説明の無い契約なんてタチが悪いだけ
第3話になります。
一向に話は進みませんが、今後のための話なのでよかったら読んでって下さい。
目を覚ましたチアキの体は今回もまた、動けなかった。だが、レティシアが抱きしめているわけではなかった。
チアキは、正面を睨み付ける
「おい、レティシア。この縄はなんだ?」
「あんたを縛ってるでしょ。それが答えよ」
堂々とした態度のレティシア(幼女)であった。
「じゃあ、聞き方を変えてやる。なんで俺を縛ってんだよ!」
「報復が怖いからに決まってるでしょ」
「怖がるくらいならすんな!」
要するに、ヘッドバットの仕返しが怖かったレティシアは、予めチアキを縛っておいたのだ。
「取り敢えずこれ解けよ。こんなんじゃ、なんにも出来ないだろ」
チアキからの真っ当な要求であるが、レティシアは拒んだ。
「嫌よ!何されるかわかったものじゃないもの」
レティシアは、千秋からの仕返しが相当不安のようだった。
「何もしねえから解けよ」
嘘である。チアキの頭はこの状況からどうやって報復するかしか考えていなかった。
「確信が無いから、嫌」
「じゃあ、どうすりゃ信じれんだよ!こんなの時間の無駄だぞ」
疑いの目を向けたまま悩むレティシアはひとつの答えを出すに至った。
「そうね。契約の力でも借りましょうか?」
「は?契約の力ってなんだよ。 お前、また勝手な真似をする気だろ」
強く警戒を示すチアキに対してレティシアは、
「安心して、何もおかしな事をする訳じゃないから。・・・・・・、そんなことよりも一つ聞いておきたいんだけど、あなたは私のことを何があっても守ってくれるのかしら」
レティシアからの急な質問。チアキとして、おかしな問いではあったが答えははっきりとしていた。。
「そりゃあ、何があっても守ってやるさ。そういう約束だろ」
当たり前だと言いきったチアキ。
だが、この発言をチアキはこのあとすぐに後悔することになるのだった。
「あんた、今私を何があっても守るって言ったわね」
不敵な笑みを浮かべるレティシア。何かがまずいと察するチアキ。だが、もう後の祭りだった。これから、レティシアがすることを止めることなんて誰にも出来やしないのだから。
「チアキ、あんたのさっきの守る宣言を言質に命令を下すわ。あなたは、『私に危害を加えるもの全てから私を守りなさい』。さ、これで問題ないわね。チアキ、解いてあげるからこっちに来なさい」
置いてけぼりの状態で話が進み、全くついていけていないチアキは、きょとんとして座っていた。
特に何か変わった訳でもない自身に疑問をいただく。レティシアの行動の意図は一切読めなかったが、束縛からの解放の為にレティシアに近付いた。そして、解放された暁には指の一つでも噛んでやろうなんて思っていた。
「とっとと解けよ」
「ええ、いいわよ」
あっさりと解くために、手を伸ばすレティシアの指をチアキが噛み付こうとした時、急な脱力感に襲われてチアキは動くことが出来なくなった。
「チアキ、どうかしたかしら?少し顔色が悪いよ」
「てめぇ、俺に何しやがった。体が動かねえぞ」
「そりゃそうよ。だって、あなたは私に害するすべてから私を守ってくるんでしょ。例えそれがあなた自身だとしとても、私を害する『全て』から守ってくれるのよね」
ここに来てやっとチアキの理解が追いついた。レティシアは、報復回避のために命令を持ってチアキの体の自由を奪ったのだ。
「無茶苦茶じゃねぇか!うんなこと了承した覚えねえぞ!」
流石にチアキも文句言わずにはいられなかった。
「いいえ、あなたの了承はちゃんと得たわよ。聞いたでしょ?私を守ってくれますかって?に対してあなたは、守るって言ったわよね。あの一言を了承と見なしての命令だもの。命令って言っても、本来は双方の同意なしには成立しないようにしてるの。その代わり、かなり強力なんだけどね。 大丈夫よ、チアキが頭突きを忘れた頃にでも解いてあげるから」
楽しげに語るレティシア。
絶望的表情のチアキ。
あまりに、対照的な二人の構図だった。
