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3話 ラーネッド

 そしてさらに月日が流れ、レフィクルが16歳になった頃、ルベズリーブがレフィクルに報告しにくる。



「レフィクル様、例のハイオークの子供達ですが言葉を理解してきており、予想以上の成果を上げている様ですよ」

「ほぉ、あの女、役に立った様だな。まだ生きているのか?」

「はい、ご覧になりますか?」

「ふむ」


 ルベズリーブがレフィクルを連れて王宮の地下へと降りていく。 地下は明かりを抑えられているのか薄暗いままで、辺りを見回しても全体を見渡せない。



「ナータス、陛下がお尋ねだぞ」

「おお! これは陛下、こんな場所へ来るとは珍しいですなぁ」


 ナータスと言われた男は猿、いやゴリラの様な顔をした獣人で、肩幅が物凄くあり体格も大きい。



「女を見に来た」

「左様ですか、あちらで今は寝てるかもしれないです」


 ナータスに連れられて行くと、素っ裸で汚物にまみれ、生きているのか死んでいるのかわからない様な状態になりながら倒れていた。



「おい起きろ! 陛下がお前にご用だぞ!」


 ナータスがそう言うと、ゆっくり、本当にゆっくりと頭が上がり此方を向いてくる。

 そこへレフィクルが近づこうとすると慌ててナータスが立ちふさがる。


「陛下、汚いとこですから俺が連れてきますぜ?」

「良い!」


 レフィクルがそう言うとナータスは黙って道を開ける。


 グチャッグチャッと汚物にまみれた場所を平然と歩き、レフィクルは女の前まで来てしゃがみこみ覗き込む。

 女は顔を上げたままレフィクルの目を見つめてきた。 その顔は絶望に満ちた顔でも焦点の定まらぬ精神の崩壊をした顔でもなかった。

 それを見たレフィクルは口元を釣り上げる。


 バサッとレフィクルは自分のマントを女にかけると立たせ、その場から連れ出しはじめる。

 女は驚き、自分を支えて歩くレフィクルをただ見つめていた。



「おいルベズリーブ、すぐに風呂の用意をしておけ」

「そうだろうと思い、ここへ来る前に用意する様言い伝えておきました」

「さすがだな」



 レフィクルは女を軽々と抱え上げると王宮に戻った。 そして浴場に連れて行くと湯に投げ入れる。



「身体を洗い綺麗にしろ」


 そう言うとレフィクルもその場で服を脱ぎ捨て、平然と自分の命を狙った女の前で裸になり体を洗いはじめる。



「どうした、余の命令が聞けぬか?」


 女はどうにでもなれと言わんばかりにハイオークの精液と自らの糞尿垢まみれの身体を洗いはじめる。

 綺麗になったところで初めて女の姿がハッキリとする。 年齢にして20代前半のブラウンの髪は伸び放題になっており、髪の隙間から覗かせる顔は目つきこそ鋭いものの非常に整った顔立ちをしていた。



「綺麗になったらついて来い」


 そう言うとレフィクルがガウンを投げつけてくる。 それを受け取り羽織ると裸のまま歩いていくレフィクルを見て、自分の羽織っているガウンがレフィクルの物だと気がついた。

