首だけはやっぱ辛かった
2話です!!
相変わらずの駄文ですが良かったら読んでってください!
柔らかな暖かさと、染み込むような岩の冷たさに包まれるような感覚に気づき、目を覚ましたチアキ。
だが、チアキの体は一切身動きを取ることが出来なかった。
と言うのも、チアキの小さな体はぬいぐるみのように抱きしめられていたからだ。
チアキが腕の中で動き回ったせいで気がついた、腕の主が語りかけた。
「ふぁあ、そんなに動かないでくれる。くすぐったいのだけど」
気怠げなその声に、驚愕を隠せないチアキは、こう言わずにはいられなかった。
「その体どっこから持ってきやがった、レティシア!」
分かりきったことではあったが、チアキを抱きしめていたのはレティシアだった。だが、首しかないはずのレティシアが抱きしめていたのだから、チアキが驚くのも無理はない。
「持ってきたも何も、あなたが寝てる間にあなたのおかげで回復した魔力で編んだの。見てくれだけで中身のない空っぽだけど、生首よりマシでしょ。流石に首だけで外に出る気は無いわよ。魔力不足は変わらないからかなり幼くなっちゃったけど」
と抱きしめていたチアキを離して、座りながら語るレティシア。
実際にレティシアの姿は、生首の時の美しさと色香の片鱗をすでに醸し出していて、雪のように白く美しい幼女だった。年齢は大体3,4歳といった感じで、白のワンピースを纏っている。
よって傍から見ると、薄暗い岩場で幼女が動物のぬいぐるみで遊んでいるような状況、というなんとも場所が違えば微笑ましいものとなっていた。
レティシアの幼女の姿をを改めて直視したチアキはつい黙ってしまった。
そのようすを眺めながらレティシアは喋り出した。
「幼女姿に釘付けなロリコンはほっといて、今後の予定を決めようかしら」
「ま、待て!俺はロリコンじゃねぇぞ」
急ぎ訂正するチアキ。
「嘘ね、だって幼女を目の前に直視したまま静止した時点でアウトでしょ、違うかしら」
見惚れていた以上文句の言えないチアキだった。レティシアは、そんなチアキを満足げに眺めながら仕切り直すように喋り出す。
「まずは、今後の予定を決めるわ。私としては、まずこの体を慣らしたいところね。作りたてだから脳の伝達が少し遅いのよ。だから体の運用の練習をしたいと思ってるの。で、その間に、千秋にもその体の使い方を練習してもらうわ」
「なるほど、それが妥当かもな。で、具体的に何をすりゃいいんだ?そもそも、俺って戦力になれんのかこんな姿で?」
ごもっともな疑問だった。二足歩行の小動物に何ができるのか正直分かりかねるとチアキは思っていたのだ。
「さあ?わかんないわよ。だって、今わかっているのは、チアキの体は精霊に変質しているってことだけだから。今のチアキは、本来肉体のないはずの精霊でありながら受肉しているって感じかしら」
あっけらかんとした様子で語られた新事実に対して呆然としたチアキ。
「精霊ってなんだよ。てか、そんな認識で大丈夫なのか?」
「平気よ。だって、私の従者なんだから大丈夫に決まっているでしょ。それより話を戻すけど、まずは本来の精霊としての力を習得してもらうから」
ぶっちゃけ何一つとして説明になっちゃいなかったが、チアキは話を先に進めることにした。
「本来の力って何なんだ?」
「さっきも話したけど、現状のチアキは精霊って呼ばれる存在なの。精霊っていうのは魔力の塊に近い感じ。いうなら意志を持った魔力ってこと。だから、本来は決まった形が存在しない。中には、霊獣なんていわれる肉体を持ち、実態のある存在もいて、今のチアキが正しくそれね。で、霊獣を含めたすべての精霊は姿形を自在に変える力が元々備わってんのよ。だから、それを覚えてチアキにも人や大型動物のようなほかの姿になれるようにして欲しいって訳。そうなれば、かなり活動範囲が広がるし、戦闘にも役に立つはずよ」