恐る恐るチアキは尋ねた。自身の今後に関わる以上は、どんなに怖くても聞かずにはいられなかった。
「こういった類いの命令は、こうも簡単にできるもんなのか?」
知らないでは済ませられないことである。
「心配ないと思わよ。今回は、騙すような真似をしたけど、さっきも言ったけど双方同意の上での命令しか成立しないからチアキ自身にもちゃんと拒めるように出来てるわ」
チアキは、質問を重ねる。
「ついでに、聞いとくんだがあの契約には他にはどうな効果あるんだよ。この際だ、もう少しぐらい情報寄越せよ」
「そうね、『意見の尊重化』かしら」
レティシアのしれっと言った一言はどう聞いても不穏なイメージを想起させるものだった。
「なにその物騒なの、なんか怖いんだけど」
動揺が隠せないチアキ。見るからに不安そうな表情を浮かべている。
「そんなに、不安がらなくても大丈夫よ。強い拒絶の意思がない限り、私の意見を肯定しやすくなるってだけだから」
「結局、どういう事だ?」
再び、不安から疑問にチアキの感情がシフトした。首を傾げるチアキにレティシアは説明した。
「例えば、私が分かれ道で右へ行きたいと言った時、チアキ自身に何がなんでも左に行きたいっていう強い思いによる抵抗がない限り、私の意見を尊重してチアキも右を選ぶわ。この状態がほかの物事の選択時も発揮されるって感じね」
「基本的な決定権は、お前にあるってことになんのか。命令には従うけど、ある程度の自由も許されてるんだな。ある意味で、ペットって感じだな」
チアキなりのざっくりとした解釈だった。
「まあ、そんな感じでだいたいあってるわよ。嫌かしら?でも、今更後悔して遅いわよ。だって私、あなたを手放す気はないから」
チアキに対しての自身の立場を優位にするためにここぞとばかりに強気な態度のレティシアにチアキの予想外の返答が返ってきた。
「正直言って後悔なんて、今更なんだよ。異世界に来た時点で、後悔しまくりだからな。それでも、帰るためなら何だってするさ。従者でも、奴隷でも、ペットでも何にでもなってやるよ」
あまりにもあっけらかんとしたチアキの態度に拍子抜けしてしまったレティシアだった。
「もうちょっと、抵抗とかないわけあんたには?ペットよ、ペット。流石にやばいでしょ? 気になんないの? 嫌だとか思わないわけ?」
実際に、レティシア自身はチアキから多少なりとも抵抗される覚悟はしていたため驚きを隠せなかった。
「気にしないって言ってんだろ。それとも、アレか? やっぱ全て無かったことにして解放してくれって泣き付いて欲しかったのか?生憎、うんなダサい真似をする気は無いし、成り行きとはいえお前を助けるって約束を反故にする気もねえよ」
チアキは言い切った。自身にとってそれが当たり前であると言わんばかりにハッキリと。
レティシアは、過去に裏切りによって首だけにされ湖に沈められた為、他人を信用する事はほぼ不可能だった。ゆえの契約による束縛だった。だが、それを意に留めないチアキに困惑する中、あの時誰一人として助けてくれなかった自身のことを『助ける』というチアキの言葉が鮮明に残り、何故か嬉しく思えてしまった。
「わ、分かったわよ! しっかりとこき使ってあげるから頑張りなさい。あと、私はあなたの主に当たるんだから大事にしなさいよね!」
「あぁ、任せとけ」
少しばかり照れながら告げるレティシアに、気づくことなくさらっと返事を返すチアキだった。
「じゃあ、その為にもまずは体作りの続きに移ろうかしら」
気を取り直して、本来の本題に話題を移すレティシア。
「そうだな。具体的には何をすりゃいいんだ?」
「チアキには、まずは自分の人間だった時の姿をイメージしてもらうわ。出来る限りはっきりとしたイメージの方がいいわ」
「イメージするだけで良いのか?他にすることはないのか、魔力的な事とかで」
「ええ、大丈夫よ。最初はチアキは何もしないで、自身の姿をちゃんと思い出してイメージしなさい」
「よしっ!やってみるか」
相変わらずの説明不足のレティシアであったが、チアキは気にすることを辞めていう通りにすることにしたようだった。
