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2話 狂王

 そして10歳を迎えたある日、レフィクルがスパイダーに問う。



「余は10歳になったぞ。 良い加減お前の真髄を教えてもよかろう?」

「教えても良いが、そのためにはどうしてもやらねばならない条件がある」

「言ってみろ」

「習得する上で死ぬ危険がある」

「フン、その程度で死ぬ様なら、余はその程度だっただけだ」

「ではもう一つ、両親を殺せ。 血を分けた親を殺せぬ様な情があっては暗殺者(アサシン)は出来ぬ」


 それを聞いてレフィクルは片眉一つ動かさず頷く。 そしてその日の夜のうちにチャートとシンを殺した。

 殺した直後にスパイダーが現れ、暗殺された様に見せかけの技術をそこで教えられるのだ。



「これでお前は立派な暗殺者(アサシン)の一歩を踏み出した。 また今日からこの国の王でもある」

「なるほど、貴様の狙いはコレだったか?」

「元はな。 だが今は違うぞ。 レフィクル、お前を必ず俺の後継者として最強の暗殺者(アサシン)にしてみせる」



 国王と王妃の死は大々的に行われ、後継者として齢10歳にしてレフィクルがガウシアンの王となった。 そしてそこからレフィクルの狂王と言われる顔を覗かせ始める。

 まずは手始めに前王は前王はと五月蝿い王宮内の無価値な人材を全て免職または処刑することから始まった。



「レフィクル様、人材が不足しております。このままでは国は動きません」


 ファルがそう言ってくる。 残酷とも思えるレフィクルのこの行いにファルは一切反対する事はない。



「御託ばかりで何もしない奴は必要ない。 使える人材を探しに行くぞ! ついて来いファル」

「はい」




 レフィクルは奴隷商のところへ行き、奴隷を片っ端から見ていった。



「コイツはなんだ?」

「は、はい、珍しい虫人族の中でも特に忌み嫌われる蝿の虫人です」

「お前、名前を言ってみろ」

「ルベズリーブ」


 そうぶっきらぼうに答えた虫人の目には、王宮内では見なかった強い意志力をレフィクルは感じ取る。



「お前、余に従う気はあるか?」

「買われれば従う他ないが、心まで従う気はない」


 これが後に腹心となるルベズリーブとの出会いとなる。


 他にも数名選んだ奴隷を連れて王宮に戻る。 王宮に連れられた奴隷達は何が起こっているのかわからないままついてくるしかできなかった。

 王宮に連れ戻ったレフィクルはファルに言ってルベズリーブや連れ帰った奴隷の服などを用意をさせる。 その服は決して奴隷扱いではなくごく普通の、むしろしっかりした服装だ。



「お前は余の右腕となれ。 出来ないなら今ここで死ね」

「……意味がわからん。 なぜ私の様な者を奴隷ではなく召し抱えるような真似事をする」

「言葉使いに気をつけなさい! この方はガウシアン王国の王レフィクル様ですよ!」



 それを聞いてルベズリーブは驚く。 踏ん反り返って椅子に座る、自分とさほど変わらない年齢の子供がこの国の王だとは思いもしなかったからだ。



「ファル良い。 ルベズリーブよ、言いたいことがあるなら今のうちに聞いておけ。 貴様にはやる事が沢山あるぞ」

「ならば、なぜ忌み嫌われる虫人族の私をわざわざ召し抱える?」

「召し抱えた覚えはない。 余の右腕となれと言ったのだ。 それと、虫だ獣だエルフだドワーフだいる様だが、余の言葉が理解出来れば外見の違いの問題などどうでも良い」

「……一国の王が私なぞを置いたら、おかしく見られるぞ?」

「フン! くだらん。 外面だけしか判断できぬ様な連中に興味はない。 言いたい奴に言わせておけばいい」



 この言葉はルベズリーブにとって生涯忘れられない言葉となる。 生まれて気がついた時には既に両親などおらず、町では気味悪がられ即座に奴隷としてひっ捕まった。 今日この日までの人生をただ呪い、神を恨み続けた彼にとってレフィクルこそ救いの神の様に見えたのだろう。



