◇02 クラスメート
◇02 クラスメート
集会を終えて教室に戻るとプリントが配られた。見ると、『部活動確認』の文字が躍っている。
殆どの人間は、ぱぱっと自分の所属する部活を細々とした記号から選んで記述して終わりだ。
一方で俺のように部活に入部していない人間は、何か一つ幽霊部員として入部しておかないといけないという事になる。幽霊部員とはいえ一応籍を置くわけで、迂闊な部活を選ぶと後々面倒だろう。噂では部活動申請を出さなかった場合は自動的に形骸化した部活動に割り振られる、とか言う話もあったために夏休みも開けた今まで気にもしてこなかったのだが。
なるべく幽霊部員になっても人手として借りだされたりしない部活を選ぶために、俺は部活動一覧に目を通す。
自由な校風が手伝ってなのか、ふざけた部活が多い。とりあえず、WAR団だとかQOK部とかSSA室だとか、何やってるのかすら分からないアルファベット三文字の部活がずらりと並んでいる。囲碁部の近くに囲碁将棋部と碁石部があるのはいったい何なんだと言いたくなる。ぼうし部とかシルクハット部とかはふざけてるとしか思えない。
これだけ意味のわからない部活が乱立しているとなれば、幽霊部員としてやっていくのはそれほど難しい事ではないようにも見えるが、迂闊に選ぶと人手として借りだされてしまう。
という事で、俺は『もし部活に入るなら』どれに入ればいいのか、既に友人から情報を仕入れていた。
臨床心理部という部活が、一番真面目っぽく、かつ幽霊部員しかいない事で有名らしい。俺は特に躊躇する事もなく、臨床心理部を意味するRINという記号を空欄に突っ込んだ。
「お前はまだ部活に入ってねぇんだったよな」
後ろからの聞きなれた声。
振り返ればそこには不良生徒、―――もとい俺の友人である船崎了が立っていた。
やらたと高い身長に強面、そして何よりも白と赤の二色に染まった信じられない髪色が、誰がどう見ても不良だとしか思わせない。というか、明らかにこの学園じゃ浮いている。実際のところはそんなに悪い奴じゃないのだが。
「まぁね。でも例の幽霊部活動に入って、それで終わりだよ」
「初めからそうしてりゃよかったじゃねぇか」
了はそう言うと、スッと自分の席に戻っていく。
彼は割とこういった傾向がある。というのは、人と群れたがらず、必要以上に接触しようともしない。それはよくある中二病とか高二病というか硬派病というかなんと言うか、ありふれたものの様にも思えたけれど、別に悪い事ではないし個人の自由だろう。
しかも彼はああ見えて芸術家の卵だ。
親が芸術家で、それは理由の一つでしかないらしいが、自らも芸術を志しているらしい。そこそこの実力はあるらしく、知っている人には知られているそうだ。そう言えば個展を開くとか何とかいう話もあった気がする。今度訊いてみようか。
ふとそんな事を連想すると、自分が如何に場違いなところに迷い込んでいるかを意識させられて、少し気分が暗く沈む。
というのは、この飯悟学園の特待クラスと言えば、それはもうものすごい場所なのだ。当然の如く学費免除、どころか希望すれば寮に無料入寮、設備や光熱費などのあらゆるものがタダで利用できるこの特待クラスには、化け物しかいない。
淡井美羽はその筆頭だし、船崎了だってなんたら賞とかそういうものをとってるとか聞いた。他のクラスメイトを眺めれば、向こうにいる暗い雰囲気の眼鏡のは現役プロ棋士らしいし、向こうのやたらキリッとした女性はノーベル賞学者の孫で自らも生物学オリンピックだか何かに出たり既に論文を書いてるとかいう話もある。あっちで涎垂らして昼寝してるのは、卓球の全一だ。このクラスだけで何かの全国一位が二桁いるとか言う話もある。あとは、天才システムエンジニアとか、小説家とか……いや、小説家はこのクラスじゃなかったかもしれないけど、何にせよそんな奴らがごろごろ存在しているのだ。
ちなみに、とても、非常に遺憾なことに俺には何もない。
あるのは例の予知能力だけで、その能力でこの学園の理事長を救った事から能力に興味を持たれた。……別に能力を口外したわけではなく、どういうわけか理事長はその事が分かったらしい。
そして、能力を大学で研究する手伝い、というか被験者?をする交換条件として学園への無料入学を引き出したのだ。
生活が楽になるのでそれなりに頑張って頼んだのだが、ちょっとうまく事が運びすぎたというか、理事長が勘違いしたと言うか。この化け物クラスに放り込まれてしまった。
『若き天才研究者』というのが、俺の表向きの入学理由だ。
いや……ただ毎日夢日記をつけてるだけの俺が天才研究者扱いされたら世の研究者は泣くだろうとは思う。表紙にカバの絵でも描いておけばよく燃えるんじゃないだろうか。
とはいえ、俺は天才研究者じゃありませんというわけにもいかない。そんなこと言ったら学園から白い目で見られて特待から叩きだされる可能性もあるだろう。それは避けたい。
まぁ、天才研究者なんて肩書だけだとこの化け物クラスでは目立つ方でもなく、この半年は平穏無事に過ごしてきた。これからもうまくやっていけるだろう。
俺は既に提出するだけとなった部活動確認のプリントを、クラス代表、というか生徒会長である淡井美羽に渡しに行こうと、彼女の姿を探す。
金髪なのですぐ見つかるはずと見渡すが、予想に反してすぐには見つからず―――
「ね、カズヤ君?」
「―――っ!」
―――突然背後から投げかけられた探し人からの声に、俺は驚きつつ振り返った。