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初期ユニットにして多機能すぎたらしい

長らくの放置、不意に思い出したので続きです。

なんて言うかすみません。

平原に立ち尽くす2人と1匹の影があった。

 

「で、どうすんのよ。これから」

 

レティシアが呟く。

 

「そうですね。如何がなさいますか、チアキ様」

 

ティアが訊ねる。

 

「いや、俺に聞かれても困るんだが。ぶっちゃけ、ここがどこかもわかんねえし」

 

チアキがぼやいた。

 

3人は行くあても無く、自身が戦った跡地に未だ立っていたのだった。

 

「まずは、ちゃんとした衣食住のある場所に行きたいわ。やっと、洞窟暮らしが終わったていうのに野宿は嫌よ」

 

「そういうものなのですか?ティアとしては、雨風凌げればいいとしか考えてこなかったので正直わかりません」

 

「お前らこの数百年どんな暮らししてたんだよ。かたや未だ文明に固執し、かたや文明を手放してるし」

 

軽いため息混じりにチアキは言った。

 

「ティアは、文明を学んでいながら活用する前に捨てられた身なので知らないだけです、チアキ様。手放してなんてございません。ですが、不慣れなのは事実ですので、お手数ですが今後教えていただきたいです」

 

「おう、任せろ!」

 

照れくさそうに話すティアに、チアキは力強く返事を返したが、

 

「て、言ってもこの世界の事は俺も知らないんだけどな。とりあえず、人がいる村でもなんでもいいから移動したいとこなんだが、村が近くあんのかわかんねえんだよな」

 

と、チアキの頼りないことこの上ない発言があとを続くのだった。

 

「チアキってなんでそんなに残念なのかしら。『任せろ』って言ったそばから何もわかんないなんて」

 

「うっせえな。わかんねぇもんはわかねぇんだから、仕方ねぇだろ」

 

からかうレティシアと、反論するチアキ。そんな2人を見ていたティアが口を開いた。

 

「……あの、ティアもいるのに2人だけで会話をしないでください。少しばかり寂しく思いますので」

 

「なんか悪かった」

 

ティアをそっちのけで話をしていたことに気づいたチアキは謝るのだった。

 

「いえ。構いませんよ。それと、チアキ様が仰っていた近隣の集落の話ですが、ティアが何とかして見せますのでお任せ下さい」

 

「え、どういう事だ?」

 

ティアの突然の提案に首を傾げるチアキとレティシア。

 

「えっとですね。ティアの左の銀の目は未来視を含む多機能な千里眼となっているのです。ですから、この左目で周辺の探索を行えればいいかなと思いまして」

 

「おい、お前どんだけハイスペックなんだよ」

 

新たに明かされるティアの新情報に、チアキも思わずツッコミを入れてしまった。

 

「創造主曰く、色々な優れた能力を兼ね備えた『完成した生命』を作ろうとしたらしく、金と銀の魔眼に例の心臓他色々と組み込まれてますので」

 

誇らしげに自分のことを語るティアだった。

 

「とんでもないわね、あんた。なんで、そんなに凄いのに捨てられたのかしらね」

 

「だよな。ぶっちゃけ俺も気になった。こんなすげぇのに持ったいねぇよな」

 

この2人はデリカシーをどこに置いてきたのだろう。ティアに対する配慮がゼロの質問だった。チアキには元々その気があったが、チアキの影響かレティシアからも気遣いの心が消失していた。

 

「……えっとですね。ティアの事を見ていて、2人もお気づきかも知れませんが、ティアは感情が豊か過ぎるそうです。それがダメだったらしいです。あと、器じゃなかったとか言ってました」

 

苦笑いを浮かべながらティアは答えた。

 

「何それ。感情が豊かだったから捨てるって意味わかんない」

 

「だな。そいつはかなり、クズ過ぎるだろ」

 

今度は、怒り出す2人。そんな2人を見ていたティアは急に笑い出した。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「ふふふっ。だって捨てられたのはティア自身のことなのに、なんでお2人がそんなに怒るのですか?」

 

「けどよ」

 

「ティアだって捨てられたことは根に持っております。ですが、結果的にはお2人に出逢えたのですから平気ですよ」

 

