第5羽
4〜6羽を同時に投稿したので気をつけて下さい。
「……おはようミヤ」
「きゃぁ!ってあんた何でトリンのベッドにいるのよ!」
人の気配で起きるとミヤが部屋に入ってきたところだった。今何時だ……5時?ミヤは早起きだな。
「さっさとトリンから離れろ変態!」
「がっ……ってぇー」
鼻柱にグーパンはひどいと思うぞ。最悪の目覚めだ。この騒ぎでもトリンはスヤスヤと寝ている。いつの間にか腹枕から逃げてたな、危険を察知したのか。
「ほら、今日買い出しに行くんでしょ。さっさと起きなさいよ」
「トリン……トリン!もう……ボソボソ」
「っ!」
ゴッ!
ミヤがトリンを揺するのをやめて耳元で何か囁くと跳ね起きたトリンとミヤの額が正面衝突した。ミヤは何を言ったんだろう。
「いった〜い。跳び起きないでよ」
「……グスッ、お姉ちゃんが悪い。グスッ」
朝から賑やかだなうちは。
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「で、どうするの。もう行く?」
ミヤが準備してくれていた朝食を食べて今日の予定を話す。
「そうだな。モリガンはまだ帰って来ないんだろう?」
「番いのオスを探しに行った」
「お婿さんでしょトリン」
モリガンがいつ帰って来るか分からないなら早く行って早く帰って来よう。今日の予算は銀貨5枚くらいかな。
「準備したらすぐに行くぞ。今日は銀貨5枚な」
「えー、服とか買いたかったのに」
「ペット飼いたい」
服は良いけどペットはなぁ。吠えられたり怯えられたりと基本的に犬や猫と相性悪いじゃないか君。
「ペットはまた今度な」
「……モリガンに頼む」
ケルベロスでも連れて来させるつもりかこの娘は。トリンに頼まれたらモリガンは張り切り過ぎる気がする。
「ミヤからモリガンに言っておいてくれ。捕まえてくるなら程々の奴にしてくれって」
「婿探し?ペット?」
「両方だ。ほら準備するぞ」
話が逸れてしまっていたので準備するように促して自分も準備する。準備と言っても仕事着のマスクとハットを取るだけだからすぐに終わる。娘たちは髪型やら服の組み合わせやら大変そうだ。トリンの分までミヤが準備している。甘えん坊のトリンと世話好きのミヤは相性抜群だな。
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街に着いた。街というより町だな。アランの街に比べると幾分か見劣りする。人の数しかり店の数しかり。ま、悪い町じゃ無いのは長年の付き合いで分かってる。
「私とトリン服屋行きたいんだけど」
「私も?」
「そうか、じゃあお金渡しとくな。日が沈むまでに広場に集合」
そう言って銀貨2枚をミヤに持たせる。
「そこまでかからないわよ」
果たしてお金の事か時間の事か。どっちも足りない気がするな。
「お兄さんはどこに行く?」
「パン買って干し肉買って……とりあえずギルドに顔出すかな」
「分かった。気をつけて」
ほんとトリンは癒しだな。反抗期が来たら死のう。
「2人も気をつけて行けよ。知らない人に着いていくんじゃーー」
「分かってるわよ!」
そんな食い気味に否定しなくても……変な声出そうになったぞ。
さて、1人になってしまったしさっさと用事を済ませよう。
「たしかパンも干し肉もギルドで買えたよな」
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久しぶりに来たギルドは相変わらずの空気だった。この町のギルドには荒っぽい奴がいないから好きだ。それだけでも賞賛に値すると俺は思う。他のギルドだと「そんな細い体で何が出来るんだぁ?」とか絡んでくるバカが多くてイライラする。
「お久しぶりですクレインさん。2ヶ月ぶりですか?」
クレインというのは本名だ。『レイヴン』は裏用の名前で表はクレインでやっている。
「そうだな、昇級試験以来だ。ラナも変わりないか?」
今話しているのはほぼ専属になっている受付嬢ラナだ。ピンク色のふんわりとした髪で男好きのするスタイル……らしい。というのもうちの娘たちはみんな控えめな胸囲だから、女の魅力=胸の大きさというのが理解できない。
「今日はどうされました?」
普通の冒険者にこんなことは言わないだろう、俺が特別なんだ。普通は依頼を受けにギルドに来るが俺は基本的に買い物をしに来る。
「パンと干し肉をそれぞれ銀貨1枚分と頼んでいたいワインがあるならそれも頼む」
2ヶ月前にラナに頼んでいたビンテージワインは俺は飲まないが娘達が好んで飲む。初めて飲んだワインが不味くてそれから飲んでいない。
「ワインも届いてますよ。あとパンと干し肉っと」
ラナは軽く注文を確認して備え付けの食堂に小走りで走っていった。
「今日はどうなるかな」
しばらくすると2つの膨らんだ麻袋を持ったラナがフラフラしながら出て来た。手伝うと言ってもラナは麻袋を渡してくれたことは無い。
「ぜぇ、はぁ……お待たせしました」
「うん、お疲れ様」
これで汗ひとつかかないとか表情が変わらないとかならそのこだわりも納得出来るが、今も年頃の女性にあるまじき顔をしてるし汗も流してる。そういう決まりがあるんだろうか。
「そうだ……クレインさん。この依頼受けていただけませんか?」
息も絶え絶えと言ったところだ。
「……ロット山の調査?」
「最近ロット山のゴブリン達が見過ごせない程の危険度になっているんです。今までとは違って複数で徘徊して冒険者を見つけるとすぐに仲間を呼んだりと高い知能を持つ個体が生まれたとしか考えられません」
普通のゴブリンなら獣並みの知能しか無く集団で動くこともあまりなかったはず。それらを統率できる個体と言えば……
「ゴブリンロードもしくはキングゴブリンか」
ゴブリンの上位種になるロードやキング。ロードならまだ良いがキングは危険だな。ロードは言わば軍団長レベルだがキングは将軍だ。キングがいるならロードも複数いるだろう。
「その可能性が高いかと。今ロット山の入山を規制してCランク以下は入れないようにしています」
ロードがCランクでキングがBランクだから妥当ではあるな。今は昼前か……ミヤ達の買い物が終わるまでにやれるかな。
「分かった、受けよう」
「ありがとうございます!」
こんな辺境の町だと徒党を組んだゴブリンですら脅威なんだろうな。この町には俺以外のCランク以上はいないらしいし。
「もしミヤ達が来たらここで待つように伝えてくれ」
「分かりました……って今から行くんですか!?ちょっとクレインさん!?」
騒ぐラナはほっといてロット山に向かおう。タイムリミットはミヤ達の買い物が終わるであろう……だいたい6時間後か。余裕だな。