 声を掛けようか一瞬だけ迷った様な素振りを見せたがやめた様だった。



「レフィクル様! お召し物はどうなさいましたか!」


 ダイニングルームらしい場所に行くと、レフィクルに声をかけてくる者がいる。



「良い! それよりさっさと食事を持って来い」

「ハハッ」

「女、ここへ座れ」


 レフィクルの右隣の椅子を勧められ大人しく座る。



「まずは飯を食え。話はそれからしてやる」


 次々と料理が運ばれレフィクルはそれを手掴み無作法にガツガツと食べだす。 それはさながら毒は入っていないぞと教えている様でもあった。

 日頃たいした食事も与えられていなかった女は、宝石のような料理と食への誘惑に勝てず、レフィクルのように手掴みで食べ始める。



「良い食いっぷりだ」


 レフィクルがそう笑いながら女の食べる姿を見つめてくる。 そしてある程度食事をしたところでレフィクルは口を開いた。



「余に尽くすと誓え」


 その言葉に女は驚く。 ついさっきまでやっと殺してもらえると思っていたのだからだ。



「……何故だ」


 レフィクルがニヤリと笑う。



「やっと、口を開いたか」

「何故だと聞いている!」

「何がだ?」

「貴様の命を狙い、失敗して捉えられ辱めを受けた! 全てを諦めようとしていたのに何故今更その様な事を言う!」

「ならば貴様が望むのであれば死でも構わぬぞ?」


 女は理解に苦しむ。 レフィクルが何を考えているのか全くわからなかった。

 地下にレフィクルが来た時、服が汚れようと御構い無しに近寄り、汚物などで汚れた自分を抱え上げ、あまつさえハイオークに犯され汚れきった自分をレフィクルは尽くせという。



「……狂っている」

「はっはっはっ! 当然だ。 余は狂王レフィクルと世間では言われているのだからな!」

「従うフリをして、また命を狙うかもしれないとは考えなかったか?」

「もしそれで死ぬのであれば、余はその程度だったと言うだけだ」



 その女は未来から来た。 目的はレフィクルを殺すためであった。 しかしその目的は果たせなかったばかりか、今、逆に従わされようとしている。 本来であれば死を選ぶべきなのだろう。 だがレフィクルのあまりに甘美な言葉、先程の地下での汚物の様な自分を嫌悪せず触れられたことで、極限状態にあった女の中でレフィクルに対して何かが芽生えるものがあったのは確かだったようだ。



「沈黙は了承と受け取る。 それで異存はないな、女」

「……ラーネッド、だ」

「良かろう! ラーネッド、貴様は今日より余の付き人となり護衛してみせろ」

「……わかった……畏まりましたレフィクル様」



 こうしてラーネッドは仲間を裏切りレフィクルの配下となる。 ただし彼女は唯一自分の正体だけは明かさないと今は誓っていた。



 食事を終えたレフィクルの元にルベズリーブがやってくる。


「レフィクル様その様な格好のままで体調を崩されでもしたらどうするつもりですか」

「心配するな、後でラーネッドにでも温めさせる」


 ルベズリーブがラーネッドを見る。 つい先ほどまでハイオークに蹂躙され、汚物にまみれて這いつくばっていた女だ。 普通であれば見たくもなければ、ましてや触れられたいとも思わないだろう。



「やはりレフィクル様は素晴らしいお方だ。 改めてあなたと出会えて良かった」


 レフィクルは無言のままダイニングルームを出て行くとラーネッドもレフィクルの後を追っていく。

 部屋に戻ったレフィクルは命を狙ったラーネッドがいるにも関わらず堂々とベッドに横になる。



「いつまでそこに突っ立っているつもりだ。 さっさとお前も来い」

「汚れた私がレフィクル様と同じ床に入るなどーー」

「なら直ちに出て行け無能」


 ラーネッドはどうするべきか一瞬迷うが答えは既に出ていた。 そっとベッドへ近づき頭を深く下げてから潜り込む。



「これを使え」


 そう言って手渡してきた物を見るとナイフだった。 これではまるで殺してくださいと言っている様なものだ。



「どう使うかはお前が考えろ」


 だがラーネッドは迷う事なく枕の下にナイフをしまうとレフィクルに身体を寄せる。 一度顔を覗き込んだが、レフィクルは既に寝息を立てていた。


 レフィクルの暗殺に失敗し捉えられ、ハイオークに犯され、その子を孕み、生まされた。おそらくもう人種との子供は望めないだろう。 そして汚物にまみれて生きていたラーネッドを嫌悪する事なく接するレフィクルを、何故か愛おしく感じつつあった。

 ラーネッドはそっと身体を密着させ眠りにつくのだった。



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