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6/6

なんだかんだ強かった。

6話です。


今回はバトル回となります。

苦手なりに頑張りました。

「残念ながら水中で仕留めることは叶わなかったようですね」


砂煙の中の人影は、無機質な声で二人に語りかける。どうやら、水中で、レティシアの膜を貫いたの彼女の攻撃によるものだったようだ。


「良かったです、わざわざ確認に降りて来て。じゃなかったら命令を果たし損ねるとこでした」


砂煙が晴れ、ローブを纏ったオッドアイの少女が姿を現す。そして、少女は無機質な声で礼儀正しく頭を下げながら告げた。


「では、『異端者・白の魔女』とその従者には、ここで死んでいただきたいと思います」


身構えながらチアキは、レティシアに声を落として訊ねる。


「ありゃなんなんだ?明らかにお前を狙ってるよな」


チアキに合わせてレティシアも小声で返した。


「そのようね。ただ、今はそれ以上に確認しないといけないことあるわ。事と次第によっては、早速あなたに頑張ってもらうとになりそうよ」


「どういう事だ?」


レティシアの意図がわからず問いかけるチアキ。


「まぁ、待ってなさい。予想通りなら少しばかりめんどくさいことなるから」


そう言って、レティシアはローブの女に少しばかり歩み寄った。


「話は終わりましたか?では、早速殺させていただきますね」


ふたりの会話を、静かに待っていた女が語りかけ、それに対してレティシアも答える。


「そう?私はあなたと話がしたいんだけど。例えば、あなたが何者かとか?どんな目的があって私たちを狙うのか、とか?」


「その質問に答える必要はあるのでしょうか?今からあなたがたは私に殺されるのですから」


軽い挑発に苛立ちを覚えつつも、レティシアは冷静を装いつつ自身の最大の疑問を口にした。


「必要なことよ。だって、あなたが私の心臓を宿す以上殺してでも奪わないといけないんだもの」


先程からレティシアがずっと感じ続けていた違和感。ローブの女から感じる懐かしい自身の体の一部。


「え⁈ おまえ、今心臓って言ったか?」


今の今まで会話に取り残されていたチアキが驚きのあまり、会話に口を出した。


「気づいていましたか、流石「白の魔女」ですね」


が、チアキのことは意にも止めずローブの女は、レティシアを賞賛する。


「当たり前でしょう、私自身のものなんだから。流石ついでにあなたのことを聞かせてもらえない。どうして心臓をあなたが持っているのか?」


レティシアもチアキに構わず、ローブの女との会話を続ける。


「おい!心臓ってどういうことだ。じゃあ、あれか?あいつの体ん中にお前の心臓が入ってんのか」


二人の無視にもめげず、と言うか空気の読めていないチアキはレティシアに問いかける。


「うっさいわね!私にだって何でそんなことになってるかなんてわかんないけど、あそこにあるってことだけはたしか。前に言ったでしょ、なんとなくなけど気配でわかんのよ」


チアキに説明しながら、レティシアは内心焦っていた。先程の一件で二人ともかなりの消耗が見られる。そんな状況での敵との遭遇。本来なら逃げの一択だが、眼前にあるのは自身の心臓。こんなチャンス逃すには惜し過ぎる。故にローブの女との会話を求めた。時間を稼ぐために。


「とにかく、あなたの心臓が私のものである以上事情を聞く権利ぐらいはあると思うんだけど」


再び問われ、観念した様にローブの女は口を開いた。


「わかりました。そこまで気になるのでしたらお答えしましょう。まず、私は幾つかの死体をつなぎ合わせることで生み出された存在、言うなればリビングドールみたいな者です。かの戦い後、あなたの体は世界中にばら撒かれました。そして、我が創造主は完成された生命の作成という野望ため、あなたの心臓を求めました。あなたの不死によって半永久的に動き続ける心臓は、人形のかなり重要なパーツと言えましたから。結果、心臓を手にした創造主によって私が作られました。ですが、私は創造主の理想には届かなかったらしく、ある1つの命令のみお残しになられて私のもとを去られました」


