表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現のあわい  作者: 池中 由紀
23/32

◇22 夢3

◇ 22 夢3


 俺はまたしても屋上にいた。

 しかし見慣れた光景ではない。というのも、既に日が落ちており、さらに展望も違っていた。

 まず第一に、学校の屋上とは違いフェンスは準備されていなかった。生と死の境が剥き出しになっていて、しかし一方で吹く風は阻害されず解放感にはあふれている。

 目の前には、淡井が立っている。

 俺と淡井は、何事かを喋っているようだった。

 現実感覚が薄く、何を言っているかは理解できなかったが。

 人の声が認識できない代わりに、やたらと風音が耳についた。ごうごう、と、風が鼓膜にぶつかってうるさい。

 淡井は珍しい事に、時折感情を露わにしていた。いや、感情をあらわにする事は別に珍しい事ではないが、その感情の種類が負の感情、―――怒りだとか悲しみだとかである事は、多少、珍しいと言っていいだろう。

 対する俺の心情は、俺自身の事なのにさっぱりわからない。どこか他人の行動を見ているような感覚すらあった。

 やがて、淡井が落ち着き、俺も行動を止める。

 二人の間に一見すると無為な時間が流れ、実際に無為な風が肌を撫でていく。

 淡井の後ろには、生死の境界。

 俺はなんとなく、この時点で何が起こるか、朧げに想像ができてしまっていたが。

 はたして、俺が動く。

 その行動は、しかし、淡井を突き飛ばすといった簡単に予想しうるものではなく。

 俺は、淡井に抱きつき、そのまま一歩を踏み出した。

 見える駐車場。淡井の驚愕。そして、―――あまりにも早い死へのカウントダウン。

 十階以上あるマンションの屋上だったらしく、多少は長い落下を味わう事になったが、直ぐに俺と淡井は車をかすめつつ、地上に重力を以て叩きつけられる。

 特に奇跡など起きるはずもなく、俺と淡井はあっけなく死んだ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 世川和也………マンションから飛び降り、死亡。

 淡井美羽………世川和也に巻き込まれ、マンションから落下し、死亡。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