15話 魂抜きの籠手
薄暗くシトシトと雨が降るガウシアン王国王都の王城はだいぶ修繕されていた。
レフィクルは1人王室で未だ完全とまで言わない身体をベッドに横たえ眠っている。
「ふん、来たか」
「さすがよの」
「余を殺しにでも来たか? よもや余の力を知らぬとは言うまい?」
「お主の憑依強奪の力ぐらいわかっておる」
「ほぉぅ? 知って尚余に挑むか。 余を殺さねばお前を殺して強奪し、余が殺されれば貴様の力をすべて頂かせて貰うぞ」
「どちらにせよ、お主はいずれ神々を手にかけるつもりであろう!」
「無論だ。この世この世界全てを余が貰い受ける。先ずは貴様の力を頂くとしよう」
次の瞬間レフィクルが跳ね起きたと思えばスネイヴィルスの間近まで迫り、いつの間にか手にした漆黒の短剣で突き刺そうと迫る。
「させない」
だがその攻撃は守護の神ディアの持つ楯により防がれる。
「もう1人いたか。余は実に運がいいぞ!」
レフィクルは2人の神と対峙することになっても顔は喜びに満ちていた。そして防いだはずの楯にヒビが入る。
「絶対に破壊不可能の私の楯が!」
「是非も無し」
バリバリと音を立て楯が崩れていく。 そこへ魔法の神アルトシームが束縛の魔法をレフィクルに放った。
「余にそのような魔法は効かぬ……む? これはなんだ!」
「私は魔法の神! 今の魔法を只の束縛魔法と思わないことね!」
身動きを取れなくされたというにも関わらず、レフィクルは未だその顔は喜びに満ちたままだ。そして……
「余は知っているぞ! 神々のルールを!」
その言葉にスネイヴィルス、ディア、アルトシームが動きを止める。
「神々のルール、いかなる理由があろうとも……人を直接殺める事を禁ずる! 唯一自然均衡の神スネイヴィルス! 貴様以外はな!
だがその貴様も直接ではなく間接的にとなっている。 さぁその膨大な自然の力で余を世界を滅ぼしてみろ!」
「お主何故それを……」
「簡単な事よ。 余は闘争の神の力を強奪している。 故にこのような拘束も……」
束縛の魔法がビシビシと音を立てる。 アルトシームはあり得ないと叫ぶが、実際にレフィクルはその拘束を破ってしまった。
「闘争の力は貴様らが1番分かっていよう」
「拒絶の力……よの」
そして神が手を下せないのをいい事にレフィクルは己を拘束したアルトシームに攻撃を仕掛けた。
「厄介な貴様からだ!」
「くっ!」
アルトシームが咄嗟に《魂抜きの籠手》を着けた手を出してしまう。 絶対破壊不可能と言われるディアの楯をも破壊した短剣が籠手の数センチ手前で止まった。
「なんだその籠手は! ……だが、闘争の力は拒絶する!」
しかしその拒絶すら効果は発揮する事はなかった。 ギリギリと力を込めるがビクともしない。 そこへディアが背後からレフィクルを押さえ込み身動きを封じようとするが、軽々と投げ飛ばされてしまう。
「まだだ! 俺もいるぞ!」
アロンミットがその大きな両手剣を片手で振り下ろしてきた。 レフィクルは咄嗟に身を躱す。
レフィクルの強奪には制限があり、強奪した場合融合しきるまで次の強奪は使えなくなる。 今のレフィクルが欲しい力は魔法の神アルトシームの力が優先であった。 その為、アロンミットの神々のルールを無視して平然と切りかかられるのはレフィクルにとって邪魔でしかない。
「さすがは卑劣神だけあるな。 勝利の為なら手段は選ばぬか?」
人々に崇められ人気のある神だが、その実勝利の神は勝つ為に手段を選ぶことはない。 勝利こそが全てであり、そのためであれば人質を取ることも厭わない、そういう神だ。
「五月蝿いわ! 勝てば官軍よ!」
平然と攻撃してくるアロンミットが邪魔になったレフィクルは応戦する事に変え、素の力でもあるアサシン能力をも活かし驚速で攻撃を防ぐ、更に加わったディア2神を相手に見事と言うしかない短剣さばきで捌ききっていた。
「ふん!」
ディアの体に剣が食い込む。 レフィクルの手には短剣しかないと思っていたが、2神を相手にしながらサブウエポンをいつの間にか手にしていた。
「ディア!」
アルトシームも何もしていないわけではなく、魔法を使い攻撃をしていたがことごとく拒絶されてしまっていた。
「ぐお!」
「アロンミット!」
2神が手傷を追ってしまう。 レフィクルの強さは神々の想像をはるかに超えていたようだった。
スネイヴィルスはその様子をただ眺めていた。 眺めているしか出来なかった。 それと言うのもレフィクルの力により精霊達は近寄れなくされドルイドの力を使えず、始原の魔術しか戦う術がなかった為だ。
「終わりだ」
アルトシームの胸に漆黒の短剣が深々と突き刺さる。 あまりの早さに魔法の神では見切る事が出来なかった。 だがーーー
「貴方が……です!」
アルトシームが胸に短剣を突き刺されたまま《魂抜きの籠手》でレフィクルを掴んだ。
「な、なんだそれは!うおおおおお!!」
「ソウルスティール!」
アルトシームが叫ぶと籠手はレフィクルの魂を一気に引き抜いた。 そして握りつぶすように閉じると消えて無くなった。
「これで貴方は憑依強奪の力は使えませんよ!」
レフィクルは意味がわからず、だが確かにアルトシームの力を強奪出来ないのを理解した。
「それで? 余を殺すか?」
「よくやったぞアルトシーム。
レフィクル、神々のルールにより儂等はお前さんを直接は殺せぬ。 じゃが、儂等の目的は果たせた」
傷だらけのディアとアロンミットがアルトシームを支え立ち上がり、スネイヴィルスの指示で天界へと去っていった。
神々が去った直後、レフィクルは意識を失いその場に崩れ落ちた。