そう話すティアの表情は幸せなものだった為、チアキはこれ以上話題を蒸し返すのはやめた。

 

「ならいいや。じゃあ、悪いがさっき言ってた探索お願いしていいか?」

 

「畏まりました、チアキ様」

 

笑顔で頷きティアは、『千里眼』の『透視』と『遠見』を駆使して探索を開始した。その様子を眺めながらレティシアはチアキに話しかけた。

 

「あんた、勝手な真似してくれたわね」

 

「あ?何が?」

 

「『何が?』ですって。とぼけんじゃないわよ、死体娘の事よ」

 

「死体娘ってティアの事か?まあ、あの時の最善があれだと思ったんだよ。勝手なことをしたとは思うけど、悪いことはしてない」

 

「開き直ってんじゃないわよ。心臓を回収してない事ぐらいは、私に謝りなさい。本来の約束を破ってるんだから」

 

「うっ」

 

レティシアの追求に低く唸ってチアキは黙った。

 

「黙るな。ていうか、あんな大見得切っといてどうなの、実際。なんだっけ、『その心臓を奪い取らせて貰う』だっけ。かっこつけてた割に、箱を開けてみたら同情して助けやりたいから『心臓は待ってくれ』ってそれはないでしょ」

 

ヒートアップするレティシアに、頭の上がらないチアキ。軽く空気が重くなる。

 

「わ、悪かったよ。相談もせずに勝手な真似して。だけど、約束を反故にする気はねえから安心しろ」

 

空気に耐えきれなかったのかチアキがレティシアに謝罪した。それを満足げに聞きながら、レティシアは腕組みをしながら喋り出した。

 

「まぁ、いいのよ。今回の件であんたの事が少し私もわかったし。あんたは誰だって助けたい思っちゃうのよね」

 

首を傾げるチアキ。どうやらレティシアの言葉はチアキには伝わらなかったようだった。

 

「あのぉ、よろしいでしょうか?」

 

そんな2人に探索を終えたティアが話し掛けた。

 

「待つ間が暇なため、会話をしていたのは分かりますが、そんなに会話が弾まれるとティアとしては複雑です。もしかしてティアは、邪魔なのでしょうか?」

 

不安げな表情でチアキをティアは見つめていた。

 

「そんな事ねぇよ、気にしすぎだ。それより、探索のほうはどうだったんだ?」

 

チアキは、すかさず返答しながら話題を変えにかかった。

 

「そうよ。どうだったのかしら?村ぐらいはあったのかしら」

 

チアキに合わせてレティシアも探索の結果を訊ねる。

 

「はい、ありましたよ。多少距離はありましたが、小さめですが町がありました。それなりに人も居ますし、宿泊場所もいくつか確認できました」

 

「かなり情報が細かいな。そんな所までわかるもんなのか?」

 

「まあ、かなり無理をしましたので」

 

そう笑いながらふらつくティアだった。

 

「おい、大丈夫か?そんなふらふらして、顔色も悪ぃぞ」

 

ティアを気にかけて近寄り顔を覗き込みチアキ。

 

「だ、大丈夫です、大丈夫なんで。あの、離れていただけますか?」

 

「へ?」

 

心配し過ぎていたのか、体が小さいせいか、チアキはかなり近い距離に居た。その為、ティアは顔を真っ赤にしていた。

 

「あっ、悪ぃ」

 

慌てて離れるチアキ。おかしな空気が二人の間に流れ、つい黙ってしまう。

 

「ねぇえ。どーーーでもいいんだけど移動しない?日も落ちそうだし」

 

レティシアが二人の間に現れた。その顔は、満面の笑みでありながら額に青筋を浮かべていた。そして、全身から怒りを振りまいていた。除け者にされた状況に対するもの、そしてティアばかりを気にするチアキに対しての怒りだった。

 

「そ、そうですね!距離もありますし、移動しましょう」

 

レティシアの表情と雰囲気に気付き焦るティア。

 

「そりゃ良いんだが、ほんとに平気か?もう少しぐらい休んでからの方がいいんじゃねぇか?」

 

焦るティアにも、苛立つレティシアにも気づかないチアキは、まだ1人ズレたことを言うのだった。つくり笑顔の崩れるレティシア、それを見て肩を落として項垂れるティア。

 

