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脱出者と飛来者。

第5話です。

やっと脱出ですよ。

洞窟の中では、破砕音と炸裂音、そしてチアキの怒鳴り声が響いていた。

 

「てめえ、なんで殴りやがったんだ!」

 

怒鳴りながら殴りかかるチアキ。チアキからしたら理不尽にも気絶級の一撃を入れられた以上文句の一つもあるだろう。だと言うのに、起きたら即、修行と称してレティシアのサンドバッグにされてはたまったものではなかった。当然の怒りである。ただ、感情に任せての攻撃では、レティシアの攻撃の良い的でしかなかった。

 

「もう、なんでもいいから殴らせろ」

 

肩で息をしながら唸るチアキ。

 

「嫌よ!あんた思いっきり殴るつもりでしょ?そんなの痛いに決まってるじゃない」

 

力強くで拒むレティシア。

 

「じゃあ、思いっきり殴らない。力一杯殴るから、やらせろ」

 

喋りながらも不意を付いて、殴り掛かるチアキを躱すレティシア。

 

「なんにも変わってないじゃない!ていうか、なんでそんなに元気なのよ?パッと見はへろへろなくせに」

 

レティシアの言う通り、先程からどう見ても疲労困憊なチアキなのだが、何故か動きのキレが落ちる気配は無いのだった。

 

「あ?知るかよ、んなこと。乱れた呼吸なんて深呼吸しときゃなんとかなるだろ」

 

チアキは、そう言いながら上がった息を整える様に深呼吸をした。

 

その時になって、レティシアは重大な変化に気づく。チアキの急激な魔力の高まりと、周辺の魔素の減少に。

 

思わずレティシアは、チアキに問いかける。

 

「チアキ、あなたそれいつからできるようになったのよ?」

 

「は?それって何がだ」

 

チアキは、レティシアが何を聞いているのかわからなかった。それもそのはずである、レティシアの言う「それ」をチアキは、無自覚で行っているのだから。

訳が分からないといった表情をするチアキに、レティシアは呆れながらも説明を始めた。

 

「まずは、起きたことが説明するわ。あなたが、深呼吸をした直後周辺一帯の魔素の濃度が一気に減少したの。これがどういうことがわかるかしら?」

 

チアキの様子を見たレティシアは既に首を傾げているチアキに溜息をつく。

 

「わかんないわよね、急にそんなこと言われても。基本的には、魔力のもとになる魔素は枯渇することなく、常に空気中に存在してるの。魔法を使えば多少減ったりはするのだけど微々たるもので普通は近くにいても気がつくことなんてあり得ないの」

 

事の重大さが少しでも伝わってくれただろうかとチアキを伺うレティシア。

 

「えっと、本来減らないはずの魔素が急に減った。・・・・・・だから何なんだ?」

 

さらに謎が深まった様な表情で放つチアキの発言は、レティシアの表情を曇らせた。

 

「だぁかぁら、急に魔素が減って一大事だって言ってんのよ。で、その上減った魔素をあんたが取り込むことで魔力を爆上げしてんの。だからこんなに慌ててるんでしょ!」

 

そして、結局吼えた。

 

「なるほどな。で、原因が俺なのか? お前の言うところの「それ」を俺がしたことで起きたと。正直見に覚えがないんだが」

 

チアキは早くも慣れたのかレティシアが吼えているのをスルースキルを習得、発揮する事で無視して会話を進めた。当然、チアキの意図を察して不貞腐れるレティシアだったが、仕方なく話を進めることにしする。

 

「そうよ。全部あなたの使った魔法、「魔力吸収」と「魔力変換」によって起きたことよ。まず、「魔力吸収」で、魔素を取り込んだの。だから、周りから魔素が急に減ったわけ。で、次にチアキの体は、取り込んだ魔素を魔力にしてさらにその魔力を「魔力変換」で、身体能力に変換してたの。結果、身体疲労は回復してないのに身体能力だけ上がり続けることで、ヘロヘロになりながらもずっと動けてたのよ」

 

一人納得するようにうなずきながらレティシアは、語った。

 

「とまぁ、こんな感じのことが起きてたわけだけど伝わったかしら?」

 

そして、チアキの理解状況を確認した。

 

「あ、ああ。何んとなくにはな。俺が無自覚で使った魔法でずっと動き回れてたってことだろ。でも、なんでだ?」

 

チアキとしては、起きたことが分かったとしても原因はわからない状況だった。

 

「そっちは、チアキ自身の感情が原因じゃないかしら」

 

「俺の感情?」

 