「私を……レフィクル様の為に使ってください。心より忠誠を誓います」

「ならばさっさと余の役に立つ様に何かできる様になれ。 ファル! ルベズリーブ達の世話を頼むぞ」

「畏まりました」




 ファルに連れられルベズリーブ達が移動していくとファルが独り言のように喋り出す。



「私も貴方同様奴隷商人から買われた身です。 誠心誠意出来ることをなさい。 そうすればレフィクル様は必ず応えてくださる素晴らしいお方です」


 ルベズリーブはファルの事をずっと側近か何かと思っていた。 だがそのファルが自分と同じ奴隷であったことに驚いた。



「ファル様は奴隷なのですか?」

「レフィクル様は私を1度たりとも奴隷として扱ったことはありません。 むしろ色々お聞かれになる疑問質問などに答えるのが私の役割でした」


 まるで教師……そうルベズリーブは思ったのだった。



 ルベズリーブはファルにより適合する能力を調べてもらう。 その結果ルベズリーブはその記憶力などの良さから、ウィザードとしての能力の高さがズバ抜けており、王宮に存在する魔導書を好きなだけ見させることになった。

 その時連れてこられた奴隷達も同様で、得意な分野が見つかり、それにより成果を見出せばレフィクルは奴隷扱いするどころか重用し、反対に何もせず何も出来ない以前からいた者は容赦なく斬り殺していった。

 このレフィクルのやり方により、王宮には元奴隷やならず者だった者も増えたが、以前よりも規律のある強固なものになっていったのだが、世間では狂王としてレフィクルの名が広まっていったのだった。




 そしてレフィクルもまたスパイダーに戦闘術を習い続け、11歳になると暗殺者(アサシン)の技術を全て習得しきっていた。



「これで全て教えた」

「そうか、世話になったな」

「ならばどうしたら良いか分かっているな?」

「貴様を殺す」

「そうだ! 俺を殺せ! それが最後の試練だ!」



 この言葉の直後レフィクルとスパイダーの命のやり取りが始まるのだが、呆気なくスパイダーは破れてしまう。



「手加減でもしたか?」

「初めてお前と会った時、既にお前の覚悟は俺を超えている。 そこにお前に暗殺者(アサシン)の技術を全て教えたんだ。 敵うはずがそもそもなかろう」

「そうか」

「一つだけ言っておく。 レフィクル、お前は既に数度命を狙われている。 何処のものか分からなかったがなかなかの手練れだった、用心しろよ。 そしてさらばだ俺の最高傑作」

「フン、要らぬ世話だ。 だが、さらばだ駄作」



 容赦無くレフィクルはスパイダーの息の根を止め、そして人知れず処理した。

 こうしてレフィクルは唯一暗殺者(アサシン)という事を知る人物を殺し、戦闘術に優れた人物を装うこととなる。




 そしてレフィクルが12歳を迎える頃にルベズリーブもその能力を遺憾なく発揮し、通常ではありえない速さでほぼ独学で魔法を習得していった。

 そんなある日のことファルが倒れる。



「大丈夫かファル」

「これは……レフィクル様。またこの様なことになってしまい……」

「良い、ゆっくり休め」

「いえ、おそらく……私はもうだめでしょう。なので……最後に一つ……お願いがございます」

「言ってみろ」

「病魔如きで……死ぬので……あれば、せめてレフィクル様の……手で死にたいと……思います」

「よかろう。いつが良い」

「今……すぐにでも……」

「言い残す言葉はあるか?」

「それでは……恐れながら……」


 衰弱した身体を起こし、力を振り絞るように口を開いた。



「レフィクル様、私は長いことお仕えしてきたのでわかりますが、レフィクル様ほど立派な王はおりません。

ですが外見でしか見ない連中は貴方様を誤解してみている事でしょう。

いつか……いつかきっと貴方様を理解してくれる人物が現れると思います。 その時は閉じきったその心を……ほんの少しでも開いてください」


 直後ファルが口から血を吐き出しヒューヒューと苦しそうな呼吸をしながらレフィクルに懇願するように見つめる。

 電光石火の動きでレフィクルが動き、的確に急所を捉えそれ以上ファルが苦しむ間も与えず息の根を止めた。



「……手駒が減ったか」


 長年付き人として世話をしてきたファルが居なくなったというのにもかかわらず、レフィクルが発した言葉はたったそれだけだった。





 ある日レフィクルが眠りについている時のことだ。 何者かがレフィクルの命を狙い寝室に侵入してきた者がいた。

 声を上げれぬ様口をふさぐと同時に顔を横に向け脳髄目掛けてナイフを突き刺す。

 ウグッと言う声を上げそのまま動かなくなった相手を侵入者は確認した瞬間だ。 背後から殺気を感じ振り返ろうとする。 が、時すでに遅く手足の筋を切られ仰向けに倒された。