「いいえ、もう移動しましょう。お願いします、移動しましょう」

 

とうとう、ティアは移動をチアキに懇願した。

 

「わ、分かった」

 

なにか鬼気迫る必死な面持ちのティアに、チアキは頷きながら答えた。

 

 

やっとチアキが了承したことで3人は移動を始めた。ただ、やはりティアの足取りは重そうではあった。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「あんたねぇ」

 

「いや、もう休むとか言うつもりはねぇよ。ただ」

 

「『ただ』なによ」

 

「俺がおんぶてやろうかと」

 

「なっ」「えっ」

 

チアキの突然の『おんぶ』宣言に2人して驚きのあまり声を上げてしまった。

 

「急に何言ってんのよ、あんた」

 

「何って、その方がもうちょい速い移動ができると思っただけだよ。魔力もこの姿だったせいかだいぶ回復したんで、人の姿になっておんぶぐらいはできそうだからな」

 

「そういう事ね。いい案かもしれないわ」

 

「じゃあ、俺がティアをおんぶしてやるってことでいいな」

 

「いいんですか?」

 

チアキではなく何故かレティシアの反応を伺うティア。その様子に首をかしげながらチアキはティアの前に屈んで言った。

 

「早く乗れ。だいぶ日も落ちてきたんだ。急ぐんだろ?」

 

そんなチアキの背後でレティシアが無言ながらティアを促した為、ティアはチアキの背中に乗った。

 

「おあっ」

 

背中に当たる感覚に思わずチアキは声を漏らしてしまった。フードは脱いでいたもののローブのままだった為にわからなかったティアの体形を、チアキは否応無しに背中で感じ取ってしまった。その圧倒的な弾力と柔らかさにチアキの表情が崩れる。

 

「変態」

 

チアキに対して冷めた目で吐き捨てるように言い放ったレティシアはそのまま一人で歩きだした。

 

「おい、待て!」

 

急ぎティアを背負いながら、チアキはレティシアに止まるようを呼び掛けた。

 

「何を待つのかしら?先へ一人歩いていくことかしら?それとも、ティアの胸にあんたが興奮している様子から、あんたのことを変態と結論付けることかしら?」

 

レティシアの返答に冷や汗が出るチアキ。チアキに意識されていることがうれしくて、照れながら頬を染めるティア。かなり対照的な二人の反応だった。

 

「あ、歩くほうだよ!そもそも、お前道順分かってるわけじゃねぇんだから、一人で行くんじゃねえよ」

 

慌てえながら返答するチアキ。当然、胸の話題はスルーである。

 

「で、実際はどうだったのよ?」

 

「何がだよ?」

 

「胸よ。他に何があるっていうの」

 

だあが、レティシアはそんなチアキを逃がさなかった。

 

「うるせえ!何もねえよ」

 

「何もなかったですか?ティアの胸部はそれなりあると思っていたのですが、これではチアキ様は満足して頂けないということですか?」

 

それでも逃げるチアキの頭上から今にも泣きそうな声が降ってきた。

 

「最低。あんた、胸に触れておいてさらに泣かすつもり?」

 

更に、レティシアから非難の言葉まで飛んできた。

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」

 

もう訳がわからないチアキだった。

 

「あんたに今できることは、ちゃんとティアに言うべきことを言って、結果私に変態扱いされればいいのよ」

 

「どのみち変態なのは変わんないのな」

 

「仕方ないでしょ、胸に反応した時点であんたの負けよ」

 

「あっ、そう。もういいよ、それで」

 

諦めからため息をつきつつ、頭を掻きながらチアキはぼやいた。

 

「で、ティア自身はどうしたらいいのでしょうか?」

 

再び背中の上に居ながら、置いてけぼりをくっていたティアが恐る恐る話しかける。

 

「待ってなさい、ティア。今からチアキがあなたの体に対して、格好よく感想を言うから聞いてあげましょ」

 

「ちょい待て!ただでさえ話しずらい話題をなんでもっと話しずらくすんだよ」

 

「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと言いなさい」

 

軽く赤面しながら文句を言うチアキを、レティシアは睨み付けて言った。

 