「それが、私を殺すこと」


「はい。その通りにございます。創造主曰くあなた様は世界の敵、故にかの泉より出ることがあらば即座に対応する様にと」


「それは、復讐を恐れてかしら?だとしたら、あなたの親は私をバラバラにしてくれた連中の仲間ってこと?」


「さあ。そういった事情に関しては、一切教えられておりませんので」


「そう」


淡白な返事を返しつつ、レティシアは次の問いを考える。戦闘行為を可能とするレベルまでの魔力の回復をするために。


「もう、時間稼ぎは十分でしょうか?」


逆に問われ、目論見がバレていたことにレティシアは焦る以上に恥ずかしいという思いから顔が少し赤くなった。


「なんというか、かなりわかりやすい手でしたので。で、もうよろしいでしょうか?質問がないようでしたら戦闘を始めたいのですが」


ローブの女は構えながら二人に訊ねた。未だ戦闘態勢の整っていないレティシアは、かなりの焦りを感じていた。


「無いようですので、早速始めたいと思います」


言葉同時に、レティシアとの距離を一気に縮め、ローブの女の無駄のない抜き手がレティシアを襲いかかった。


「まずい」


驚きのあまり回避が遅れて、すっ転ぶレティシア。あまりの間の悪さは演出を感じさせるものだったが、かなりのピンチには変わりなくローブの女の一撃は眼前に迫っていた。


が、その一撃が届くことはなかった。


「コイツに手ぇ出すんじゃねえよ」


会話の蚊帳の外からのチアキの登場だった。チアキが女の手首を横から掴むことでレティシアに届かなかったのだ。


「大丈夫か?何にせよ、俺が守ってやるから、お前は下がっとけ」


ローブの女に視線を向けたままチアキはレティシアに向けて言った。


「それは、あなた一人で私に対しては充分だと言いたいのでしょうか?」


表情は読めないが確かな苛立ちを孕んだ声でローブの女は言った。


「そうよ、実力差ってもんがあるでしょ」


レティシアからも避難の言葉が飛んできてほんとにチアキの立場は無いに等しかった。


「うっせェな、いいだろそんなこと。気にせずお前はどんと構えて俺にまかせときゃいいんだよ。で、偉そうに命令すりゃいいんだ、『心臓をとってこい』って」


「私、そんなに酷くないと思うんだけど」


周りの反応にめげずに言い切ったチアキに不満げな表情で不貞腐れるレティシア、今度はローブの女が蚊帳の外だった。痺れを切らした彼女は口を開く。


「いい加減にしていただけないでしょうか。どの道二人とも殺すのですから、私としてはどちらからでも一向に構わないのです。いっそのことまとめて始末してもよろしいのですから」


そう言いながら、チアキに掴まれていない方の腕をチアキに向け、手の中に蒼い魔力を集める。


「あなたは腹立たしいので、さっさと消えてください」


言い切りと同時に蒼い魔力弾が放たれる。チアキは、それを紙一重で躱しつつ女の腹部に橫蹴りを入れて吹き飛ばした。


「これでもまだ不安か?」


チアキの動きに驚きのあまり惚けてしまっていたレティシアは、チアキの言葉に我に返り叫んだ。


「あ、あなたねえ。女性に対して容赦とかないわけ?」


「ぶっちゃけ、んなこと気にせる相手じゃないだろ。あれ」


蹴飛ばした方を指で指しながらチアキは言った。


「それはそうなんだけど。ていうか、あんな状態だったのになんでもう動けてるのよ」


「ああ、なんか気づいたら動けてた。まあ、さっき助けてくれた分今度は俺に頑張らせろよ。それに、『何がなんでも守る』って誓ったんだから、お前は大人しく守られてりゃいいんだよ」


チアキはもう一度言った、『守らせろ』と。戦える事を示した上でレティシアに対して言った。レティシアは、納得したわけではなかった。ただ、チアキが戦えていた事実とこれ以上いくら言ったとしても一人で戦うことを譲らないことが理解できた。


