退位教王・サヴァーの婿入り
転生しても私は私の婿入り短編です!
最後の一人。元教王サヴァーのお話です!
因みに、他の二人が婿入りしてから、八年立ってます!
ヘクセライ大陸。
王国の南にある最大の港で、ミンストレルは、キリクとイティアを従えて、成り行きで義父になったサヴァー・ディオスに静に語りかけていた。
「サヴァー様。お考え直しください。死にますよ!」
「嫌だ!」
決意は硬いようだ。本当に死んでしまうかもしれないのに・・・
背後で控えているキリク達を見てみるが、キリクは止めもせずに頑張れ!と親指をたてているし、イティアはキリクに引っ付いている。
「・・ハアー・・・なら、好きにしてくださいな・・・」
ミンストレルはそう言って、今生の別れになりそうな義父の説得を諦めた・・・
数日後。
サヴァーは、ゼルギュウム国のウイング伯爵領を訪れていた。
そして今。ウイング伯爵。つまりユリナの屋敷の前で、当主。つまりユリナに対して深々と土下座している。
理由は・・・・
「ユリナ!結婚してくれ!」
「嫌。めんどくさい!」
そしてユリナは、もう言う事は無い!ときびすを返した。
そんな冷たい彼女に、サヴァーはすがり付こうとしたのだが、背中をゲシッと踏みつけられて、起き上がる事すら出来なかった。
何故かと言うと。
「ユリ・・・グハッ」
「お前!一度フラられただろ!!」
「また。妃になれなど言うつもりか?ユリナは今。ウイング伯爵家当主だ。貴様の妃になどなれない!」
ユリナの横で成り行きを見守っていたシュエとグレルが、ユリナがきびすを返したと同時に、二人いっぺんに背中を踏みつけてきたからだ。
ゲシゲシと踏みつけられているせいで、サヴァーは地面にめり込んでいる。
「え!いやいや。俺、退位して来たから!ユリナに婿入りしに・・・」
踏みつけられたまま、サヴァーはそう口にする。
すると、屋敷に入ろうとしていたユリナが振り返った。
「・・・神族の復興はどうしたの?まさか、放り出して来たんじゃないの!あんた・・・約束したよね?国民に嘘ついた奴なんかを婿になんかしないよ。私」
ユリナが睨むと、サヴァーはブンブンと首を振ってから話始めた。
「いやいや。復興は完了してるよ!カインとミリーとキリクが尽力して、虚無達にも手伝ってもらってさ。
王位は人間と手を取り合う意味も込めて、混血の神族を!とか議会が言い始めて・・・
混血は寿命が短いけど、混血の神族と純血の神族の子供のミンストレルなら、ほぼ神族の寿命を持つから王位を継がしてみては?とか言われて・・・
その通りだし、大体ミンストレルの方が統治やまとめ役が得意でな。
俺は魔力高いだけだしか能が無いし、キリクしか友達居ないし、あんまり人望も無い。
だからミンストレルを俺の養女にして、ディオス家にいれて王位を継がせたんだ。
カインには魔術研究所を設立させて、そこの所長に就任させて、国に役立つ魔術を研究をしてもらっている。そしてミリーはそこの副所長だ。
キリクはシュエのしごきのせいで、化け物みたいに強いから軍隊に入れずに、ミンストレルの近衛にした。
そして、イティアはキリクの婚約者になった。まだ成人してないから取り敢えずな。
平民の文官も増えたし、人間の住民や混血の神族も増えた。
俺がやると宣言した事は法律にしたし、王が独断で出来る事は少ない。
俺がやるべき事は全てやりきったし、もう俺が居なくても大丈夫だ。
だから、ミンストレルに全て任せてここに来た!