「分かったよ。言えばいいんだろ、言えば。・・・・・・えっとなぁ、」

 

どことなく歯切れの悪いチアキ。そんなチアキの次の言葉を、2人は待ち構える。

 

「あ、あれだな。なんつうか柔らかかった。大きくて張りがあるけどそれ以上に柔らかさの方が印象的だな。心地の良いクッション背負ってる感じだ。あの、なんだ。い、良いんじゃねぇか」

 

茹で上がった蛸のように真っ赤になりながらチアキは言った。その様子から、恋愛経験のないチアキにとって、女性のそれも胸を褒めるというのはかなりの難易度だったことが窺える。

 

「あ、ありがとうございます、チアキ様。ティアはうれしいです」

 

チアキ同じく、顔を真っ赤にして照れるティアだった。

 

「やっぱし、変態じゃない。何を真面目に答えてんのよ」

 

そんな2人の会話が不服なのか、不満げな声を上げるレティシアだった。

 

「そっちが言わしたんだろ!」

 

レティシアに噛みつきそうな勢いでチアキは吠えた。そんなチアキの頭上から、笑い声が零れる。

 

「本当にお2人は、仲が良いのですね」

 

ティアの言葉に首を傾げる2人。

 

「そうか?」

 

「私たち、かなり言い争ってばかりだと思うわよ」

 

「それが出来ることが、ティアは羨ましく思いますよ。もし宜しければ、お2人の事を色々とティアに教えていただきたいです」

 

「俺とこいつだって、そんなに長い付き合いってわけじゃないんだが、まあこれ一緒に旅をするんだし話といたほうがいいよな。俺のことも、こいつのことも」

 

チアキは、そう言って今までの経緯を歩きながら話した。チアキが、レティシアによって異なる世界から召喚されたことや、レティシアのこの世界で伝承された史実とは異なる真実など、知らなかったことを2人から聞かされたティアはただただ驚くばかりだった。

 

「・・・・・・、って感じだな。なんか気になることってあるか?」

 

話し終えたチアキは、ティアに話題を振った。

 

「そうですね。正直、ティアのキャパを超えた情報量だったので、整理させてほしいです。えっと、まずレティシア様は人類に敵対し、襲ったりしたわけではないのですね?」

 

「そうよ」

 

ティアの問いに少しムスッとしながらレティシアは答えた。

 

「そして、チアキ様は地球なる別の世界からこちらに召喚され、変異によって霊獣になられたと」

 

「おう」

 

2人に質問して納得したティアは、話を聞いた中で抱いた問いを提示した。

 

「お聞きしたいことがあるのですが、チアキ様の『魔力吸収』は実際に『魔力吸収』で正しいのですか?」

 

「ん?そりゃどういう意味だ。魔力を吸収する能力だから『魔力吸収』じゃねぇのか」

 

「実際にその通りなのですが、本来の『魔力吸収』は魔法ごと吸収なんて不可能なんです。魔素の様な組織性のない不安定な状態だからこそ、吸収を可能にしてたと言えるのです。一応、魔法さえも吸収した存在もいたらしいのですが、」

 

言いかけて言葉が詰まるティア。

 

 

「ですが?」

 

逆に言い淀んだせいでチアキは気になってしまった。

 

「黒き獣のことでしょう」

 

レティシアが、ティアの代わりに答える形で口を出してきた。

 

「黒き獣ってなんだよ?」

 

さらに新しいワードの登場で、チアキの中の疑問がさらに増していった。

 

「何のことはない神話みたいなものよ。大昔、真っ黒な獣が現れて世界中の魔力を食い散らかして暴れたって話よ。で、物語の中でその獣は魔法さえも取り込んだりしてたのよ、ティアと戦って時のあんたみたいにね」

 

「はあぁ」

 

「なによ、その生返事は」

 

「いやな、そんな風に言われったってあん時のことは覚えてねぇからわかんねぇよ。そんなにすごかったのか?」

 

「はい!面と向き合っていた私としては、かなり恐ろしいものでした。それこそ、かの神話の再来のような感じでした。こちらの魔法の一切が通じず、一方的な感じでしたから」

 

思い出して微かに震えるティアを背中で感じながら、チアキははっきりしない無い記憶を思い出そうとした。

 