「イメージがまとまったたら言いなさい」
「おう!」
と言いつつ始めるたチアキだったが、これが意外と難しかった。
当たり前な話になるが大抵の人が自身の姿を毎日凝視しているわけではないため完璧に思い出せるわけないのだ。
「これ意外とムズいぞ」
つい愚痴るようにこぼすチアキ。
「わかってるわよ、そんな事。考える事が大事だからそのままでいいわよ、 あとは私の仕事だから」
そう言って、チアキの額に手を伸ばすレティシア。チアキは、過去の経験からそれを拒もうとして抵抗しようにも先程の命令で攻撃する事は叶わなかった。
「大丈夫よ、今回は痛くないから安心なさい」
チアキは為すが為されるままに頭を鷲掴みにされて魔力を流された。体を強ばらすチアキに対して、今回は前回の様な衝撃ではなく頭の中を覗かれる様な不思議な感覚が襲った。
「のわっ!」
つい、声を上げてしまうチアキ。そんなことはお構い無しにレティシアは、5分ほど鷲掴み続けた。
「大体見れたわ。んじゃ、いくわよ」
そう言うと今度は、チアキの体を魔力による光が隠すように集まった。光はチアキの体をすっぽりと覆いさらに広がりを見せる。少し経つと今度は光が人の形を作りながら収縮し、その光の中から地球時代の姿をしたチアキが現れた。
「さすが、私。 成功ね」
自慢げに人の姿に変わったチアキを眺めながらレティシアは言った。それに対して、紛うことなき本来自身の姿を取り戻せたこと喜びはしゃぎながらチアキは、嬉しそうに尋ねた。
「でも、なんで今度は人の姿になれたんだ?」
話しながらも跳ねたり走ったりとかなり楽しそうだった。
「私が、あなたの記憶を覗くことであなたの人の姿を確認して、それを元にあなた自身の魔力で変身させたからよ。 イメージをさせてたのも、思い出させることで探りやすくするためだったの。説明しなかったのは余計なことを考えさせないためだから、いつもの嫌がらせとは違うわよ。で、自身の魔力での変身を体感してもらうことでやり方を覚えさせようとしたんだけど、どう自力でやれそう?」
チアキは、立ち止まり思い出してみたがなんとも言えなかった。というのも、気がついたら変身できていたといった感じだからだ。ただ、魔力が自分の形を作っている感覚がなんとなくにはあったと言ったところだろう。
「正直言ってわからん。なんとなく魔力の動きが感じ取れた程度だった」
「そう、まあいいわ。それは、おいおい覚えていけばいいから。ひとまず二人とも体の用意は出来たわね。これで、外で活動ができるわね。」
「じゃあ、さっそく、上に上がって体を探しに行くとするか」
さっきから、久しぶりの人間の体にテンションが上がっているチアキは意気揚々に浮上をレティシアに促した。
「馬鹿なのあんたは? 体ができたら次に必要なことがあるでしょ」
「ん?」
チアキは首を傾げる。
体を探しに行く以上に必要なことはなんだろうか?と言ったことを考えるチアキに対して、
「つぎは、戦闘訓練よ! それに、魔力の使い方を覚えなきゃでしょうが。ここで、出来る準備は全てやるわよ。早く体を探しに行きたいなら、私の言うことを聞きなさい」
レティシアは万全を期して体を探したいようだった。
「はいはい、わかりましたよ主様」
渋々了承するチアキ。
「OK、じゃあ、行くわよ!私実戦主義だから覚悟しなさいよ。昔のようにとは行かないけど、まだ今のチアキには負けないからね。でも、まずは私には余裕で勝てるようになってもらうから宜しくね」
「おう!」
勢いのあるいい返事だった。ぶっちゃけチアキとしてはこの体格差ならすぐにでも勝てるだろうと高を括っていた。
だが、そんな甘い勘違いはレティシアによって粉々に粉砕されるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
更新がありにも遅くてすみません。
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