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9話 漆黒の短剣

 王都に辿り着いたレフィクルを待っていたのはルベズリーブで、かなり慌てた様子であった。



「何を慌てているのだ」

「レフィクル様! 大変なのでございますよ。これが慌てずに入られましょうか」

「落ち着いて話せ」

「実は国仕えの神官からの報告で、創造神がレフィクル様を悪魔王と認定されたようなのです!」


 それを聞いたレフィクルは驚くどころか顔をニヤつかせた。



「ふん、傍観しているだけの神々がようやく働く気になったか!

それよりも引き続き使える人材はそれ相応に重用し、己の価値を見出そうとすらしない者は排除していけ! カカシに用は無い! いや、むしろカカシの方が役立つ」



 ルベズリーブはこのレフィクルの考え方が好きであった。 レフィクルが拠点とするこのガウシアン王国では望んで身売りしてくる奴隷まがいこそ増えたが、少なくとも奴隷は存在しなくなり、そして世界各地において必死に生きる者をレフィクルは評価し、場合によって優れた能力を持つものは率先して引き抜き、登用していった。



「ですが、その神官の話ではレフィクル様に加担すると神の助力も得られなくなるそうでして、次々と我が国より神官達が立ち去っておるようですよ」


 それを聞いたレフィクルはほんの僅かだけ困ったように思案した後、ルベズリーブにこう言う。



「ならば神官など要らぬ。 神などに頼らずとも古来より使われている薬草などがあるだろう。

そうだ薬師を呼び集めよ。

おそらく今日まで日の目を浴びることのなかった薬師達がこぞって集まるぞ!」

「なるほど! さすがはレフィクル様。 では早速そのようにいたしましょう。

それと数日前よりノーマが来ておりまして、お話があるとか? とりあえずいる間はラーネッド様の護衛をさせておきました。

おそらくレフィクル様の帰還を聞きつけ、今頃猛牛よろしくこちらに向かっている……のではないですかな?」


 ルベズリーブが言うように確かに雄牛か何かが走りまわる、轟音のようなものが王宮中に鳴り響いている。



「おっと、それよりもレフィクル様、ラーネッド様が首を長くしてお待ちしていましたよ」

「ルベズリーブ!!」


 クククッと笑いながらルベズリーブは逃げるようにその場を後にした。 レフィクルもまたそれを本気で怒っているわけではない。

 世間では狂王と言われ恐れられるレフィクルに対してそこまで言えるのも、信頼の証なのだと理解しているからだ。





「ラーネッド、戻ったぞ!」


 レフィクルがそう怒鳴るように部屋に戻ると、レフィクル自身、予想だにしない事が起こっていた。

 ラーネッドがレフィクルに気がついてこちらに顔を向けたその胸には巨大な剣で貫かれ、口をパクパクさせていたのだ。



「レフィクルよ、これは警告だ。 あまり調子に乗りすぎるなよ。 さもなくば、このように次々と身近な者を殺していく」


 巨大な剣を持つ男がそれだけを言うと姿を消した。


 神が人を殺すのは禁忌のはずだとレフィクルは知っている。 にも関わらずあの男、【勝利の神アロンミット】はやってのけたのだ。



「ラーネッド、お前らしくない無様な失態をしたな」

「と、突然でございました。 あ、あの男が……現れ、驚いた所、に剣が……」

「……苦しいか? 今、楽にしてやる」


 レフィクルがそう言ってラーネッドを抱きしめ、脳髄の辺りに探検を突き刺した。



 すぐにルベズリーブを呼ぶと驚きの声を上げる。



「これは一体……その傷は」

「どうやら……神が余に喧嘩を売って来たようだ」


 レフィクルの身体には【闘争の神】としての知識が蓄えられている。



「余計に神を怒らせる事になるのでは?」

「先に戦いを仕掛けてきたのは(あっち)だ。

神殿を破壊し、神の神威を剝ぎ取ってやれ!」



 その数日後から各地の神殿が次々と破壊されていき、反感が最初こそあったがレフィクルのその後の処遇が余程良かったのか、反乱などが起こることもなかった。

 そして護衛の任を果たせずその場を離れていたノーマは、レフィクルに取り次いでもらえないまま城塞都市ヴァリュームに引き返すこととなってしまう。

 ラーネッドの死は極一部だけが知る事になり、葬儀も行わず闇に葬り去るように済まされた。





「ルベズリーブ、見つかったか?」


 レフィクルはレドナクセラ帝国を取るきっかけとなった男、スレセイバーの行方を捜していた。 その腕も欲しかったが、それ以上にあの男が持つ剣に興味があったのだ。

 レドナクセラ帝国を取った後ルベズリーブにこの男の事を話をしてみたが、情報は特に得られることはなかった。 だが、剣の事を話すとルベズリーブではなく、ライレーブが答えてくる。


 ライレーブは罪人として牢に囚われていたところをレフィクルというよりログェヘプレーベに救われた男で、元は名も聞かない小国の兵長だった。

 それをレフィクルが占領した際に見つけ、ログェヘプレーベが登用した人物だ。

 ライレーブは魔法のアイテムが大好きで、ガウシアン王国に仕えるようになった今も収集に勤しんでいる。 そんなライレーブだからこそ知っていたのだろう。



「その剣、おそらくフローズンデスかと……」

「フローズンデス?」


 その昔赤帝山に挑戦した冒険者の1人が所持していた剣で、非常に強力な冷気を放つ剣だと説明する。

 武器の使い捨てが多いレフィクルは、以前より1振りだけ優れた武器が欲しかったと話すと、ルベズリーブが懐から大事そうに1振りの短剣をレフィクルに差し出す。



「これはなんだ?」

「実は……」


 ラーネッドがレフィクルには内緒でルベズリーブに預けた短剣で、いつかレフィクルが武器を欲した時に渡してほしいと言われていた物だといって手渡してくる。

 鞘から抜き取るとそれは漆黒の短剣だった。



「決して折れないそうですよ」

「何故ラーネッドはそんな回りくどい事をしたか聞いているか?」

「武器を欲しがる時、ラーネッド様はレフィクル様の元におそらくいない時だろうと言っておられました。 それとこちらも」


 1通の手紙だった。

 内容はレフィクルの愉しみを奪わない様にと未来の事は一切書いておらず、漆黒の短剣のように今のレフィクル様のまま折れないでくださいと書かれていた。

 手紙を読み終えたレフィクルはポイと放り投げる。 それを地面に落ちる前にルベズリーブが炎の魔法で焼いた。



「ルベズリーブ、余は変わったか?」

「かなり復讐心が滲み出ていますな。 あまり怒りに身を任せないでくださいよ? 復讐の念に囚われると復讐者(アベンジャー)になってしまうと言われてますからな」


 レフィクルはラーネッドが残した短剣を一頻り見つめたあと己の腰に吊るした。

 視線を感じた先にライレーブがいて、漆黒の短剣を物欲しそうに見入っている。



「それはそうとライレーブ、貴様は一体どこで何をしていた?」

「はっ、トラキアル王国の残党のボーロ男爵共を亡き者にして参りました」

「それはログェヘプレーベが命じたのか?」

「いえ、私の独断でございます」


 それを聞いてレフィクルがライレーブを思い切り蹴り飛ばす。



「次に勝手なことをしたら命はないと思え!」

「何故ですか! 私が何か失態をしたとでも言うのですか!」


 レフィクルは冷たくライレーブを睨みつけると、何も言わずルベズリーブとその場を離れていく。


 後に残されたライレーブは訳が分からず、ただ「陛下、何故ですか!」と叫ぶ声だけが響いていた。




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