第3羽
転移で家に帰って来た。時刻は23時前、権利書を探すのに時間が掛かってしまった。というかこの権利書どうしようか……
「ブツブツ……ただいま」
「ちょっと、ちゃんと気持ち込めなさいよ。そんなブツブツ言ってないでさ」
声のする方を見ると部屋着に着替えたミヤが立っていた。風呂に入ったのか白銀の綺麗な髪がしっとりと濡れている。
「依頼でちょっとな……」
アランの街の依頼が罠であったことをミヤに説明する。
「ふーん、ケ、ケガは無いの?」
「直接はやり合ってないからな。ま、あの程度なら軍で来ようが返り討ちに出来る」
これは事実だ。スキルを使わなくても圧倒出来る自信がある。
「モリガンとトリンは帰って来たか?」
「トリンはもう寝てるわ。モリガンは暫くガムル大陸に行くってさ」
ガムル大陸か……このサーザ大陸からさほど遠くは無いが心配だな。というか何をしに行ったんだ?
「理由は聞いたか?」
「なんか婿探しとか言ってたかな?」
「なっ!」
なんてことだ。うちのモリガンが婿探し?捕まった婿は可哀想だな。
「何か失礼なこと考えてるでしょ」
「ミヤも笑いを我慢できて無いぞ。トリンは寝てるんだろ?静かにしろよ」
「分かってるわよ。私も寝ようかな」
俺も風呂に入って寝るかな。
「あ!洗濯物は私達と別にしてね!」
「……」
激しく傷ついた。実の娘じゃないのにこのダメージは危険だ。明日トリンに癒してもらおう。
脱衣所で服を脱いで空じゃない方のカゴに入れて浴室に入る。ザッと体を擦って湯に入る。
「あ"〜〜」
夜風に当たって冷えていたのかブルッと体が震える。粗相をした訳ではないのであしからず。
「ふぅ〜、貯蓄が金貨15枚……ミヤが大食いしなければ5年は暮らせるか」
あの細い体のどこに入るのか分からんくらい食べるからなミヤは。モリガンやトリンはあまり食べないのにミヤより肉付きがいいのは何故だろう。単に体質か?
「馬鹿な事考えてたら長湯してしまったな」
立ち上がるとクラッとした。貧血じゃないのになんでフラつくんだろうか。そういえば前に何かの本で読んだな、なんだったか。
『ちょっと大丈夫?寝てない?』
ミヤに心配されるほど長湯してしまったらしい。
「大丈夫だ。もう上がるよ」
まったく、心配しょーー
『あっ!一緒のカゴに入れないでよバカ!あー汚い汚い』
「……」
あー、湯気が目にしみるなぁ。寝る時トリンのところにお邪魔しようかな。
脱衣所に入ると俺の下着が消えていた。謎。
▲△▲△▲△▲△▲
「トリンさ〜ん」
ゆっくりとドアを開けて中を覗く。ミヤの言っていた通りもう寝ているみたいだ。トリンの寝顔を見るのも久々だな。仲良くなってからはお兄さんお兄さんと懐かれてたなぁ。トリンが寝ている大きめのベッドの隣まで行く。
「うむ、やっぱりトリンは可愛いな」
本人の大人しい性格とは真反対のイメージがある真っ赤な髪を三つ編みにして左肩から体の前に出している。寝る時はいつもこうしてるらしい。らしいというのは俺が起きた時には既に解いてしまっているからだ。だが今日見ることが出来て感無量だ。
「……」
「あっ」
視線をトリンの顔に戻すと赤い瞳とコンタクトしてしまった。
「……夜這い?」
「い、いや違うよトリン。モリガンがいないから寂しいかなぁって」
咄嗟に出たにしてはましな嘘だな。にしても相変わらずぶっ飛んだ発想をするなこの子は。よりによって夜這いって。
「寂しくは……ある」
そう言ってモゾモゾと体を右側に動かして左側にスペースを作った。
「えーっと」
「お兄さんも入る……ここに」
自分の左側を指差して「ここ」と言う。まさか風呂場で言っていた事が実現してしまうとは自分の運命力に驚きだ。
「じゃあ失礼して……」
「……」
「ど、どうした?」
突然トリンが体を起こした。どうやら髪の場所を左肩から右肩に動かしたかっらしい。
「これでよし」
そう言って横になると隣にいる俺に抱き付いて来た。なるほど、こうするには髪が邪魔だったのか。
「スンスン」
「匂いを嗅ぐんじゃない。変な癖がつくぞ」
娘が妙なフェチに目覚めるのは勘弁だ。トリンは素直に言うこと聞いて嗅ぐのを止めて寝始めた。顔は押し付けたままなので結局匂いは嗅がれるのだが。
「俺も寝よ」
俺の腹を枕にして眠るトリンの頭を撫でながら体の力を抜いてベッドに沈み込む。目を閉じるとすぐに眠気が来た。仮眠を取ってしまったから眠れないかと思ったがそんなことはなかったな。
「おやすみミヤ、モリガン、トリン」
聞こえないだろうが一応言っておく。こういうのは気持ちが大事だと思う。
明日は街に買い出しかな。