「分かったわよ、あいつのことはあなたに任せる。だから、あなたは私のために心臓を取り返してきなさい」


「了解した、我が主様」


呆れながらも了承するレティシアにチアキは笑顔で返し、蹴り飛ばした方へ向いた。視線の先にはローブの女がよろめきながら立っていた。


「かなり痛いです。むかっ腹が立ちます」


ローブに付いた砂埃を払いながら、フードが脱げて露わになった濡れた様な青みがかかった黒髪の少女が金と銀のオッドアイでチアキを睨んでいた。


「まず、あなたから殺します。よろしいですね」


少女は、チアキの方へ歩み寄ってきた。


「ああ、構わねえよ。我が主様は、お前の心臓を御所望だ。悪いがその心臓を奪い取らせて貰う」


チアキも同様に歩み寄った。


が、突如としてチアキの視界から一瞬にして少女が消えた。その次の瞬間には、チアキの眼前に現れそのまま魔力を帯びた拳がチアキの腹部に見舞われた。


「ぐはっ!!」


チアキは、数歩後ろによろめいた。対して少女が追撃をしようとするも、チアキの蹴りに寄って阻まれる。蹴りは躱されたものの、チアキはなんとか距離をとることが出来た。

チアキは、目で追い切れない動き、今まで受けたことの無い一撃、それらになんとか対応した自身に対して内心戸惑っていた。

だが、そんな戸惑いに頭を使う暇さえ無く次の攻撃がチアキを襲う。拳大の氷塊が5つチアキに一直線に迫って来た。


「くそっ!魔法使えんのかよ」


両腕をクロスにして氷塊を全てガードしながらチアキは零す。そして、ガードを解いたチアキの正面に既に少女はおらず、次の瞬間チアキは背後から攻撃を受け、軽く吹き飛ばされた。ガードによって塞がれた視線の隙をつかれたようだった。


「口だけですか?それとも手を抜いているのですか?どちらにしても、話になりませんね。初撃はかなり良かったと思ったのですが、勘違いだったようです」


少女は、チアキへの失望を平坦な口調のまま告げた。


「言ってくれるじゃねえか。まあ、そうだな、流石にこれは情けないよな。あんな啖呵きっといて。でもよ、俺だってただ攻撃されるだけってわけじゃないんだけどな。あんた、気づいてたか?」


と言いながらチアキは魔力放出で、一個人には有り余る量の黒々とした魔力を出し体を覆って見せる。


「幾ら魔力が膨大であろうと的確に使えなければ宝の持ち腐れなだけなのですが?そこは理解してらっしゃるのでしょうか」


チアキの桁違いの魔力を前に動じるどころか、辛辣な言葉で返す少女。チアキは思わず苦笑いを浮かべながら言い返した。


「見掛け倒しじゃねえから安心しろよ。逆にあっけなくやられてくれるなよ」


その言葉を最後に、チアキが今度は一瞬で間を詰めて見せた。少女は、その動きになんとか対応して距離を取ろうとするもチアキの一撃の方が早かった。簡単に言うと再び蹴り飛ばされたのだ。だが、チアキの攻撃はまだ終わらない。蹴り足をそのまま下ろして力強く踏み込んで手のひらに集めた魔力をピッチングの要領で少女に向かって投げた。なんとか着地した少女は迫る魔力弾をジャンプして回避した。だが、チアキの攻撃は続く。魔法を覚えていないチアキは、魔力弾の牽制を軸に近接戦を仕掛ける。明らかにチアキの動きは先程とは変わってキレが良くなっていた。


「どういう手品ですか?変わるにしても限度があります」


少女はチアキから距離を取り、チアキの変化に悪態をつきながら膝をついた。


「手品なんかじゃねぇよ。魔法だよ、あんただって使ってるじゃねぇか。今更、驚くことでもねえだろ」


言動から分かるように特別な事はしていないつもりのチアキだったが、レティシアから見てもチアキの動きは異世界から来たばかりとは思えないものだった。


少女は緩やかに立ち上がるが、その姿は全身から蒼い魔力と銀色の眼から光を放っていて雰囲気がガラリと変わった。


「わかりました。ここからは、出し惜しみ無しで行かせてもらいます。あっけなく死んだりしないでくださいね」


その後の戦闘はおかしな展開に変わっていった。やはり、『魔力吸収』と『魔力変換』を駆使することでチアキは半永久的に動き続けれるのは戦闘においてかなりのアドバンテージと言えた。だが、そんなチアキの止まらない連続攻撃が先程から当たらないのだった。当たらないというのは、そこそこは当たっているとか掠りはしているとかでは無く一切当たらないのだった。その上、少女の攻撃は大半が命中し、チアキにのみダメージが蓄積していった。