「やっぱり俺としては、何んとなくにしか分かんねぇや、あん時の事は。ただ一つ言えることがあるとすれば、俺は『黒き獣』とは関係ねぇってことだな」

 

「でしょうね。異世界から来た奴が、神話に出るような神獣に変異だなんて無茶苦茶だものね」

 

「そうなのでしょう、お2人が仰るのですから。ただあの力を、常に使えたらとても強力だとは思いましたね」

 

「そうね、実際にあれは今でも使えるのかしら?」

 

「どうなんだろうな。正直、わかんねぇ。意識的にやったわけじゃないからな。なんだったら、タイミング見て練習してみっか」

 

「じゃあ、私が手伝って上げるわよ。私も、今回の件で魔力が多少回復するだろうし、それを試すついでに洞窟の続きなんてどうかしら?」

 

「そりゃいいな!あん時のリベンジしてやんよ」

 

力強く答えるチアキの目には、闘志が傍から見てもわかるぐらいに漲っていた。

 

「ティ、ティアも手伝いたいです」

 

そんなチアキの頭上から、ティアが仲間外れにはされたくない一心から参加を訴えた。

 

「おう、いいぜ!今度は暴走抜きで圧倒してやるよ」

 

もうチアキの頭からは、当初の練習というワードが抜け落ちていた。そんな中、2人でやるつもりでいたレティシアは、ティアの参加をすぐに承諾したチアキに不満を募らせていた。そのせいか歩くペースが速くなりまた、1人で先へ進み出していた。それに気づいたチアキは、今度はレティシアの腕を掴んだ。

 

「だから、言ってんだろ。1人で先々進んでじゃねぇよ」

 

「いいじゃない、そんなの私の勝手でしょ。一々、煩いわね」

 

拗ねたように言い返しながら、チアキの腕を振り払った。

 

「良かねぇよ。こっちは、回復したって言ったって疲れてんのは変わんねぇんだ。そんなスピードで歩かれたら、着いてけねぇんだよ」

 

「そりゃ、そうでしょうね。人を1人担いでんるんだから、そうなるわよね」

 

少し、ティアに視線を向けながら言った。

 

「ティアは、関係ねぇよ。俺が言いたいのは、もしはぐれたりでもしたらすぐ助けれねぇから、側に居ろって事だ」

 

チアキの言葉に思わず、レティシアは表情を変えてしまった。それをチアキに悟らせないために、レティシアは進行方向を向いたまま言った。

 

「分かったわよ。あなたの言う通りにしてあげる。その代わり、1つ条件があるわ」

 

途端、今度はチアキの表情が変わった。だが、それはレティシアの可愛らしい表情の変化とは違い、未知の恐怖に対する不安からのものだった。

 

「なんだよ」

 

チアキは、平静を装いながら返した。

 

「特別な事じゃないわ。私の手を取りなさい」

 

そう言ってレティシアは、チアキに右手を差し出した。

 

「わかったよ」

 

想定外の要求に拍子抜けしながらも、チアキはレティシアの要求に応じた。ただ、幼女の姿とは言え、女性と手を繋ぐことに対して不慣れなチアキは、少し緊張気味に手を繋ぐのだった。

 

「幼女の手を繋ぐぐらいで、緊張するなんて。ロリコン」

 

チアキの緊張に気づいたレティシアからチアキへの言葉だったが、そこには普段の軽蔑のような意味は無く、言った当の本人もどこか嬉しそうだった。

 

そんなこんなで、少女を背を負い、幼女の手を引く青年は再び3人で会話をしながら歩き出した。

そして、念願の町を目の前にして彼らは立ち往生していた。

 

「申し訳ないが、いくつか伺ってもいいだろうか?」

 

まず、それなりのガタイの門番を務めているのだろう兵士がチアキ一行を呼び止めた。

 

「なんですか?」

 

疲労がだいぶ溜まっていたのだろう、淡白な反応のチアキ。

 

「ちょっとした、検閲みたいなものだ。所持品と、ここに来た理由を教えてくれればいいんだ」

 

