第7羽
「あ、クレインさん!まさかもう終わったんですか」
受付嬢のラナが俺を見つけるなり決起迫る表情でカウンターから身を乗り出してくる。
「キングゴブリンがいたから倒して来た。魔法で吹き飛ばしたから討伐部位は無い」
討伐部位っていうのは魔物ごとに設定されていて、ゴブリンなら右耳、ワイルドベアなら肝などだ。
「では再度ロット山に調査隊を派遣して鎮静が確認されたら報酬をお渡しします。次はいつ来る予定ですか?」
「まだ未定だな。そうだ、武器防具の買取を頼む」
アイテムボックスの中には推定金貨2枚分の武器防具が入っている。それだけゴブリンに狩られた冒険者がいたということだな。
「なら場所を移しましょうか。さすがにカウンターの上に並べるわけにはいかないでしょうし」
カウンターに乗り切らないことを気にしているのかギルドの中にいる冒険者を気遣っているのか。
ギルドの受付から『鑑定室』と呼ばれる部屋に移動して部屋の中心にあるテーブルに武器防具を並べていく。ほとんどが鉄製で、たまに鋼鉄製が混じる。
「この数だけ被害者がいるんですよね……」
被害者ねぇ。命がけの商売してるんだから被害者でも何でもないだろうに。本人達の過失だろ。
鑑定の結果、金貨2枚と銀貨5枚になった。何百という数だったので割り増しで買い取ってくれたらしい。
「報酬に加えてこの臨時収入ですか。さすがBランクですね」
冒険者のランクは最低評価のG〜Aまであって俺は上から2番目のランクだ。3年かけてコツコツ上げて来た。
「なんでクレインさんはAランクに上げないんですか?」
「Aランク試験は本部でしかやっていないからだ。わざわざ行く気にならない」
冒険者ギルドの本部は国ごとに首都にあって、その他の街などには支部が置かれる。噂では大陸のどこかに総本部があるらしい。
「あー、なるほど。ここから首都に行くなら半月くらいかかりますからね」
ほんとは魔法で一瞬なんだが。
受けない本当の理由はAランクになると強制依頼がくる可能性があるからだ。Bランクまでは指名依頼で済む。指名依頼は断ることも出来るからAランクには未来永劫上げることはない。
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ギルドで金を受け取った後、待ち合わせ場所の広場に足を運んだ。広場の真ん中には木が植えてあってその周りにベンチが数基据え付けてある。
「まだいないか」
まだミヤ達は広場に来ていなかった。ミヤ達と分かれてからもうすぐ5時間経つ。今日はゴブリン退治で疲れたから早く寝たい。
「座って待つか」
誰も座っていないベンチに腰掛ける。公共のものを独り占めしているといい気分になる。
もうすぐ冬季に入るというのにこの木は葉を散らさないのか。珍しい木だな。
「眠くなって来た」
風に吹かれながらボーッとしていると瞼が重くなってきた。元から眠たくなっていたのに加えて座ってリラックスしたのが原因だな。我慢する気もないので目を閉じて体の力を抜く。
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「ん……」
思った以上に熟睡してしまった。もう真っ暗だ。ミヤ達が来ていたら起こされていただろうから、まだ買い物の途中か勝手に帰ったかだな。
「これ以上ここにいたら風邪引くかも」
「えぇそうですわね」
周りに人がいないと思ってそこそこ大きめに独り言を言ってしまった。声をかけられるまで気付けないなんて俺も衰えたな。
「そういうアンタは帰らなくていいのか?この町の治安が良いからって夜遊びは控えたほうがいいぞ」
「宿に帰る途中で貴方が寝ているのを見つけたので声をかけようかとしていたんです。声をかける前に起きてしまわれたんですが」
笑っているのは分かるがマスクを被ってないからよく見えない。辛うじて金髪ということしか分からない。
「宿ってことは旅行か?声の感じだと若い女の人みたいだが一人旅か?」
「確かに1人ですが旅行ではありませんよ。この町のギルドからの要請で参りました」
「てことは冒険者か。ギルドからの要請ってことは強制依頼だからAランクか」
もしかしてロット山の件か?だとしたら悪いことをしたな。
「良くご存知ですね。私Aランク冒険者のオスカーと申します」
「……クレインだ。よろしく」
名前を聞くつもりは無かったんだが。だからと言って無視するわけにもいかないもんな。
「それでは私は宿に帰ります。クレイン様もお気をつけて」
「そっちもな」
俺も帰るか。