もう俺には王位も公爵位もない!ユリナが伯爵になった事も、重婚できる事も知ってる!既に四人の夫持ちなのは知ってるが、俺を五人目にしてくれ!!俺。色々頑張るから!頼む!」
責任は全て果たしてから来たらしい。
しかし・・・・
「やだ。帰れ!」
これ以上。夫はいらない。
シュエとグレルは仕方がないが、炎華とルシフルまでいるのだ。
「ユリナ!そこをなんとか!」
「知らん。帰れ!私は昼寝する。」
「ユリナ!!冷た!」
ユリナは、そう言って今度こそ屋敷に入って行った。
サヴァーが(ユリナが屋敷に入ると、シュエとグレルはサヴァーを踏みつけるのを止めて、ユリナに付いていった)しぶとく玄関前にに居座っていると、いきなりバシャッと、桶に入った水をかけられた。
勿論シュエに。
「帰れ!!」
その後ろにいたグレルも、濡れ鼠になったサヴァーを冷たく見下ろしている。
「ミンスに王位なんか押し付けんなよ。帰れ!」
その時。小さな子供を抱っこしたルシフルが、玄関先でずぶ濡れで地面に伏している男を発見して、不信人物を見るような目で不振人物。サヴァーを見下ろした。
「何者だ?」
薪割り中だった炎華も、騒ぎを聞き付けて、庭から斧を持ったまま近づいて来る。
「誰だ?こいつ?ん?神族か?」
炎華は殺して良いか?とでも言いたげにシュエをチラリと見ていた。
ウイング伯爵家では、シュエが正妻・・・いや、正夫の扱いだ。
勿論家を取り仕切るのはシュエで、領地の経営から、王族貴族からの手紙の整理、ユリナのドレスや装飾品の管理。果ては食事のメニューに、消耗品の発注等まるで執事か!!と言いたくなる仕事量をこなしている。
一番働いていて、第一夫のシュエを他の夫達は認めている。
なので、こういった事態の時は彼の指示で動くのだ。
それを屋敷の中から見ていたユリナは、窓から顔を出して夫達に叫んだ。
サヴァーが殺されそうだ!!シュエ!頷くんじゃないよ!
「危害を加えないで!ほっとけばいい!」
「「「「了解」」」」
シュエの指示よりも、ユリナの指示の方が優先順位は高い。
夫達は、ユリナにほっとけと命じられたし、その内諦めるだろうとサヴァーを無視する事に決めた。
居座り一日目。
今日は晴天で、水に濡れた服がよく乾いた。
「まだいるのか?」
「しつこい」
屋敷の窓から炎華と、グレルが忌々しげにサヴァーを見ながら呟いた。
居座り二日目。
今日は曇っていて肌寒い。少し震えるが国に帰る事なんか出来ない。此処を動く気はない。
「まだいるのかよ」
「しつこいな」
グレルとルシフルが、忌々しげにサヴァーにそう言うが、サヴァーはじっとして、動かなかった。
ユリナに関わるなと言われているし、悲惨な状態のサヴァーが、子供達の目に触れたら不味いので、二人は子供達を抱き抱えながら屋敷の奥に戻って行った。
居座り三日目。
その日は、八歳位の少年がサヴァーに座布団を持ってきた。
父親達に止められてはいたが、余りにも足が痛そうで心配になったらしい。
彼の名はシュウ。シュエとユリナの長男だ。
「足、痛くないのか?これやるよ。後。早く諦めた方がいいと思う」
彼はそう言うと、座布団をサヴァーに押し付けて屋敷に駆けて行った。
居座り四日目。
サヴァーは動けなくなった。頭が朦朧としてフラフラしている。
あれ・・世界が揺れる・・
「兄ちゃん大丈夫?うわっ!すごい熱だよ!」
シュウが心配して、窓からサヴァーの様子をコッソリ見ていると、サヴァーが倒れていた。
シュウが慌てて駆け寄ると、サヴァーに高熱を出していた。
慌てたシュウが、屋敷を駆け回り母親ユリナを探す。
父親達でも対処出来るだろうが、父親達は何かサヴァーを嫌っているみたいで、助けるどころか殺されそうだ。
屋敷中を駆け回るシュウは、図書室で寝そべりながら本を読んでいる母親を発見して叫んだ。
「母様!玄関で居座ってる兄ちゃんが熱だしてるよ!凄い熱で死にそうだ!」
本を読みながら、だらけていたユリナは、シュウにそう叫ばれてガバッと飛び起きた。
そして、急いで廊下に出て叫ぶ。
「え!!マジ!!シュエ!グレル!炎華!ルシフル!担架持って来て!!」
「「「「・・わかった」」」」