明らかに疑われていた。何を疑われているかまでは分からないが、疑われていることだけは3人も理解した。衛兵から見れば、学ランというこの世界にない未知の格好をした男が、くたびれた様子でボロボロの少女と幼女を連れていれば怪しまれて仕方ないとしか言えなかった。ただ、疲れきったチアキには、そんなことは関係なかった。

 

「ここに来たのは、宿に泊まるためだよ。所持品は、俺は特になんも持ってねぇかな」

 

身一つで異世界に来たチアキは、何も持っていないのは当然だった。一応、ポケットを確認はしたが何も無かった。

 

「私もないわよ」

 

所持品どころか実際には体も無いレティシアも、当然といえば当然だった。また、チアキと違い服も白のワンピースのため疑いようが無かった。

 

「ティアも、何も持っておりません」

 

確認の為にローブの橋を掴んで振りながらティアは言った。だが、衛兵はそれでは納得しなかった。

 

「済まないが、そのローブを脱いでもらいたい」

 

そう衛兵が言った途端、ティアの表情が曇った。

 

「お断りします。振るっただけでは、納得いただけませんか?」

 

どうやら、ティアはローブを脱ぎたくないようだった。実際、戦闘中も1度として脱ぐことが無かった以上、それなりの理由があるのだろうとチアキは察した。

 

「悪いんですが、こいつを脱がさないで済ませませんか?」

 

そこで、チアキもティアが脱がなくて済むよう衛兵に頼む事にした。

 

「それはできない」

 

だが、衛兵も譲らない。その真剣な表情から、何やら事情がありそうな雰囲気があった。

 

「何故かしら?何か理由があるのでしょう?ローブとはいえ女性に衣類を脱ぐことを強要するのなら」

 

そこで、レティシアはティアの援護に回りつつ、探りを入れた。少しの沈黙が流れ、衛兵は溜息をつく。

 

「これ以上拒むようなら、この場で捕らえて連行させて貰う」

 

衛兵は、槍を構えた。衛兵の様子から3人がかりで負けるような相手ではなかったが、疲労困憊の現状を思うと戦闘は避けたかった。そう思ったティアは、一歩前に出ながらローブに手をかける。が、チアキがその手を止めた。

 

「無理して脱がんでいい。手、震えてんじゃねぇか」

 

チアキは、ティアと衛兵の間に立った。

 

「拒むといいのだな。ならば、覚悟しろ」

 

衛兵が仕掛ける。構ていた槍で迫るが、チアキに槍が届く前に何かに弾き飛ばされた。

 

「チアキ、あんたは馬鹿なのかしら?穏便に済ませるってことを知らないの」

 

衛兵が弾かれたのは、どうやらレティシアの仕業によるものだった。

 

「ていうか、もう済んだから行くわよ」

 

衛兵は弾かれた先でピクリとも動かない。その様子を見ながら不安げにチアキは訊ねた。

 

「済んだって、もしかして殺したのか?」

 

チアキの表情に呆れながら、レティシアはため息混じりに答えた。

 

「馬鹿ね、そんなことするわけないでしょ。眠らしてるだけよ」

 

「あの一瞬でか?」

 

「当たり前でしょ。私、天才だから。対象を眠らせる魔法とチアキを守ることぐらい余裕でこなせるわよ」

 

ドヤるレティシア。それを見て、チアキは思わず笑ってしまった。

 

「そういやそうだったな。天才なんだもんな」

 

笑うチアキに対して、頬を膨らしながらレティシアは小突いた。

 

「痛っ。やめろ、小突くなって」

 

「じゃあ、なぜ笑ったのかしら?」

 

「そりゃあ、パッと見じゃあ天才になんて見えないのに、実際は凄いんだよなって思ったら、つい」

 

ゴンッ

重めの一撃がチアキに決まった。腹を抱えてうずくまるチアキを、腹を抱えて笑うレティシアを、ハラハラしながらティアは見ていた。

 

「じゃあ、ティア行きましょうか」

 

一頻り笑ったレティシアは1人歩き出した。

 

「チアキ様は、よろしいのですか?」


「いいのよ、あんなバカはほっといたら

どうせ勝手に着いてくるわよ」


歩みを止めることのないレティシアをティアは追いかけるのだった。


次がいつになるかまた続きが思いつたらまた来ます。

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