「おい!どうなってやがんだよ、お前。当たらないにもほどがあるだろ」


動きを止めることなくチアキは器用に文句を言いつつ、魔力弾をぶん投げた。それを紙一重に躱し反撃で地面を凍らせつつ少女は応える。


「秘密です。と言うか、教えるわけがないじゃないですか」


チアキは、凍る地面をジャンプで回避する。が、読んでいたかのように氷塊がピンポイントに飛来する。氷塊を空中での回避するなんて芸当はできないチアキは、ガードをする他なかった。再び背後を取られ追撃によって地面に激突する。


「ガハッ!」


激突の衝撃はチアキにとってかなりのダメージとなった。起き上がろうと上体を起こすチアキの顔前には既に氷塊があり、結果チアキは再び仰向けになる。こんな感じに徐々にチアキのやる事なすことに先手を少女に打たれるようになった。走り出そうとすれば足を、腕を上げようとすれば肩を的確に攻撃された。攻撃をされながらでも動きを止めることのなかったチアキでも、動きの起点を狙われてしまっては何も出来なかった。


とうとう、チアキは一切の身動きが取れなくなった。


「なんとか、この状況まで持ってこれてよかったと思います。途中からお気づきだったかも知れませんが、この銀の瞳は未来を覗くことができるんです。見て知っていればこそ先手が打てるというものです」


少女は、チアキに歩み寄った。


「魔力切れの可能性もありましたが間に合って良かったです。それでは、さよなら、です」


チアキの正面に立ち、足元から氷漬けにした。


「あなたのご主人様も仕留めさせていただきます、それでは」


少女は、氷漬けになったチアキに背を向けてレティシアの方へと歩き出した。チアキとの戦闘のダメージは残るものの未来視の銀眼と更なる奥の手が有る以上負けるつもりはなかった。自身は無いが勝算はある、そう思いながらレティシアに迫る。

対して、レティシアはチアキが氷漬けになったことにかなり動揺していた。と言うか、相当ショックを受けていた。


「次は、あなたの番でございます、『白の魔女』」


少女の言葉にレティシアの反応はなく、俯いたままだった。

少女は、先制に氷塊をレティシアに放つ。だが、氷塊はレティシアを前に空中で弾け飛んだ。


「それが、噂に名高き『白の拒絶』ですか?」


氷塊が意味をなさないことを理解した少女は、近接戦を仕掛ける。チアキの時同様に距離を素早く詰め攻撃を仕掛けようとするも、近づいた途端弾き飛ばされてしまった。レティシアからは白い魔力が溢れんばかりに放出され、それに触れた少女は文字通り拒絶されたのだ。


「許さない」


レティシアの口から言葉が零れる。小さかった言葉は次第に大きなっていく。


「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない。あんたを、私は許さない!」


チアキを氷漬けにされた怒りから我を忘れたレティシアは、魔力を放出しながら少女に向かって叫んだ。


「構いません。あなたがどう思おうと死んでもらうだけですから」


少女は、レティシアの叫びを意に返さず自身も魔力を高め向き合う。


2人は、徐々に歩み寄りながら構える。


今にも一髪触発しそうなその瞬間、離れた場所から獣を彷彿とさせる雄叫びが響き、高まる2人の魔力を優に上回る魔力が現れた。


思わず2人はそちら視線を向けてしまう、そしてその視線の先には黒い魔力に全身が覆われ、狼のような耳と獣じみた鋭い爪をした人影が立っていた。全身を覆う魔力の間から見える顔立ちや魔力の気配から正体は一目瞭然だった。


「チアキ!」


レティシアは、思わず駆け寄ろうと少女に背を向け走り出す。少女は、そんなレティシアの隙を見逃すほど甘くはなかった。一時はチアキの復活に唖然となったが、すぐに切り替えレティシアに背後から攻撃を行う。