担架と言う言葉で、サヴァーを助けろと命じられた事に気づいたらしいシュエ達は、嫌そうに返事をしながら担架を持って玄関に向かった。
そして、倒れたサヴァーをユリナに命じられたシュエ達が客間に運び、ベッドに寝かせる。
数時間してやっと目が覚めたサヴァーに、シュエがスープの入った皿を差し出した。
「食え。スープだ。」
「・・・ありがとう」
サヴァーは、警戒しつつも体を起こしスープを受けとる。
そして、飲もうとしたのだが・・・
「ちょっと待った!」
「シュウ?どうした?おやつならさっき・・・」
いきなり。シュウが客間に飛び込んで来て、サヴァーからスープを強奪する。
シュエが不思議そうにシュウを見ていると、グレルの長男。七歳のグレスがシュウに駆け寄って、サヴァーを守るようにシュエの前に立ち塞がった。
「そのスープにさっき、シュエ父様が、何か入れてたの見たよ!」
「・・スパイスだ」
苦しい言い訳をするシュエに、グレスは叫ぶ。
「じゃあ!飲んでいい?」
「・・・・」
無言でシュウからスープを取り上げるシュエを見て、グレスはスープが毒いりだと確信した。
「母様に言ってくる!!」
「あ!待て!グレス!!」
母に告げ口をするために、駆け出した息子を止めようと、シュエは急いで追いかけて行った(子供達は、誰の子でも母親はユリナなので、自分の子供ではないと差別をする事はない。ユリナの血を引いているだけで、愛する理由になる)
「兄ちゃん。ゴメン」
その様子を・・唖然と見ていたサヴァーにシュウが謝る。
流石に毒はやりすぎだ。
「・・・いや。いいよ。俺が悪いしな」
「?母様に婿入りする話?」
「・俺ではユリナの婿には不足なんだろう・・だからシュエ達は・・」
「・・・不足とか不足じゃないとか関係ないだろ?
それに決めるのは、父様達じゃなくて母様だ。母様が受け入れれば問題ないんじゃないか?てか、今さら父様が増えたとしても問題ないと思うけどな・・母様に聞いてきてやろうか?」
どうする?と笑うシュウの顔は、とてもユリナに似ていた。
「・・いや。自分で行く。ありがとう。シュウ」
「うん。兄ちゃん。でも体を治してからな」
「ああ。」
シュウに、勇気と元気をもらったサヴァーは再びベッドに横になり目を閉じた。
それから、サヴァーの食事の時はグレスとシュウが張り付き、毒殺を防いでくれた。安心して確り食事が出来たので直ぐに体力は回復した(弱い者イジメを嫌うグレスが、シュウを連れて来たのが真相。グレスにとって、サヴァーは弱い者だった)
そんな時。図書室でのんびり本を読んでいたユリナの元に、突然シュウが訪ねてきた。
シュウは、畳の上に寝転んでる母の横に胡座をかいて座ると、口を開く。
「母様!ちょっと話があるんだけど」
「何?」
「あの神族の兄ちゃんを婿にしない?」
「・・・駄目だよ」
「何で?」
「・・だって・・あいつ真っ直ぐで真面目だし、陰湿な嫌がらせに屈して自殺とかしそうだからさ・・」
「・・・八歳になったばかりの息子にそんなこと言わないでよ・・」
ユリナのその言葉に、シュウは嫌そうに顔を歪めた。
自殺って・・・・
「嫌がらせなんかに屈しない!嫌な姑が出来たと諦めるから!俺を婿にしてくれ!!」
突然。図書室の入り口から声がして振り向くと、そこにはサヴァーが立っていた。
熱は下がったらしい。
「・・聞いてたの」
「大丈夫だから!!陰湿なイジメにも耐えれるから!だから結婚してくれ!それに、してくれるまで居座るからな!!!」
寒空のした放置され、熱をだし、毒殺未遂されたにも関わらずまだ自分と婚姻したいらしい。
流石に、屋敷の前で死体になられても困る。
仕方無いな・・・・
「・・・ハアアア。しつこい・・本当にしつこいよ。じゃあ。一つ命令。」
「何でも言ってくれ!」
「一人称を(俺)から(私)に改めて!その方が貴方に似合うから」
「了解!!」
そして、ユリナは押し掛け夫・・・・五人目の夫を手に入れた。
・・・何でこうなったんだろうか・・・・
第五夫。サヴァーでした!
因みに彼は何度か毒殺されかけますが、子供達が発見して母に告げ口。
(食べ物を粗末にするな!!)と叱られ断念しました。グレルも、ユリナに良く似たシュウが、サヴァーになついているのが妬ましく、小さな嫌がらせを日々していたようです。