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夢現のあわい  作者: 池中 由紀
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◇08 活動内容

◇08 活動内容


 そして今日、放課後。

 俺は懲りずに屋上へと向かった。今回はまだ夕暮れにはなっていない。

 …………夕方になる位まで悩んでもよかったのだが。

 なにしろ今度は自分が殺人者になる夢だ。

 基本的に予知夢は自分に危害が及ぶ場合がほとんどで、今回のも頬を怪我するから予知したのかもしれないけど、だとしても人殺しになる夢なんていい気分のするものじゃない。まして予知夢なのだ。意識しなければ人殺しになっていましたとの宣告を受けて気分のいい人間は頭がおかしいに違いない。

 大体、もしフェンスが壊れた時に俺が怪我をしなかったら予知できなかった可能性すらあるのだ。

 とはいえ、なんとなく今日の夢で分かったというか予測できたことがある。

 俺は確かに彼女の態度というか生き方があまり好きとは言えないが、だからと言って殺したいほど憎んでいるわけでもない。そもそも生き方があまり好きでない、だなんて大した感情ではないのだ。彼女自体が嫌いなわけでもない。にもかかわらず未来予知で俺が彼女を殺してしまうとしたら、原因は一つしか考えられない。

 事故だ。

 つまり、フェンスが老朽化してたとか、そういう原因が重なってあのような結果になってしまったと考えれば、俺に殺意がなくても人殺しになる事はありうる。

 というか、淡井が俺を殺したのもそういう事なんじゃないだろうかとすら思える。

 いや、まだ油断はしない方がいいと思うけど。けど、いたずらの好きそうな淡井の事だ、フェンスを頼りに俺を脅かすために突き飛ばしたりしても不思議はない。実際、フェンスが壊れたりしなければ俺は驚く事もありうるし、淡井を楽しませることもありそうだ。

 屋上への扉を開けると、割とさわやかな空のもとで扉から一番離れた前方に淡井が立っていた。淡井はこちらを見てはおらず恐らく気づいてもいなかった。

 俺はなんとなくばれないように近づこうとして、―――半ばで止める。

 万が一にも自分が殺人者にならないように、彼女にこの状況で近づかない方がいいと思ったからだ。たとえ夕暮れという条件を満たしていなくとも。

 俺の不自然な行動が淡井に不可視の何かを伝えたのかもしれない。フェンスの向こうを眺めていた淡井はまるで最初から俺の存在に気づいていたかのように振り返った。

「やっぱり来てくれたねー。美羽の眼に間違いはなかった!」

 笑いつつ、てくてくとこちらに向かって歩いてくる。

 投げ返す答えは『今日の夢』と『自分の意思』という理由をオブラートに包んだものだ。

「興味はあるし、そのほうが自然だからな」

 その言葉に緩やかに淡井は足をとめた。まだ二人で会話するには距離があるような気もするが、ギリギリ違和感のない程度の微妙な距離だ。淡井が目を横に軽く流しつつ首を傾け、人差し指を口にあてる。その後、俺をみてにやりと笑い、

「ふーん?」

 とだけ声を発した。

 俺にはその反応の意味はちょっと分からなかったが、すぐに淡井は言葉を続ける。

「じゃ、さっそくだけど活動内容を教えようかなっ」

「内容によっては参加しないよ」

「そんな当たり前の事を確認しなくていいよ。……でもキミは参加するからここにきてると思うけどね。少なくとも一回、今日は。―――あ、ちなみにキミ、部活動の名前から活動内容が類推できたりする?」

 参加するなんて決めてないが、とりあえず訊ねられた事について考えてみる。といってもSAS部だとかぼうし部だとか意味不明すぎる。臨床心理部だけは意味が分からないでもないが………。

 面倒なので大して深く考える事もなく返すことにした。

「学校にいるカウンセラーみたいな事でもやるのか?人の観察が得意だとか言ってたしな」

「んー、近くはないけど遠くもないね。といっても、それは臨床心理部というネーミングしか理解できていないという事なんだろうけど」

 くすり、という笑いを含みつつ淡井が言った。そういう笑いが嫌味にならないのは才能なんだろうか。俺が同じ事をやったら反感を買う自信がある。……それとも俺が籠絡され始めてるだけなんだろうか。

「じらすのもなんだし、正解を言っちゃおうか。SASはスクールアシスタントスチューデントの略。あ、スクールアシスタントって言うのは、キミの言う学校にいるカウンセラーといっても、間違いじゃないよ。その学生版ってこと」

