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夢現のあわい  作者: 池中 由紀
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◇18 友人との会話

◇18 友人との会話


 次の日、授業前にして着席していた俺は、俺をぼっちとは呼ばせないために機能している、……とかいうとちょっと人聞きが悪いが、友人たる船崎に話しかけられた。

「……ちょっといいか」

 目立ちすぎる赤白。めでたい色なのにめでたさなどかけらも感じられないギンギンの髪色。まぁ頭がめでたいっていうと別の意味になってしまいそうだが。

 そんな事も頭によぎったが、船崎がかなり真面目な顔をしていたためにすぐにどこかへ消えていった。

 元々了は、妹さんとは違って無意味にふざけたりはしない。さらに俺に対して真面目な顔だとあからさまに分かるようにしているという事は、それなりに強い理由があるはずだった。

 俺が船崎に意識を向けた事を確認してから、船崎は、珍しく声を小さく周囲に聞かれないようにして話し始めた。

「誤解してほしくはねぇんだが」

 我が道を行く船崎がそんな事をするのは、とても珍しい事だ。

 俺は黙って船崎の言葉を待つ。

 が、返ってきたのは驚くべき言葉だった。

「……お前、脱ぐ気ねぇか?」

「…………」

 絶句。

 とはいえ、それほどショックが大きいわけではない。

 まして、別に『お前同性愛者だったのか!?』とかアホな事は言わない。

 実のところ船崎と友人として付き合い始めたころに、真っ先に求められる可能性があると思っていたものだったからだ。

 芸術家の卵、というかもう殆ど孵化して独り立ちしているような船崎なのだ。何かしら突飛な行動もおかしくないし、芸術家だったら別にありえない事ではないと俺は思う。

 ちなみに妹さんは『芸術家に偏見持ちすぎ』とバッサリだったが。

 とか言っておきながら絶句したのは、……予想してても破壊力の大きい発言だったからだ。

 やっぱり一見不良な見た目の船崎にそう言われるとギャップになんとなく圧倒されるものがある。

 そんな事を考えて、外見的には停止してた俺を見て、船崎は続ける。

「その顔は分かってる顔なんだろうが、単にモデルとして、かつ上半身だけだ。嫌なら別にいい」

「なんだ、上半身だけか。全身かと思ってちょっとうろたえたよ」

「別にギリシャ趣味はねぇよ」

「いいけど、そういうプロに頼まないのはなんで?金はある程度あるみたいだしさ」

「お前は知らねぇだろうけど、ああいうのは女性モデルが殆どで、男は少ない上にがたいのいい奴しかいねぇんだよ。そもそもがいねぇんだ」

 了の言葉に、俺は少しだけ冗談を言ってみる。

「ショタコン?」

「……お前自分の事をそう思ってるなら大した自信だなオイ。とりあえずやってくれんだな?」

 ジョークには対して反応もせず、念を押してくる。芸術関連に関しては見た眼に反してまじめそのものと言ってもいいような気はするし、そういう性質はこういう部分にも表れていると思う。

 俺はそれ以上冗談を投げることはせず、きちんと返答をする事にした。

「まぁ上だけだったら別にいいよ。いつ?」

「まだ決まってねぇけど、そのうちな」

「ん。わかった」

 俺の返答を聞き、船崎はちらりと周囲を見つつ去って行った。

 別に周囲の注目なんて船崎は気にしないんじゃ、と思いかけて気づく。

 なるほど、アレは俺が気にするのを考慮しての行為だったのか。まぁ確かに芸術関連とはいえ裸だとかなんだとかは噂になったりするのかもしれない。

 自分の席へと戻っていく船崎を目で追うと、視界の端にちらりと金髪が入る。

 彼女も外見だけでいえば軽薄でイマドキな人物像な割に、能力は馬鹿みたいに高い。

 淡井といい、見た目と裏腹な人物は世の中にはたくさんいるものだなぁ、とかぼんやりと思考をしつつ、俺は授業を適当に消化した。


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