「ええ。あなたが自分より強いと思っている私を殴る為に、高い身体能力を求めた。だから、体内の魔力が新た能力の底上げを「魔力変換」で行った。で、足りなくなったから「魔力吸収」で外から補充する。これを、繰り返したってこと。魔力が、精神エネルギーひいては、精神や魂、感情なんかに左右されやすいから起こせたって感じかしら」

 

「そんな簡単にできることなのか?」

 

あまりに簡単に語るレティシアにチアキは訊ねた。

 

「そんなわけないでしょ。そもそも、「魔力変換」は基礎的な魔法に含まれるけど、「魔力吸収」はできる人がそもそも少ないんだから。チアキがしたことを他の人が再現しようとしたら、まず「魔力吸収」ができないから体内の魔力を使い切った時点で終了ね。ついでに、私にも「魔力吸収」はできないんだから。魂レベルの能力なんじゃないかしら?」

 

なるほどとうなずきながらチアキ新たな問いを見つけて訊ねた。

 

「魂レベルの能力ってなんだ?まだ、わけわかんないことあるのか?」

 

勘弁してくれと言いたげな表情のチアキ。これ以上の情報は正直に言ってキャパオーバーもいいところだった。

 

「ことのついでだし、話しちゃおうかしら」

 

だが、ここでお構いなしに話を始めるのがレティシアである。

 

「魔力の属性には、六属性あったのは覚えてるかしら?」

 

「土、水、空、火、と陰と陽だろう」

 

「その通り!で、それとは別にごくまれに魂に刻まれた魔法を持つ者が現れたりすることがあるの。例外なく特殊な魔法に適正があるわね。あなたの「魔力吸収」のような特殊な魔法だったり、私の「白」て呼ばれてる属性なんかがあるわね。一族の中で受け継ぎ続けるものや、突然変異のようなものだったり、前世から引き継いでたりして千差万別な感じよ」

 

チアキは、レティシアの説明から何んとなく特別なんだぐらいに理解して、それ以上に気になったことを聞くことにした。

 

「なるほどな。で、お前持ってるのはどんな奴なんだ?「白」だったか」

 

とたん、レティシアの表情が曇った。

 

「い、嫌だったら、いいぞ言わなくて」

 

察したチアキは、強要しないことを伝える。

 

「いいわよ、別に。魔力属性「白」っていうのは、文字通り色の白をイメージから由来する効果を持つの。あなたは、白にどんなイメージを持ってるかしら?」

 

「純白とか、潔癖みたいな感じだな。汚れのない感じのイメージ」

 

「正に、そんな感じ。で、魔力属性の「白」はと言うと、その属性を持つ者を侵すものを拒絶するって効果を持っているの。結果、わたしは死を拒絶する不死身になったの。もともとは、「拒絶」の魔力属性を持っていたのが研究の結果「白」に至った。で、それを求める連中が現れたのに対して魔力の提供を拒んだ結果、人類の敵として殺せないからってことでバラバラにされたってわけ」

 

「なんで連中に協力しなかったんだ?」

 

チアキは素直に気になり、訊ねただけだったが、レティシアからする嫌な質問以外のなんでもなかった。そして、チアキがこの話題のデリケートさをいまいち理解していないんだとわかり少しばかり呆れてしまうのだった。

 

「最初はする気だったわよ。もともと、世のため人のための研究だったわけだし。でも、調べたら「白」の魔力は特別な分、かなりリスキーな代物だとわかったの。だから、拒んだら今度は、裏切り者だ、異端者だ、なんて言われて討伐隊まで組まれて気づいたらこの有様よ」

 

「体を取り戻したらどうするんだ?復讐でもする気か」

 

再び繰り返されるデリカシーのかけらもないチアキの質問だったが素直な自身への興味からの質問であり、そこに悪意がない以上文句も言えずレティシアもまた素直に答えた。

 

「しないわよ、そんな無駄なこと。そもそも、誰も生き残ってないもの、私と違って不死身じゃないんだから。体を取り戻したら私は、今度は自分のために生きるの。他人のための研究なんてしないでやりたいことをやって生きるって決めたのよ」

 

他人の復讐に手を買いたいとは持っていないかったチアキとして僥倖な回答だった。また、チアキにとってレティシアの未来の展望はそれなりに力を貸してやりたいとも思えたのだった。 

 

「よし!それなら早く体を集めないとな」

 

と言いながら、力強く意気込んだチアキだったが急にふらつき獣姿に戻ってしまった。

 

「魔力切れね。さすがにずっと魔力を吸収なんてできるはずないんだから当たり前と言えば当り前よね」

 

