第1羽
初めまして、座布団と言います。この『鴉〜人〜』は数年前から考えていた話なんですけど他の人の作品を読むのが楽しすぎて記憶の片隅に追いやられてたんですね。
ケータイのメモ帳を整理してたらヒョコッと出て来たので折角だから肉付けしてしまえと言うことで今回投稿させて頂きました。
拙作ではありますが末長く見守って下さいませ。
「本当にここにいるのか?」
前を歩く男に話しかける。黒いローブを纏ったこの男は、別のある男に依頼する方法を知っているというので雇った。依頼する為に人を雇うとは二度手間に思えるがこれも仕方がない。
「先を越されていなければこの先にいるはずですよ」
男が答える。物腰は柔らかいが苛烈な本性であることを知っているので違和感しかない。この男を雇って報酬を払わなかった者達の末路は悲惨としか言い様が無いという。
「あんたに聞くのは筋違いかも知れねえが……その『レイヴン』って奴は噂ほどに大した奴なのか?」
今から依頼しようとしている男が『レイヴン』だ。噂では依頼を受けて数日後に王族を暗殺したとか、戦争中で厳戒態勢の街に密輸の為に忍び込んだとかぶっ飛んだ話がある。
「私が得た情報が間違っていなければどちらも事実のようですね」
この男が間違った情報を持っていたことは無いので噂は本当なのだろう。そりゃ裏社会の人間が血眼になって探すはずだ。
「さっき先を越されていなければって言ってたがどういうことだ。この先に『レイヴン』がいるなら次にやってもらうように頼めばいいだろう」
本音を言えば優先してやって欲しいがそんな我儘が通じる相手では無いだろう。
「『レイヴン』はいません」
「あんたは『レイヴン』の所に案内すると言ったじゃないか。あれは嘘だったのか?」
そうでなければこの男を雇った意味が無い。
「この先にいるのは『レイヴン』の仲介人です。その仲介人を介さないと依頼出来ないんですよ。だから誰も『レイヴン』の居場所は知らないのです」
警戒心が強いと言うのか何とも遠回りだ。そういうタイプがいない訳では無いが大抵は仲介人の居場所はすぐに調べがつく。だが『レイヴン』は仲介人ですらその居場所を調べるのに専門家を雇う必要があったわけだ。結局俺の主人は二度手間どころか三度手間になった。ま、手間をかけたのは俺だが。
「迂遠な方法ですが受けた依頼は確実に遂行するので文句を言っている人は少ないですね」
「その仲介人を脅して居場所を吐かせようとする奴はいないのか?そうすればーー」
「絶対にやめて下さいね。私はまだ死にたくありませんので」
食い気味に止められた。
「……その仲介人はそんなにヤバいのか」
「えぇ、『魔界の三羽烏』は知っていますか?」
『魔界の三羽烏』と言えば神話に出てくるモンスター達だ。名前だけ見れば恐ろしそうだが、神話の中では人に仇なすモンスターを抑えて人類の繁栄に貢献したと言われている。国や宗教によっては神鳥や神の使いとされている程有名だ。
「当然常識としては知ってるが、まさか『三姉妹』が仲介人だと?」
つい『三姉妹』と言ってしまったが、これは『魔界の三羽烏』の別の呼び方だ。ある吟遊詩人が『魔界の三羽烏』は美しい『三姉妹』だと謳ったことが由来らしい。平民出身の俺はこっちの方が馴染みがあるり
「そのまさかです。今までにも仲介人に害をなそうとした愚かな人達がいたらしいですが全て返り討ちです。どうやってやったのか縁者も根絶やしです」
神鳥と言われていてもやはりモンスターなんだ。緊張で震えと汗が止まらない。
「大丈夫ですか?下手なことをしなければ何もありません。運が良ければ『三羽烏の羽根』を貰えるそうですよ」
仲介人である『魔界の三羽烏』に気に入られれば羽根が貰えるらしい。その価値は計り知れないだろう。なんせ『三羽烏の羽根』と言えば、神話の勇者が持っていたマジックアイテムの一つだ。
「貰えたら家宝だな……ん?なんかあそこ明るくないか」
真っ暗な夜の森で不自然に明るい。月がそこにあるかの様に淡い光が見える。
「まさしくあれですね。急ぎましょう」
そう言って走り出した男を追いかける。木々の間を縫うように走る。光に近付くにつれて空気が澄んでいくように感じる。
「あっ……」
そこにはひらけた場所にポツンとある大きな石の上に白い大鴉がいた。白銀の光沢を放つその姿に見惚れてしまう。神鳥と呼ばれるのも納得だ。
『依頼?なら依頼書と前金を渡して』
二人して見惚れていると若い女の声が聞こえた。まさか『三羽烏』の声?
「早く渡してきて下さい。私は畏れ多くて近づけません」
「わ、分かってるよっ」
男はいつの間にか跪いている。意外と敬虔な信者だったみたいだ。
俺はゆっくりと近付く。見れば見るほど見事な輝きだ。この姿を見れただけで満足してかえってもいい気がしてきた。
『……依頼書』
「あっ、はい」
凛とした少女の様な声で再度促されてしまった。口を開けずにどうやって喋っているんだろう。
「これが依頼書です」
右手で依頼書を差し出すと器用に左足で掴んだ。続いて前金が入った袋も差し出すとこれまた器用に右足で掴んだ。
『じゃ後はやっとくから帰っていいわよ』
そう言うと飛んで行ってしまった。残念ながら『三羽烏の羽根』は貰えなかった。
「なぁ、俺もあんたと同じ宗教に入ろうと思う」
死ぬまでにもう一度くらいは会えるといいな。
行間などは色んな作品を読んで自分なりに読みやすい間隔にしましたがどうでしょうか。
誤字脱字などありましたら感想やメッセージでご報告してもらえると有難いです。