6話 レドナクセラ帝国制圧
単騎レドナクセラ帝国に入ったレフィクルは町を徘徊するオーク達を次々と蹴散らし、鬼神のごとく奮戦する。
「この程度で堕ちるとは、レドナクセラ帝国も大したことはなかったな!」
後から到着した2千の騎馬隊もオーク達を相手に善戦し、先を行く王に遅れをとらないよう切り開いていく。
順調に王城までたどり着いたレフィクルは、馬から飛び降りると城の中に入って行き、謁見の間に辿り着くと突然魔法による火球が飛んできた。
爆発で辺りに煙や瓦礫が飛び散る。
それは玉座に座る人物の手によるもので、後から続いてきたログェヘプレーベと兵士達を見て口元を歪ませた。
「陛下!」
煙が晴れ残ったのは火球の魔法によって崩れた後で、レフィクルの姿は微塵も残っていない。
「陛下! レフィクル様! どこにいやがりますか!」
すると今まで頬杖をついて玉座に座していた人物が大きく笑い出した。
「地上を徘徊するゴキブリ共、さっき来たのが王であるというのなら、既に木っ端微塵になっているわ!」
そう言った直後首筋に冷たいものを感じて咄嗟に振り返ろうとする。
「ゴキブリは貴様らであろう? ドラウの貴族よ」
「貴様! 生きて……」
即座に身を翻しレフィクルの攻撃を躱そうとするも、身動きが取れない。 ハッとドラウと呼ばれた者が自分の体を見ると、いつの間にか玉座に縛り付けられていた。 いや、正確には自分が動いたことにより自らを縛り付けてしまう、そういった張り方をしていたようだ。
「我が人間如きにぃ!」
「是非も……無し」
ドラウと呼ばれたものが回避行動に移ろうとする間もあたえず、レフィクルは首元に当てていたナイフで掻っ捌く。 ゴボゴボと苦しげな表情でレフィクルを睨みつけてくるドラウを口元を歪ませてこう言った。
「地下に生息する蛆虫は、大人しく地下で生きていろ。 邪魔立てするならいずれ余が貴様ら全て駆逐しに行ってやる」
言い終えるのと同時にドラウと呼ばれた者は息絶えた。
「レフィクル様、よくご無事でいやがりました! それと王都で動き回る者はおそらく全て駆逐しやがりました」
「そうか。
……ナーサイヴェルはいるか!」
「ハイこちらに」
そう言って姿を見せた男は、女性が放ってはおかないだろうとぐらいの容姿で、優雅にレフィクルに近づき頭を深々と下げてくる。
「貴様が今日からここの領主をやれ! 貴様の趣味嗜好はわかっているが、あまり派手にやって余の耳に届かぬ程度にしておけよ」
「おおお! ありがたき幸せ!」
「本国より兵が到着し次第残った町を占拠していく!」
それから数日後、元レドナクセラ帝国だった城にレフィクルが滞在していると、レドナクセラの騎士と名乗る者が謁見を申し出てきた。
「お初にお目にかかります。 ガウシアン王レフィクル様、私はレドナクセラ城塞都市ヴァリュームの騎士隊長を任されているギャレットと申します」
「余に、何用か? ギャレットよ」
「この度はレドナクセラ王城奪還を手伝っていただきありがとうございます。 これより後は我々が……」
「我々だと? 皇帝が死に世継ぎもなく無事な町が1つしかない国など国とは言わん。
これよりこの地はガウシアン王国領とする。 戻り城塞都市ヴァリュームの領主に伝えよ。 余自ら出向いてやるから、首を捧げて降伏しろとな」
それを聞いてギャレットは絶句する。 何か言おうと考えたようだが、思い浮かばずギャレットは手勢を連れてヴァリュームへと戻るしかなかったようだった。
それから数日経ち本国から軍が到着すると、早速レフィクルは城塞都市ヴァリュームに向けて行軍をはじめた。
城塞都市ヴァリュームに向かう途中で各町の領主を任命していき、遂には城塞都市ヴァリュームに辿り着く。
その名の通りレドナクセラ帝国よりも立派な城壁に囲まれた城塞都市ヴァリュームは、そう容易くは落とせそうにはなく、守りを固め籠城戦となればガウシアン軍の方が不利に見えるほどであった。
レフィクルはそんな城塞都市ヴァリュームの城壁など御構い無しに近づき、よく通る声で叫んだ。
「城塞都市ヴァリュームの領主に告ぐ! 直ちに降伏し門を開けよ!