だが、またもその攻撃はチアキによって阻まれた。チアキは、かなり距離のあったはずの少女とレティシアの間に一瞬で現れ、レティシアに放たれるはずの氷塊を自身の黒い魔力の中へ飲み込んだ。魔力は愚か魔法さえも吸収を可能としていた。


「何なんですか、あなたは!意味がわからないにもほどがあります」


あまりに理不尽なチアキの力を前に少女は文句のひとつも言わずにはいられなかった。だが、少女の言葉はチアキには届かなかった。


「……守ル、俺ガ守ルンダ」


虚ろな目で「守る」と呟くチアキ。チアキは、レティシアを守りたい気持ちだけで動いていた。

そんなチアキを少女は脅威として認識し、チアキの戦闘の理由を先に奪うことで戦意喪失を狙うことにした。


「気味が悪いですね。あなたのことは、後回しとさせて頂きます」


少女はそう言って、宣言通りチアキを無視してレティシアに攻撃を仕掛ける。が、やはり届かない。とう言うか、チアキが通さないため、まずレティシアとの距離をまともに縮めることも出来なかった。


「あれですか?『ここを通りたくば俺を倒していけ』的な奴ですか?1回負けたんですから、しゃしゃり出ないでいただきたいものです」


そう言いつつ少女は、諦めチアキとの戦闘が再び始まった。


だが、魔法を吸収するチアキに対して魔法は使えず、かと言って近接戦闘も動きを一切止まることの無いチアキ相手では分が悪かった。もう、戦いになんてなっていなかった。魔法は吸収され、拳も蹴りも躱されたり受け止められ、纏う魔力さえも奪われ、未来視を使う魔力も無く少女はチアキに唯々圧倒されたのだった。


故に、決着までに時間はかからなかった。


「この化け物めっ!」


チアキによって、仰向けの状態で腕を脚で抑えられた少女は言った。チアキに反応はなく、左手で肩を抑えて右手に魔力を溜めて虚ろな意識のままトドメを刺そうとしていた。少女は、魔力も底をつき身動き一つ取れず抵抗出来なかった。


「やっとこれで死ねます」


少女は、死を確信し本音と涙を零した。


そのとき、不意にチアキの動きが止まる。途端、集中の糸でも切れたような、何かが不意に崩れたような雰囲気で、チアキを覆う魔力が霧散した。そして、中から黒い犬のような猫のような小動物が現れた。


「あれ?どうなってんだ」


魔力切れによってトランス状態から解放されたような雰囲気のチアキだった。どうやら前後の記憶が曖昧なのか状況が把握出来ていなかった。


「あなたの勝ちです。どうぞ、殺して心臓を奪って下さい」


小動物になったことには面食らったが、体が動かない以上結果はもう変わらないと判断し、少女は自身を殺すようにチアキを促した。チアキは、渋い表情をする。


「そりゃそうなんだが。その前にあんたに聞きたいことがあるんだがいいか?」


「その行為にどんな意味があるというんでしょか?焦らさずに、一思いに殺していただきたいと思うのですが」


少女は、ウンザリしながら拒む。


「泣きながら、『やっと死ねる』なんて言われたら気になるに決まってんだろ。俺もあんたももう動けねえし戦えないんだから、少し会話したっていいじゃねえか。俺が勝ったんだし言うこと聞けよ」


「はぁ。で、何が聞きたいんですか?」


少女は、チアキが譲らないと分かり諦めた。


「あんた、何がそんなに辛いんだ?」


「は?なんですかその質問。頭おかしいんですか?意味わかんないです」


「いや、なんて言うかな。あんたの魔法や魔力を吸収するたび、嫌ってほどあんたの感情も流れてくるもんでな。まあ、魔力自体が人の感情と密接だからからだろうけど」


「で、悲しい感情が流れてきたと。あなたの前でプライバシーはないんですね、最悪です。ですが、先程の『やっと死ねる』以上の感情などありません。この戦いの結果がどうなろうと死ぬつもりでしたし、長い間この日を待っていたんですから。創造主の唯一の命令を果たすこの日を。」


そう語る少女の目はまた涙を流していた。


「だったら、もっとやりきった顔したらどうなんだ。口でいくら言ったところで泣き顔晒してその上心の中でもガン泣きされてりゃ、殺せるもんも殺せねぇよ。寝覚めが悪いったらねぇじゃねえか」


