10話 遭遇
神々を相手にするとなるとレフィクルも以前のようにのんびりと構えているわけにはいかなくなり、自室で己に入り込んだ【闘争の神】の知識をジックリと考察していた。
「憑依強奪の力、か」
相手に憑依し強奪する【闘争の神】のえげつなさに思わずレフィクルは苦笑いを浮かべたが、同時に自身がなぜ憑依強奪されなかったのかと疑問に思う。
「条件が整っていなかったのか……ふむ、余の精神力が奴を上回っていたというところか」
憑依強奪は一見便利で強力に見えたが、憑依はすると決めた時に己を殺した相手に対して発動する。 失敗すれば【闘争の神】のように飲み込まれる危険もあるため、余程の理由でもなければ諸刃の剣となってしまうようで、強奪は相手を殺してその力を得れるが、その力の大半が失われてしまうようだった。
「強奪は使い物にはならんな」
レフィクルは漆黒の短剣を抜き放って見つめながらそう呟くその目には復讐心に満ちていた。
ルベズリーブはその頃になるとオリジナルスペルの研究を暇さえあればしていて、いついかなるときもレフィクルを守れるよう、守れなくともせめて盾になれるようにと新たな魔法の研究をしていた。
そしてそれはついに完成する。
「余を呼びつけた理由がこのペンダントだと?」
「ええ、それを持っていればレフィクル様の居場所がすぐに探知でき、魔導門が開けるので急を要する兵力が必要な時などに便利かと思いますよ?」
「まるで貴様に見張られているようだな」
「ラーネッド様に託されておりますからねぇ」
「ふん! 大方余が危険になった時に駆けつける算段であろう?」
「それはもちろん。 レフィクル様は私の全てですからね」
「くだらぬ」
そう呟く声にルベズリーブはレフィクルが復讐者に魅了されつつある事に気がつく。
「レフィクルさ……」
「トラキアルの王都だったところへ行く。 魔導門を出せルベズリーブ」
言葉を遮られ魔導門を要求されたルベズリーブだったが、行く先を聞いて困った顔をみせる。
「どうした?」
「申し訳ありませんが、私はその場所には行った事がないので魔導門が出せないのですよ。
隣の町になりますが、霊峰の町であれば出せるんですけどねぇ」
ルベズリーブが珍しく申し訳なさそうに言ったため、レフィクルは気になり問いただす。
「霊峰の町は有名な温泉地でしてね。 あそこの湯に浸かるのが小さい頃からの夢だったのですよ」
そう答えるルベズリーブを見てもレフィクルは笑うこともなく頷くだけだ。
「ならばそこで良い。 そこからは歩いていく」
「お一人で、ですか?」
「極秘裏にやりたい事があるだけだ。 終われば貴様を呼ぶ、それなら良かろう?」
「あまり自身の力を過信し過ぎない方がよろしいですよ」
「フン!」
ルベズリーブは復讐に囚われつつあるレフィクルが心配ではあったが、ペンダントを受け取るならすぐにでも自分が助けに行けると納得する事にした。
霊峰の町外れに魔導門で姿を見せたレフィクルは1人、霊峰の町にも寄ることなく旧トラキアル王国の王都を目指して歩き出す。
しばらく進むと街道を歩いていくレフィクルの目に休憩する旅の一団が映る。 街道である以上冒険者もいれば商隊、場合によっては市民も利用するため珍しいものでもない。 素通りも考えたが、どんな連中か気になり道を挟んだ反対側の地面に座り静かに耳を澄ます。
他愛のない会話をしているところから当てが外れたかと立ち上がろうとした時だった。
「1人ですか? 良ければこちらで一緒にお茶をいかがですか?」
そう声をかけてくる者がいる。 その男を観察すると声をかけてきた男はフードを引っ張り、まるで素性を隠しているかのように見える。
「少し休んだら行くがいいか?」
「ええ、ついでと言ってはなんですが、情報も聞ければ助かるかなと」
「成る程な。 では馳走にならせてもらおう」
レフィクルは誘われるまま連中の焚き火の側で腰を下ろし、女が手渡してきたお茶を受け取り口をつける。
もちろん見知らぬ相手から受け取ったものを飲みはしない。 疑われては元も子もなく、レフィクルから口を開くことにする。
「それで聞きたいこととは何か?」
「まずは自己紹介ぐらいしておきますね」
そう言って最初に声をかけてきた男が全員の名前を紹介していき、これから霊峰に挑戦しに行くと言ってきた。
「ヌイアハック、ただの放浪者だ。 それで知りたい情報というのは霊峰の事か?」
レフィクルは本名を偽ることにする。 そしてルベズリーブが言っていた霊峰の町が有名な温泉地で、そこに浸かりに行った帰り道だと説明した。 そこでレフィクルも疑問を口にする。
「こちらも聞かせてもらっても良いか?」
「ええ、勿論です」
「なぜ顔を隠している」
男が慌てた様子でフードをどけて顔を露わにする。
「別に深い理由はありません。 知り合いのシーフがそうやっていてカッコよかったので真似してるだけです」
ふっ……はぁはっはっははは!
「失礼、なかなか笑える理由だ」
慌てた様子を見せた相手に、レフィクルは笑ってごまかしつつも様子を疑う。 初めて会う相手にここまでごまかす理由などなく、そして少なくとも目の前のこの男から感じ取れる焦りなどから、レフィクル自身を知りながら接しているのだろうと予測した。
「先ほど放浪者と言ってましたが……」
「あぁ、人を探している。 名前はスレセイバーと言ったかな? 恐らく偽名だが…」
「偽名だったらわかりませんね。 何か特徴とかは無いですか?」
レフィクルはスレセイバーの所有する武器の特徴を話しつつ、目の前の男やその仲間達の様子を伺う。
「残念ですが……聞いたことも無いですね」
「ふむ……」
そうかと答えつつレフィクルは考え込むようなそぶりをみせたが、先ほどお茶を手渡してきた女の表情が強張っている事を見逃さなかった。




