う。いきなり治癒魔法を使ったあと、見たこともない攻撃魔法を使った」

「話をしていてもなんだ、とりあえず檻から出て。着替えとかあるかな?」


 自分の姿を再確認し、恥ずかしくなったのか女は何とか隠そうと手を動かす。

 そして、思い出したのか、


「御者台の下に私の荷物があるはず」


 と言った。


 俺は荷馬車の御者台を開け、その下にある袋を開けてみた。

 おう、女性ものの下着とズボン、シャツ、皮鎧……。

 間違いないね。

 ん? 奴隷売買権? 

 ああ、奴隷商人だと言ってたから、その関係か……。


 袋を軽く投げ女に渡す。

 すると、女は馬車の陰で着替えて現れた。


「おっ、カッコいいな。冒険者って初めて見た。俺の世界じゃそう言う冒険者は本の中でしか居なくてな」


ジロジロとみてしまう俺。


「あまりにも性格が違いすぎて困る。本当にガルムじゃないのか?」

「ああ違う。でも、ガルムのほうがこの世界では生きていきやすそうだ。話に聞くとガルムはあまり好まれない奴隷商人だったようだ。ならイメチェンしていい奴隷商人になろうかね? 早速君を開放したいんだが、どうすればいい?」


 俺は女に聞いてみた。


「この紋章を外すことができるなら私は奴隷ではなくなる。しかし、できるはずがないだろう? お前は魔法書士に依頼して私を奴隷にした。と言う事はお前はその魔法書士より魔力が低いんだ」


 女は首元を引っ張り鎖骨を出すと、黒い紋章を見せた。


「これかぁ」


 俺はまじまじと紋章を見ると手をかざし、紋章に魔力を当てる。


 ん? 鍵穴がある。

 鍵穴に合った魔力を入れれば鍵が外れるか……。


 魔力を集中し鍵を形作るとその鍵穴に入れた。

 鍵を微調し捻ると鍵が開く。

 女にあった紋章が消えた。

 唖然とする女。


「これでいいかな?」

「魔力が上回らなければ紋章を消すことができない。ガルムの魂と入れ替わったこの魂は魔法書士の魔力を上回るものを持っているというのか? 本当にお前、何者?」

「事故に合って飛び出した異界の魂が入りこんだガルムってとこだね。これで君は奴隷じゃなくなったな。『大剣の……』って言ってたから、剣を持ってるはず。どこにある?」

「お前の店にある」


 女はそう言った後、思い出したように


「お前が買い叩いた奴隷が放置されているんだ、助けられるのなら助けてやってもらえないか」


 と俺に頼んできた。


「ん、いいんだが、ガルムの家を知らないんだ。教えてもらえないか?」

「そうだな、お前はガルムを何も知らないんだったな。わかった私が連れて行ってやろう。剣を返してもらうついでだ」


 呆れたように女は言うのだった。

作品を読んでいただきありがとうございました

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