4話 結婚
レフィクルが20歳になり、付き人として常に共に行動する様になったラーネッド。
その日、ラーネッドを連れレフィクルは奴隷商に向かう。
ガウシアン王都での奴隷はもはやレフィクルの人材登用の場所でしかなく、それを奴隷商もわかって準備している。
「ラーネッド、貴様が選べ。 そして貴様の戦闘術をそいつに全て教え込むのだ」
「レフィクル様! それはもう私が必要ないという事ですか!」
レフィクルはラーネッドを無視して奴隷商のテントに入り、座って待つ様だった。
ラーネッドは悲しみに見舞われつつも言われた命令に従い奴隷を見て周る。するとまだ幼い猫の獣人の女の子を見つける。
思わずその獣人の女の子がラーネッド自身の境遇と被ったように一瞬見えた。
「私はラーネッド。 あなた名前は?」
「ス、スエドムッサ……」
未来から来たラーネッドはその名を知っていた。 いずれレフィクルの側近となる人物の1人だ。 ここでこの幼い猫獣人の子供を連れて帰れば未来と同じになってしまう。
ラーネッドは迷ったようだったが、1人頷いて首を傾げている幼い猫獣人のスエドムッサに顔を向ける。
「ここから出たい?」
「出たい。 けど、ムッサ1人じゃ生きてけない」
「私と……いえ、レフィクル様にお仕えになる気はある?」
「でもムッサ何も出来ない」
ラーネッドは戦う術と生きる術を教えるとスエドムッサに言った。 スエドムッサは自信なさげに小さく頷いて答えた。
「レフィクル様、決まりました」
ラーネッドがそう言って連れてきた奴隷の子供を見てレフィクルは立ち上がりスエドムッサを見下ろす。
「ムッサの新しいパパ?」
「こら、馬鹿者! こちらにいる方はーー」
「良い!」
ラーネッドはその一瞬、レフィクルが微笑んだような表情を見た気がする。
レフィクルがスエドムッサの側まで近寄ると、片膝をつき目線を合わせた。
「今日から貴様の父と母だ」
それを聞いて喜ぶスエドムッサをレフィクルが目を細めて見つめる。 そして耳を疑いたくなる様な言葉と優しさを見せたレフィクルにラーネッドは驚き、目を見開いて見つめるがすぐに首を振った。
今まで付き人をして寝食を共にしていて一度たりとも手を出された事はない。 それにラーネッドはレフィクルよりも5歳年上だ。
スエドムッサを連れて王宮に戻ったレフィクルはさっそくルベズリーブを呼び出す。
「レフィクル様どうしたんですか? ん? 猫の獣人の小娘?」
「余とラーネッドの子だ」
レフィクルはそうはっきりと言った。
「なるほど、では直ちに式の準備をしなくてはいけませんなぁ、次から次へと……ああ忙しい」
そう言うとルベズリーブは忙しそうに走り出し、あちこちに檄を飛ばしはじめた。
「あの、レフィクル様? これはどういった事でしょう」
「聞いた通りだ。
ラーネッド、今日より貴様は余の妻となれ」
「あ、ありがたいお言葉……ですが私はハイオークに犯され、その子を産んだ汚れきった女です。 レフィクル様に私なんかは相応しくありません」
「むしろ狂王レフィクルに相応しい妻ではないか。
それが嫌なら今すぐ立ち去れ! そして余の前に2度と顔を見せるな」
ラーネッドには信じられなかった。 レフィクルの命を狙い、捕まってハイオークに蹂躙されてその子を産み、汚物にまみれながら生き、そこから付き人として仕えるようになり、気がつけばレフィクルを好意を抱くようになっていた。 そのレフィクルにまさか妻となれと言われるとは夢にも思っていなかっただろう。
「よろしく……お願い……致します……」
ラーネッドは泣きながら答えた。
翌日、大々的に結婚式を執り行い、ラーネッドはラーネッド=ガウシアンとなった。
同時にスエドムッサもスエドムッサ=ガウシアンとなり、レフィクルとラーネッドの子となる。
その日のうちにルベズリーブはレフィクルに尋ねた。
「レフィクル様、なんでまた男の子をお選びにならなかったのですかな?」
「ラーネッドが選んだ、それだけだ」
夜になり、レフィクルは部屋で酒をラーネッドに注がせながらあおる。
「レフィクル様」
「なんだ」
「何もお聞きにならないのですね」
「無理やり聞いたところでお前は話さぬだろう」
ラーネッドは決意して未来から来た事を話し始める。 だがレフィクルは未来から来たと聞いた時点で話をやめさせた。
「そういう事は知ったら面白くないものだ。 それより妻となったのだ。 余を愉しませよ」
「汚れたこの身体でレフィクル様をご奉仕させて頂きます」
「愉しませろ、オーク相手に熟達したお前が余の初めての相手だ」