「何です?同情ですか?あなた、腹立たしいにも程があります」


少女は、食ってかかるような勢いでチアキに吠える。


「あんたの心ん中まで読めやしないけど、何かが無性に嫌で、とにかく拒みたくて仕方なくて、そしてめちゃくちゃ泣くほど悲しいんでんのは分かる。あんただって、本当は死にたくないんじゃねぇのか?」


「あなたは、馬鹿ですか?死にたくないといえば助けるのですか?あなた達だってこの心臓が必要なのでしょう。心臓を奪うということはこの体を殺すということなんですから。出来もしないことを口しないで頂きたいです」


「そりゃそうなんだが。ほんとに死にたいんなら死にたいでいいをだが、そんなに全身で死にたくないオーラ出されたら困るってもんだろ。で、どうなんだよ。本当に死にたいのか、死にたくないのかどっちなんだよ?」


沈黙が流れた。


「……死にたくないです。まだ、死にたくはないですよ。」


少女呟くように、涙を零すように思いを吐露した。

そんな少女の言葉を聞いたチアキは後ろに振り返り叫んだ。


「てなワケで悪いんだがレティシア、ちょっと話がある」


レティシアは、チアキの視線の先から現れながら会話に入ってきた。


「嫌よ。せっかく心臓を取り戻せるんだから、譲らないわ」


「こいつの心臓をお前は用意出来んのか?」


チアキの突飛な質問にレティシアは面食らった。


「ん?どういう事かしら?意味がわかんないんだけど」


「だから、お前の心臓の替えがあればこいつを生かした上、お前に心臓を戻せるだろ。で、用意出来るもんなのか?」


「さあ?その娘の体の造り次第よ」


その言葉を聞いたチアキは、少女に向き直し問いかけた。


「なあ、あんたの心臓ってどうなってるんだ?」


今度は、少女が面食らった。


「あの、どういう状況なのでしょうか?自身のことなのに蚊帳の外で会話が進んだ上に軽いセクハラ発言されています。まあ、心臓に関しては、魔術加工した心臓の結晶を核にしています。大体、位置はこの辺りです」


そういながら、胸の中心に手を当てて少女は言った。


「だとよ。なんとかなるか?」


チアキは、再びレティシアに話題を移した。


「まだわからないけど、それなら可能よ。で、チアキはどうしたいのよ?」


「この娘を助けたい。だから、お前がこの娘の心臓を用意出来るまでお前には心臓を待ってもらいたい。ダメか?」


「ダメね。待つ間はこの娘をどうする気?それに、心臓が取り戻せないって言うのはかなり私たちにとって不利益になるのよ。私に利がない以上認めないわ」


レティシアの言い分はごもっともなものだった。だが、チアキはその言葉を待っていた。


「じゃあ、お前に利が有ればいいんだな」


そう言うと、チアキは再び少女に向き合い顔へと近づいた。そして、自身の魔力を高めて少女の唇にキスをした。驚きのあまり固まって動けないでいるふたりをよそにチアキは告げた。


「『先の契りの口吸いをもって、チアキ・メイザースの名の下に汝を従者とし、我が身に尽くさんとする』。契約ってこんなかんじだったよな。これであんたは今日から俺がレティシアとの約束を果たすまで俺のもんだ。こいつからも魔力を供給できるし、戦えるやつが一人増えて戦力もアップするんだから利しかないよな、文句あるか?」


あまりの出来事ついていけなかったレティシアだったが、チアキの呼び掛けで我に返り、チアキを殴った。


「あんた、勝手になにやってんのよ。やるにしたって先に説明しなさいよ」


「説明したら止めるだろうが、どうせ。でも、お前に損は無いだろ。だから、文句言うなよ」


文句を言うレティシア、不服そうにするチアキ。睨み合うふたりの間にどこか火花でも散らしそうな雰囲気さえあった。


「分かったわよ。やっちゃったことはもう仕方ないけど、その娘自身はどう思っているのかしらね?さっきから、ずっと惚けてるわよ」


2人は視線を少女に向けた。レティシアの言う通り、かなりの衝撃だったのか視線も虚ろなまま惚けていた。


「おい、あんた大丈夫か?」


チアキは、少女の顔の前で手を振りながら訊ねた。すると、やっと意識がはっきりしたのか少女は軽く仰け反った。上に乗ったままだったチアキは転げ落ちた。そして、少女は体を起こしてチアキに向かって言った。


