『#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ』3パターン+おまけ
タイトルの通りツイッターの『#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こう』を見て書こうと思った作品です。
ショートショートです。
3パターン+おまけを書いてみました。
皆さんはどのパターンがお好みでしょうか?
ver.一人称
ぐぅと腹の音が鳴った。
目の前にはカップ焼きそば。もうすぐお湯も沸く。
ペリペリと蓋を剥がすと、そのまま乾麺のまま貪り食いたい衝動に駆られる。
ああ、ダメだダメだ……。
はやる気持ちを俺はなんとか押さえ込んだ。
まず最初の一手は大事だ。
かやくとソースを確認すると、蓋に書いてある説明の手順をなぞる。
先にソースを入れてしまって、スープ焼きそばという、いかんともしがたい物を生み出してしまった過去があるからだ。
とにかく、かやくだけ早々と入れてしまうと、丁度やかんが音を立てる。
内の線まで並々に湯を注ぐと、すでにセットしていたタイマーを起動させる。
冷蔵庫が定位置のそれは、いつも俺のことを助けてくれるのだ。
腹へりの身では、三分なんて永遠にも等しい時間だった。
前回、二分で十分だと高をくくっていると、固くて不味い代物になったのだ。
もう、失敗はするまい。
ピピピと言う音が鳴る。
今だ――っとばかりに湯切りのテープをめくり、颯爽と湯を捨てたのだった。
しっかりと水気を切ると、いよいよソースをかける。
芳ばしい臭いが鼻腔をくすぐる。
そして、ぐぅと俺の腹は再び鳴るのであった。
ver.三人称(あっさり)
部屋に男の腹の音が鳴り響いた。
かなり空腹なようで、しきりに腹の周りを撫でさすっていた。
男の目の前には一個のカップ焼きそばがある。
ヤカンに水を注ぐと、火に掛けたのだった。
「よし……」
短く決心したように呟く。
焼きそばの蓋を剥がすと、中にあるかやくとソースの袋を取り出した。
袋と焼きそばを交互に眺める。
失敗しないようにか、蓋に書いてある説明を読んでいるようだ。
やがてシュンシュンとヤカンの口から湯気が出てきた。
男はかやくだけを焼きそばに入れると、お湯を内線まで注いだのだった。
すぐさまタイマーをセットさせる。
磁石がついているため、そのままよく目に入る冷蔵庫へと貼り付けたのだ。
男は机を指で弾いている。
たった三分という時間が待ちきれないのか、5秒に1度はタイマーを確認していた。
タイマーの電子音が鳴り響いた。
待っていましたとばかりに、湯切りのためのテープをはがした。
そして、ゆっくりと中のそばがこぼれないように湯を捨てたのだった。
何度か水を切ると、持っていたソースの袋を取り出す。
勢いよくかき混ぜると、芳醇なソースの臭いが辺りにだだよった。
そして、男の腹がもう一度為るのであった。
ver.三人称(こってり)
地獄に住まう怪物が如き、低く唸るような呻き声が、しんとした部屋の中を喧騒たる空間へと変貌させる。
おおよそ聞いたこともないような轟音が、男の腹の音だというのだから面白い。
そう、男は空腹だったのだ。
ヤカンに並々ならぬ情熱をそそぎ、目を血走らせながら火を掛けたのだった。
「よし……」
男の決心は、悲壮とも、壮絶ともとれる響を含ませていた。
このたった一杯の焼きそばを失うことは、男の命を失うことと同義だと言わんばかりに、慎重に作業を始めるのだ。
失敗は許されない。
蓋に書いてある作業工程を、長い時間をかけてゆっくりと咀嚼して行く。
そして――部屋に蒸気がもくもくと噴き出すのである。
地獄の釜でも開いてしまったのか、あるいはピンク色の魔人の怒りを買ってしまったのか、ぴりりとした緊張が走ったの。
男は、その蒸気の出た物――すなわちやかんを――一瞥すると、焼きそばの中にかやくを放り込んだのだ。
内線まで沸き立つ熱き水を注ぎ込み、時限式時計に3分という役割を与えたのだった。
男は焦り、待った。
1秒1秒に何か事件が起きないようにと祈った。
そのはやる気持ちは、汗という形で男の身体に変化をもたらしたのだ。
やがて、小気味の良い、電子音が男の耳に届いたのだった。
祈りは届いたのだ。
男は、手を爛れようとさせる熱き容器を洗面台へと運ぶ。
心血を注ぎ込み、ゆっくりとゆっくりと湯を流して行くのだ。
シンクからぼこんと、空気が弾ける音が聞こえた。
男の目は恐怖に見開かれ、危うく取り落としてしまうところだった。
いくつもの試練をくぐり抜けて、湯気が立つ麺を目の前にした。
嗚呼、この瞬間をどれだけ待ち望んだことか。
男の顔は綻び、天にも昇るような気持ちになった。
まだ終わりではない。
男は、黒い調味料の入った袋を、鋏で切断する。
そのまま焼きそばの麺へと、黒き蓮が如き調味料を絡めて行くのであった。
再びあの低く唸る腹の音が鳴る。
男の食欲を表しているようだった。
おまけ。チートバージョン。
俺は焼きそばの蓋をめくった。
もちろんすでにヤカンはセットしてある。
素早くかやくを放り込むと、颯爽とした姿でやかんの前に立ったのだ。
その瞬間、ピーッと沸騰を知らせる音が鳴った。
「すごい……ヤカンの温度を正確に読んでいるだなんて……」
少女が驚いた声をあげた。
そして俺は湯を内側へと注ぎ込むと、3分計れる砂時計を少女へと放り投げたのだった。
彼女は慌てた様子で砂時計をセットした。
「見なくても大丈夫なんですか?」
そんなことを尋ねてきているので、俺はふっと不適に笑い返した。
俺の体内時計は正確だ。時計など必要ない。
きっちりと3分経った瞬間、手早く湯切り口を剥がし、湯を捨てたのだった。
「すごい……なんて言う正確さなの……」
少女は目をまんまるにしている。
ソースをかけ、むらなくかき混ぜるとそれを少女に向かって差し出した。
「ほら、食べなよ」
「ありがとう! とっても優しいのね……」
少女は潤んだ目を向けるのであった。
読んで下さってありがとうございます。