降伏に応じれば領主及び騎士団長、関係者のみの処断のみで後は咎めん!
もし! 応じないのであれば、占拠後全員皆殺しとする!」
レフィクルはわざといつまでかを告げずに軍へと戻っていった。
「ノーマ、貴様ならあの門壊せるか?」
「あの門は無理でございます!
あれは対赤帝竜用に作られた門故、破壊となると滑車などの攻城兵器が必要になると思うのであります!」
「そうか……」
その頃城塞都市ヴァリュームでは領主とギャレットを含む騎士達で話し合いが行われる。
「降伏はあり得ない! 安心せい、この城塞都市は守りに入れば圧倒的に有利だ!」
「しかしもしもがあったら、あの狂王は本当に町の住民全員を皆殺しにしかねません!」
結局領主が首を縦に振ることはなく、ギャレット達は籠城戦を覚悟した。
「レフィクル様」
「ルベズリーブか、貴様にはラーネッドとスエドムッサを任せたはずだぞ」
「レフィクル父様」
「レフィクル様」
「ラーネッド、ムッサ、何故お前らがここに居る」
ルベズリーブが嬉しそうにレフィクルに魔導門が使えるようになったと話す。そして戻れというのなら数秒にして王宮に戻りましょう? と告げてきた。
「さすがだなルベズリーブ」
「レフィクル様の為ですよ。 それより……これはまた随分と堅牢な城壁に囲まれた町ですな」
「うむ、ノーマの話では攻城兵器でも無ければ無理だそうだぞ」
「なるほど……これは策を講じなくてはいけませんね」
「あの、レフィクル様」
「どうしたラーネッド」
「少しお話がございます」
そう言うとラーネッドはレフィクルを連れてテントに向かった。
そしてレフィクルに反対する者は領主しかいないことを話した。
「未来から来たから知るか?」
「お嫌かとは思いましたが……」
「ハッ! 町の連中の皆殺しが嫌だったか!
だが安心しろ、アレは領主を試しただけだ」
「いえ……早くレフィクル様に帰ってきて頂きたかっただけです」
レフィクルはフムと頷く。 ガウシアン王都から離れて早1月以上が経っている。
「疼いたか」
「はい、とても」
「分かった。 さっさと済ませるからおとなしく城に戻って待っていろ」
「畏まりました、レフィクル様」
ルベズリーブに言ってラーネッドとスエドムッサを王宮に連れて戻らせたレフィクルは、その日の夜そっと陣営を離れた。
城塞都市ヴァリュームの壁を人知れず登り、領主の住む館を目指す。 途中ヴァリュームの住人達ともすれ違うが、誰もそれが今ここヴァリュームを包囲している敵の、それも狂王レフィクルだとは気がつく者はいない。
館に慣れた手つきで忍び込むと、おおよその見当通り領主の眠る部屋へと辿り着き、壁に大切そうに飾られた剣を鞘から抜き放つと、恐ろしい速さで領主の体を抱え起こして背後から剣で首の頸動脈を切断し、ブシャーっと首から前方に向かって血が勢いよく噴き出す。
「喉笛と頸動脈を切った。声も出せまい」
ヴァリュームの領主は背後からレフィクルに掴まれたまま身動きも取れず、口も喋ろうとするが喉から空気が漏れてパクパクするだけしかできなかった。 やがて力が抜けてきたところで自殺した様に見せかけると部屋を後にし、悠々と城塞都市ヴァリュームの城壁を超えて陣中に戻っていくのだった。
……その翌日、城塞都市ヴァリュームは降伏を受け入れることになったのは言うまでもない。
「ノーマ! 貴様に城塞都市ヴァリュームを任せる。 騎士達の処遇はお前の判断に全て任せるぞ。
それとスラムに居る連中を連れ、新たな我が領土に衣食住を与え働かせろ。 励む意思のない者は捨ておけ」
「畏まり申した!」
それだけ伝えるとレフィクルは足早にラーネッドの待つ、ガウシアン王都へと1人馬を走らせた。
この戦いの情報を流した男、スレセイバーは戦の最中何処かへと姿をくらまし、その後消息を知る者はいない。