「何をしてくれてるんですか!?」


「何って契約だよ。俺がレティシアと結んでる使い魔契約ってやつだ。あんたを殺さないためだよ。言ったろ、『死にたくない』って。だから、頑張って叶えてみた。文句は無しな。一切受け付けねぇから」


「勝手過ぎます。今からでも取り消してください」


「却下。あと一応、俺が主だからな。そこんとこよろしく。で、あんた呼びもなしじゃあれだから名前を教えてくれねぇか?」


勝手すぎるチアキに何を言っても無駄だと少女は諦めた。


「名前はありません。良ければ、ご主人様がおつけになってください」


チアキが、吹いた。不意のご主人様呼びに動揺してしまった。若干、レティシアの雰囲気も悪くなる。


「わ、悪い。ご主人様呼びは辞めてくれ」


「畏まりました、チアキ様」


レティシアがチアキを睨む。


「それも無しで。レティシアみたいに呼び捨てでいいから」


「ですが、自身が主だと言ったのはチアキ様ですので。ちゃんと。見合った呼び方をしなければと思います。ですので、これ以上の妥協は出来ません」


一切譲る気のない少女の表情にチアキは折れた。


「分かったよ。で、名前だよな。本当に俺がつけていいのか?」


「はい。チアキ様にお願いしたいのです」


少女は力強く頷いた。


「じゃぁねぇなぁ。………………。よし、決めた」


1人納得したようにちあきは頷きながら言った。


「何でしょうか?」


「ちゃんとしたのにしてあげなさいよ」


「おう!じゃあ、発表するぜ。その名も、『ティア』だ。どうだ?ちゃんとしてるだろう」


「そうね。チアキのことだからもっとひどいの覚悟してたから、意外とまともで拍子抜けね」


「余計なお世話だ。で、あんたは『ティア』でもいいか?」


「はい。ありがとうございます、チアキ様。もし、宜しければ意味をお聞きしても宜しいでしょうか?」


嬉しそうにしながらティアはチアキに訊ねた。


「えっとな。『ティア』って言葉には涙って意味があるんだよ、俺のいた世界だと。ティアの涙を綺麗だと思ったんでな、変か?」


「へ、へぇ。あんたにしては考えたじゃない」


「ティア、嬉しいです。…『ティア』、『涙』。えへへ」


なぜか少し不服そうなレティシアと名前を噛み締めるように呟きながら幸せそうなティアだった。


「あと、この名前実はレティシアの『ティ』とチアキの『ア』を取ってるんだぜ。凄くないか?」


ただいい名前を考えるだけでは終わらない男、チアキだった。一瞬にして変な空気が流れる。


「あれ?どうした?凄くないか?」


まだ、2人に訴えるチアキにレティシアは呆れながら言った。


「それがなければいい名前だったのに、やっぱりあんたって馬鹿ね。ティア、この男は基本こんな感じで、自分で上げた株を自分で落としにくるから気をつけなさいね」


「はい。肝に銘じておきます、レティシア様」


チアキを取り残し二人の距離が何故か縮まったのだった。そして、未だにおかしくなった空気の理由に気づけていないチアキを置いて2人が歩き出す。それに気づいて空中を浮いたままチアキも後ろをついて行った。

すると、ティアが急に振り向き、


「ティアはまだ、生きてもいいんですね」


と満面の笑みを浮かべてチアキに言った。


チアキは「おう!」と返事をしながら、レティシア共にティアも守ることを心に誓うのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

バトルシーンは伝わったでしょうか?初挑戦で酷かったと思いますがこれが精一杯でした。

そして、新キャラが増えました。

結果、チアキは幼女の主と少女の使い魔を手に入れました。ほんとに何がしたいでしょうか? (注)チアキは、気が多い訳では無いです。


次回3人で街に入ります。

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