14話 恋する乙女
ログェヘプレーベに町の様子を見る様、父であるレフィクルに命じられたスエドムッサが町をうろつく。
「酷い有様……城の方も酷いけれど町まで」
倒壊している家屋を見回りながらスエドムッサは1人つぶやく。
町は酷い有様で怪我人こそいるが死人はいない様で安心する。
そんな中黒いローブを着込みフードを深く被った者が、助けを求める民を救い周りながら何かを尋ねて回っているのに気がつく。
スエドムッサはその者を怪しみ、影潜みで追跡しながら次々と人の影に潜み進んでいくと、黒いローブの者は町の外へと向かっていた。
街道を進んでいくかと思えば、少し行ったところで脇道へそれていく。
このまま進ませると影潜みでの追跡もできなくなる為スエドムッサは声をかけることに決め影から姿を現す。
「そこの怪しい奴、止まりなさい」
驚いた様子で黒いローブの人物がゆっくりと振り返り、スエドムッサの方を向く。
男だった。フードを被っているが猫獣人であるスエドムッサには、猫目の力でハッキリと綺麗な黒目と黒髪が映し出されている。
そしてその黒目がスエドムッサを観察する様に泳がせると照れ隠しでもする様にフードを引っ張った。
「何でしょう?」
優しげな敵意を感じさせない声が返ってくる。
「ここで何をしているんです?」
「王都が滅茶苦茶なので他所に移ろうとしただけですが……」
「それはおかしいですね。何故街道を歩かないのでしょうね?」
スエドムッサが怪しむ様に見つめ、いつでも交戦できる様に手持ちの武器の位置などを確認する。
もしレジスタンスであればレフィクルをあそこまで重症に追い込んだ手練れのためそれ相応の覚悟も必要だ。
だが返ってきた返事はスエドムッサの予想だにしないもので……
「ええっと……あはははは、ちょっと用を足してからと……」
股間を抑える様なそぶりで和かに返されてしまい、スエドムッサは嫌でも顔が赤くなる自分を必死に隠そうとする。
「……そ、そうでしたか、それは失礼をしました」
「い、いえいえ、それでは……」
スエドムッサは先ほどから感じる自身の心の違和感を考えながら、黒いローブを着た男が草むらに入り込んでいくのを見つめ続ける。
「そ、そそそ、それでは」
黒いローブの男が手を振り去ろうとした時になってハッとスエドムッサが我にかえる。 なぜか目の前の男ともう少し話をしたいと思っていた。 そこで嘘をつくことにする。
「音がしませんでしたよ?」
「は?」
草むらを指差しながら言うとハッとした顔をみせてくるではないか。 嘘をついたつもりがどうやら本当だったとなるとスエドムッサがまるで聞き耳を立てていた変態とでも思われかねない。
「ええっとなんか見られていた気がしたので出なくなってしまいまして…」
だがその男は照れながらそう答えてくるが、スエドムッサは男が気を使ってくれたと勘違いしてしまい、緩みそうになる口元を両手を当てて困った顔を見せながら謝った。
「そのように顔をあまり隠さないほうがいいですよ。今は怪しまれるだけですから。
あ、私はスエドムッサ、ご迷惑をおかけしました」
いえいえと頭を何度も下げながら、街道の方へ遠ざかっていってしまい、結局名前も何もわからないまま立ち去られてしまう。
スエドムッサは生まれて初めて感じたなんとも言えない感覚に舞い上がり、ふん〜ふふん〜と鼻歌を歌いながら王宮へと戻っていくのだった。
その日の夜、浮ついているスエドムッサをレフィクルが呼び出す。
「ムッサです、お父様」
現れたスエドムッサは鼻歌を歌いながら心ここに在らずといった状態だ。 その浮ついた姿を見たレフィクルは、スエドムッサが恋する乙女になっていることに気がつく。
「ムッサ、今日何かいいことでもあったか?」
「……ええお父様、とても……」
浮つくスエドムッサを見て久しぶりにレフィクルの心にも安らぐ感覚を覚える。
だがどこの誰かもわからず、スエドムッサの名前を言っても気がつかなかったことから、間違いなくこの国の民ではないと残念そうな顔をレフィクルに向ける。
「縁があれば出逢う。 その時は余も応援してやる」
パァッと明るい笑顔をみせ、スエドムッサがレフィクルの胸に飛びつく。
レフィクルは胸に飛びついてきたスエドムッサが一瞬ラーネッドを思い起こさせ、一気に復讐心が心を支配していきスエドムッサを払いのけた。
「話は終わりだ。 余は休むから出て行け」
突然豹変したレフィクルに悲しい顔を向けるがなんの反応も見せず、スエドムッサは自分の部屋へと戻っていくのだった。