戦力アップの為の修行タイムというやつだ。実際、チアキの本音としては早く体を探しに行きたいところだった。何より、体探しが自身の早期帰還に関わる以上焦るのも仕方がないと言うものだ。だが、それ以上にレティシアの意見は正しく、それに苦言を呈するチアキではなかった。
「分かった。じゃあ、詳しく何をするのか聞いてもいいか?」
「そうね、まずは魔力を感じ取るところからかしらね。初歩的な事だけど、異世界から来たチアキには必要だから。まあ基礎中の基礎、土台作りだから頑張りなさい。で、それが出来たらイメージトレーニングって奴ね。感じ取れるようになった自身の魔力で新しい体を作るイメージの。あと、イメージが固まりさえすれば自ずと変身できるようになるから。」
「そんな簡単なもんなのか?変身って」
チアキとしては、イメージするだけでいいとはあまりにもざっくりとしていて多少疑ってしまう。
だが、レティシアはそんなことはないと言い張るのだった。
「さっきも言ったでしょ、精霊は魔力の塊だって。だから、魔力の形を変えるだけで自ずと姿も変えられるのよ。ほかの種族と違って精霊だからこそ出来るの?本来はできなくて当たり前なんだから」
「じゃあ、変身じゃないにしても魔力で体を作れてる精霊じゃないお前はなんなんだよ」
「天才」
堂々としたものだ。ただ、悲しいかな幼女の姿で威張ったところで、可愛らしいだけだった。
「そうか。で、魔力を感じ取るってどうやるんだ実際。やっぱり、集中力を高める的なやつか?」
「それ時間かかるから無し。さすがにそんなことに時間を割く気はないし」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「聞いてばっかしでさっきから考えようともしないわね。まあ、単純な話、直接
体に理解させるのよ」
いまいち容量を得ないレティシアの説明に首を傾げるチアキに、レティシアはたどたどしく立ち上がり、喚くチアキの頭に鷲掴みにして力を流し込んだ。
「痛っ。ちょ、待て。ギブギブ。おい、何する気だよおま」
ボンッ
もがくチアキの体は、何かが駆け抜ける感覚と、爆発の様な衝撃に襲われた。そして、口から白い煙を吐き出しながらぷすぷすと音を立てて立ち尽くしている。
「何しやがんだ!痛いじゃねえか。ん?どうしたんだ、お前?」
怒鳴ろうとしたチアキは、レティシアの姿を見て呆気に取らてしまった。
チアキの目の前でレティシアは、ふらつきながら肩で息をしていたからである。
「し、しかないでしょ、魔力をチアキの中に流したんだから。はあぁあ、おかげでまた枯渇気味よ。いまは、魔力=体力って感じだから、結構つらいのよ」
確かにレティシアの体が半透明に見えなくもない。そんなレティシアを見てチアキは、「じゃあ、なんでした」、などと無粋なことを言いかけて体を流れるエネルギーと周囲に渦巻く物に気づく。
それに気づき満足げに見ながらレティシアは、
「わかるかしら?今、あなたが感じてるそれが魔力よ。おもっきし魔力を流して、存在を体に実感させることで感じ取れるようにしたの。荒療治になったけど、どうやら成功のようね」
と言いながら倒れかける。焦って駆け寄るチアキに、「もうダメ」とつぶやくと、レティシアは体を支えようとするチアキの目の前で元の生首へと戻ったのだった。
「のわっ!」
ゴン!