「貴様が殺ったのは用意しておいた、余の代用品だ。 おとなしく何処の手のものか言えば、楽に殺してやろう」


 驚く顔を見せた侵入者はすぐに舌を噛み切ろうとするが、それもレフィクルが小さな金属……釘の様なものを口に差し込まれたため阻まれてしまう。



「言ったであろう? 楽になど死なせはせんと」


 結局侵入者は声を発することもしない。 それを見てレフィクルは嬉しそうに顔を歪ませた。



「ルベズリーブ! 居るか!」


 扉が開かれルベズリーブが姿を見せると、レフィクルはあれの準備をしろとだけ言うと、侵入してきた者を縛り上げ、口には舌を噛めない様、紐で縛り上げてから部屋の灯りをともす。



「待てルベズリーブ、女だった。これは、予定を変更しなければならんな」


 その言葉に侵入しレフィクルを殺そうとした女は死の覚悟を決めていたはずであったが、今は恐怖を覚えずにはいられなかった。 なぜなら……



「それではレフィクル様どうするつもりですか?」

「そうだな……ハイオークの苗床にして新種でも開発してみるか?」

「なるほど、それは面白そうな考えですな。ダメ元でやってみますか」


 この会話を目の前で聞かされていた女は死よりも悍ましい運命を辿ることになる……





 そしてレフィクルが15歳になったある日の事である。

 武器の調達のため王都の鍛冶屋の元を訪れた。 前王チャートが戦いに優れた武器は必須と、腕の良いドワーフの鍛冶師が多く集められ優遇していたためか、レフィクルの姿を見ても怯える者はいなかった。



「ノーマという奴はいるか!」

「これはレフィクル様がここに来るとは珍しいですな。 ノーマならあちらの奥におりますので呼んで参りましょう」


 ここの鍛冶師を纏める棟梁でドワーフのパイトスが奥へ行こうとする。



「良い、余自らが行こう」


 奥で黙々とハンマーで何かを鍛えている、ドワーフとしてはありえない2メートルは悠にある巨漢がいた。

 レフィクルが入ってきてもその動きが止まることはない。



「ノーマ、レフィクル様がお前にご用だぞ」


 カーン、カーン、と打っていた音が止まる。



「ワシがノーマである!!」

「分かっておるわ馬鹿者! レフィクル様にさっさと挨拶をするのだ!」

「これは陛下! 挨拶が遅れもうした!!」


 ノーマと言われた巨漢のドワーフは一言一言の声もとにかくバカでかかった。 にもかかわらずレフィクルは気にすることもなく声をかける。



「ノーマ、今日から貴様は余の専属として武器を作ってもらうぞ」

「なんと! 光栄極まりない! 必ずやご期待に沿える武器を作ってみせましょう!!」



 この事は当然棟梁であるパイトスには納得のいかないものであった。 自分よりは腕の劣るノーマがレフィクル専属など許せようはずもない。



「レフィクル様、なぜ私ではなくノーマなのですか!」

「貴様がノーマに勝るというのか?」

「もちろんでございます!」

「では、今ここでノーマと戦え」


 戦えというレフィクルの言葉を棟梁のパイトスは何かを作り出すものと勘違いし、何を作るのかを尋ねる。



「余は戦えと言ったであり、作れとは言っておらんぞ」


 これを聞いてパイトスはやっと自分とレフィクルのズレを感じ取る。



「申し訳ありません。 物造りであればノーマに勝ると思いましたが、戦いでは私では勝てません」

「言い訳はいらん、余は戦えと言ったのだ。 さっさと準備をしろ」


 レフィクルのその容赦ない言葉に震え上がったパイトスは跪いて詫びる。 だがレフィクルが首を振る事はなかった。



「陛下! 棟梁パイトスは儂が尊敬する鍛冶職人であります! 如何に陛下のお言葉と言っても手をあげる事は出来ませぬ!」

「ノーマ……」


 レフィクルはつまらなそうにパイトスを一瞥すると立ち去りだす。



「ノーマついて来い」

「ハハッ!!」


 レフィクルの後を追うノーマを見てパイトスは自分の命が助かった事をそっと【鍛冶の神】に感謝した。


 ノーマは王宮に連れてこられると、さっそく用意されてあったノーマ専用の工房を任せられ、レフィクルが扱う武器を作らされる事になるのだった。




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