「やっぱりカウンセラーじゃないか」

「せっかちすぎだよ。で、ぼうし部は、防止、阻止部」

「防止?何を?……って、あー……」

「大体予想はつくよね。そ、自殺防止部だよ。……まさか頭に被る方の帽子と勘違いしてたなんて事はないと思うけど」

 うるさいな。正直勘違いしてたが、それは横にシルクハット部があったからだ。

 それにしてもふざけたネーミングセンスの割に真面目な活動内容が予想される部活動に見える。大真面目に真面目なことをやるのが気恥ずかしかったから捻くれた名前にしたんだろうか。カウンセラー的なことをやるのなら逆効果だと思うが。

 そこまで考えて、カウンセラーをやるわけではないと言っていた事にすぐ気づく。俺の認識に淡井も気づいたようで、

「そう、カウンセリングをやるわけじゃないよ。ただ」

 淡井は一度そこで不自然に発言を切った。

 纏う空気が変わる錯覚。

 映画のワンシーンを今ここに切り取ってきたかのような雰囲気。

 初めて淡井の本気、なのかもしれない態度を見た俺はかなり面食らった。いつも飄々として何でもできると噂の、ともすればいけすかない人物の本気は、評価されているだけあってなのか凡人の俺を圧倒するだけの何かがあった。

 とはいえ、やはり淡井は神に、世界にも愛されているのだろう。

 絶妙なタイミングで、ざあっ、と風が吹き金髪が横に流れて広がる。一陣の風は続く淡井の発言を阻害することなく、

「―――わたしたちは自殺を防止する。具体的には街に出て自殺しそうな人を思いとどまらせます。だから―――生きるのは、楽しいですか?」

 薄く、かつ深みのある笑顔で。淡井はそう言った。

 俺はうまく返答ができない。舞台の上でどう振る舞えばよいのかわからないモブの様なものかもしれない。いや……舞台は個々人に準備されていると考えれば、淡井の準備した場で自然に振舞う事ができないという事だろうか。

 そのまま俺が静止していると、淡井は纏っていた非日常感を霧散させた。俺がたじろいでいるのが伝わったのかもしれない。

「といっても、キミが自殺するとは思ってないけどね。そもそもー、一緒に活動しようって誘ってるわけだし」

 場が日常に戻ったところで、俺の外見上の凍結も解凍される。

「で、結局何やる気なんだ?街に出て阻止するって言うけど、そうごろごろ自殺する人がいるとは思わないよ。いくら自殺の多い国だと言っても」

 淡井は自信満々の様子で返す。

「わたしは見ればそうだって分かるからねー。だから人の沢山いるところで眺めれば一発だよっ」

「自殺するような人間がわざわざ人の沢山いるところに来るか?」

 ふるふると淡井は首を横に振る。それは俺の意見に賛成という意味、来ないと言う意味だと思ったのだが、

「わかってないねー。じゃ、キミ、カズヤ君は自殺の方法で一番多いものってなんだと思う?」

 そんなこと考えた事もなかったが。

 首つりは死体が汚くなるから嫌がる人も多そうだし、飛び込みは損害賠償が怖いし、かといってガスとか電気、薬は技術や手間がかかる……。

「飛び降りとかか?何もいらないし」

「はずれー。正解は首つりだよ。苦しみがないって言うのが定説なのと、死んだ後の事なんかどうでもいい人が多いからかな。自宅でできるのも高ポイントだろうね」

「で、それが分かると何が分かるんだ?」

「わからないの?首つりするには縄が必要でしょ?家にある人はいいけど、無い人も多いから買いに行く事はよくあるよ。最近は通販も多いけどね。ちなみに飛び降りだって大きな高低差がいるわけで、そこに行かなきゃいけないから、意外と自殺者って直前に外に出て、人の多い所にいることがあるんだよ。そもそも突然自殺したように見えることだって沢山あるし」

 それを言われると…………そんな気もしてくる。確かに死ぬにはいろいろなものが必要だし、誰もかれもが自殺前には引きこもって死ぬかどうか逡巡する、なんて決まりきった行動をとるのであれば自殺は今ほど多くはないだろう。周囲からしてみれば突然死んでしまう事も多いから『なぜあの人が』なんて思われたりするのだろうし。

 俺が一応の同意を頭の中でした事を淡井は理解したのかもしれない。

「じゃ、街に行こ?」

「ちょ、な……!」

 そう言うと自然に俺の手を引っ張って―――あまりにも自然で異性云々とか考える暇もなかった―――屋上を後にした。

 俺は言われるがままに、というかもともと確かに淡井の言ったように一回は付き合おうと思っていたのでその通りについていったが。

 結局、俺は淡井を事故で殺したりする事もなかった。

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