「ぷぎゃっ!」
驚きながらもチアキは手を伸ばしたが、間に合わずレティシアは顔面から地面へ激突した。
「痛いじゃない!ちゃんと、受け止めなさいよ」
「悪ぃ、急に首だけに戻るもんだから・・・・・・」
「ぐすん 、・・・・・・まあいいわ、あとで虐めてやるから」
涙目で唸りながら、浮き上がりつつ愚痴るレティシアだった。
「いじめるってなんだよ。てか、首だけで浮けんだったら、自力でなんとかしろよ」
多少は抵抗して見るチアキだったが、
「仕方ないじゃない、・・・・・・急に首だけに戻るもんだから」
と言い返すレティシア。しかし、それはチアキが受け止められなかった理由とおなじだった。
「俺と変わんねぇじゃん」
沈黙が場を支配した。
「・・・・・・」
黙るレティシア。
「・・・・・・」
連れて黙るチアキ。
「う、うるさい、うるさい、うるさい! も、もういいから、さっきの続きよ、つ・づ・き!」
レティシアはなんとか取り繕うとするも、口調は崩れかけていて、顔面から落ちた為に軽く鼻先は赤く、さらに恥ずかしさからか顔も赤い、その上目には涙を浮かべていてるためなんとも惨めだった。
「お、おう。 次はイメトレだったか? 魔力で体を作るための」
何かを察してか、文句ひとつ言わずに応えるチアキの優しさはさらにレティシアを傷つけた。
「そ、そうよ! てか何よ、あんた、泣いてる女の子相手に、涙を拭うぐらい出来ないの? 何スルーして会話進めてんよ! こちとら手もないもんだから自分で涙を拭うことも鼻をさすることも出来ないのよ。 チアキ、あんたには代わりにやってやろうって気はないわけ?」
かなり、めんどくさい感じのレティシアだった。
流石にチアキも苦笑いである。そこで、チアキはため息混じりにレティシアに近づき、涙を拭いながら言った。
「悪かったな、配慮が足んなくて」
多少ぶっきら棒ではあったが、レティシアには充分だったようだ。
「最初からそうしてればいいのよ、女性に優しくするは男の甲斐性の一つなんだから」
と機嫌よく語るレティシアに、チアキは先程のレティシアに対して誰もが思ったことをつい呟いてしまう。
「でも、さっきのはガキって感じだったけどな」
ゴンッ! と、鈍い音が洞窟内に響いた。
チアキへの制裁と言うなのヘッドバットが行われた。
レティシアの「せい!」という掛け声とともに放たれた一撃はチアキの額に決まり、その痛みからチアキは蹲り、レティシアは赤くなった額を上に天井を半泣きで眺めていた。
「痛ってえなぁ!何しやがる」
「な、何って制裁よ、制裁。あんたがあまりに失礼だから、かましてやったのよ」
「だからって、頭突くかよ普通」
「首しかない私の数少ない攻撃手段が、これなんだから仕方ないじゃない」
呆れたチアキは額をさすりながら起き上がり、レティシアに気を取り直して言った。
「これで、満足したか?とっとと次に話を進めろよ」
「話?何の?」
「何の?って、俺の体のことだよ。もっかい言うけどイメトレだが何だかするんじゃなかったのか?」
「あぁ、体の事ね。やっぱり、今はここでストップ!続きはしっかり休んだあとよ」
「は?休むってなんだよ。別に疲れることなんてやってないだろ」
と、不満げなチアキに対してレティシアは言った。
「あんたじゃなくて、私が疲れたの。それに、あんただって気づいてないだけで、ダメージは多少は溜め込んでんだから休みなさい」
未だに痛む額に手を当て察した様子のチアキに、むすっとした表情でレティシアは言った。
「おいこら、そっちじゃねえよ。 ・・・・・・こほん、私が流した魔力の方よ。本来、他者の魔力を流したりしたら動けなくなったりするものなのよ、拒絶反能を起こして。ただし、チアキにはあらかじめ私と魔力のパスを繋いで魔力を分け合ってる分軽減されてるの」
レティシアの物騒な発言の衝撃に開いた口が塞がらないチアキ。
「おいおいおいおい、そんなやばい事伏せてたのかよ。 俺の体は大丈夫なのか」
「知らないわよ、だからしっかり休めって言ってんのよ」
「わかったわかったわかった。大人しく休むよ。休みゃいんだろ」
渋々と言った感じではあるが休憩する事をチアキは了承した。
対して、レティシアは、
「じゃあ、一緒に寝ましょうか!」
と提案する。
「へ、寝るのか? ぶっちゃけ眠くないんだが」
「仕方ないじゃないの。寝てる方が魔力の回復効率がいいんだから。それに眠くなくても大丈夫よ、無理矢理にでも寝かせるから」
ゴンッ!
そして、快音を響かせた。レティシアのヘッドバットである。
「今回は、魔力も一緒に込めたし起きれないから大丈夫よ」
霞む意識の中チアキの最後に聴こえた声はとても満足感のあるレティシアのものだった。
そして、チアキは強く仕返しを心に誓うのだった。
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