「また、人の姿に戻れんのか?」

 

「可能よ。ていうかチアキ自身が望めば魔力のほうが勝手にやってくれるわ。さっきの経験とこの前私がやってあげた時の感覚さえあれば何とかなるわよ」

 

「わかった。んじゃ今は、このままでいいか。久しぶりに動き回れた感じで楽しかったけどな」

 

獣姿で満足げに座り込むチアキに、何かの破片が降りかかった。

 

「なんだこれ?」

 

チアキは、破片を手に取りレティシアに見せつつ確認した。破片はどうやら石のようだった。

 

「これさっきまでの戦闘の衝撃で落ちてきたのかしら?」

 

真っ当な解釈ではあったが、それにしては、タイミングがおかしかった。

 

「戦闘自体をやめた後になって降ってくるってのは、遅いんじゃないか?」

 

そんな会話を続ける間も降りづづける破片は、徐々に大きくなっていた。

 

「これなんかやばくないか?」

 

不安を感じ出すちあきを正面に、レティシアは大事なことを思い出して青ざめていた。

 

「お、おい。どうした?って、何しやがる⁈」

 

「説明は後!とにかくここを出るわよ」

 

気にかけるチアキの言葉をまともに返さずに、レティシアはチアキにけ駆け寄り、そのまま抱きかかえて走り出した。さながら、幼女が大切そうにぬいぐるみを抱えている様な感じである。

 

「で、出るって何だ? 何が起きてんだよ!」

 

焦るチアキ。

 

「うるさい!黙ってないと、舌噛ますわよ」

 

「ひっ」

 

その上を行く勢いで焦りながら、凄い剣幕でチアキを黙らせて更に走るスピードを上げて、洞窟をレティシアは駆け抜けた。

 

だいぶ距離を走ったのだろうか、かなり奥まできたようだった。

 

そこには、壁際の床に大きめの穴があり水が溜まっていた。

 

「この水が溜まっているところから外へ出れるようになっているから行くわよ」

 

「もしかして、泳いで外に行くのか?」

 

「そんな分けないでしょ。たださえ深い上に、こんな姿で泳ぎ通しなんて無理よ」

 

「どうするつもりなんだ?」

 

「魔法で膜を作るわ。それで、私とあなたを包んで水中を移動するの。じゃあ、行くわよ」

 

言い切ると、レティシアはチアキを抱きかかえたまま魔力を放出し、薄く伸ばしながら白い膜で包み、水の中へ入っていった。

 

その後は、膜がシャボン玉のように膨らみ水中を漂いながら浮上していた。水中は、かなりの透明度を誇りだいぶ深いはずのチアキたちの所まで陽の光が僅かに届いていてとても幻想的な光景だった。

 

「すげぇな。魔法ってなんでもできて」

 

チアキは、膜の内側から外を見ながら呟いた。未知に対してはしゃぐ子供のように、目を輝かせて水中の世界を楽しんでいた。

 

「これは魔法じゃなくて、魔力の力よ。私の「白」の魔力で水を拒絶しているの」

 

「まじかっ!じゃあ、俺にはできないんだな」

 

少し残念そうに言うチアキ。

 

「こういうのが見たいんだったらまた見せてあげるわよ」

 

普段見れない楽しげなチアキについやさしい気持ちになるレティシア。

 

普段の二人からは想像出来ない穏やかな空気に包まれていた。が、そんなものはこの二人の間で長続きする訳もなく、チアキによって終わりを迎えるのである。

 

「で、結局何が原因だったんだ、あれ?」

 

とたん、レティシアの表情が変わった。普段のように表情が陰るのと違いどちらかと言うと恥ずかしいといった感じだった。

 

「あれ」とは、先程の洞窟の崩壊についてである。

 

「あ、あれ。話さないとダメかしら?」

 

レティシアの反応は、少し歯切れが悪かった。

 

「ダメってわけじゃないけど、気になる」

 

ぐいぐいとはいかないが食い下がるチアキ。それに対して、レティシアは、軽いため息を吐きながら口を開いた。

 

「まぁ、隠すほどでもないか。じゃあ、まず質問です。人為的に作られた地下を掘っただけの洞窟が何百年も持つと思いますか?」

 

「無理だな」

 

「その通り!じゃあ、私が作ったあの洞窟はなんで保っていたでしょう?」

 

「言われと見ればそうだよな。なんで保てるんだ?」

 

レティシアの腕の中で顎に手を当て首をかしげた。

 

「ぷぷっ、なんか今のあなたかなり面白いわよ」

 

レティシアは、チアキの姿に思わず笑ってしまった。

 

「おい、なに笑ってんだ。人が必死に考えてんのに」

 

「だって、仕方ないでしょ。そんな姿じゃ何やったって可愛らしいだけだもの。その上、見てる側にまで伝わる必死さよ。流石に、笑っちゃうわよ。で、正解はわかったかしら?」

 

「わからん。もういいから、正解を言えよ」

 

チアキは、考える姿をからかわれるのもめんどくさいと思い答えを聞くことにした。

 

「あ、そう。正解は、私の魔法で維持してたってだけの話よ」

 

呆気ないチアキのギブアップにレティシアは少し不満げに態度を取りながら答えを言った。

 

「そりゃそうか。てか、他にないわな。じゃあ、なんで崩れちまったんだ?」

 

「それはね。私が張っていた、結界の魔法を形成する魔力をあなたが「魔力吸収」を使った時に周りの魔素と一緒に取り込んだことで結界自体が崩れて結果的にあの洞窟の崩壊に繋がったってわけ」

 

「じゃあ、原因は俺ってことじゃねえか!なんでお前が気まずそうにしてたんだよ。てっきり、お前が何か仕出かしたのかと思ったじゃねえか」

 

「だって、私が張った結界をチアキに破られたとかなんか悔しいし、昔大雑把に作ったとは言え私の魔法のが負けたみたいで恥ずかしかったから隠したかったの。なにか文句あるかしら」

 

「なんか羞恥心のポイントずれてないか?」

 

そう言いつつ照れ顔を覗こうとチアキが頭を上にあげて見ようとするが、既に顔をぬいぐるみよろしくチアキの頭に上から押し付けて隠すレティシアのせいでピクリとも動けなかった。

 

「うぉっと!何してんだよ、お前」

 

「いいでしょ!今のチアキは、ほとんどぬいぐるみみたいなもんなんだから」

 

「良くねぇよ。やめろって」

 

下から押し上げることで、なんとか顔をどかしたチアキ。そして、レティシアを見ながらチアキは言った。

 

「まあ、結局二人とも無事なんだからいいじゃねぇか」

 

気にすんなと続ける。

 

「そりゃ、必死に頑張ったもの。当たり前でしょ」

 

レティシアも少しばかり胸を張って言った。

 

それから、二人きりの水中の旅が続いた。徐々に上から差す光が強くなっていく。

 

「でも、想定外だったわね」

 

ため息混じりにレティシアはぼやいた。

 

「何がだよ」

 

「こんなに早く上に行くつもりはなかったの。もう少しチアキには魔力の使い方を教えておきたかったんだけど、まあ仕方ないわね。上で準備すればいいから、気にしてないんだけど」

 

「まだ、やんのか?吸収だか変換だかできたんだから十分じゃないのか?」

 

「だって、まだコントロールは出来てないでしょ。せめて、2つ位はきちんと使えないと」

 

当たり前でしょと言わんばかりにレティシアは告げた。

 

「しゃあねえな、わかったよ」

 

まだ、カラダ探しに移れないことに多少不満があるのだろう不服そうにしながらも同意を示すチアキだった。

 

そんな、ふたりの会話も終わり水面に近づいた時、急に水面が揺らぎ何かが魔力の膜を貫いた。レティシアが、チアキごと間一髪で交わしたが、貫かれた衝撃で膜は崩れ二人とも水中に放り出されてしまう。

だいぶ浮上したとはいえ、水面まではまだ距離があり体の小さい現状の二人にはかなり厳しい状態と言えた。口を閉めてなんとかチアキを抱えたまま泳ぐレティシアだったが、幼女の体の限界の方が早かった。息切れを起こしついに口を開いてしまう。とたん、体内に水が流れこみ呼吸を圧迫する。徐々にチアキ抱き締める腕の力もなくなり、自由になったチアキがなんとか引っ張ろうとするも、レティシアよりもさらに小さいチアキに何とかできるはずもなかった。

 

そこで、チアキは一つの賭けに出た。それは、人に変身することだった。本来の高校生の姿ならなんとか幼女を一人抱えて水面まで泳ぎ切れると考えたのだ。

 

変身はイメージ。頭の中で人の時の自身を思い出す。そして、魔力で形を作りながら今の小さな全身でそのイメージを纏う。足りない魔力は、周りから奪えばいいんだ。

 

チアキは、そう何度もイメージを反芻させて体を作る。少しずつだが、チアキの体から魔力が放出され出し形が出来ていく。魔力とは、イメージ、感情で扱うものレティシアのそんな言葉をチアキは思い出す。

 

(俺はコイツを、何がなんでも助けるって決めたんだよ。こんな早々と終わってたまるかっ!)

 

とたん、黒い魔力がチアキから溢れ出し、包み、飲み込んだ。そして次の瞬間、中からレティシアを抱えた高校生の姿のチアキが現れた。

 

あとは、泳ぎ切るだけだった。

 

「ぷはっ!はあ、はあ、何とかなったか?」

 

水面から顔を出して沖を探しながらチアキは呟いた。すると、チアキの腕の中でレティシアが水を吐き出しながら嘔吐いた。

 

「げほっ!あっ!はあ、はあ、はあ」

 

「大丈夫か?」

 

レティシアの無事を確認するチアキに、レティシアは口元を脱ぐながら応えた。

 

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 

「じゃあ取り敢えず、このまま沖を目指すぞ」

 

そう言いながら、チアキはレティシアを背中に背負い泳ぎ出した。

 

それからさほど時間も経たない内に、思いの外陸が近かったこともありなんとか辿り着くことが出来た。陸地はあったが多少の段差があり、沖とは呼べなかった。チアキは、そこへレティシアを押し上げるようにして載せた。

 

「悪いんだけど、そっから引き上げてくれねえか?」

 

そう言いながら、チアキはレティシアに対して手を伸ばそうした時、不意に力が抜けるのを感じ、そして一切抗う力を失ったチアキは意識が朦朧となりながら沈んだ。

 

「あの馬鹿はなにやってんのよ!」

 

自分も回復してないにも関わらず、怒鳴りながらレティシアは飛び込んだ。

 

水中に入ったレティシアが見たのは、既に気絶し今尚沈み続けるチアキがいた。

 

レティシアは、急ぎチアキと自身に膜を張った。そして、近付いて行きながら膜を合わして合流した。レティシアは、チアキに抱きついて呼びかけるが反応が無い。焦るレティシアは、チアキを揺すりながら浮上し、地面にチアキを寝かした。

 

「えっと、こういう時は肺に入った水を出させないといけないんだったかしら?」

 

慌てながらも、拙いながらも心臓マッサージを行う。が、チアキの意識が戻らないため、人工呼吸に移ろうとして気道を確保し、チアキの口元に顔を近づけた時急に動きが止まってしまった。

 

「こっれって不可抗力とは、キスになってしまうのかしら?」

 

とたん、レティシアはその白い肌を真っ赤に染め上げた。

 

「こ、こういうことって本人の同意無し致しちゃっていいものなの?やっぱり不味い」

 

唸り声を上げて、頭を抱えるレティシア。魔法を極めるために生きてきた彼女はこういったこととはとんと無縁なのだった。あーだこーだとぐだくだしている間もチアキが動く気配はないことに気づいたレティシアは、覚悟を決める。

 

「い、命を助けるため何だから仕方ない!仕方ないのよ、うん。それに、今のチアキは私の所有物何だから何したっていいのよ。……いざ!」

 

レティシアは、チアキと口を重ねて人工呼吸を行い、それを心臓マッサージと交互に繰り返し行った。

 

「ゴホッゴホッ」

 

なんとか間に合ったようで、むせ返りながら水を吐き出して、チアキは息を吹き返した。

 

「悪いな、助かった」

 

口から出た水を拭いながら、チアキは少し離れて座り込むレティシアに視線を向ける。そこには、顔を赤くして涙ぐんだレティシアがいた。

 

「心配させるんじゃないわよ、バカ」

 

「ごめんな、ほんとに。急に力が抜けちまってよ。……にしても、やけに顔が赤いけど大丈夫か?」

 

そのことを気づかれたくないがために。距離を取ろうとしたにも関わらず、チアキにバレたことにレティシアは狼狽える。

 

「う、うるさいわね。なんでもいいでしょ、そんなこと。それよりもチアキの方こそ大丈夫なの?」

 

「あぁ、大丈夫だ。助けてくれて、ありがとな」

 

「気にしなくていいのよ。これから、二人でやっていこうって言ってんだから、これぐらい当たり前よ。ただ、かなりに疲れちゃったからしっかりと休みたいわね」

 

「それも、そうだな。んじゃあ、休める場所でも探すとするか」

 

二人はゆっくりと立ち上がり、歩きだそうとした。その時、二人の正面に轟音とともに何かが飛来してきた。その衝撃でひっくり返るレティシアと、身構えるチアキ。

 

その飛来物は砂埃ではっきりとは判別しきれなかったが、どうやら人のようだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

やっと、外に出ることが出来ました。

2人の物語に進展があると嬉しいです。

感想待ってます。

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